3-5話
圧倒的な速度で進む二人。
「よし。そろそろ加速器止めてくれ!ゆっくりだぞ!」
「わかった!」
少しずつ周りの景色が元に戻って行く。
「あーー、、、きっつ、、」
「お疲れ様だ。もう少しでラートヌスだぜ〜」
見慣れているはずの城壁が目に入ってきた。こんな高所から見るとまた違った感想を抱くものだ。
「さてと。急いで学長の所に、、」
そこで、不自然にエトワーの言葉が詰まる。
「どうしたの?」
「探査で捉えた。、、、魔獣が近づいてきてる!」
重々しく口を開くエトワー。その言葉に疲弊した体を強引に動かし、戦闘体制に移るラトリック。
その姿は程なくして現れた。黒と赤の体毛に覆われた怪鳥が、さっきの自分たちのような速度で突っ込んでくる。
「クゥルルルルル!」
箒を操り、その巨体を避けるが、その風圧にバランスを崩される。
「くっ!」
なんとか立て直すエトワー。怪鳥と目が合う。見開いた目からは感情が読み取れず、不気味な視線が二人に注がれている。
「鳥魔獣、、!?お前の生息域ここだったか?」
本来ここに存在しない筈の魔獣の登場に驚きを隠せないエトワー。
「、、!?まさか!」
つい最近自分の身に起きたことを思い出す。なぜ本来の生息域から外れた魔獣がいるのか。その答えを導くのに時間はかからなかった。
「何か知ってるのか!?」
現れた魔獣を観察する。その身体には見合わないほどの巨大な羽。開いたままの目。平べったいくちばし。それは写真で見たのと同じ鳥魔獣の姿だった。
「詳しいことはわからないけど、、多分どこからか逃げてきた個体だと思う。」
「逃げてきたって誰からだよ!?生息域を離れるって相当だぞ!」
「それは分かんないけど!今言えるのは、、、」
鳥魔獣の生態。それは残忍で狡猾。狙った獲物はどんな手を使ってでも狩り切る執念までも持ち合わせている。
「あいつを倒さなきゃ戻れないってだけ!」
*
空中で睨み合う二人と一体。張り詰めた空気をかき乱したのは魔獣の方だった。
「クゥルルルルル!」
翼から剥がれ落ちた羽が、急激に向きを変える。鳥魔獣の大きな翼から生み出された風圧でそれらがクナイのように襲いかかってくる。
『風刃』
エトワーは素早く、指を構えた。彼女の魔力に呼応し、周囲の空気を巻き込み収束させる。集まった空気は圧縮され、三日月のような形を模した。飛んできた羽がその三日月に触れた瞬間、それは真っ二つになってどこかへ飛んで行った。
魔獣の攻撃を捌いたエトワーだが、その表情は暗い。
(まずい、、!もう魔力が持たないぜ、、!)
ここにきて魔力が尽きてきた。長時間の魔法の行使と、指向性加速器の消耗が重なり想定以上に魔力が削られていたのだ。
「一気に行くぞ!攻撃は任せた!」
「わかった!」
一気に魔獣へ急接近する二人。鳥魔獣は迎え打つかのようにその翼を広げた。
「喰らえ!『炎球』!」
その開いた口目掛けて、炎が放たれた。鳥魔獣はそれを見て、焦るでもなくその翼に力を込める。
「クゥル!」
その一振りで、炎は息を吹きかけられた蝋燭のようにかき消えて行く。その風圧は箒を操作しているエトワーにまで及んだ。
「うそっ!?きゃっ!」
バランスを失い左右に揺れる二人。その隙を見逃さず、追撃を始める鳥魔獣。再び鋭い羽が降ってくる。
「くっ!『風刃』」
初撃のように風の刃を生み出そうとするエトワー。しかし、彼女は奇妙な感覚に襲われた。
(行使までが遅い!魔力が足りないんだ、、!)
その刃が生み出されるまでの時間。それが明らかに遅い。収束させた空気も少ないのか、一発目と比べて明らかに威力が足りない。打ち出された羽に威力負けしてしまう。
「ぐあっ!」
風刃を貫通してきた羽が二人に傷を与えて行く。衣服や肌を軽く切り裂き、そこからじんわりと血が湧き出てくる。
「大丈夫!?エトワー!?」
「平気だぜ!敵に集中しろ!」
(だが、、どうすればいい?風刃はもう使えない。かといって何もしなければ浮遊が切れて一巻の終わりだぜ!)
鳥魔獣は動かない。恐らく目の前の敵は弱っている。魔力が切れたら人間は空を飛べない。ならこのまま落ちるのを待てばいい。狡猾な魔獣はそう結論づけていた。
そんな敵の立ち回りに焦りだけが増えて行く。
(どうしよう、、。エトワーはもう限界が近い!私がなんとかしないと、、)
とはいえ魔力がそれほど残っていないのはラトリックも同じだ。
「こうなったら一か八か、、。残ってる魔力を全部注ぎ込んで、、」
そう考え魔法陣を展開する。自分の全魔力を使用すればあの鳥魔獣の翼から生み出される風圧を超えていけるかもしれない。倒せはしなくても逃げる隙を生み出せれば十分だ。
「無茶だラトリック!魔力の全消費行使は高難易度な技術だぞ!私たちがやっても魔力が無駄になるだけだ!」
「そうだけど!今はこれしか!」
エトワーの静止を振り切り行使しようとするラトリック。周囲が荒ぶり始め、自分の手のひらに収まりきらない程の魔力を感じる。たとえそれが不完全でも放とうとしたその瞬間、
「それに縋ったら死ぬよ」
目の前を過ぎる借り物のネックレス。脳裏によぎったのは、彼の言葉だった。
*
「あーもう!当たらないんだけど!」
ラトリックとノウンはいつもの公園跡地で特訓をしていた。彼女はノウンの糸によって操られた的に目掛けて魔法を放ち続けていた。
「ちょっと休憩したら?」
「まだ行けるっ!」
そう答えたラトリックだがその出力は段々と落ちていき、最後には魔法陣はなんの反応も返さなくなってしまった。
「はぁ、、はぁ、、」
どすんと彼の横に座り込むラトリック。肩で息を続けている。
「焦りすぎじゃない?」
「、、、焦るわよ。周りとどれくらい差がついてると思ってるの」
目を瞑りながら少しでも早く戻れるように回復に努める。
そこから十数分が経過しただろうか。急に飛び起きて再び腕を構え始めた。
「さぁ!再開するわよ!」
再び的の前に立ち向かう。魔法陣を再び展開し、ターゲットが動き出すその瞬間を待つ。しかし、それが動き出すことはなかった。
「ノウン!続けるわよ!」
「うーん。まだ駄目」
「えぇ!?」
そんなノウンの反応に思わず声を荒げてしまう。
「まだそんなに魔力戻ってないでしょ」
「それでもやるしかないじゃない!」
「無駄にするだけだよ。無理なものを無理と判断する能力も時には必要なんじゃないかい?」
何か言い返そうとしているが、思いつかないようで口をパクパクさせている。
「可能性を信じていいのは確信が持てる時だけだ。そうじゃなきゃ何か機会が訪れても死ぬしかなくなるよ。もし何か確信があってやろうとしてるならやってあげてもいいけど?」
「ぐぬぬ、、、」
その言葉に納得はしたのか、大人しく元の位置に戻るラトリック。しばらくじたばたしていたが、数分すると寝息を立て始めていた。
*
「、、、」
周囲の振動が徐々に収まって行く。魔法陣も縮小していき、全ては元通りになった。
「ラトリック、、、?」
「、、、ごめんエトワー。焦ってた」
鳥魔獣を見返すラトリック。相手は怯えて損したとばかりに、ゆっくりと羽を羽ばたかせている。
「エトワーはどれくらい魔力が残ってる?」
「攻撃魔法は使えないな。浮遊が保てなくなっちまう。消費が軽いやつでも一、二発が限度ってとこだな」
思わず頭を抱えてしまいたくなるような現状だ。それでも今できることでなんとかしなければならない。
(せめてあいつの上を取れれば、、、だけど私の浮遊じゃダメだ。制御が効かなくなっちゃう)
こちらが近づこうとすると鳥魔獣は遠ざかって行く。反対に逃げようとするとその分距離を詰めてくる。
(私には何ができる?いま私に使える魔法、、、)
一つずつ、頭の中で反芻する。その時、ラトリックの中にとある閃きが生まれた。持っていた指向性加速器を掌の上に置く。
「エトワー!風起こせる!?」
「風?あいつにそんな効力があるとは思えないぜ!」
「攻撃じゃない!移動用!風船浮かせられるくらいの力でいいから!」
「それくらいなら余裕だけど、お前何する気だよ!」
「あいつを倒す!魔力がもったいないから説明は後!」
「はぁ!?」
ラトリックは下の方を指差し、急いで指示を飛ばす。
「エトワー!もっと下の木の近くまで行って!全速力で!」
(こいつ本当に何をしようとしてるんだ!?、、、けど)
目つきが違う。先ほどまでの儚い希望に縋っていた時の目ではない。これなら勝てるという確信が宿っていた。少なくともエトワーにはそのように見えた。
「〜〜〜!分かったよ!どうせジリ貧だ!お前さんを信じる!絶対勝て!」
「了解!」
3-5話です。ラグメラです。
3-1話ですがエトワーの髪色は金髪でした。ごめんなさい。
これから書き始める人はそういう情報をメモして置きましょう。やらかします。




