3-4話
「空ぁ!?」
エトワーの作戦に声が上ずるラトリック。
「どうやって行くのよ!?」
「まぁまぁ。説明は後だ。とにかく高い所を目指すぞ〜。あっちの崖ならいい感じだぜ〜」
進んできた方向から大きく逸れた方を指差すエトワー。その先にはここら一体を見渡せそうなほど高い崖が聳え立っていた。
「そっちはラートヌスの方角じゃないわよ!?それにあんな崖登ってる時間あるの!?」
「それはお前さん次第だな〜!ほらいくぞ〜!」
「ちょっと!」
エトワーに連れられ、二人の行き先は変わっていった。
*
高所を目指す二人。その足元を目指して歩いて行く。
「止まれ」
木の影に隠れ、慎重に辺りを見渡す。その数秒後、魔獣が前を横切って行った。
「よし。進むぞ」
その言葉を合図に走り出す。こちらには気が付いていないようだ。目的の崖はもう目の前だ。
「ふぅ。いい感じだぜ〜」
「ねぇ!そろそろ何をするのか教えてよ!」
エトワーの後ろに付いていきながら周りにバレないように問いかけるラトリック。その声を聞いて彼女は近くの物陰に身を潜めた。
「わかったぜ〜。よく聞けよ〜」
警戒は怠らず、しかし彼女に確実に伝わるように話す。
「あの崖の上からラートヌスまで『浮遊』で一気に突っ込む。お前さんにはその補助をしてもらうぜ〜」
「、、、」
何か反応を返さなくては。そう思うラトリックだがその口からは空気しか排出されなかった。
「異論ないな〜。よし行くぞ〜」
「いっぱいあるわよ!?」
ようやく何かを言えた。彼女は自棄になっているであろうエトワーを必死に止めようとする。
「まずあの崖どうやって登るの!?それに浮遊ってそんなに速度でないよね!?この距離から突っ込むって魔力たりないよ!?というかめちゃくちゃ落ち着いてるけど絶対危険なことじゃん!?」
「崖登るのは私が乗せるから問題ないぜ〜。速度はお前さん次第だな。魔力はほとんど戦ってないからかなり温存できてるぜ〜。危険は、、、まぁ、うん」
「そこは否定できないの!?目を逸らさないで!?」
一番否定してほしい部分はノーコメントな彼女。狼狽えるラトリックに早く箒に乗れとジェスチャーをしてくる。仕方ないと渋々箒に跨る。その直後に感じる浮遊感。少しずつ二人の足が地面から離れて行く。彼女たちは頂上へと登って行った。
「あぁもう!なんでそこまでするの?」
「ん〜。まぁあいつらが気に食わないってのはあるんだけどな〜」
その問いかけにエトワーはいつも通りの口調で答える。のんびりと間延びした声で。
「友達を馬鹿にされて黙ってる程、ボケてはないんだぜ〜」
その顔は見えないが、きっと振り向いたらいつも通りの表情をしているんだろう。
「、、、ふん!馬鹿ね!あの程度気にしないわよ!」
「いたたたた〜!そんなに抱きつかなくても落ちないぜ〜!」
*
何事もなく二人は頂上に辿り着くことができた。
「よし。始めるぜ」
地面に魔法陣を描き、格納庫から道具を取り出すエトワー。
「これを腕にはめろ〜」
彼女から黒い物体を投げ渡される。それは、バネのような螺旋を描き、柔らかな感触を示した。螺旋の中に腕を突っ込むと自然に腕に絡みついて行く。
「何これ?」
「指向性加速器。吹き込んだ魔力量に応じて推進力を生み出す魔道具だ〜。お前さんはそれを使ってエンジンの役割をしてもらうぞ〜。それと浮遊中の固定も頼むぜ〜」
試しに加速器に魔力を吹き込むラトリック。するとそれは巻きつけた腕をどこかに連れ去ろうとした。
「うわっと!」
「おいおい。無駄に魔力を使うんじゃないぞ」
「ごっ、ごめん」
(全然吹き込んでないのに、、、。注意して扱わないと)
冷や汗をかきながら体制を立て直す。その間にエトワーは準備を整え終えていた。
「方角よし。この高さなら障害物もない。準備はいいか?ラトリック」
「えぇ!いつでも行けるわ!」
再び二人は箒に跨る。空中で来るであろう衝撃に備えるエトワー。
「行くわよ、、!」
指向性加速器に魔力を集めて行く。それは光を放ち始め、解放の時を待ち侘びていた。
(落ち着け、、、。焦っちゃダメ、、。ミスしたら二人とも吹き飛んじゃう、、)
その緊張は拳を振るわせた。その微細な振動は箒を通じてエトワーにも伝わる。
「ラトリック。ゆっくりでいいぞ」
「うん、、。わかってる」
少しずつ。丁寧に自分たちの形を認識して行く。針の穴すら残さないように。
「行くよ、、、。3、2、1、」
そしてその時が来る。
「解放!」
その瞬間、圧縮された魔力が爆発的な速度を生み出した。視界が次々に切り替わって行く。周りの風景が歪んでいくそのスピードに、二人は順応していかなければならない。
「切らすなっ切らすな!」
ラトリックは必死になってその言葉を呟き続ける。少しでも魔力を途切らせれば、かえって危険な目に遭うのは明白だ。ひたすら自分に言い聞かせ、恐怖で止めようとする体を抑えて行く。
「っ、っっ!は、速えっ、なぁ!」
エトワーも線になって消えて行く視界を頼りに、バランス制御を行う。自分たちが今どこにいるかもわからないまま、それでも方角を見失わないように。
「はぁ、はぁ、はぁ、、、」
「大丈夫か!ラトリック!」
「平気!前に集中して!」
浮遊を使い空を飛ぶ時、魔法で魔力の膜を作り、対象となるものを包み込む。人間や物体を一体化させることで転落を防ぎ、またその膜が風除けの役割を果たすのだ。
(くっ、、体がぐらつくっ!ちゃんと包んだのに!)
その膜に隙間が出来ていた。この速度に魔力の耐久度が限界を迎えてしまったのだ。その度に貼り直すラトリック。その緊張は彼女の精神を疲弊させて行く。
(ラトリックの消耗も激しいな、、、っと、こっちも人の心配してる余裕はないか!)
ほんの少しでも気を緩めれば真っ逆さまだ。二人は限界まで魔力を制御し続け、突き進んでいく。
時間にして数分。しかし彼女たちの中ではその数倍の時間が流れていた。
3-4話です。ラグメラです。
なんとこれにて10話目なのですがめちゃくちゃキリが悪いですね。まぁ実質3話なので、良し!




