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記憶  作者: 澄川あや
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ここはどこ

 忘れんさんな。七じゃ。


 あんたは気をつけんといけんよ。あんたはただの人として生きるには強すぎる。救いを求めて、いなげなものがようけ来るじゃろう。うちが守ってやりたいけど、うちの体はもう、めげる。身の守り方を教えてやれん。それが心残りじゃ。


 お札とお守りを頂いて、いつも神様に感謝せんといけんよ。


 七は境界。忘れんさんな。


 でないと……。


 あの時、おばあちゃんはなんと言ったのだろう。

 思い出せない。とても大事な事を聞いた気がするのに。


 私はどこかのアパートの室内に着地した。ひたすら暗い。令和の御世に似つかわしくない暗さ。室内灯はじょうごのようなもので囲まれた電球。キッチンの壁は白いタイル張り。下に目をやるとステンレスの流し台があり、高さは高くない。圧電着火式の薄型二口ガステーブルコンロ。その下にある緑に茶色を少し混ぜたオリーブ色の開き扉横並びしている。くすんだ緑がやけに主張している。

 私は少し後ずさった。理由はないが突然恐怖を感じたのだ。足の裏が硬さを感じる。ビニルの床なのだろうか、冷たいし、硬いくせに妙な感触だ。丸く凹んだ跡を足裏で感じる。ダイニングテーブルでもあったのだろう。

 昭和感溢れる公団住宅のような雰囲気だと、なんとなく思う。

「おかしい」

 室内の様子なんて全く見えないのに、なぜそう感じたのかわからない。ひとつ分かることは、ここは危ない。本能が警鐘を鳴らし続けている。逃げなくてはいけない。逃げないと、殺されてしまう。頭の中でどうする、どうすると焦った自分の声だけが響く。生唾を飲みながら視線を360度巡らす。無限に広がる暗闇の、どこに逃げれば良いのかわからない。足が動かない。身動きが出来ない。ドッドッという自分の血液の動きと酷い耳鳴りがする。私に出来るのはそれだけだ。


「お姉さん、来てくれてありがとう」


 男の子の声だ。まだ幼い。低学年の男の子と幼稚園児の男の子が歓迎してくれているのが分かる。口元など見えないのに、なぜか分かる。兄が弟の頭を優しく撫でた。

 ゆっくり視線を動かす。私にはそれだけしか許されなかった。床とオリーブ色の開き扉があったであろう境目に2対の目があった。その目は異様に大きく血走っていた。

 一体、いつ開き扉は消えたのだろう。私は場違いな事を考えていた。

「お姉さんがいたら、きっと大丈夫。だから、一緒に来て」

 男の子達の目がカッと力を帯びる。私と視線が絡まる。負けたら死ぬ!本能が叫ぶ。引きずられまいと私は目に力を入れた。

 長い時間、私達は睨みあった。もしかすると、それほど長い時間ではなかったかもしれない。


「どうして?」

 兄が呟く。弟は泣いているようだ。二人はお互いをきつく抱きしめあった。


 ぴちゃ


 どこからか、水の音が聞こえる。

 八回目の水音。


『七は境界』

 

 七つまでは神の内。それを超えたら、どうなるのだろう?


「「う゛ぉねがい じィだのヴに!」」

 二人は一層闇を濃くして叫んだ。その様は獣の咆哮のようで、二人が人の道を外れてしまった事を私は悟った。

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