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第1章―3

 書き落としていたので補足。

 現時点では、米内洋六は佐世保鎮守府付で事務職をしています。

 そんなことを頭の片隅で考えつつ、佐世保鎮守府での事務仕事を終えて、私は帰宅した。

 完全な内示の段階とはいえ、この官舎を出て単身赴任しないといけない以上、妻の久子には周囲、子どもにも絶対に言わないように言った上で、陸戦隊への異動を告げる必要がある。


 私は妻子と共に夕食を済ませ、子どもらが寝入り次第、改めて妻と向かい合った。

「久子、完全な内示で、誰にも明かせない段階だが、言っておくことがある」

「何事でしょうか」

「陸戦隊への異動の内示があった」

「陸戦隊ですか」

 私は妻とやり取りをした。


「陸戦隊へ異動ということは、上海への赴任ですか」

「ああ」

「私や子どもはどうなるのですか」

「上司に相談したところ、我が家の事情を察してくれて、佐世保の官舎に妻子を残し、そのまま住んでも良いとのことだ」

「それは有難いです」

 私は妻とやり取りをしつつ、自分の住宅事情を考えた。


 本来から言えば、それこそ借金をしてでも、横須賀等に自宅を建てたいところだが。

 それこそ家族が被災したので援助したり、想わぬ子ども(藤子のこと)が出来たりで、自分に自宅を建てて、そこに妻子を住ませるような余裕は無い。


 かと言って、自分の両親に妻子を預けると言うのは、妻と両親の因縁からすれば躊躇われるし、そうかといって、妻の両親に妻子を預けては、それこそ嫁と舅姑の不仲を故郷で公言するようなものだ。

 そんなことからすれば、このまま佐世保の官舎に住んでも良い、というのは極めて有難い話だ。


 恐らく海軍上層部の配慮があるのだろう。

 東北地方出身の提督は多い。

 それこそ、先日まで首相を務められた斎藤實提督等、多士済々だ。

 そうした方々が動いてくれたのだろう。


 そして、東北地方の悲惨な状況は、それこそ様々な新聞記事等にまでなっている。

「若い娘の身売りが、未だに相次いでいる」

「一日三食を食べられない欠食児童が、数万人単位でいる」

等の新聞記事を、私は何度も読んでいるし。

 それがほぼ事実なのも、故郷の両親や兄姉、又、故郷にいる友人知人から伝え聞いている。


 そして、私自身も故郷の親族にそれなりのお金を送っており、懐に余裕は乏しい。

 正直に言って、養子の仁を中学に入れるのを少し躊躇う程だ。

 だから、住居費が浮く官舎住まいを続けられるというのは有難い。


 だが、その一方で、今の時期の異動ということは。


「仁の中学校への入学式どころか、小学校の卒業式にも行けないことになりますね」

「仕方があるまい。軍命とあってはな」

「それにしても、せめて4月に入ってからの異動にして欲しかったものです。そうすれば、仁の卒業式には出られたのに」

「確かにそうだな」


 妻とやり取りをしながら、頭の片隅で私は考えた。

 妻が、娘の藤子の小学校への入学式の話をしないな、やはり、しこりがあるのだろうな。

 もっとも、そのしこりは継母継子から来るというよりも、兄妹関係からだろうな。


 仁は義妹になる藤子を可愛がっている。

 

 藤子を、藤子からすれば実の母方祖父母が育てるという話が無かったことは無いのだが。

 仁が、母と洋六叔父さんが結婚すれば、自分に妹が出来ると言って喜んだことから、消えてしまったのだ。

 そして、仁と藤子は仲睦まじい兄妹として育っているのだが。


 妻にしてみれば、息子が気に食わない女に取られたような感じがしてならないらしいのだ。

 とはいえ、下手に藤子を自分がイジメるようなことをしては、仁が激怒するのが目に見えている。

 そんなことも相まって、藤子に真実(継子)なのを妻は告げたのだが。

 それを聞いた仁が、更なる真実(自分が養子)なのを藤子に告げたことで。

 却って兄妹が更に仲良くなり、将来はお互いに結婚したいと言い出してしまった。

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― 新着の感想 ―
微妙な義親子関係。なんか上里家を彷彿とさせます。 海軍兵学校出の大尉は、世間ではスーパーエリートで、経済的にも恵まれているのですが、エリート仲間では、帝国大学出の高等文官や、財閥系企業サラリーマンに…
 海軍さんは特に棒給の少ない尉官時代は身綺麗なエリート然としながらも実家へ金の無心をするぐらいピーピーなのに3人の子供を抱えながらも逆に東北の実家に仕送りしてる米内大尉の大変さが行間から読めてしまう読…
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