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第4章―4

 場面が大幅に変わり、ゾルゲと尾崎秀実の会話になります。


 尚、ゾルゲ事件については様々な見方があるようで、私の描写はおかしい、と叩かれかねませんが。

 微妙な異世界小説描写として、緩く見て下さるように、平に作者の私としてはお願いします。

(それこそ、尾崎秀実は真の愛国者として行動しただけだ。

 スパイだ、非国民だ、と尾崎秀実を叩くのは、真の愛国者を誹謗するものだ、と私は言われたことが)

「尾崎秀実さん、貴方の情報は極めて有難い。それこそ、日本政府の最重要機密情報が、手に取るようにわかるようになったのは、貴方のお陰だ」

「そこまで言われるとは、極めて有難いです」

 ゾルゲと尾崎秀実は、東京都内に設けられた秘密会合の場で、1937年8月のある日、そこまで腹を割った会話を交わしていた。


 尾崎秀実は、東京帝大の卒業生であり、(実は諸説あり、何処までが真実なのか、本当に悩ましいが)東京大学院在学時代には、それまでの成育歴や恩師の大森義太郎の影響を受けたことから、完全に共産主義者になっていた。


 そして、1927年に毎朝新聞社に入社して、上海に派遣されたことから、尾崎秀実は、中国共産党とも親密な関係を築いたのだ。


 更には、中国共産党を介して、尾崎秀実はコミンテルンの一員となり、既にコミンテルンの一員となっていたゾルゲとも、1928年前後には親交を結ぶことになった。


 1932年に、尾崎秀実は上海から日本に帰国したが、相前後して日本に赴任したゾルゲとの関係は、引き続き続くことになり、ゾルゲにしてみれば、重要な日本における情報収集源の一人となった。


 1936年には尾崎秀実は、元老の西園寺公望の孫になる西園寺公一と知り合い、更にはその縁から、この頃に西園寺公一の通訳を務めていた牛場友彦とも知り合うことになった。

 そして、牛場友彦は既に近衛首相の友人と言うよりも側近と言う立場にあったことから、その立場を介することで、尾崎秀実は、近衛文麿首相の知遇を得ることになり、昭和研究会、更には近衛首相が自らの知人等を集めて始めた政治勉強会である「朝食会」に参加するまでの立場までも得ることになったのだ。

 

 更に言えば、何故に、ここまでの立場を尾崎秀実が急速に得られたかだが。


 ある意味では、酷い茶番劇に因るモノとしか言いようが無かった。


 尾崎秀実は、ゾルゲを介することで、コミンテルン等からの様々な情報、この当時においては、それこそ闇の中にあるといっても、過言ではないソ連内部からの情報(勿論、当時のソ連の内部事情からして、ほんの一部しか入手は困難だったが)を入手できた。


 そして、その情報源を明かさずに、自らの推測として話すことで、あたかも極めて有能な預言者のように、西園寺公一や牛場友彦に誤解を与えることに、尾崎秀実は成功したのだ。

 実際に西安事件等で、そういった情報を得たことから、尾崎秀実は今後のことを予測して話をして、ほぼ完ぺきといって良い精度で、尾崎秀実の話の通りになる事態が起きたのだ。


 更に、そういった背景があることから、西園寺公一や牛場友彦は、積極的に尾崎秀実を、極めて有能な人物として、近衛首相に推挙することになった。

 その為に、「朝食会」にまでも、尾崎秀実は参加することになったのだ。


 そして、その立場を活かすことで、尾崎秀実は日本政府や軍の様々な機密情報を入手することが出来るようになり、更にはゾルゲにそれを流す事態が起きていた。

 日本海軍が、第一航空艦隊を編制して、上海方面に投入するということも、その為にゾルゲらに筒抜け、といっても過言ではない事態が起きていたのだ。


 だが、このことはドイツ国内のある人物の機嫌を損じてもいた。


「話は変わりますが、ドイツで私の話を直に聞きたい、と私は呼ばれました。断っては不自然になるので、ドイツに一時帰国します」

 ゾルゲは、尾崎秀実にそう言い置いた。

「そうですか。何も無ければ良いのですが」

 尾崎秀実は、何となく不安を覚えた。


「とはいえカナリス提督の招請を断っては、却って怪しまれます。少し逢って、すぐに私は辞去するつもりです」

 ゾルゲはそう言って、ドイツに帰国して行った。

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― 新着の感想 ―
 近衛政権と言えば絶対触れずに通る事は出来ない【ゾルゲ事件】(ˊ̱ωˋ̱)当然それに関わる日本側メイン格の尾崎氏は現実の資料でも毀誉褒貶が凄じいから小説なんかではそれぞれの作者が自分の想いを都合良く仮…
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