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第18章―3

 幕間と言うか、余談めいた話になります。

 そんなある意味では考え過ぎなことまでも、加藤建夫少佐は考えていたのだが。

 周囲はそんな加藤少佐の考えに無頓着だった。


「加藤少佐、今でしたら、一番風呂に入れますが。どうされますか」

「応、有難い話だ、と即答するが。何で風呂が、ここ(ブレスト近郊)にあるのだ。それこそ、フランスに風呂があるとは思いも寄らぬことだな」

「何を言っているのです。海軍からの配慮ですよ。というか、海軍所属の女性補助部隊の配慮ですね。この地で様々な訓練等を行うに際して、海軍に相談したところ、女性補助部隊に協力させる、と海軍から回答があった、と陸軍省等から言われたでは無いですか。その配慮の結果ですね」

「それは極めて有難い配慮だな」

 風呂好きの加藤少佐は、部下とやり取りしつつ、海軍所属の女性補助部隊の配慮に心から感謝した。


 さて、余談に近い話になるが。

 

 陸軍航空隊を欧州に派遣して、様々なことを行わせることに、日本国内では成ったが。

 問題は整備員等の補助部隊を、欧州にまで派遣するか否かということだった。

 それこそ日本陸軍の主敵は、ソ連陸空軍なのだ。


 搭乗員を欧州に派遣して、其処で米国製を中心とする軍用機の評価を行い、有用ならば日本陸軍が購入というか、導入しようとしているのだが。

 その一方で、整備員等まで欧州に派遣したくはない、というのが、費用問題等から陸軍上層部の本音として声が挙がる事態が起きていたのだ。


 そして、海軍も陸軍の本音を察すると言うか、それなりに理解したことから。

 欧州に派遣されている女性補助部隊に、陸軍航空隊の整備を任せることになったのだ。


(後、更なる余談をすれば、海軍航空隊について、更なる欧州派遣の準備が進められていたという事情もあったのだ。

 そして、それなりの搭乗員、機材を派遣しただけでは、航空作戦を展開するのに問題が生じる。


 そうしたことから、予めそれなり以上の整備が行える女性補助部隊を欧州に派遣する事態が、海軍では起きていたのだ)


 そういった裏事情までも、加藤少佐は知る由も無かったが。


「いやあ、本式の五右衛門風呂にフランスで入れるとは思わなかった」

「陸軍少佐に、そう言っていただけるとは。海軍補助部隊としては誉れです」

「そこまで言われなくとも」

「風呂上りには、蕎麦を準備していますので、楽しみにして下さい」

「何。蕎麦だと」

 女性補助部隊の一員とやり取りをしつつ、加藤少佐は思いも寄らぬ歓待だ、と悦ぶことになった。


 加藤少佐は、北海道上川郡(現在では旭川市)の出身である。

 そして、1903年生まれの加藤少佐にしてみれば、生まれ育った上川郡の土地は、徐々に稲作が進んでいったのだが。

 加藤少佐が物心ついたばかりの頃は、まだまだ稲作は試験段階と言える状況であり、蕎麦やジャガイモと言ったモノを食べるのが、稀と言うよりも当たり前と言って良かったのだ。


 そうしたことから、加藤少佐にしてみれば、蕎麦は故郷を思い起こさせる食べ物だったのだ。

 そして、加藤少佐は部下達とと共に、蕎麦に舌鼓を打つことになった。


「いやあ、美味い。というか、里心がつくではないか。これはいかん、これはいかん食べ物だ」

「そう言いながら、3杯目ではないですか」

「饅頭怖いですか」

 加藤少佐は、これはいかん、と言いながら、蕎麦を大食し、部下達は、それをからかった。


「ところで、この蕎麦は日本の蕎麦か。風味が違う気がするが」

「舌が肥えておられますね。これはフランスの蕎麦です」

「何と。このフランス産の蕎麦だったとは」

 加藤少佐は、海軍所属の女性補助部隊から振る舞われた蕎麦の素性に驚く羽目になった。

 そう、加藤少佐が食べたのは、ブルターニュ地方で採られた蕎麦だったのだ。

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― 新着の感想 ―
陸海軍の融和、まことに結構。 史実世界の南方で、陸海の連絡会議などで海軍が陸軍の参謀などに接待して「海軍は贅沢だ。前線では、将兵が餓死に瀕しているのに不謹慎だ。」とかえって顰蹙を買ったこともあるとか。…
日本本土で、美談で広まってそうやなあ。かといって、北海道人がそばをむちゃくちゃ食いたいじゃないをわかってほしい。 うちの父親とか、芋やらかぼちゃの観光地名産食材に敵意レベルで嫌い(笑)北海道人昭和生…
フランスに派遣されて日本式の五右衛門風呂と蕎麦にありつけるとは流石に加藤少佐も考え付かなかったようで。この時代だと異国の地で故郷のものを感じて味わえるのは贅沢な代物となりますね。 日本式の蕎麦屋とか基…
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