第17章―4
ともかく、そういった裏事情があった上で、英本土に対する大規模な空襲というか、航空撃滅戦がドイツ空軍を中心として計画されると言う事態が起きることになった。
だが、これは(この世界の)ドイツ空軍にしてみれば、少なからず身に余る作戦としか、言いようが無いというのが、現場の意見と言っても過言では無かった。
まず、英本土に対する航空撃滅戦を展開するとなると、必然的に英仏海峡沿いの北フランスに、飛行場等を整備した上で作戦を断行することになるのだが。
そうなると、ノルマンディー、ブルターニュ半島橋頭堡やノルウェーからの側面からの空襲を警戒する必要が、ドイツ空軍側には必然的に生じると言うことになる。
確かに内線の利がドイツ空軍側にはあり、それを活かして戦えば済むと言えるだろうが。
それは北フランスに展開しているドイツ空軍側が、基本的に迎撃に回るならば、という大前提が付かざるを得ないのだ。
それこそ大規模な空襲を英本土に対して反復してドイツ空軍が行うならば、必然的に北フランスのドイツ空軍に残された戦力は小規模なモノにならざるを得ず、ノルマンディー、ブルターニュ半島橋頭堡やノルウェーからの側面からの空き巣狙いと言える、英仏日等の連合国の航空隊による北フランスへの空襲が成功する可能性は高い、と言う事態が起きかねない。
更に現場の懸念を深める事態があった。
(この世界では)ノルウェーの大半を、英仏日等の連合国が抑えている。
その一方で、北ドイツ及びユトランド半島を中心として、ドイツ空軍が連合国の航空隊を迎撃する為の早期警戒用の電探を中心とする防空網の整備だが、まだまだ不十分なのが現実だった。
(これはある意味では当然のことで、第二次世界大戦が勃発するまで、ドイツ軍としては、ノルウェー方面からの空襲を警戒しての防空網整備よりも、フランスやポーランド方面からの空襲を警戒しての防空網整備に狂奔せざるを得なかった。
だから、ノルウェー侵攻の結果として、ノルウェーの大半が英仏等の連合国側に立ってしまったことから、慌てて防空網整備に取り掛かった、と言っても過言では無いのが現実だったのだ)
そうしたことからすれば、ノルウェーの飛行場を活用して、ドイツ本土に対する空襲を、連合国軍の爆撃機部隊が断行した場合、それこそベルリンにまでも爆弾が投下される危険が高い。
そうしたことを考える程、英本土に対する積極的な航空撃滅戦は控えるべきでは、という声が現場に近い者から挙がると言う事態が引き起こされたのだ。
だが、その一方で、英本土に対する航空撃滅戦を展開しない、という選択肢がドイツ軍にとって極めて取りづらいというのも現実だった。
それこそ、米本国や日本本土等に対して、ドイツ軍が攻撃を仕掛けるのは不可能と言って良く、着々と英仏等は、米日の支援によって戦力を充実させる一方なのだ。
そして、戦争が長期化すればする程、ドイツと米日の支援を受けた英仏等の国力差から、戦力差は開く一方になり、ドイツの勝算は乏しくなる。
それを打破するとなると、ノルマンディー、ブルターニュ半島橋頭堡をドイツ陸軍に制圧させ、それを背景にして、ドイツに有利な条件で停戦講和を図るべきではないのか。
更に、その為には制空権確保が重要で、その為には英本土に対する航空撃滅戦を展開すべきではないのか、という主張が為された場合、それを否定するのは戦略的には極めて難しいのが現実だった。
結局のところは、戦略を重視するか、現場を重視するか、と言う問題に、この問題は近い。
そして、少しでも有利な条件を勝ち取るとなると、英本土に対する航空撃滅戦を展開するしかないのが現実と言えたのだ。
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