第15章―14
ともかく海空軍にとって、燃料不足は頭が痛いでは済まない問題だった。
そして、海軍にしてみれば、もし、イタリアがドイツ側に立って参戦すれば、海軍戦力の圧倒的な差から言って、ほぼ地続きに近いシチリアを除くイタリア本土外の領土、それこそサルデーニャ、アルバニアといったすぐ傍のイタリア本土外への海上輸送路さえも維持するのは不可能と言って良いのが自明としか、言いようが無かった。
確かにイタリア海軍の額面上の戦力は、世界で言えば仏海軍とほぼ対等で、世界で四位、五位を争える戦力を持ってはいるが。
世界で一、二を争う英海軍と、世界第三位の日本海軍が仏海軍の味方の状態で、イタリア海軍に勝算が立つのかといえば。
更に言えば、同盟国であるドイツ海軍は、既に大型水上艦は絶滅していると言っても過言では無く、とても英日仏海軍の大型水上艦を引き付けることが出来る筈がない。
そして、イタリア海軍の燃料不足を考えれば、軍港からの総力を挙げての艦隊出撃等は不可能で、平時の訓練すら真面に行われていない現状がある。
1940年5月から7月に掛けて、ムッソリーニ統領はドイツに味方しての参戦を懸命に訴えたが、イタリア海軍内の主な反応は、当時、イタリア第一艦隊司令長官を務めていたカンピオーニ提督の著名な言葉、一言で済む。
「まずはドイツからイタリア海軍が3か月は全力で稼働可能な燃料、原油を現物で受け取ってでないと、ほぼ確実にイタリア海軍の主要艦艇は、軍港内で沈められるでしょう。それだけの燃料を、まずはドイツが提供してくれるか否かです。それを受け取った上でなら、参戦に賛成します」
そして、ムッソリーニ統領がドイツ政府にイタリア参戦の代償として、それを提案したところ。
「燃料は全てイタリアが自分で確保すべきだ。ドイツが燃料を提供する余力はない」
とのけんもほろろな回答があったとのことで、この現実の前に、イタリア海軍は参戦反対の態度を崩さないことになった。
(これはドイツ政府にしてみれば、当然の主張だった。
何しろ自国の軍隊を動かすための燃料確保にさえ、頭を痛めているのが現実なのだ。
ドイツに大量にイタリアに燃料を提供する余力等、逆さに振っても、ある訳が無かったのだ)
次にイタリア空軍だが、ここも燃料不足に苦慮していて、それこそ規模拡大をするにしても、質を重視すべきか、量を重視すべきか、頭を痛めるのが現実だった。
搭乗員を大量確保しようとするならば、当然にそれだけの搭乗員を訓練するために、大量の航空機用燃料が必要不可欠なのだ。
とはいえ、燃料不足に空軍も頭を痛めている以上、そんな大量の搭乗員を養成するとなると、これまでの搭乗員の技量維持の為の訓練用燃料確保をどうするのだ、という問題が起き、こちらを立てれば、あちらが立たない事態が引き起こされてしまう。
更に言えば、イタリアの工業基盤の現状も、空軍の参戦反対を強めざるを得なかった。
確かにイタリアの個々の企業の技術レベルは、それなりどころではない高みにあった。
(史実でも、日本が真面に製造できなかったDB601エンジンどころか、DB605エンジンの量産化にイタリアは成功した程である)
だが、量産は出来たものの、それが戦争遂行に充分な程に大量に製造できるのか、といえば、極めて困難なのが、イタリアの工業基盤の限界だったのだ。
更にイタリアの国内資源の乏しさも、空軍にしてみれば頭痛のタネだった。
こうした事情が積み重なったことから、イタリア政府は中立を保たざるを得ない状況に陥ったのだ。
(尚、ドイツ政府にしても、本音としては、物資の迂回輸入経路として、イタリアの中立を歓迎していたのが現実だった)
量産化が出来ても、更に戦争遂行に充分な程に量産できるのか、と言えば。
更なる壁が生じるのが現実なのです。
そんなことから、イタリア空軍は参戦反対の態度を執ることになりました。
後、イタリア海軍の燃料不足の現実ですが、私の調査に基づくモノで、史実に基づいて描いています。
こんな状況で、史実のイタリアは参戦したとは、私は真面な考えとは、失礼ながら、考えられません。
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