第15章―8
そんなことがユダヤ系ドイツ人の身に起きた一方で、同じユダヤ系でもドイツ人以外ならば、積極的に満州国が受け入れるという態度を、満州国政府が示したのは、日本政府の圧力があったと言うのが、満州国内外の理解なのだが。
この辺りについて、もう少し裏まで見るならば、極めて隠微な事情からと言うのが、本当の処としか言いようが無かったのが現実だった。
まず、満州国政府としては、本音では完全な異教徒であるユダヤ人等、満州国内に受け入れるのは真っ平御免と公言したい程だった。
だが、満州国政府としても、隣国であるソ連からの様々な脅威を痛感せざるを得ない現実がある。
それこそ国境を直に接している以上、ソ連からの直接的な軍事侵攻の危険を、満州国政府としては警戒して備えざるを得ない。
又、(この世界の)1940年当時、満州国内の統治は、日本政府からの様々な支援等も相まって、それなりに安定していると言えたが。
その一方で、一皮むけば、ソ連本国や中国本土を聖域として活動している様々な反政府組織(更に言えば、その殆どが武装している)からの攻撃を警戒せざるを得ないのが、満州国政府の現実だった。
更に言えば、こういった反政府組織が、それなり以上に分裂しているのも、満州国政府の苦悩を深める事態を引き起こしていた。
ある意味では変な話に聞こえるだろうが、それこそ反政府組織が一体化しているのならば、その反政府組織の頭と交渉等して、それなりの妥協等に至りやすいことになる。
だが、反政府組織がバラバラで、一部の反政府組織と妥協したら、却って他の反政府組織が過激化するような現状にあっては、それこそ政府としては妥協等を行いにくい事態が引き起こされるのだ。
そして、(この世界の)満州国内の反政府武装組織だが、この当時、大よそだが三派に分かれていた。
ソ連の支援を受けた共産党系組織、中国共産党の支援を受けた共産党系組織、中国国民党政府の支援を受けた漢民族を中心とする民族系組織である。
ここで厄介なのは、中国共産党の支援を受けた共産党系組織が、それこそその時々に応じて、態度を玉虫色と言うか、様々に変えることだった。
同じ中国人だとして、民族系組織と連携することもあれば、共産党同士で手を組むこともある、という存在だったのだ。
更に言えば、大よそ三派に分かれている、とは言うが。
その内実は更に複雑に分かれており、内部での内ゲバが三派共に絶えないのも現実だったのだ。
ともかく、こうした状況から、武装反政府組織への対処に満州国政府は頭を痛めるしかないのが、この当時の現実なのだが、そうかといって、手をこまねいている訳にも行かない。
こうした中で、日本政府から満州国政府に対して提案があったのが、ユダヤ人難民を受け入れてはどうか、と言う提案だったのだ。
それこそ中国国民党政府とナチスドイツ政府が親密な仲だったのは、(この世界では)極めてよく知られていたことだった。
更に言えば、ほんの一時だったが、国共合作が行われる等、ナチスドイツとソ連もそれなりに中国国民党等を介して、それなり以上の友好関係にあったように見える事態があったのだ。
そうしたことからすれば、ユダヤ人難民が満州国に定住した場合、ユダヤ人難民は、民族系組織を敵視することになり、又、共産党系組織も白眼視するだろう。
つまり、満州国政府に忠実な住民が、必然的に増えることになる。
更に言えば、ユダヤ人難民が満州国内に住むようになれば、ソ連等も国際世論を考えて、満州国への侵攻を躊躇う事態が起きることになるだろう。
そういった指摘を、日本政府は行うことで、満州国政府はユダヤ人難民を受け入れることになったのだ。
満州国がユダヤ人難民を受け入れたのには、それなり以上の裏があったのです。
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