第15章―5
そう、カテリーナ・メンデスにとって、結果的に前線で戦う身に自らがなったこともあるが、本当に色々と戦場に自らが立って、人を殺めることになったことについて、色々と考えざるを得なかったのだ。
考えが甘いにも程がある、と批判されるだろうが。
カテリーナとしては、英国が募集したユダヤ人の女性補助部隊に志願したのは方便に近いことだった。
女性補助部隊の一員になるだけだから、自分の手が直接に血に塗れることはない、と考えたのだ。
(直接に血に塗れることは無くとも、間接的に人殺しに加担する以上は同罪ではないか、と叩かれて当然のことと言われるだろうが。
現実の話をすれば、1990年の湾岸戦争後に審議されたPKO法案等について、当時の自民党や日本政府は直接の戦闘に積極参加しない以上は合憲だ、との主張をしたこと等を思い起こせば。
カテリーナの考えは甘過ぎる、と叩かれて当然の考えになるだろうか?)
閑話休題。
そして、日本国内でもユダヤ人は日本から出ていけ、という雰囲気、空気が高まりつつあるのを、自らの肌で感じたことから、将来的には英領パレスチナでの永住権が、自分や家族に得られるという代償に魅力を感じたことも相まって、カテリーナは女性補助部隊に志願したのだが。
自分は様々な適性検査を受けて、更に訓練を積み重ねたことから、優秀な戦闘爆撃機操縦士として将来を嘱望されることになり、更には促成士官育成課程を修了したことから。英空軍少尉に任官する事態が生じることにまでなってしまったのだ。
本当にどうしてこうなったのだろうか、と自分は考えざるを得ない。
更に考えを進めれば、こんな血に塗れた私を、米内洋六少佐は女性として見てくれるだろうか。
そんな想いさえ、どうにも浮かんでしまう。
そうしたことから、米内少佐への想いから、本当は桜の花を描きたいのだが、アーモンドの花を代わりに描くことにしたのだ。
そんな考えをしてしまう一方で。
カテリーナは、別のことに想いを馳せざるを得なかった。
ベネルクス三国等から逃亡して来たユダヤ人等が、ノルマンディー、ブルターニュ半島に難民キャンプを構えている現実が、現在、起きているのだが。
彼らの今後の安住の場所が、英仏等の各国政府で問題になっているらしい。
ぶっちゃけて言えば、フランス政府には、彼ら難民の面倒を見る余裕はとてもないのだ。
かといって、ベネルクス三国にしても亡命政府を樹立する有様で、難民支援の余裕はない。
そして、英国政府にしても、口先はともかく、内実は五十歩百歩だ。
そんなことから、満州国政府と言うか、日本政府の提案を英仏等の政府は受け入れるつもりだ、という噂が、本来ならば届くはずの無い自分の耳にまで届く事態が起きている。
自分が考える限り、各国政府のエゴにも程がある話だが、日本のことわざでいうところの、背に腹は代えられない、ということなのだろう。
満州国政府が、こういったユダヤ人等の難民が移住を希望するならば、ビザ等が完全に揃っていなくとも、移住を受け入れるという声明を出して、日本政府も満州国の人道主義は素晴らしい、と称賛するような声明を出したのだ。
満州国は、自分が見る限りだが、日本の傀儡国家で、自立した国家とはとても言えない存在だ。
そうしたことから、殆どの国、政府は満州国を国家として承認していなかった。
だが、昨今の状況を受けて、英仏両国等は、表面上は満州国を国家として承認していないにも関わらず、満州国への難民移住を承認することで、事実上は満州国を国家として承認する動きを示しつつある。
更に言えば、米国等の中立国政府も同様らしい。
カテリーナは本当に酷い話だ、と考えざるを得なかった。
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