第2章―4
閑話で描くべきかもしれませんが。
この話は視点が変わり、カナリス提督とヒトラー総統の会話が主になります。
「本当に君が言う通りになるとは。アプヴェーアは極めて優秀だな」
「お褒め頂き、有難うございますが、アプヴェーアの予測が偶々当たっただけです」
「いや、そんなことは無い。私でさえ、安心して眠れなかったのに、君は、
『英仏は腰抜け揃いだ。ドイツ軍がラインラントに進駐しても口先の非難しかできない。戦争する決意は皆無だから大丈夫だ』
と周囲に公言し続けており、万が一のことがあるかもしれませんから、という部下の諫言にも関わらず、
『絶対に大丈夫だ』
と言いながら、アプヴェーア長官室内にある仮眠の場で、平然と夜になると眠っていたと聞いた。
そこまでの胆力のある軍人は、そうはいないぞ」
カナリス提督とヒトラー総統は、1936年4月のある日、そのような会話を交わしていた。
実際、表面上を見る限りはその通りなのだ。
(尚、史実でもヒトラー総統自身が、
「ラインラントへ兵を進めた後の48時間は私の人生で最も不安なときであった」
と回想している程である)
そうした中で、平然と夜になると眠れる軍人ということで、更には事前に言った通りといって良い事態が起きたことで、この時のヒトラー総統のカナリス提督への信頼は暴騰を起こしていた。
そうしたことから、カナリス提督がこの時に行った提言は、ヒトラー総統に強く響くことになった。
「取り敢えず、ラインラント進駐問題は解決したといって良い状況です。そうした中で、引き続きアプヴェーアとしては、世界の2カ所について注視しています」
「その2か所とは何処かね」
「中国とスペインです」
カナリス提督とヒトラー総統は、やり取りをした。
「中国は我が国が再軍備を進める上で、極めて重要な拠点です。又、スペインでは、先日の2月の総選挙の結果、人民戦線が主導する政府が成立しております」
「うむ」
ヒトラー総統の記憶力はそれなり以上であり、カナリス提督の言葉に深く肯きながら言った。
「スペインですが、右派勢力は人民戦線政府に不満を持っており、クーデターを画策しているとのことですが、クーデターが上手くいけばともかく、失敗して内戦に至った場合、下手に我が国が右派を援助しては、右派が政府を握っていない以上、政府が管理している外貨が手に入らず、我が国の経済に影響が生じて、再軍備が進捗しない危険があります」
「確かにその通りだな」
「一方、中国ですが、日本政府及び軍部は、最近の中国(国民党)政府の行動、具体的には排日運動を止めようとしない行動に憤懣を高めており、何か口実があれば、戦争も辞さない態度を示しつつあるとか。そうなった場合、我が国から幾ばくかの兵器を提供することにより、物々交換で再軍備に必要な資源を輸入するという、これまでの経済活動に多大な影響が出かねません」
「うむ、全く以てその通りだ」
カナリス提督の更なる提言は、ヒトラー総統の胸に響いた。
「更に我がドイツの再軍備が順調に進んでいて、新型兵器等が実際に役立つか、実戦で確認する必要もあります。そうしたことまでも考えあわせるならば、この際に中国に事実上の義勇兵、実戦参加を想定した大規模な陸軍、空軍部隊から成る軍事顧問団を送り込むことで、日中戦争を予め抑止する態度を我が国は示すべきではないでしょうか」
「成程、二段構えの策か。大規模な軍事顧問団派遣で、日本が日中戦争を諦めればヨシ、それでも、日本が中国との戦争を決意するならば、我が国の軍事顧問団が中国(国民党)軍を指導等して、日本を叩きのめすことが出来てヨシということだな」
「この私の考えは、如何でしょうか」
「うむ。良き考えだ。何れは2個装甲師団等が編制できるようにしよう」
ヒトラー総統は、そのように言明した。
この辺りですが、ヒトラー総統が、何かと言うと戦争経済を、史実では持ち出して、軍部の主張を排斥していたことのオマージュが入っています。
その為に(この世界の)カナリス提督の言葉が響くことになり、装甲師団が中国で事実上は編制される事態が起きることになります。
(尚、細かいことを言えば、下士官以上はほぼドイツ軍人、兵は中国人で装甲師団は編制されます)
そして、このことは日中戦争に多大な影響を与えます。
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