第14章―2
ともかく日本海軍が、金剛級戦艦4隻を主力とする艦隊を、オランダ、ベルギーからのユダヤ人難民のフランス本国への避難の支援に投入し、更に艦砲射撃によって、それなりどころではない戦果を挙げたことは(この世界における)独仏戦の推移を、徐々に変えていくことになった。
実際、後世において、次のような批判が加えられている。
マンシュタインプランは、ドイツの海軍力の欠如を無視した完全に無謀な作戦と言って良かった。
マンシュタインプランは、ドイツ軍の先鋒が英仏海峡沿岸まで突進し、それによって英仏軍主力をベルギーに孤立させることで、無力化を図るという作戦だったが、英仏海峡沿岸まで突進した場合、戦艦等の艦砲射撃による多大な脅威があるのを、完全に無視していた。
確かに艦砲射撃による地上軍の支援が、これまでに余り行われていなかったのが現実ではある。
そして、史実のガリポリ上陸作戦において、触雷や地上砲台からの砲撃によって、英仏の戦艦3隻が沈没、3隻が大破したことから、戦艦による地上部隊への艦砲射撃は戦艦側に危険性が高い、という主張がこの当時において、陸海軍部内で強かったのも事実ではある。
又、空襲によって大型艦でも撃沈できるのが、それこそ第二次上海事変において実証されていたことから、空襲の危険がある中、戦艦等の水上艦が地上に接近して、陸軍部隊に艦砲射撃を浴びせる可能性は低い、という主張があったのも事実だ。
しかし、後知恵なら何とでも言える、と言われるだろうが、戦艦が本格的に地上支援の艦砲射撃を浴びせた場合、地上部隊は予め砲台等を備えていなければ、更には海空軍戦力が調えられていなければ、地上部隊が対処できないのは、冷静に彼我の戦力を考えれば自明の理ではないか。
実際に、英仏海峡沿岸沿いから英仏白軍主力が脱出するのを、独軍は阻止しようとしたが、その為に却って多大な損害が出てしまった。
素直に史実のシュリーフェンプランに准じた作戦を展開して、英仏海峡沿岸沿いから徐々に英仏白軍主力を切り離し、内陸部で英仏白軍を殲滅すべきだった、という批判が(この世界では)極めて高い。
更に付け加えて言えば、史実のシュリーフェンプランは確かに失敗した作戦でアリ、その焼き直しでは失敗が決まっている、としてマンシュタインプランが採用されたのだが。
マンシュタインプランが採用されたのは、ヒトラー総統の強い主張があったためであり、ドイツ三軍上層部の殆どが独仏戦発動の直前まで、シュリーフェンプランに准じた作戦を展開すべきだった、と(この世界でも)主張していたのだ。
それが何故に(この世界でも)マンシュタインプランが採用に至ったのか、と言えば、この世界でもメヘレン事件が起きたことから、機密漏洩の危険性が生じているとして、シュリーフェンプランに准じた計画だった当初計画を行っては失敗が決まっている、というヒトラー総統やその周辺の主張を、ドイツ三軍上層部は迎えきれなかったのが大きい。
ともかく、こういった様々な裏事情から、この世界でも独仏戦に際して、マンシュタインプランが採用されて、実際に実行される事態が起きたのだが。
この世界では、日本軍の欧州派遣が生じていた事情等から、英仏海峡の沿岸沿いに英仏白軍主力が撤退に成功すると言う事態が起きてしまった。
更に言えば、装甲部隊の単独突出は危険すぎる、やはり装甲部隊と歩兵部隊は連携して行動すべきだ、電撃戦は機械化歩兵等が整備されない限りは夢の世界なのだ、という(史実からすれば誤った)戦訓が広まってしまった。
その為にグデーリアン将軍に対し、現実が見えなかった将軍という批判が浴びせられる事態が起きた。
ご感想等をお待ちしています。
尚、話中の批判については、マンシュタインプラン採用時点ではドイツ海軍は健在だった、という再批判が作中世界でもありますが、ノルウェー侵攻作戦失敗時点で、作戦を練り直すべきだった、という反論が横行しているという、厄介な状況にあります。
この辺り、それこそ史実、現実と後知恵問題が絡まることなので、感想欄で指摘等があれば、割烹で補足説明を考えています。