第12章―7
ともかく、こういった状況下から、1940年4月後半以降にユダヤ人部隊1個師団及び日本1個海兵大隊が先遣隊として、オランダ本国防衛協力の為に派遣され、更に日本海兵隊の残余、具体的には全てで1個師団の内、再編制が完結した部隊が順次、オランダに派遣されることになった。
尚、日本海兵隊は、その平時規模や英陸軍を参考にして編制された経緯等から連隊編制を執っておらず、大隊を基本編制として、まずは基本的に3個海兵大隊を集合、編制して付属部隊を附加して旅団(規模的には連隊)を編制し、更に3個旅団を集合、編制して付属部隊を附加して師団を編制するのを基本としている。
そして、この時点の計画としては、4月末の時点で1個海兵旅団をオランダに送り込み、5月半ばまでに1個海兵旅団を、5月末までに残余の部隊を送り込んで、オランダに1個海兵師団を展開させる予定だった。
だが、そうした中でも、ドイツ軍のフランス、ベルギー、オランダ本土侵攻作戦発動は、焦眉の急と言って良い状況にあるのが、徐々に把握されることになった。
その為に、現時点でオランダ本土防衛のために執れる作戦が、様々に検討されることになった。
そして、オランダに到着した日本海兵隊の面々を唸らせた作戦が。
「洪水作戦ですか」
「ええ、我がオランダが建国以来、磨き続けてきた作戦です」
「国土の一部をわざと水没させ、それによって敵軍の進行を防ぐとは」
「我が国の多くが、干拓地ですからね。それによって執れる作戦、戦術ではあります」
オランダ陸軍の面々と、日本海兵隊の面々は、そんなやり取りをすることになった。
さて、洪水作戦と言っても、ピンと来ない方もおられると考えるので、メタい話になるが、少し横道に入った説明をすると。
オランダの国土の多くは干拓地であり、それこそ堤防を決壊させれば、水没する土地、溢水地帯になる土地が、それなりどころでは無くあるのが現実だった。
そして、この溢水地帯は侵攻して来る敵軍にとって、極めて厄介な地形障害になるのだ。
それこそ中世から近現代に掛けて、自動車等が登場する以前ならば、こういった溢水地帯を歩兵や騎兵、砲兵を押し通して進軍させようにも。
それこそ歩兵と言えど、ぬかるんだ土地に脚を取られて、進軍するのは極めて困難だ。
(それこそ冠水している水田の中を進軍していくようなものなのだ)
これが騎兵や砲兵となると、もっと無残な事態になり、進軍するのはほぼ不可能だ。
(泥田の中で大砲を運べとか、それこそ不可能な話ではないだろうか)
更に進軍すれば、当然のことながら水面は濁っていくことになる。
濁った水面によって、足元の地形はほぼ分からなくなり、それこそ現代の日本でもよくあることだが、溢水して濁った水面の為に足下が分からず、それこそ水路等にハマって溺死する事態が多発するのだ。
勿論、国土の一部を犠牲にする以上、国民にも様々な被害が必然的に出る作戦、戦術でありそれこそ米内洋六少佐等に言わせれば、
「文字通りに肉を切らせて骨を切る、自国民を犠牲にする非情な作戦、戦術だ」
という代物なのは間違いない。
だが、この作戦、戦術は、それこそオランダ建国以来、しばしば英仏両国によるオランダ本土への侵攻作戦を阻んできた作戦、戦術だった。
ちなみにフランス大革命後の1795年の仏によるオランダ征服が成功したのは、それこそ河川が結氷する冬季に侵攻作戦を断行すると言う、ある意味では無茶を仏軍がやったからだった。
その為に洪水作戦、戦術は、この時には役立たなかったのだ。
だが、今は春であり、河川は凍っていない。
オランダ政府、軍は洪水作戦、戦術によって国土を防衛するつもりだったのだ。
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