第12章―6
更にこういったユダヤ人部隊の動きだが、実は英仏両国政府にしても、本音としては歓迎したい話だった。
既述だが、オランダ軍は長年の中立政策によって、極めて弱体な状況にあった。
そうしたことから、本格的にドイツ軍がオランダ本土に侵攻してきた場合、それこそ三日と経たずにオランダ全土が占領されるだろう、というのが冷たいようだが、英仏両国政府及び軍部の見解だった。
(尚、日本政府及び軍部も、ほぼ同様の見解だった)
だが、だからといって、オランダ政府が、英仏両国政府等に対して(極秘裏にだが)救援を求めているのを、冷酷に単に切り捨てては、それこそ国内外の外聞に関わる話になる。
そうしたことから、日本海兵隊を、言葉は悪いが捨て石として、オランダ防衛に派遣しようと英仏両国政府は考えたのだが、日本海兵隊にしても、再編制中と言う現実があっては、オランダに全面派兵という訳にはいかない。
そうした状況下で、英軍の外人部隊の一員であるユダヤ人部隊内部から、オランダに自分達を派遣して欲しい、という声が挙がったのだ。
これは英仏両国政府にしてみれば、渡りに船と言って良かった。
それこそ仏にしてみれば、本国防衛自体に不安を覚えるのが現実であり、オランダ防衛の為に仏陸軍を派遣する余裕等、本音としては乏しい現実がある。
英にしても、これまでの様々な歴史的経緯から、オランダ防衛の為に下手に陸軍を派遣しては、却ってオランダ国民の反発を受ける危惧を覚えている現実がある。
こうした中で、オランダにいる同胞、ユダヤ人を護る為にユダヤ人部隊を派遣されたい、との声がユダヤ人部隊内から挙がったのだ。
本来的には、英軍の一部隊ではあるが、ユダヤ人から成る部隊なので、オランダ国内の反発は低いと言えるだろう。
更に言えば、冷たいようだが、所詮は外人部隊であり、英国政府にしてみれば、失っても惜しくない部隊ともいえるのだ。
こうしたことから、オランダ本土防衛の為に、英軍のユダヤ人部隊が派遣されることが決まった。
更には、英軍色を薄めるために、実際には違うのだが、英領パレスチナにて自治領部隊に准じて編制された部隊のように装って、ユダヤ人部隊はオランダに派遣されることになった。
その為に、このユダヤ人部隊は、いわゆるダビデの星、六芒星旗を軍旗として掲げて、オランダに進駐することにもなった。
だが、このことは必然的と言っても過言ではないのだが、ドイツ政府の心証を害することになった。
何しろ、ヒトラー総統率いるナチス党は、反ユダヤ主義を掲げることでドイツの政権奪取に成功した、と言っても過言ではない程の政党である。
そうした背景事情があるのに、オランダ防衛の為に(英国で編制された)ユダヤ人部隊が派遣されてきた、というのは、ドイツ政府に対して明確にオランダ政府は敵対するということを決めた、ということだ。
更に言えば、オランダ政府やその支持者は、ゲルマン民族の裏切り者が多数いる、という主張が、ドイツ政府や軍内部で高まる事態が引き起こされてしまった。
(既述だが、ドイツ軍のノルウェー侵攻作戦が失敗したのは、同胞のゲルマン民族を裏切って、劣等民族の日本人に味方した面々がノルウェー国内に多数いた為だ、という主張が、当時のドイツ政府や軍内部で横行していた現実があった。
それに類似した主張が、オランダとドイツの関係でも引き起こされることになったのだ)
オランダ政府にしてみれば何故にとしか、言いようが無い事態だが、今更、ドイツ政府に対しての弁明が通る訳もない。
こうしたことから、オランダ政府は覚悟を固めて、ドイツ軍の侵攻に対処するしかない事態が引き起こされることになったのだ。
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