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第10章―19

 ともかく、こういった様々な事態の積み重ねは、ノルウェーを保持しようとするドイツ軍にとって、重荷が積み重なっていくということにつながったのだ。


 それこそドイツ軍の占領地域に住むノルウェーの国民の殆どが、ドイツが民生品提供にまで力が及ばなかったことから、餓死の危険に現に晒され続ける事態が起きる一方で、ドイツ軍の占領地域に無いノルウェーの国民は飽食して、安楽に暮らしている、という噂が住民間で広まっては。

 更に、それを肯定するような報道が、BBC等で垂れ流されていては。


 ドイツ軍占領地域のノルウェーが不穏な空気に覆われ、反独レジスタンスが跳梁するようになるのは、当然のことと言って良かった。


 だが、それはすぐに広まることではない。

 それこそ、レジスタンスの志願者が増え、そういった組織が造られて、実際に動いて、ドイツ軍に実際の損害を与えるようにまでなるのには、一月、二月といった時間がどうしても掛かることになる。


 更に言えば、ノルウェー政府上層部や国民の間には、それこそ他人の家に、勝手に自分の都合で押し入って、家の中でお互いに暴れているだけではないか、という想いがする者が多数いるのが現実なのだ。

 こうしたことも、英仏日連合軍の手足を縛ることになり、ノルウェーでの積極的な攻勢を英仏日側が採ることを困難にして、まずはベルゲン以北を固守しようとすると共に、ノルウェー(正統)政府との友好関係を高めようとする外交施策が執られることになった。


 英仏日側としては、ノルウェー(正統)政府の正式な要請を受けてから、オスロ奪還等の攻勢を採ることにしたのだ。


 これに対して、ドイツ側は、というと。

 ドイツ側も、海上輸送能力の欠如、更にはノルウェーに届く兵員や物資の多大な損害に頭を痛めることになっていた。

 

 これが完全に兵員や物資が届かないのならば、ヒトラー総統以下の面々を説得して、ノルウェーの早期放棄も可能なのだろうが。

 それなりに届いてしまっていることが、却って引き返すに引き返せない事態を引き起こしていた。


 それこそ博打で損をしてしまい、更なる博打でそれを取り返そうとして、更に損が増えるという悪循環に、ノルウェーのドイツ軍は陥ってしまったのだ。


 何しろ少数とはいえ、戦車や重砲といったモノまでも、何とかノルウェーに少数とはいえ、届く現実があるのだ。

 だから、何とかしてノルウェーを維持し、出来ればノルウェー全土を占領できないか、という意見まで出るのが、この頃のドイツ軍の現実だった。


 だが、その一方で、ノルウェー全土を早期に抑えられなかったのは、ドイツ政府、軍にとって、徐々に致命傷になりかねない事態が起きつつあった。

 スウェーデン政府が、ドイツに対する全面禁輸措置を仄めかすようになったのだ。


 実際問題として、この時期にはバルト海北部が氷結する以上、スウェーデンの鉄鉱石等の資源は、ノルウェー領内のナルヴィク等を経由して輸出するしかない。

 更に、ノルウェー(正統)政府が、そういったドイツとスウェーデンの交易を認める訳が無かった。


 こうしたことから、ノルウェーに展開するドイツ軍は限定攻勢を展開する事態が起きたが、これは無謀極まりない、と言われても仕方のない事態を引き起こした。


「急いで待て」の精神から築かれた日本海兵隊が待ち構える陣地に、ドイツ軍が限定的とはいえ、攻勢を掛けざるを得ない事態になったからである。


 更に言えば、ドイツ軍の海上輸送は失敗が多く、様々な物資が欠乏している中で、攻勢を行わざるを得ない事態が起きた。

 とはいえ、ドイツ軍にしても、スウェーデン政府が全面禁輸措置を執るのを阻止する必要が、どうにもあるのが現実だったのだ。

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