プロローグ 転生者カナリス提督の想い
表題からすれば、カナリス提督が主人公に思えますが。
次話以降で、日本人の架空人物の主人公が登場します。
そして、カナリス提督の暗躍に、主人公らを始めとする面々は振り回されて、史実と異なる第二次世界大戦が起きることになります。
自分がカナリス提督に転生していることに気付いたのは、それこそ自分が物心つく前後のことだった、と今は覚えているが、何処まで確かな事なのか、今の自分には確信が持てない。
そして、それに気づくと同時に、いわゆる前世の知識等が自分の脳内に流れ込んできた、と自分は覚えているが、それも同じようなことだ。
ともかく、前世の記憶がもたらした結果に自分は絶望したくなった。
何故に我が祖国の独は、日本と同盟するような心底バカなことをしたのだろうか。
日本は独ソ戦勃発時に、独に味方してソ連に攻め込むようなことをしなかったのだ。
もし、この時に日本がソ連に宣戦布告していれば、独はソ連を倒せたかもしれないのに。
又、日本は日中戦争にのめり込んだ余り、日中戦争の講和をしようとせず、ソ連に攻め込むどころか、南部仏印進駐という暴挙を仕出かしたのだ。
その結果、米国を激怒させて、石油の禁輸措置等を米国から受けることになり、最終的にはハルノートを突き付けられることになったが、そうなったら、普通に考えれば、頭を冷やして、ハルノートを日本政府は受諾しただろう、と普通の人間ならば誰でも考えるだろうに。
米国は戦争を望んでいる、ハルノートを受け入れても、更なる要求が突き付けられるだけだ、として勝算絶無の対米戦争に、積極的に日本政府が突入するとは。
更に、ヒトラー総統は、同盟国の信義を護る必要がある等と主張して、対米宣戦布告を真珠湾攻撃後に行うようなことを仕出かしたのだ。
その結果としてもたらされたのが、第二次世界大戦における独の敗北だ。
前世知識がよみがえった私は、このことから固く決意したのだ。
我が独が日本に接近することは、祖国の敗北を招くことになるのは必至だ。
独は公然と中国国民党を支援することで、更にソ連と共に中国共産党を支援することで、反日政策をひたすら遂行すべきなのだ。
実際に史実でも中独合作が行われたではないか。
前世の記憶持ちの自分からすれば、本当にウィンウィンの関係に、中独合作はあるとしか言いようが無いことだ。
中独合作を積極的に遂行すれば、まず世界戦略等皆無で、感情論から必敗の戦争に突入するような日本政府と手を結ばずに済むのだ。
更に国共合作を成し遂げている中国と手を組めば。
まず、中国政府を介することで、ソ連と積極的に手を組むことが出来るようになり、我が独は主に対英仏戦に注力できる。
又、日本を仮想敵国として対日戦準備を営々として行っている米国とも、我が独は中国政府を介して積極的な提携関係を結べるだろう。
そうなれば、第二次世界大戦は、我が独は日本と言う全く当てにならない同盟国と手を組むことなく、米ソと手を組んで世界大戦を遂行することになるだろう。
そして、英仏を始めとする欧州諸国の植民地を解放することもできて、我が独が欧州の覇者となる未来を最終的に迎えられるのではないだろうか。
私は、前世の記憶がよみがえった後、孜々営々と努力し続けた最終的な結果として、1935年初頭にアプヴェーアの長官に就任できた時に、そこまで今後のことを考えて、計画を立案していた。
実際、私の記憶が正しければ、という大前提付きの話になるが、私の計画は、それなり以上に完璧と言える代物だった筈だ。
だが、この後に起きた様々なことは、私の計画を徐々にだが、狂わせていく一方になった。
そして、今、私は自らのこめかみに、愛用の拳銃を自ら押し当てて、自裁しようとしている。
私が前世で読んだモノでは転生者は万能で、最終勝利を収められるのが定番なのに。
私は何処で間違えてしまったのか。
1935年初頭にアプヴェーアの長官になったとき、私はどうすれば良かったのか。
いきなり、この世界のカナリス提督の最期(?)を描くな、と言われそうですが。
そうしないと話の軸がブレそうなので、プロローグで結末を垣間見せることにしました。
作者の我が儘をご寛恕下さい。