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第08話 挑戦

  昼食は終わったが、まだ彼女の名前を呼ぶのが難しかった。それでも、慣れなければならない。


 彼女はまだ俺の隣に座っており、食べ終わった弁当を片付けていた。今日は特に、俺たちがどれほど親しく見えるかが気まずかった。


 その後、部活が始まる時間まで教室に戻ることにした。彼女は自分の席に座り、ただ授業が終わるのを待っていた。


 退屈そうだった。誰も彼女に話しかけず、彼女自身も授業にあまり興味を示していなかった。もし今俺にちょっかいを出せば、先生に注意されるだけだ。それを理解しているからこそ、彼女は動かなかった。


 一方、白鳥は真剣に授業を聞いていた。それでも、昨日のあのいたずらっぽい表情はまだ忘れられなかった。もし俺が同じように彼女に近づいたら、どうなるだろう?良い反応をしてくれるのか?それとも迷惑(めいわく)がられるのか?


 外国のフォーラムでは「女性を理解するのは不可能」とよく言われている。でも、もし本当にそうなら、少しだけでも理解できれば十分なのかもしれない。白鳥や白鳥にもっと興味があれば、彼女たちの反応や行動を研究してみるのも悪くない。そうすれば、小説の女性キャラクターを描くときにも役立つかもしれない。


 いや、いっそ一度試してみるのもいいかもしれないな。


 そんなことを考えながら授業を受けていると、気づかぬうちに先生が俺のそばに立っていた。


「高宮。」


 突然名前を呼ばれ、(われ)に返(かえ)る。


 ぼんやりしていた俺に、先生の注意が飛んできた。


 授業が終わった後、荷物をまとめて教室を出ようとした。その時、声がかかった。


「圭くん、一緒に行かない?」


 振り向くと、白鳥だった。すでに席を立ち、荷物を片付けながら俺の方へと歩いてきていた。


 彼女が近づくと、白鳥も俺の方へ寄ってきた。「三人で行こう」とでも言いたげに。


 悪くない提案だったので、俺は頷いた。こうして俺たちは三人で部活へ向かうことにした。


 白鳥が真ん中、俺が左、白鳥が右。自然と、白鳥は白鳥と多く話していた。彼女たちは楽しそうに話していたが、内容はまるで分からなかった。というより、わざと聞かないようにしていた。


 二人は笑い合っていたが、ふと白鳥が俺の方を見て、何かを誤魔化すように笑った。それに対し、白鳥は慌てて手を振り、必死に否定していた。


 まるで世界がミュートになったようだった。俺の頭の中では、彼女たちの会話を分析しようとする思考だけが響いていた。


 だが、その瞬間だった。突然、背中に強い衝撃を感じた。


「いってぇ!」


 俺は少し身を屈め、衝撃を受けた部分をさすった。すると、すぐに陽気な声が聞こえてきた。


「こんにちは、お姉さま! こんにちは、白鳥先輩! こんにちは、高宮先輩!」


 顔を上げた瞬間、すぐに分かった。白鳥の妹だった。


 なぜか彼女には嫌われている気がする。別に何かしたわけでもないのに、どうしてこんな態度を取られるんだろう。そう思いながら口を開きかけたが、白鳥が先に話し始めた。


「香織、もう少し高宮くんに優しくしてあげられない?」


 その声には、わずかに心配の色があった。しかし、香織はすぐに返事をせず、ただじっと白鳥を見つめた。その表情はどこか不気味だったが、白鳥は特に気にする様子もなかった。


 やがて、香織は意地悪そうに笑い、軽い調子で言った。


「わざとじゃないよ、ごめんなさ~い。」


 まるで俺をからかって、動揺させようとしているような口調だった。しかし、俺はそれに乗らず、深く息を吐いた。こうすることで、少しは落ち着ける気がした。


 そのまま俺たちは部室に向かって歩き続けた。もうすぐ到着しそうだったので、少し先を歩こうとした。そのとき——


 腕を掴まれた感触がした。


 柔らかい何かが、肌に触れる。


 驚いて横を見ると、白鳥が俺にぴったりとくっついていた。照れくさそうな表情をしながらも、微笑んでいる。


「このまま部室まで行こ?」


 いや、どう考えても歩きにくい。もし俺が変態だったら、今頃天にも昇る気分なのかもしれないが、生憎そうではない。ただただ恥ずかしい。どうすればいいか分からなかった。


 心地よさがないわけではないが、これ以上続けば、自分に何かしらの影響を及ぼしそうな気がする。


 抵抗を試みたものの、結局そのまま歩くことになった。


「……まぁ、いいけど。」俺はぼそりと呟いた。


 後ろを振り返ると、香織が白鳥を見つめていた。どこか心配そうな視線だったが、白鳥はそんな彼女に笑顔でサムズアップしていた。「頑張れ」と言わんばかりに。


 俺は再びため息をつき、前を向いた。


 ——もうすぐ着く。あと少しの辛抱だ。


 ◇◆◇◆


 数分後、ついに俺たちは部室に到着した。何とか耐え抜いたが、それでも白鳥は俺の腕を放そうとしなかった。


 すると突然、香織が俺たちの間に割り込んできた。


「白鳥先輩、もう着きましたよ。そろそろ離れてもいいんじゃないですか?」


「やだ。もう少しこうしていたい。」


 白鳥は冷たい笑みを浮かべながら、さらに俺の腕に胸を押し付けてきた。


 香織は眉をひそめた。どこか不安そうな表情を浮かべながら、一歩下がり、道を譲った。


 一方の俺は、もう疑問を抱えたままではいられなかった。思い切って尋ねることにした。


「なんで急にこんなことを?」


 しかし、返事はなかった。代わりに、沈黙だけが場を支配した。


 そういえば——。


 部室の鍵が開いているということは、鷹虎がすでに来ているはずだ。だが、なぜか姿が見えない。


 俺と同じように、二人も異変に気付いたのか、俺の質問を無視して、部屋の中を見渡した。


 そのとき——。


 耳元で、突然声が響いた。


「何してるの?」


「うわっ!」


 予想外の出来事に、俺の体はビクッと跳ね上がった。その声はあまりにも唐突で、まるで幽霊が囁いたようだった。


 驚いたのは俺だけじゃなかった。白鳥も、俺の腕にしがみついたまま体を震わせたし、香織に至っては目を潤ませていた。


 そして——。


「アハハハハッ!」


 突然、爆笑が響いた。


 振り返ると、そこには白鳥が楽しそうに笑い転げていた。どうやら、俺たちの反応を見て楽しんでいるらしい。


 恥ずかしさが一気にこみ上げてくる。


 しかし——。


「……っ!」


 今度は白鳥が、背後から肩を叩かれた。


「うわっ!」


 今度は彼女が驚く番だった。さっきの俺たちとまったく同じ反応を見せる川城さんを見て、少しだけ笑いがこぼれた。


 その相手は——。


「……あれ?」


 鷹虎だった。


 彼は俺たちを見つめ、薄く笑みを浮かべていた。しかし、その表情は次第に変化していった。


「お前、どこに行ってたんだ? 何で部室を開けっ放しにした? それで俺に鍵を貸せって言ったのか?」


 白鳥が腕を組み、少し怒ったように問い詰める。


 その表情には、さっきの俺への仕返しを忘れていない雰囲気もあった。


 鷹虎は小さく息を吐き、静かに答えた。


「すまない、川城さん。会いたがってる人がいるんだ。」


「……誰?」


 白鳥だけではなく、俺たち全員が鷹虎の方を向いた。同じように困惑した表情を浮かべながら。


 彼はまだ入口に立ったまま、動こうとしない。


 すると——。


 突然、ひとりの少女が現れた。


 長いピンク色の髪、大きく輝く瞳、白くて滑らかな肌。 その容姿はあまりにも目を引き、間違いなく白鳥のライバルとしてふさわしいほどの美貌を持っていた。


 だが——。


 その冷たい表情と苛立った様子から察するに、どうやら友好的な訪問ではなさそうだった。


「あなたが川城白鳥でしょ?」


 白鳥は一瞬戸惑ったようだったが、すぐに答えた。


「……そうだけど、あなたは?」


 少女は腕を組み、顎を少し上げると、誇らしげに名乗った。


「この学校では誰もが私のことを知ってる。でも、あなたは転校生だから特別に教えてあげるわ。私の名前は美慧みさと(ゆい)。この学校で一番可愛くて、一番人気のある女の子よ。」


 そして、彼女は一歩前へ踏み出し、鋭い視線で白鳥を睨みつけた。


「今日は、あなたに勝負を挑みに来たの。」


「勝負?」


 白鳥は首をかしげた。まるで本当に意味がわからないと言わんばかりに。


「何の話?」


 美慧 唯は、イライラした様子で眉をひそめた。


「……あなたのせいで、私の評判が危ないのよ。」


「え?」


 さらに困惑する白鳥。


 その反応に、美慧は苛立ちを募らせ、ついには大きくため息をついて、額に手を当てた。


「つまりね、あなたが転校してきてから、私に興味を持つ男の子の数が明らかに減ったのよ!」


 美慧は強く指をさし、きっぱりと言い放った。


「だから決着(けっちゃく)をつけるの。どっちがこの学校で一番可愛いのか、どっちが本物の“女王”なのか!」


 一瞬、静寂が訪れた。


 しかし、次の瞬間——。


 白鳥の唇に笑みが浮かんだ。まるでやっと状況を理解した、とでも言うように。


 彼女は一歩前に出て、美慧の目をまっすぐ見つめた。

 その表情は、まるで戦士のような真剣なものだった。


「……いいわ、勝負を受けてあげる。」


 力強く、はっきりと。


「私は負けるのが嫌いだし、こんなふうに挑まれるのはもっと嫌いだから。」


 白鳥の瞳は力強く輝き、まるで宣戦布告(せんせんふこく)のようだった。

 その瞬間、空気がピンと張り詰めた俺たちは息をのんだ。


 驚きとともに、堂々とした白鳥の姿に見惚れるような気持ちさえ湧いてくる。

 学校で最も美しい二人の少女その間に火花が散る。ついに、決戦が始まろうとしていた。

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