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第06話 突然の行動

「横に『5年前のもの』って書いてある……。こんなに時間が経ったなんて驚きね。それでもまだ本屋で売られてるなんて。」


「そうなの?全然気づかなかった。」


 そう言いながら、彼女は興味深そうに本を回してみせた。だが、そんなことをする必要はなかった。日付ははっきりと書かれている。茶色がかった暗い髪の少年の写真の横に──彼女が話していた少年のものだ。


「でも、本当にその時代のものなら……私の世界に対する疑問が解けるわ。」


 私は川城さんを不安げに見つめながら尋ねた。


「さっき言ってた‘二つ以上の時軸(じく)の存在’ってこと?」


「ええ、その通り。どうやら彼はずっと前にその問題を解決していたみたい。」


 彼女は考え込むように本を見つめ、まるでページの中に隠された何かを探すように、一字一句を追っていた。


「ところで、‘時間軸’って具体的にどういう意味?」


「あ、ごめんなさい。追加の時間次元のことを言ってるの。一番簡単な説明よ。」


 簡単に言われても、まだ理解するのは難しかった。


「なるほど……でも、まだよく分からないな。」


 彼女は軽くため息をつくと、別の説明を試みた。


「たとえば、純粋な速度で時間を旅できるとするわ。ある一点で止まると、あなたは一つの現実を見る。例えば、あなたの猫が生きていて、あなたが一緒にいる瞬間よ。


 それを、動いている映像ではなく、一枚の写真として見ていると想像してみて。そして、そのまま進み続けると、どんどん写真が増えていく。それが無限に続くのよ。」


「へえ……今のでなんとなく想像できたよ。そんな風に細かく解釈できるなんてすごいね。」


 彼女は急に真剣な表情になり、ベッドの隅に腰を下ろした。


「それぞれの映像は、それぞれの次元と出来事を持つ現実なの。可能性の一つ……。そして、それは下位の軸や上位の軸にも当てはまる。いくつ存在するのかは分からないけど、世界の仕組みが理解できた今、私はもう何も心配していないわ。」


「そっか……。長い間悩んでたことがやっと解決したみたいで安心したよ。でも……写真の子供は?」


 彼女はゆっくりと私に近づき、好奇心に満ちた瞳でこちらを見つめた。そして、少し満足そうに微笑んだ。


「……何も。彼らが別の人生で何を選んだか、それに私は干渉できないし、もししたら、きっと罰を受けるわ。でも、それはもう関係ないの。」


 彼女はそっと私の手を取った。その瞳には、どこか不安げな色が宿っていた。


「……どうして、教室で私を一人にしたの?」


 彼女の手は温かかった。離したくなかった。まるで、夢の中にいるような感覚だった。でも、誤解される前に答えなければ。


「いや……実は、周りにたくさん人がいたし、邪魔しちゃいけないかなって……。」


「違うよ! あなたは……あなたは邪魔なんかじゃない。全然!」


 彼女は慌てて否定した。その表情から、本当にそばにいてほしいと思っていたことが伝わってくる。それでも、私は確認しておきたいことがあった。


「……そっか。じゃあ、明日からは一緒にいるようにするよ。」


 私がそう言うと、彼女の表情がパッと明るくなった。だけど、そのまま何かを言う前に、突然、彼女は私を抱きしめた。


 ……固まった。どう反応すればいいのか分からない。このままじゃ、いずれ本当に彼女に惹かれてしまう気がする。


 離れるべきだと思う反面、この温もりに身を委ねたいとも思った。


 しばらくして、彼女はゆっくりと体を離した。


 頬が、少し赤く染まっていた。


「……ただの感謝の気持ちだからね。勘違いしないでよ?」


 私は頷いた。気まずい沈黙が流れる中、何か言おうとした。


 だが、その前に──


「二人とも、ご飯できたよ。」


 お腹が空いていたので、そのまま階段を下りることにした。


 彼女は無言で私を見つめ、ほんの一瞬だけ眉をひそめたが、すぐに小さく息を吐いて私の後を追ってきた。


 夕食の間、彼女はずっとしかめっ面でこちらを見ていた。何に怒っているのか全く分からなかったが、きっと明日には機嫌も直るだろう。



 ***


 翌朝、彼女は私を起こしに来なかった。


 本当は少し期待していたが、待っていても現れない。さすがにこのままでは学校に遅刻してしまうと思い、渋々起き上がった。


 窓を開けると、暖かい朝日が部屋に差し込み、ガラスに反射して心地よい光が広がった。目を閉じて、朝の風を感じる。遠くで鳥のさえずりが聞こえ、それがまるで自然のメロディーのように耳に響いた。


 それでも彼女は現れない。仕方なく部屋を出ると、階下のリビングで彼女の姿を見つけた。


 制服姿の彼女は、スマホのカメラで自分の姿をチェックしていた。今日は髪を下ろしておらず、高めのポニーテールにまとめている。


 ──綺麗だった。


 思わず目を奪われる。たった一つの変化で、こんなにも印象が変わるのかと驚いた。


 すると彼女は眉をひそめ、小さくつぶやいた。


「うーん……やっぱり、こうしたほうがいいかな……」


 そう言ってヘアゴムを外し、さらりと髪を下ろす。いつもの髪型に戻った彼女を、私はついじっと見つめてしまった。


 その時、階段の最後の一段を下りる際にわずかに音を立ててしまった。それだけで彼女は小さく肩を震わせ、驚いたようにこちらを振り向いた。


「……おはよう」


 少し緊張した様子で、彼女はそう呟いた。


「……おはよう。どうかした?」


 何気なく聞いてみたが、返事はなかった。きっと、この質問が来ることを分かっていたのだろう。


 妙な沈黙が流れ、なんとなく気まずくなった。


 結局、そのまま二階へ戻り、支度をすることにした。


 彼女は何か言いたそうに口を開けたが、言葉が出なかった。私たちはリビングに二人きりになった。おそらく母は家の別の場所で忙しいのだろう。


 お風呂を浴びて着替えた後、朝食を取りに下へ降りた。ジャムを塗ったパンとオレンジジュースのボトルを飲みながら、外に出た。途中で、昼食を取ったばかりの川城さんに追いついた。


 新しい一日が始まった。


 昨日と同じように、すべての視線が彼女に集中していた。それは避けられないことだった。しかし、前回とは違って、今回はいつもの髪型をしていて、まるで変えようとしなかったかのようだった。


 そして、今日の一日が始まった。けれど、昨日とは何かが違っていた。空気が少し変わっていて、妙に居心地が悪く感じた。それをどう説明したらいいのか分からなかった。


 彼女の行動が理解できなかった。もしかしたら「そういう時期」だから、急に態度が変わったのだろうか?女性の気分に影響することがあると聞いたことがあったが、確証はなかった。それでも、きっとその理由は分かるだろう。


 学校に着くと、いつも通り、彼女の存在が周囲の注目を集めていた。人々に囲まれているときの彼女の笑顔は自然だったが、私たち二人きりだと、何かが前とは違っていた。まるで、何かを尋ねて欲しがっているようで、何が起こったのかを私が気づくのを待っているかのようだった。


 多分、後で聞くべきだろう…昼食の時間にでも話すのがいいかもしれない。


 数分後、教室に到着した。光香さんは最近到着したようだった。


「おはよう、高宮君」と彼女は席から笑顔で挨拶してきたので、僕も同じように返した。


「おはよう、光香さん。」


 その言葉を言った後、川城さんの視線が僕を威圧して、少し緊張した。間違いなく、彼女の顔には少し不快そうな笑顔が浮かんでいた。


 本当に、今日は彼女がどうしているのか知る必要がある。


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