第03話 白鳥がやりたいこと
授業中、先生が説明している間、彼女が集中して何かを書いているのに気づいた。
それを見ていると、彼女が楽しんでいるように思えた。もちろん、書くことがなくても幸せでいられるのだろうけど。
昼休みになると、多くの女子が彼女の周りに集まり、一緒に昼食を食べようと熱心に誘っていた。
驚いたのは、彼女が人気者だったことではなく、その速さだった。まるで砂糖に群がるアリのように、瞬く間に取り囲まれてしまったのだ。
――離れた方がいいかな?
そう思ったが、彼女の邪魔をしたくなかったので、中庭へ降りるか、どこかの階段で一人で食べることにした。
なんとなく、光さんは僕と一緒に昼食をとりたくないのではないかと感じた。
もしかしたら、彼女に少し距離を置いた方がいいのかもしれない。
それに、僕には悩みを話せるような男友達もいなかった。
誰かに打ち明けたいと思っても、話せる相手がいないのは辛いものだ。
結局、校舎を見渡せる階段に座り、一人で弁当を広げた。
すると、突然光さんが隣に現れた。
怒っている様子ではなかったが、それでも僕は、川城さんとのことを説明する必要があると感じた。
彼女の正体には触れず、ただどういう関係なのかを伝えた。
僕には、唯一の友人を失いたくないという気持ちがあった。だからこそ、こんなに気にしてしまうのかもしれない。
「昨日知り合ったばかりの子だよ。俺たちは何でもない、ただの友達だから……怒らないでくれ。」
彼女はクスッと笑った。まるで、心配が吹き飛んだかのように。
その笑顔を見て、僕の不安も一気に軽くなった。
じっくりと彼女を見つめると、改めて可愛いと思った。
まるで今まで目隠しをされていたかのように、その魅力に気づいていなかった。
「心配しなくても大丈夫よ」
彼女はそう答えた。「別に怒ってたわけじゃない……まあ、ちょっとだけ悲しかったけど。私には話してくれなかったのに、その子には話してたから。」
僕は思わず顔をしかめた。なんだか、自分がバカみたいに思えた。
「でも、説明してくれてありがとう」
彼女がそう付け加えたことで、少し安心した。
彼女の不機嫌の理由は、僕が想像していたものとは違っていた。
まるで肩の荷が下りたような気分だった。
「よかった……」
僕はほっと息をついた。
「何がよかったの?」
彼女が優しく問いかけながら、少し身を寄せてきた。
顔が近づいたことで、緊張した僕は、それでも正直に答えた。
「てっきり、嫉妬してるのかと思った。」
すると、彼女はいたずらっぽい笑みを浮かべて、僕の目をじっと見つめた。
「……もし、そうだったら?」
一瞬、沈黙が流れた。
心臓が、一瞬止まった気がした。
しかし次の瞬間、光さんはクスッと笑い、小さく首を振った。
「ふふ、冗談よ。」
その笑顔を見て、彼女が本当に冗談を言っているのだとわかった。
まるで最後の最後まで我慢していたけれど、もう堪えられなかった、というような笑い方だった。
――けれど、彼女が完全に冗談として言ったわけではないような気がした。
それは、ただの思い過ごしだろうか……?
そのとき、階段の下から突然物音がした。
まるで、誰かが僕たちの会話を盗み聞きしていたかのように。
結局、光さんは私の隣に座り、一緒に昼食を取ることにした。
一方で、白鳥さんは階段の入り口に立っており、手には一枚の紙を持っていた。
そこにはいくつかのフレーズが書かれており、一部はマーカーで消されていた。
[学校に通う]
[学校を楽しむ]
[恋人を作る(たとえ偽物でも)]
[誰かの会話を盗み聞きする]
[学校を楽しむために極端に社交的になる]
…など、さまざまな目標がリストアップされていた。
その中でも、これらの項目はマーカーで強調されていた。
それを見つめた後、白鳥さんはわずかに微笑み、学校の中へと歩き出した。まるで「まだやるべきことがたくさんある」と思っているかのように。
その頃、クラスの男子たちは彼女の帰りを待っているようだった。
クラスの半分ほどが彼女の帰りを心待ちにしていたが、当然ながら彼女は戻らなかった。
彼女は学校を回ることに決めた。
どこへ行っても、他の生徒たちは彼女をちらりと見ていた。特に目立つ行動をしているわけではなかったが、それでも注目を集めてしまうようだった。
彼女が転校生であることを知った生徒の中には話しかけようとした者もいたが、拒絶されることへの恐れから足を踏み出せなかった。
「もし話しかけて、『ごめんなさい、もう彼氏がいるの』なんて言われたらどうしよう…」
そんな考えが、彼らの勇気をくじいていた。
しかし、白鳥さんの心の中では、全く逆のことが起こっていた。
実際には、誰かが学校を案内してくれることを望んでいたのだ。
けれど、誰も声をかけてくれないので、自分から動くしかなかった。
とはいえ、どこから回ればいいのか分からなかった。
そんな時、彼女は三人組の生徒を見つけ、思い切って声をかけた。
「すみません、私は転校生なのですが…学校を案内してもらえませんか?」
彼女は少し緊張しながら尋ねた。
三人の女子生徒は顔を見合わせ、優しく微笑んだ。
「もちろん!」
こうして、彼女たちは校庭、花壇、体育館など、学校の様々な場所を案内してくれた。
昼休みが終わる前に、白鳥さんはにっこりと笑い、感謝の言葉を伝えた。
「案内してくれて、本当にありがとう。」
その瞬間、三人の女子生徒は、彼女の輝くような笑顔にわずかに頬を赤らめた。
教室に戻ると、生徒たちはまだ同じ場所に集まっていた。
どうやら何か話し合っていたようだが、白鳥さんが現れると、空気が一変して静かになった。
その後、授業はいつも通り進んだ。
昼食の後、光さんと私は一緒に戻った。
まだ白鳥さんに昼休みの出来事を話していなかったが、遅かれ早かれ伝えなければならないだろう。
午後三時になり、私は光さんと一緒に部活へ向かうことにした。
席を立ち、教室を出ようとすると、不意に声をかけられた。
光さんは少し離れたところで私を見て、微笑んでいた。
まるで「何をしているの?早く行こうよ」と言いたげだった。
だが、呼び止めた声は白鳥さんのものではなかった。
もっと言えば、彼女は今一人でいるかもしれない…。
ここで彼女を誘ったら、一緒に来るかもしれないし、もしかすると部活の新しいメンバーになってくれるかもしれない。
それなら、部活の存続も少しは望めるかもしれない。
いい考えだ。
私は心の中でそう思いながら、微笑んだ。
「白鳥さん、僕たちの部活に入ってみない?」
彼女は一瞬、戸惑った様子で私を見つめた後、尋ねた。
「どんな部活なの?」
「えっと…読書部だよ。」
私は少し誤魔化しながら答えた。
白鳥さんはしばらく沈黙したが、その後、立ち上がり、ランドセルを手に取り、私の隣に並んだ。
「わかった、行ってみる。」
光さんは笑顔を見せた。
きっと、新しい部員が増えることが嬉しかったのだろう。
そして、私も嬉しかった。
こうして、二人は出会ったのだった。
クラブの前のドアに到着した後、川城さんが好奇心旺盛に見ているのに気づきました。一方、私はドアノブを回し、ドアが開くと、川城さんは棚に並んだ本を見て驚きましたが、その近くに一人の人物がいました。
その人物は光舞さんに似ている女の子。そう、その女の子は彼女の可愛い妹でした。