第21話 3人でのデート 4
信じられない。今、舞さんと二人きりになれるなんて。それは嬉しいことだけど、同時にこんな風になったのが少し怪しいとも思った。
「まさか圭くんと一緒になるなんてね。よろしくね」
彼女も嬉しそうだったが、どこか緊張しているようにも見えた。
「うん」
「それじゃあ、まず二人から乗ってください!」
白鳥がそう言って、僕たちを押し出した。
僕たちは観覧車に乗り込んだが、それぞれ別の座席に座った。
彼女は左側、僕は右側。
扉が閉まり、ゴンドラがゆっくりと上がり始めた。
彼女も僕も、どこか落ち着かない様子だった。この沈黙を破りたかったが、何を言えばいいのか分からなかった。
すると、彼女が意を決したように口を開いた。
「圭くん、さっき弟が言ってたことだけど……」
そういえば、まだ気にしていたのか。
「うん。でも、冗談だったなら気にしなくていいんじゃない?」
僕は微笑みながらそう言った。
彼女は少し黙った後、小さく頷いた。
ゴンドラがかなり高い位置まで来た頃、僕はふと後ろを振り返り、遊園地全体を見渡した。
すると、その瞬間だった。
彼女が僕の背中にもたれかかり、そっと抱きしめたのだ。
「……舞さん? 何を……?」
突然のことに驚いたが、彼女は静かに囁いた。
「……少しの間だけ、このままでいてもいい?」
戸惑いながらも、僕は小さく頷いた。
心臓が激しく鼓動する。彼女の柔らかな感触に動揺しつつも、それ以上に彼女の様子が普段と違うことが気になった。
やがて、彼女の唇がそっと僕の耳元に近づく。
「圭くん……私、ずっと前からあなたのことが好き」
その言葉に、僕の心臓はさらに激しく跳ね上がった。
体が硬直し、何も考えられない。ただ、彼女の言葉だけが頭の中で繰り返される。
「ずっと好きだった。もし、今ここで振られても仕方ないと思ってる。でも……受け入れてくれたら、すごく嬉しい」
彼女の言葉が終わった時、僕はこっそりと笑みを浮かべた。
誰かにこんな風に想いを伝えられたのは初めてだった。
そして、僕も彼女に特別な気持ちを抱いていた。
けれど――
今はただ、戸惑いが残るばかりだった。
その笑顔のまま、僕は舞さんを見つめた。
彼女もまた、同じ笑顔で僕に応えた。
もし、白鳥が僕たちの前に現れる前だったなら、僕は迷わず彼女の気持ちを受け入れたかもしれない。
でも今は――
なぜか迷ってしまう。
どう答えればいいのか、分からなかった。
「舞さん、返事はまた今度でもいい?」
そう言った瞬間、ある考えが頭に浮かんだ。
「今は……この時間を大切にしたい。君のそばで、ただ穏やかに過ごしたいんだ」
彼女は一瞬驚いたように僕を見つめ、それから顔を赤らめた。
そっと僕の隣に座ると、静かに抱きしめてきた。
せめて、この願いだけは叶えてあげよう。
「分かったわ、圭くん。どんな答えであれ、私は待つよ。でも……たとえ振られたとしても、この瞬間をずっと大切にしたい」
そう言って、彼女は僕と一緒に遠くの景色を見つめた。
遊園地の向こうに広がる、穏やかな夜の風景。
心地よい夜風が頬をなで、静かな時間が流れる。
僕は、彼女をそっと抱きしめ返した。
彼女も、優しく僕に寄り添い続けた。
そして、観覧車の一周が終わる頃、僕たちはゆっくりと離れた。
ゴンドラを降りると、僕たちは近くのベンチに座り、他のみんなが降りてくるのを待つことにした。
……それにしても、僕は舞さんの気持ちにまったく気づいていなかったのか?
それとも、気づかないふりをしていただけなのか?
分からない。
こっそり彼女を横目で見ると、彼女は何かを考え込んでいるようだった。
顔は真っ赤で、どこか落ち着かない様子。
――まるで、自分の行動を後悔しているみたいに。
だが次の瞬間、彼女は小さく息を吸い込むと、自分の頬を軽く叩いた。
「……後悔なんて、してない」
彼女は自分にそう言い聞かせるように呟いた。
そして、すっと立ち上がると、僕の正面に立った。
「圭くん」
名前を呼ばれ、僕は顔を上げる。
その瞬間――
彼女が、突然僕の顔に近づいてきた。
そして、唇が重なる。
時間が止まったかのようだった。
事故なのか、それとも無意識なのか――
でも、間違いなく彼女は僕にキスをした。
しかも、それだけではなかった。
僕が驚いていると、彼女はもう一度、わずかに唇を押しつけてきた。
まるで――
「たとえ君が何も感じていなくても、せめてこの思い出だけは持ち帰らせて」
そう言いたげな、切ないキスだった。
僕には、彼女の気持ちが分からなかった。
どうして、ここまで必死なのか。
どうして、こんなに強く想いを伝えようとするのか。
分からない。
分からないけれど――
その想いは、確かに伝わってきた。
数秒後、彼女はゆっくりと唇を離し、僕を見つめた。
顔は真っ赤に染まり、少し潤んだ瞳が、まっすぐ僕を見つめている。
そして、少し震える声で言った。
「……これは、私の初めてのキス。圭くんに、あげるね」
僕は言葉を失った。
心の中にある迷いは、ますます深まっていく。
でも、彼女の思いを無視することもできなかった。
だから、そっと視線をそらしながら、静かに答えた。
「……俺も、これが初めてだったよ」
彼女は微笑み、再びベンチに座り直した。
やがて、先に彼女の弟たちが観覧車から降りてきた。
二人とも僕たちのもとへ駆け寄ってきたが、その中でも特にカオリが、何やら意味深な笑みを浮かべながら舞さんに近づいていった。
「見ちゃったよ、ワンエー様。圭先輩とキスしてたでしょ?」
カオリが、舞さんの耳元でそう囁く。
その瞬間、彼女の顔はみるみるうちに真っ赤になっていった。
……ますます気まずくなるな。
だが、ちょうどそのとき、観覧車から美慧さんと白鳥も降りてきた。
白鳥は、満面の笑みを浮かべていた。
――おそらく、観覧車の上からの景色を楽しめたのだろう。
しかし、美慧さんは……なぜか、少し不機嫌そうだった。
「わぁー、本当に最高だった! 来てよかった!」
白鳥はそう言いながら、はしゃいで僕たちのもとへ駆け寄ってきた。
そして、ちょうど遊園地が閉まる時間になったため、僕たちは帰ることにした。
それぞれ家へと向かう道の途中、白鳥が突然立ち止まる。
そして、皆を見渡しながら、あの独特の陽気な笑顔を浮かべ、こう言った。
「ねぇ、ここで一番家が遠いのって誰?」
唐突な質問に、僕は戸惑ったが――
美慧さんが、少し迷った様子で、ゆっくりと手を挙げた。
……ということは、舞さんの家はこの近くなのか?
白鳥が何を考えているのか分からなかったが、次の瞬間、彼女は僕の方を向いてにっこりと笑った。
「じゃあ、圭くん! 美慧を家まで送ってあげて!」
「えっ……?」
その言葉に、美慧さんが微妙な表情を浮かべる。
先ほどの不機嫌そうな雰囲気は、まだ完全には消えていないようだった。
「……仕方ないわね。じゃあ、よろしく頼むわ、 高宮くん」
「は、はい……」
美慧さんはため息をつきながらも、ゆっくりと歩き出した。
こうして、僕は彼女を家まで送ることになった――。
皆さん、こんにちは。
今日はお知らせがあります。これから次のエピソードの更新が少し遅くなります。というのも、次のエピソードはこれまでよりもさらに長くなる予定だからです。
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