第19話 3人でのデート 2
「高宮くん、ちょっと落ち着いて。あなたが思っているようなことじゃないし、変なことや変態的なことをするつもりもない。ただ、ちょっと手伝ってほしいだけなの。」
彼女は、私が疑問に思う前に先回りして答えた。それでも、心配そうな目で私を見つめていた。
彼女は後ろのハンガーにかかっていた服に向かい、その中の一着を手に取ると、私の方へと歩いてきた。
私は冷静さを保ちつつ、彼女が何枚かあるドレスの中から一つを選ぶのを見ていた。
色は三種類――黄色、赤、白。どれも春らしいデザインで、まるでライトノベルの表紙に出てきそうなものだった。
やがて彼女は一つに決めたようで、それを持ってこちらへとやってきた。
「高宮くん、これ どう思うの? 私に似合うかな?」
彼女の恥ずかしそうで、それでいて嬉しそうな表情に、なんだか居心地の悪さを感じた。いや、そもそも俺たちはそこまで親しいわけでもないのに、こんなことを聞いてくるのはどうなんだ? でも、わざわざここまで連れてきたということは、それなりの理由があるのだろう。それにしても、こんな状況を見逃すわけにはいかない。そもそも俺たちは友達ですらない。ただ同じ高校に通い、同じ部活に所属しているだけの知り合いに過ぎないのだから。
とはいえ、そんなことを考えている時間は長くはなかった。でも俺が考え込んでいる間、彼女にとっては少し気になる時間だったようだ。
「ねぇ、高宮くん、聞いてる? もしかして、今のうちに キスを 奪っちゃおうかな?」
そう冗談めかしながら耳元に顔を寄せてきた。俺がようやく反応すると、彼女はくすっと笑った。「ほら、効果あったみたいね」――そんな風に言っているかのようだった。
しばらくして、俺は彼女に問いただそうとした。もちろん、冗談だったのは分かっている。でも、そんなことを言うのはやっぱり妙だ。
とはいえ、今さら何か聞くのも面倒だ。今になって思えば、白鳥だけじゃなく、こういう奇妙なことをするのは彼女も同じだったらしい。
俺はがっかりしたようにため息をついた。それに気づいた美慧さんが、少し申し訳なさそうな顔をした。
「ごめんね…こんなことで困らせちゃって…」
もしかすると、彼女は俺のため息の意味を勘違いしたのかもしれない。だから、すぐに説明しようと思った。いや、むしろ何か適当に言っておいた方がいいかもしれない。
「いや、別にそんなことじゃない。ただ、ちょっと考え事をしていただけ。」
そう言いながら、彼女の手元にある赤いドレスに視線を向けた。そして、最初の質問を思い出す。
「赤が似合いそうだな。試してみたらどうだ?」
彼女は元の調子を取り戻し、満足げに微笑んだ。
「わかった、じゃあ試着するから、高宮くんは外で待っててね。」
俺は周囲に誰もいないことを確認しながら外に出た。そして、少し落ち着くために腰を下ろそうとした――その瞬間、隣の試着室から聞き慣れた声が聞こえてきた。
「圭くん、いるの?」
どうやら白鳥は今気づいたばかりのようだった。きっと俺のため息が聞こえたせいだろう。
「うん、ここにいるよ、白鳥。」
彼女はカーテンを開け始め、その動作とともに彼女の姿がはっきりと見えてきた。
短いスカートは膝上四本指ほどの長さで、太ももの上部をわずかに覆う程度。それだけでも十分に刺激的だったが、さらに肩紐の細いトップスが彼女の白い肌を際立たせていた。
どちらも黄色で、彼女の髪色と驚くほどよく合っている。その美しさは、地球上の誰もが敵わないほどだった。
言葉を失ってしまった。そんな俺の反応を見てか、彼女も少し緊張しているようだった。おそらく、服が少し大胆すぎると感じているのだろう。
「どうかな、圭くん?」
俺は答えに詰まり、視線をそらしながらなんとか誤魔化そうとした。
「えっと……すごく似合ってると思うよ。」
すると、彼女は嬉しそうに俺に近づいてきた。まるで、その言葉を心待ちにしていたかのように。
「圭くん、ありがとう! じゃあ、これに するね!」
そう言って、突然俺に抱きついてきた。褒められただけでこんなに喜ぶものなのかと困惑したが、やがて彼女はゆっくりと離れ、再び試着室へと戻っていった。
「次のを試してくるね。これは買って帰る ことにする。」
そう言いながらカーテンを閉めた。
少しの間、ようやく落ち着けるかと思ったその時、不意に美慧さんの緊張した声が聞こえてきた。
「高宮くん……もうすぐ 出るよ。」
「う、うん、わかった。」
どうやって対応すればいいのか、すでに緊張していた。
カーテンが開き、彼女がゆっくりと姿を現した。
――あぁ、白鳥と同じくらい……いや、それ以上に可愛いかもしれない。何を言えばいいんだ……?
彼女は少し顔を赤らめながら、控えめに俺を見つめていた。
「ど、どうかな……? 似合ってる?」
その恥ずかしそうで純粋な仕草が、なんとも心地よく感じられた。だが、そのせいで俺は完全に言葉を失い、喉が詰まってしまった。
彼女のドレスは白鳥のものと似ていたが、微妙に違いがあった。そして、彼女の透き通るような白い肌も相まって、その魅力をより一層引き立てていた。スカートの丈は白鳥よりも少し長く、ちょうど膝まであった。
「えっと……すごく可愛いよ、そのドレス。」
俺は照れながらも、なんとかそう答えた。
……正直、この状況はヤバい。こんなふうに二人の可愛い姿を続けて見せられたら、俺は本当に死んでしまいそうだ。
彼女は頬を赤らめながらも、恥ずかしそうに微笑んだ。
「ありがとう、高宮くん。嬉しいな。」
そう言って、美慧さんも試着室へと戻っていった。
結局、二人とも俺が褒めた服を買うことにしたようだった。でも、やっぱり美慧さんと試着室で一緒にいた時間が頭から離れない。あれは間違いなく、気まずい瞬間だった……。
まあ、良かったことといえば、誰にも気づかれなかったことだ。白鳥すら知らないのだから、今のところは安心してもいいだろう。
ただ、問題はこの後だ。買い物が終わったら、次はどこへ行くべきだろう?
正直、何も考えていなかった。そもそも、しっかりとした計画すら立てていなかったし、今さら悩んでも仕方がない。となれば、白鳥と美慧さんに任せるのが一番だろう。彼女たちが行きたい場所に行くのが、一番楽しめるはずだ。
少し迷ったが、最終的に彼女たちに尋ねることにした。
「次はどこに行きたい?」
白鳥は俺の右側にいた美慧さんを見つめ、美慧さんも左側から白鳥を見つめた。そして、まるで視線だけで意思疎通を図ったかのように、二人は同時に微笑んだ。
「遊園地に 行こうよ!」
「遊園地に 行こうよ!」
二人の声がぴったりと揃い、思わず驚いた。こんなに息が合うものなのか……。でも、まあ、二人が望むなら、それでいいだろう。
俺たちは遊園地へと向かった。
けれど、到着してからも周囲の視線をやたらと感じた。まあ、当然かもしれない。俺の両隣には、誰もが振り返るほどの美少女が二人もいるのだから。
通りすがりのカップルですら、ちらちらとこちらを見てくる。正直、ものすごく居心地が悪い。でも、当の二人はまったく気にしていないようだった。まるで周囲の視線など存在しないかのように、自然に振る舞っている。
……俺も気にしないようにしよう。いちいち周囲の目を気にしていたら、楽しめるものも楽しめなくなる。そうだ、俺も二人を見習うべきだ。
そんなことを考えているうちに、最初の目的地が決まった。
それは――ジェットコースターだった。
しかし、その高さを見上げた瞬間、俺の中で警戒心が芽生えた。いや、これ……本当に乗るのか?
一瞬ためらったが、二人は目を輝かせている。
……仕方ない。ここは男として、覚悟を決めるしかないか。
俺たちは、そのままジェットコースターの乗り場へと向かった。




