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4話 終わり始まり



 マスターとともに早速ギルド登録の案内所へ向かっていると、何やら街全体が騒然としていた。王都の中央にある噴水の広場の掲示板に密集した人だかりを不思議に思った俺は、掲示板を背に険しい顔で話しこんでいる平民の男に声をかけた。

「何か起こったのか?街の様子が普通じゃない」

 なるべく威厳を保ちながら言うと、思いもよらぬ言葉が返ってきた。

「そ、それが。元勇者パーティーに加わっていた魔導士のトオル・ヤブキの処刑が先程決定したと」

「しょけい?」

〝トオル〟と〝しょけい〟の言葉が上手く頭の中で結びつかなかった俺は、初めて異国語を耳にした人間のよう復唱した。男は疑問符から進めずにいる俺にもきちんと伝わるよう、今度は言葉を変えて言った。

「明日の正午、ヤブキ・トオルが王城の断頭台に立たされるのですよ。勇者様はご関与でないのです??」

「そんな話は知らん。そもそも、トオルのことを誰より気に入っていた国王陛下がその判断を許さないだろう。掲示板の張り紙は悪質ないたずらに違いない」

魔神王討伐のパーティーを途中脱退したトオルについて快く思っていない国民が少なからずいることは知っていた。正直俺の評判には直接関わりのないことなので放置していたが、王国へ戻ってきたその日にこのようないたずらを実行するなど悪質極まりない。

若干頭に血の昇った俺は、マスターの静止を無理矢理遮り掲示板中央へ近づいた。俺の憤然とした表情にいち早く気づいた国民達が、ぞろぞろと道を開ける。

〝国家反逆罪の罪により、以下の者を断頭の刑に処す。

・トオル・ヤブキ

・他、従者3名

【日時】10月3日(火)正午

【場所】王都

【備考】国王様から国民へ直々の告知あり。〟


張り紙の右下に大きく押印されたこの国―グリシア王国の紋印が内容の嘘でないことを証明している。冗談みたいなこれらの文言は、一体どういうわけか本物なのだ。魔力持ちの人間であれば感じとれる国王陛下のわずかな魔術の残滓にこん棒で殴られたような気分になった。

 ーー公開処刑、だと?

古い王国の歴史の中でもそのような趣味の悪い言葉は聞いたことがない。ましてやあの優しい国王陛下にそのような真似ができるとも到底思えない。従者とはルシアさん達のこととみて間違いないだろう。

 え?ルシアさん?ルシアさんが?処刑?は?

「俺は今状況が微塵も掴めていない。この言語は正しいのか?マスター」

「私にも読み取れましたので、間違えではないかと」

「だよなぁ・・・って、ルシアさんが処刑!?」

 何がどうなったらそんな状況になるんだよ!トオルのクソ野郎、一体を何しでかしやがったんだ!

「もう一つ聞いていいか。トオル達俺と会話した時ルシアさんのこと以外で何か言っていたか。衝撃が強すぎて他のことが記憶にない」

「奴隷解放運動を行うとかなんとか言っていたような気がします」

「・・・ッ!!」

 ーーそんな気がする!

 もしかしなくても奴隷を解放しようと国王の元に行って怒りを喰らってしまってしまったパターンだろう。それにしても、その程度のことで普通公開処刑などするだろうか。トオルの言葉選びはたまに角が立つこともあるが、国王陛下にだけは絶対に敬意を欠いたことはない。それでいて国王陛下もまた、異世界から理不尽に召喚され圧倒的な力を持て余していたトオルに対して、自らの過去を投影していた節さえあったのに。何がどうなって〝処刑〟の二文字に辿り着いたのか分からない。判断したのは本当に俺の知っている国王と同じ人物なのだろうか。

「マスター。目的地を変更だ。王城に向かうぞ。ここから先は通訳を頼む」

「王城!?一般市民の私が入ることのできる場所ではございませんよ。大体、通訳って」

「展開が唐突過ぎて純粋に頭が付いていかない。途中でショートしてしまう可能性があるから随時内容を整理してほしいのだ」

「展開についていけてないのは私もなのですが」

「ともかく時は一刻を争う。何があったは知らんが国王も頭に血が上っているだけなのだろう。勇者である俺が話に行けば冷静になる筈だ」

 あの国王のことだ。今頃とんでもない判断を下してしまったと後悔をしているに違いない。年を重ねるにつれ涙もろくなった陛下が王城の一室でシクシクと泣き伏せている様子が目に浮かび俺は溜息をついた。全く世話が焼ける。俺は現状に戸惑いながらも、比較的軽い気持ちで王城へと足を向けた。

「ゆ、勇者様!」

 俺達が王城に着くなり、何人かの兵士が此方に駆けつけてきた。

「広場の掲示板を見た。国王に謁見えっけんしたいのだが」

「それが、国王様はただ今面会謝絶なされておりまして、いくら勇者様と言えど通されないのではないかと」

「・・・なるほど。では伝えるだけ伝えてくれないか。勇者が来たと。それでも駄目なら時間をおいてまた来る」

「か、かしこまりました!」

 クソ。明日の正午までただでさえ時間がないというのに面会謝絶だと?いくら反省中だとしても今はやめて欲しい。どうせ取り換えしのつかないことをしてしまったとでも思っているのだろうが、そんなに頭を抱えなくともこの王国では後出しじゃんけんありだ。

「待っている間に何があったか教えてくれ。その時の状況を知っているものはいるか?」

 俺がそう問うと、奥の方に居た一人の兵士がおずおずと手を挙げた。

「じ、自分、その場に居ました」



 ************



 今から2時間前、勇者との再会を果たしたのちトオル・ヤブキ一行は直接王城へと向かい国王陛下との直談判じかだんぱんを試みた。

「思っていたよりもあっさりと王間に通してくださいましたね。トオル」

「--ああ。ここの国王陛下は大らかな人でな、冒険者時代はかなりお世話になったたんだ。そんなに心配する必要は無いよ」

 そうは言いつつも矢吹透本人、まさか二つ返事で国王が自分を王間に通すとは思ってもみなかった。

 長丁場を覚悟していただけに呆気にとられたし、相手の出方が微塵も把握できない。

 ーー言ってることとやってることが違う。陛下の考えが読めない。

 ここに来る丁度一か月前、俺達の一行は遠方の村から国王に手紙を送った。

 内容は勿論のこと奴隷制度及び人身売買の表向の撤廃について。

 奴隷制度をいきなり完全撤廃したら王国の経済が崩壊しかねないしそれはこちらも重々承知していた。

 そのため奴隷の代わりに使い魔を用い仕事の効率化を図ることを勧め、同封して俺の作った一般市民でも使える魔物の召喚道具を送ったのだがーーー

 王国側からの返事はやはりというか“NO”だった。

 魔物にも意思はある。いくら奴隷を解放したとしても魔物でそれを補ってしまえば本末転倒だという思いも確かに浮かんだ。

 しかし、奴隷はいくら獣人が多いと言えどその身体能力に生身の人間との差はほぼ無い。

 使い魔を使った方が確実に彼らの負担も減るし鉱山などでの危険な仕事で奴隷が命を落とすことも無くなるのだ。それに、召喚させる魔物も全て俺が人間に攻撃できないよう強力な術を掛けたものだし、安全性はかなり高い。

 そもそも魔神王が討伐された今、魔物たちの凶暴性はほぼゼロと言ってもいいような物。保険をかけて念入りに術を掛けたが、本来であればそれすら必要すらないくらいなのだ。

 王国側からしてもこれは悪い話だは無かったはず。

 にも関わらず、俺たちが受けたのは圧倒的な拒絶だった。

 ーー陛下が考えを改めてくれた?もしくは、文での拒絶は陛下の本意ではなく別の権力者の奸計だったんだろうか。俺の知る穏健な陛下の性格を考えるとそっちの方が辻褄は合う。流石に都合が良すぎるか?

 ルシア達にはああは言ったものの、正直不気味でしかない。

 これから徐々に説得していこうと思っていたのに、ここまで変則的な返しをされるとは思ってもみなかった。先ほど勇者に再会した時、彼は俺が国王に手紙を送った事実を知らない様子だっし、本当に相手にされていないのだろうと下唇を噛んだが。

「国王陛下がお待ちです」

 仰々しい大きな扉の前で、兵士たちは大袈裟に敬礼をして見せた。

 ーー本当は知っていたのか?

 俺が奴隷解放運動を行うといった時の対応もやけにあっさりしていたし、二言目にはルシアと俺の関係さえ聞いてきた。普通の反応ではないことは明らかだ。元から俺達が送った手紙の内容を把握していたと考えるのが無難ではある。

 もしそうだとしたらこの謁見、罠の可能性がかなり大きい。

 ーーあの国王陛下が?俺を騙す??

目の前で起こっている事象をそのままに判断すればよいものを、過去の思い出がそれを邪魔した。

 逃亡手段はいくらでもある。全体的な戦闘能力もこちらの方にはある筈だ。陛下のことを信じたい。例え裏切られたとしても、俺からは陛下を疑いたくない。

「ヤブキ・トオル魔導士が謁見に入られます」

 扉が開き王間に足を踏み入れると、そこには何年ぶりだ分からない国王の姿があった。

 相変わらずの優しい瞳に何とも言えない安心感に包まれる。

「お久しぶりです。国王陛下」

 片膝を床に付け深くお辞儀をすると、そんな俺を見て国王は嬉しそうに声を弾ませて笑った。

「ハッハッハッ。そのようにかしこまらなくともよい。お主とわしの仲ではないか」

「いえ、しかし」

「トオル。顔を挙げなさい」

 本物の息子へ呼びかけるような声色に反応し、思わず国王を見た。

 異世界から転移してきた俺に国王という立場でありながら何度も頭を下げてきた人一倍思いやりの強い人。魔法の使い方もこの世界の常識も、俺は全て国王から直々に教わったのだ。転移直後、魔力の存在も知らない身寄りのない俺を迷いなく王国騎士団へ迎え入れてくれたのが彼だった。

あのころと変わらない彼の姿に安堵して思わず涙が滲む。

 ーー元気そうで良かった。

状況が状況だけにそう喜んでばかりもいられないが。

「折角ここまで来たんだ。ゆっくり昔ばなしでもしようじゃないか」

「・・・はい」



 悪魔の2日間の始まりだった。









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