8・元婚約者とその浮気相手
「ふざけるな、レティーの分際で! 貴様はおとなしく俺の言うことを聞いていればいいんだ!」
ウラキスは這いつくばった状態で私の足首を掴み、意地でも放そうとしない。
「やめてください! ラフリーヌさん、なんとかして!」
「はあ? あなたがおとなしくウラキス様に従えばいいだけでしょう」
「な……っ、あなたはどうして、こんな奴に協力するの」
ウラキスの本性を知らないとか、ウラキスに騙されているならともかく。婚約者だった女を無理矢理捕まえて閉じ込めようとしている男に、なぜ協力するというのか。
「だって……あなたが幸せになるなんて、許せませんもの」
「――はい?」
「女性は男性を立てて、三歩下がって、後ろを生きてゆくものですわ。自分の力で、自分で稼いでゆくなんて間違っています。間違った生き方をしている方が幸せになるなんて、おかしいじゃありませんの。だから、こうして注意してあげているんですわ」
――理解できない。何を言ってるんだ、この人??
「いや……いやいやいや。そもそも、ウラキスは浮気をするような男ですよ? そんな男に、そんな価値があるとでも?」
「浮気くらい、殿方の甲斐性でしょう? 私は、ちゃーんと『わかっている』女ですから。男性のお遊びには寛容でいられるんですの」
「素晴らしい、ラフリーヌ。お前こそ女性の鑑だ」
得意げに語るラフリーヌに、ウラキスが賞賛を送る。心底気色悪いと思うが、その様子を見て、なんとなくラフリーヌのこともわかってきた。
結局、彼女はウラキスの味方をして、ウラキスに褒められればそれで満足なのだろう。ウラキスに従うことが女としての誉れであり、ウラキス結婚することこそが幸せなのだと、信じて疑っていない。
私はウラキスとの婚約を破棄したいのだから、彼女はウラキスと結婚できるはずだけど。ウラキスとの婚約を解消した私が幸せに生きていくのが、気に食わないのだろう。自分が選んだ男は価値のある人であって、その男が捨てたものはゴミでなければならないのだ。彼女自身の、プライドのために。
(こんなゲスな男なのに……多分、次期公爵って肩書きだけで、いい男に見えてるんだろうな)
「……別にあなた達がどんな価値観でどう生きようが勝手だけど、私を巻き込まないで。私はもう、あなた達とは何の関係もない人間なんだから」
「なんだとぉ!? この俺にそんなことを言って、困るのはお前の方だからな!」
「私が一体どう困るっていうの。ウラキス、私にはもう、あなたなんていらない。浮気したあげくこんな真似をする奴、最低だもの。ラフリーヌさん、あなたも同じよ。人の婚約者と通じて、しかもこんな外道な真似に協力するなんてどうかしてる。あなた達みたいな人と、今後一生関わりたくない」
「レティー、貴様ぁ!」
「!」
ウラキスが、隠し持っていた刃物で襲いかかってきた。
私が魔法で応戦しようとした、そのとき――
ガキィン! と音がして、ウラキスの持っていたナイフが飛んで行った。
「な……!?」
「そこまでだ。やりとりは見させてもらった。あまりにも外道だな」
振り向くと、長剣を構えた、背の高い男性が立っていた。
祭りだからか、仮面舞踏会でつけるような仮面をつけている。
そしてウラキスの怒鳴り声と剣の音で、ザワザワと他の人達も大勢集まってきた。
だけどウラキスは怒りで周りが見えていないようで、大勢の目があるにも関わらず、剣を持っている男性を怒鳴りつける。
「なんだ貴様は! 関係ない奴は黙っていろ! 俺はこの女に、自分の立場をわからせてやろうとしただけだ!」
「凶器を使って無理矢理女性に言うことを聞かせようなど、人間として最低だ」
「ふん、自分の顔も出せないくせに正義面か? はは、貴様のような奴、どうせ見るに堪えない気持ち悪い顔をしているに違いない!」
ウラキスは仮面の男性に飛び掛かり、顔を晒してやろうとするように仮面を剥ぎ取る。
そして次の瞬間――ウラキスは絶句し、仮面を手から落とした。
剣を持っていた男性は、鷹のように鋭く美しい目をしている。
その精悍な顔つきは――この国なら、誰もが知っているものであった。
ウラキスはその顔を見て腰を抜かし、尻もちをついてガタガタと震える。
「こ……国王陛下!?」
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