7・いよいよ品評会
今話からまたレティー視点に戻ります!
「うわあ、いよいよ品評会ですね、デリックさん!」
「ふふ、いい笑顔ですね、レティーさん」
「だって、この1ヶ月半の成果をやっと王にお披露目できるのかと思うと、ワクワクしますし。それにこの会場の雰囲気も、お祭りって感じで好きです!」
国王によって王都で開催される品評会だが、厳かなものではない。
何せ現国王は元平民の冒険者であり、超豪快な御方である。たくさん屋台が出たり軽快な音楽や陽気な踊りで賑わっていたり、まさにお祭り騒ぎ! って感じだ。
品評会本番の時間はまだ先なので、デリックさんと2人で周囲の様子を見ながら歩いていたところ……
「おや、デリック様ではありませんか」
「これはこれは、ご無沙汰しております」
デリックさんが、昔から付き合いがあるというお得意様に声をかけられた。
(一旦、この場は席を外した方がいいよね)
「デリックさん、私、辺りを見ていますから。品評会の時間になったら、広場の入り口で待ち合わせにしましょう」
「そうですね。ではレティーさん、また後で」
デリックさんと別れ、一人で屋台を見て回ることにした。
(いろんなお店がいっぱいで、本当に楽しいな~。お肉の串焼きに、果実酒、焼き菓子……。どれもおいしそう)
「あの、すみません」
「はい?」
いろんなお店に目移りしながらふらふらしていると、綺麗な女性に声をかけられた。身に着けているものの上質さから考えて、どこかの貴族だろう。
「いろんなお店を見ていたら、従者とはぐれてしまって……。一人ぼっちで不安なんです。一緒に従者を探してくれませんか?」
「ああ……この人ごみですもんね。運営本部とかに言えば、何か伝令してもらえるでしょうか」
「いえ、でも、まだはぐれたばかりだから、その辺りにいるかもしれないんです。ですから、一緒にいてもらえるだけでもいいので……ダメでしょうか……」
貴族の令嬢は、一人で出歩くことに慣れていないものだ。私は転生前の記憶があるから、日本にいたときの感覚で街中をふらふらするのも好きだけど。生粋のお嬢様なら、確かにこんな賑やかな中で従者とはぐれてしまったというのは心細いだろう。
「そういうことなら……。でも、どこを探しましょうか。従者さんの特徴は?」
「背の高い男性よ。さっき、あっちの方ではぐれちゃったの。来て」
彼女の方へついて行くと、どんどん人ごみから離れ、最終的に人のいない裏路地にまで来てしまった。
「あの、本当にこんなところにいたんですか? お祭りの会場から、結構離れてしまいましたが……」
「ふふ……ええ、ここにいますわ。……いるのは私の、『従者』では、ありませんけれども」
「え……きゃあっ!?」
急に、背後から腰に腕を回され、口を手で覆われた。
「ひさしぶりだな、レティー」
(ウラキス……!? どういうこと……!?)
口を塞がれたまま、一緒にいた令嬢を見ると、彼女はふふっと邪悪な笑みを浮かべた。
「はじめまして、レティー様。ウラキス様の恋人、ラフリーヌですわ」
(な……!? ラフリーヌって、ウラキスと手紙でやりとりしていた、あの浮気相手よね。その子が、ウラキスと一緒に私を陥れようっていうの……!?)
従者とはぐれたなんて、嘘だったのだ。最初から私を騙すつもりで近付いたのだろう。
(人の善意につけ込むなんて、最低……)
「お前、今日の品評会に出品するつもりなのだろう? お前なんかの作ったもので国王陛下の口を汚すなど、言語道断だ。しばらくの間、おとなしくしていてもらうぞ。これは、お前のためでもあるんだ」
(お前のため、なんてどの口が言っているのよ……!)
自分を正当化したいだけの、卑劣なやり方。せっかく今までこの日のために頑張ってきたのに、こんな奴らに邪魔をされて出場を断念しなきゃならないなんて、絶対にごめんだ。
「ラフリーヌ、縄と口枷を」
「はい」
私を縛り上げて、どこかに閉じ込めるつもりだろうか。だとしたら、まずい。
抹茶や茶筅は、私が今持っている鞄に入っている。デリックさんだけでは、品評会に抹茶を出品することはできない。
(く……このまま黙って閉じ込められるなんて、絶対嫌!)
ラフリーヌが私に口枷をつけるべく、ウラキスが私の口から手を外した、その一瞬で――呪文を口にした。
『フラッシュ』
「ぎゃあっ!」
光の魔法を発動させると、ウラキスとラフリーヌはあまりの眩しさに混乱していた。
その隙をついてウラキスを突き飛ばし、逃げ出そうと試みて――