6・一方その頃、元婚約者は(※ウラキス視点)
「何を考えているのだ、この馬鹿息子!」
父上が、激しい怒りを俺にぶつける。
レティーから俺の父へ、婚約解消を申し込む書類が郵送されてきたのだ。あの女、よりにもよって、俺の浮気の証拠である手紙まで同封して。おかげで俺が父上に怒鳴られる羽目になってしまった。
「貴族の婚約というのは、お互いの家柄や魔力を考えて、家のために結ぶ契約なのだぞ。レティー嬢は申し分のない令嬢だったというのに、お前という奴は……!」
「ま、まあまあ、父上。そんなに焦ることはないではありませんか。うちの方が家柄は上なのですし……そもそもレティーの奴、今は頭が熱くなっているのでしょうが、すぐ後悔しますって」
レティーが俺よりいい男と結婚するなんて、ありえない。レティーが俺より稼げるようになるなんてこと、もっとありえない。天地がひっくり返ってもないだろう。
「どうせ少ししたら、あいつの方から『私が間違っていました』と頭を下げて復縁を迫ってくるに決まっています。それまで待てばいいだけですよ、ははっ」
父上に、胸を張って答えたものの――1ヶ月経っても、レティーが俺のもとに帰ってくることはなかった。
(どういうことだ! すぐ泣きついてくると思ったのに。まさかあいつ、俺がいなくても幸せにやっているとでもいうのか? そんなわけない……)
だがある日、夜会において別の貴族と話していたときのこと。レティーが現在、街の商会で働いているとの情報を耳にした。
それを聞いたとき、最初はてっきり庶民のように無様な暮らしをしているのかと内心ほくそ笑んだものだが。信じられないことに、レティーが開発した商品が商会の店主に認められ、国王のための品評会に出品予定なのだという。
ゴールダム商会はこの国で有力な大商会だ。優勝できなかったとしても、少しでも王の目にとまれば話題になる可能性はある。
(いや……いやいや。レティーにそんなすごい商品が開発できるわけない。だが、もしも、本当に万が一そんなことになったら……俺の面目丸つぶれじゃないか)
ふざけるな。あいつは自分の力じゃ生きていくことなんてできなくて、俺に頼るしかなくて、俺に頭を下げて謝らなきゃならないんだ。
そうだ、こんなのは間違っている。俺はあいつの婚約者なんだから、あいつに自分の立場というものをわからせてやらないと。うむ。婚約解消なんて、俺は認めていないのだから。これは、婚約者としての務めだ!
「見ていろよ、レティー……。この俺から、簡単に逃げられると思うな……!」