4・抹茶作り
翌日から、抹茶を作るための日々が始まった。
紅茶、緑茶、烏龍茶、そして抹茶は、全て同じツバキ科の常緑樹である「チャノキ」という植物からできている。
この世界には既に紅茶は存在しているので、つまり紅茶の元となる同じ植物から、抹茶を作ることも可能なのだ。ただし、紅茶と抹茶では栽培法や製法が異なる。
(文化祭、茶道部はお茶を点てる以外に、抹茶の歴史や成り立ちについて調べて展示するっていうのもやったから、覚えてるんだよね。まさかこんなふうに役に立つとは)
デリックさんに連れてきてもらった紅茶農園――茶園にて。私はそこで働く人々に、抹茶の製法を説明してゆく。
「まずは茶園に覆いをして、日光を遮断します」
「え? 植物は、よく日の光を当てなければ育たないのではないのですか」
「抹茶を作るには、一定期間、日光を遮る必要があるんです。そうすることで、お茶の旨味成分が増加して、おいしい抹茶になるんですよ」
茶園の人々は戸惑いの表情を浮かべていたけれど、デリックさんが「万が一何かあった時は賠償金を払う」と言ってくれたので、皆さん納得してくれた。
(ちょうど、時期がよかったなあ。新芽が出た頃に覆いをする必要があるから、助かった)
デリックさんが雇ってくれた人々が、茶園に、藤棚のように木を組んだ棚を造ってくれ、そこに葦簀という、葦で編んだすだれと藁を被せてゆく。覆下栽培という方法だ。
そうして茶摘みまでの間は、ゴールダム商会で別の商品開発をしたり、抹茶ができた後のための物品の準備を進めたりしていった。茶葉を抹茶にするために必要な石臼や、お茶を点てるための茶筅の製作だ。あの、茶道には欠かせない、竹製の泡だて器みたいなやつね。
石臼に関しては、小麦粉の製粉のためのものを流用すれば問題ない。茶筅については材料である竹を調達するのが困難だったが、デリックさんがいろんな伝手を使って外国から輸入することでなんとかなった。あとは自分の記憶を頼りに、包丁でそれらしい形に加工してゆく。
とはいえ、これがなかなか大変だった。茶筅の先……泡立てる部分は、1本の竹を16~120本くらいの穂数に割って、交互に糸をかけ外側と内側の2層にするという造りになっている。一般的には穂先の数は72本くらいで、数が多いほうがお茶がきめ細かく立つため、根気強く先端部分を作ってゆく必要があった。
「それにしてもレティー様は、本当によく働きますね。『マッチャ』のために必要な道具作りを進めつつ、他の仕事までしっかりと……。おかげでとても助かっていますよ」
「お役に立てているなら光栄です。それにしてもデリックさん、私に『様』はいりませんよ。私はもう、侯爵家とは関係ない人間ですから」
「では、レティーさんとお呼びしましょう。これからもよろしくお願いしますね、私の協力者さん」
「はい。ふふ、一緒に品評会での優勝を目指して、まだまだ頑張りましょう」
そして茶園に覆いをして1ヶ月が経ち、いよいよ茶摘みを行った。
摘み取った葉を蒸し、加熱によって葉の酸化酵素の活性を奪うことによって、葉が緑色のままになる。これが紅茶の場合だと、完全に発酵させて作るため暗褐色になるのだ。ちなみに半発酵の場合だと烏龍茶になる。
加熱した後の茶葉は、竹で編んだ冷まし籠に移し、団扇――が、ないので代わりに扇子であおいで粗熱を取る。その後乾燥の作業を経てようやく抹茶の原料「碾茶」となり、これを石臼で挽いたら――抹茶の完成だ!
「やったーっ! 抹茶、できましたっ!」
「なるほど、確かに緑色の粉ができたが……これをどうやって飲むのです?」
「ふふ、見ていてください」
茶園のキッチンでお湯を沸かし、これまたこの1ヶ月の間に作っておいた茶碗に抹茶を入れる。どうせならもっと本格的に茶道の作法でやりたい思いもあるけれど、何せこの国には和室がない。畳がない。だから今は本当に簡単に点てるだけにしておく。
抹茶には「濃茶」と「薄茶」というものがあるけど、今回点てるのは和風のカフェとかでお抹茶セットとかを頼むと大体出てくる方。薄茶だ。
茶碗に抹茶とお湯を入れて、茶筅でシャカシャカする――「茶道」と聞いた時、誰もがイメージするであろうアレだ。ちなみに、よく泡立てるか泡立てないかは、流派によって違う。国王が飲んだものは泡立っていたそうなので、口当たりがなめらかになるようによく混ぜた。
「できました。さ、お菓子と一緒にどうぞ」
本来、茶道ではお菓子を食べる順番なども決まっているものだが、今はそこまでこだわらなくていいだろう。何せ異世界だし。
抹茶と一緒に出したのは、どら焼きである。
国王の言う甘いものが挟まった菓子、というのは多分これだろう。小豆がないこの国でどうやってあんこを作るかはいろいろ考えたけれど、グリンピースを使ってうぐいすあんを作ってみた。そう、うぐいすあんのどら焼きだ。
「どれ。まず『抹茶』から……」
デリックさんが茶碗を持ち上げ、抹茶に口をつける。
「ほう……! 紅茶とは全然違いますね。同じ木から、これほど違う飲み物が生まれるとは」
抹茶の製法につきまして、本来なら熟成させたほうが美味しくなるのですが、物語の都合上、省略しています。本作は基本的に、ファンタジー作品としてゆるふわな感じでお楽しみいただけますと幸いです!