23・もち米を求めて
王城から、まだ開店前ではあるけれどもうほぼできあがっている私の甘味処へ戻った。
デリックさんとリーフさんに、国王と隣国の王子の茶会の件、この甘味処で抹茶とお菓子を提供することになった旨を話すと、二人ともびっくりしていた。
「国王と王子の茶会ですか……それはまた、すごい仕事を引き受けてきましたね」
「抹茶はともかく、お菓子は何をお出しするんですか?」
「一応、作りたいものはもう決まっているんです。『ねりきり』というお菓子なんですが」
「ネリキリ?」
「はい。見た目を自由に美しくできますし……何より、抹茶によく合う和菓子なんです」
「へえ。それはぜひ、私も食べてみたいですね」
「ただ、ねりきりをおいしく作るために、もち米というものが欲しいんです」
「モチゴメ?」
「はい。ねりきりを作るためにまず求肥というものを作りたいのですが、そのためにもち米がいるんです」
ねりきりと似た、こなしという和菓子なら小麦粉を使ってできると本で読んだことはあるけど、ねりきりの生地のほうが形状を細工しやすいとも聞く。あまり作り慣れているものではないし、今回はとても大事なお茶会で出すお菓子ということもあり、妥協したくないので、できればもち米があったらいいなと思う。
「その。お米っていうのは穀物の一種で。小麦と少し似ているんですけど、小麦と違って、粉にしてパンなどの材料に使うのではなく、粒を炊いて食べるものというか……。普通の『うるち米』というものも欲しいんですけど、今回はもっと粘り気のある『もち米』を使いたくて」
(うう、お米を知らない人にお米を説明するのって難しい……!)
「お米やもち米そのものがなくてもいいんですけど、この国において、代用になるようなものを知らないでしょうか?」
デリックさんとリーフさんに尋ねると、リーフさんは顎の下に指を当て、何かを思い出すようにしながら口を開く。
「これは、獣人族に伝わる伝承なのですが。ノクスの森の奥深く、妖精の領域に、小麦に似ているけれど異なる、幻の植物があると聞いたことがあります。妖精はなかなか他種族に姿を見せない、生態なども謎の多い種族ですが……。妖精は魔法によってその植物を育て、食することで力の源にしているのだとか」
「へえ……そんな伝承があるんですね」
私も、デリックさんも知らない話だったので、人間には伝わっていない伝承なのだと思う。
(でも……妖精さんがお米を食べているの? 花の蜜とか吸っていそうなイメージなのに)
とはいえ、稲も植物ではある。妖精さんがお米を食べていたとしても、そこまで不思議ではない……のかも?
「じゃあ、ノクスの森へ行ってみましょうか」
私がそう言うと、デリックさんは少し心配そうな顔をした。
「しかしノクスの森には、魔物も出るでしょう。危険ではありませんか?」
4年前に陛下が魔王を倒してくださって、この国は魔族に侵略されることなく平和を保っているが、それでも魔物という存在はいる。
魔族も魔物も、名前に魔がつく種族ではあるけれど、まったく別のものなのだ。魔族は人間に似た姿で理性もあるが、魔物は獣型であり、理性がない。ようするに、人間と猿くらい違う。
「一応私も魔法は使えるし、護身用の魔術具も持っていますが……。冒険者ギルドで護衛を雇った方がいいかもしれませんね」
妖精の領域にある植物というのが本当にお米なのか、お米の代用になりそうなものであるか、見極められるのは私だけだ。私が直接行ってこの目で確認した方がいいと思う。
(……いっそ陛下が一緒に行ってくだされば、何があっても無敵だけど)
しかし元Sランク冒険者とはいえ今は国王様なのだから、同行してもらうのは無理だろう。いやあの陛下なら「任せろ、俺も行くぞ!」と言ってくれそうな気がしてしまうが、さすがにダメだ。王としての職務で忙しいだろうから、お時間を頂戴するわけにはいかない。
「でしたら、レティー様。俺を連れて行ってくれませんか?」
そう言ってくれたのは、リーフさんだ。
「実は俺も、昔は少し冒険者をしていた時期もあって。そこらの魔物には負けません」
「ふふ。ひったくり犯を捕まえてくれた時も、すごい身体能力でしたもんね」
「レティー様のことを必ずお守りすると、お約束しますよ」
「ありがとうございます」
こうして私とリーフさんは、もち米を求めて、ノクスの森という場所へ向かうことになった。




