表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

15/35

15・獣人への偏見

 獣耳と尻尾の出ているリーフさんを見て、ひったくり犯は顔を青くして震える。


「ひ、ひいぃ、獣人……!? お、恐ろしい……!」

「――いいから、盗んだものを出せ」

「は、はい。こ、こちらです……!」


 ひったくり犯から鞄を受け取ると、リーフさんは犯人が逃げ出せないよう、着ていた上着で足を縛ったうえで、私に鞄を差し出してくれた。


「レティー様、どうぞ」

「あ、ありがとうございます、リーフさん。えっと……その鞄は、あちらの女性のもので……」

「えっ」


 鞄を盗まれた女性は、息を切らしてハアハアと走ってきて、ようやくこちらへ追いついた。


「あのっ、鞄を取り返してくださって、ありがとうございます……! 大切なものが入っていたので、本当に助かりました……!」

「え? あ……、あっ」


 リーフさんはきょとんとした顔で鞄と私を交互に見ながら――自分の勘違いに気付いたように、かああっと顔を赤くする。


「俺、レティー様の声が聞こえたから……てっきり、レティー様の大事な物が盗まれたのかと思って……」


 恥ずかしそうにもじもじするリーフさんは、犬っぽい耳もぺたんと垂れてしまっていて、ちょっと可愛い。


「いえ、その。私は、ひったくりの現場をたまたま見かけたので、声を上げて……。でもリーフさん、本当にすごいです。すっごく足が速くて……一瞬で犯人を捕まえちゃって、かっこよかったです」


 リーフさんの顔が、かあっとますます赤くなる。彼は恥ずかしそうに視線を逸らしていたが、ふさふさの尻尾が嬉しそうにゆらゆらと揺れていた。


「その……レティー様は以前、店で、俺を助けてくれたでしょう。だから、俺もレティー様の力になりたかったんですが……」


「あの鞄は私のものではありませんでしたが、正直、犯人が捕まらなかったら、嫌な気持ちを引きずることになってしまったと思います。それに犯人が放置されたままだったら、別の日に自分が狙われていたかもしれません。リーフさんが犯人を捕まえてくださって、安心しました」


 周囲に人が集まってザワザワと騒がしくなってきたおかげで、見回りの警察の人が異変に気付いたようでこちらにやって来る。


「どうしました? ……なっ、獣人……!? 獣人が何か騒ぎを起こしたのですか!?」


 警察は、リーフさんの獣耳と尻尾を見て目を吊り上げ、あからさまに警戒する。

 それを見てチャンスだと思ったのか、足を縛られていた犯人が声を上げた。


「そうだ! 俺は何もしていないのに、そこの獣人が俺を襲って、足を縛ったんだ!」

「な……っ」


 犯人の嘘に惑わされ、事情を知らず、何ごとかと今寄ってきたばかりの通行人達が、不気味なものを見る目をリーフさんに向ける。


「やだ、獣人が事件を……? 怖い……」

「やっぱり獣人って理性のない化け物なのね」


 場の空気が、「獣人が悪い」で塗り替えられようとしてしまった中。

 私はすうっと息を吸い込み、できるかぎりの大声で叫んだ。


「違います!! 彼は、ひったくりの犯人を捕まえてくれたんです! 悪いのは、縛られている人の方です!」


 私の大声に、犯人はビクっと身震いする。

 だが、この国において獣人は偏見を持たれている。野性的で理性のない化け物だとか、人間のふりをした魔物だとか、さんざんな言われ方をされているのだ。そのため、周囲の人々は私よりも犯人の嘘を信じているようだった。


「なんだ女、お前、獣人なんかを庇うのか!?」

「私は真実を言っているだけです。あなたは、彼が人を襲っているところを見たのですか?」

「そ、それは……見てはいないが……」

「ではあなたは、何も見ていなかったのに、彼が獣人だというだけで、勝手なことを言っているわけですね? それは、憶測だけで事実を捻じ曲げることであり、真犯人を野放しにすることにも繋がりますよ」


 私に怒鳴りかかっていた男性は、気まずそうにぐっと言葉に詰まる。


「思い込みで物を語るのはよくありません。彼は真っ先に犯人に立ち向かってくれた、優しくて勇敢な方です」


 リーフさんは、驚いたような……まるで瞳の中に輝きを閉じ込めているような顔で、私だけを見つめていた。


「レティー様……」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ