11・抹茶のパウンドケーキ
「わあ、すごい! できてますね!」
最高においしい飲み物品評会の後――私はデリックさんと共に、王都に抹茶と和菓子を味わえる甘味処を開店させるべくいろいろと準備をしていた。
その準備のうちのひとつが、畳だ。せっかく抹茶や和菓子を食べてもらうなら、お店を和風にしたい。他の店にはない内装にすれば、より話題になるだろうし。
畳は、現代日本だとイグサという植物か、和紙や樹脂が畳の表に使われている。
だけど、今回の畳は藁で作ってもらうことにした。理由は単純に、この国だとイグサよりも藁の方が手に入りやすいからだ。
藁を何層にも積み重ねて圧縮した畳床に、藁と糸を編み込んだ畳表をかぶせ、縁を縫いつければ完成だ。畳作りの作業は、デリックさんに紹介してもらった、普段は木工品などを作っている職人見習いさんを雇ってやってもらった。この国にはまだないものを初めて作るのは大変だっただろうに、しっかり完成させてくれて、本当にすごいと思う。
「皆さん、ありがとうございます。おかげで素敵なお店ができそうです」
私が笑顔でお礼を言うと、畳を作ってくれた職人見習いさん達も笑顔を返してくれた。
「初めてのものを作ることができて、私どもも楽しかったです」
「レティー様のお店ができるの、とても楽しみにしています!」
「ありがとうございます。そうだ、これ、お店に出すための試作品の、抹茶のパウンドケーキなんです。よかったら皆さんで召し上がってください」
「いいんですか!? ありがとうございます!」
「うわあ、おいしそう!」
工房の中で、皆で抹茶のパウンドケーキを食べて一息つく。普通のパウンドケーキはもともとこの国にあったけれど、そこに抹茶が入ると、いつもと違う爽やかな風味が新鮮でおいしい。
飲み物として抹茶を点ててもいいけど、パウンドケーキが抹茶味なので、今回は牛乳と一緒にいただくことにした。ふんわりバターのしっとりパウンドケーキに抹茶の香り、そして牛乳の組み合わせが、口の中でとろけるようだ。
一緒に来ていたデリックさんも、抹茶のパウンドケーキを食べて瞳を輝かせている。
「素晴らしい。抹茶は、ケーキと組み合わせてもおいしいものなのですね。これも絶対売れると思いますよ」
「ふふ。お店を開店できる日が楽しみです」
お店の方も、専門の職人さん達によって建築が進められている。
畳作りには成功したとはいえ、この国の人々に正座の習慣はないから、テーブル席も設ける予定だ。いずれにせよ、ゆっくりおいしい抹茶やお菓子を楽しんでもらえるお店になったらいいなと思う。
「レティー様……! 私どものような見習いの者にも、このような貴重なお菓子をくださり、本当にありがとうございます!」
「なんですかこれ、めちゃくちゃおいしいです! 最高!」
「甘すぎない爽やかな後味がいいですね! こんな風味のお菓子は初めて食べました!」
「ふふ、喜んでもらえてよかったです」
職人見習いの皆さんにも大満足いただけたようで、見ているこちらも笑顔になってしまう。
その後、デリックさんと今後の予定について少し話した後、今日は解散になった。
彼はこのまま、別の商談へと向かうそうだ。
私は、以前はゴールダム商会の社員寮のような場所に住ませてもらっていたが、品評会の賞金をいただいた今、街に小さな家を買って一人で住んでいる。このまままっすぐ家に帰ってもいいのだが――
(やりたいこともあるし、ちょっと街をふらつこう)
やりたいこととはズバリ、この辺りの飲食店の研究である。
私は前世では結構、節約のために自炊していたし、今の世界では、もとは侯爵令嬢としていろいろ料理を食べてきた。もっともうちの家は、女子は他家に嫁がせるための道具としての扱いなので、兄とはあらゆることに差をつけられ、食事も兄にはいいお肉が使われるのに私にはない、なんていうのはザラだったけど……。まあ、もう二度と会うことのない人達だし、今思い出してもどうしようもないから、置いておくとして。
私はいろんなものを食べてきたけど、それは主に家で食べる食事だ。これから飲食店を営んでいくなら、この国の飲食店の現状を学ぶことは不可欠。
(そういうわけで、もっともっと、いろんなお店のおいしいものを食べなくては! これは勉強だからね!)
ワクワクと思わずスキップしそうだけど、おいしいものを食べるのは勉強なのである。勉強なんですよ? 味はもちろん、それぞれのお店の、料理のボリュームと値段、ターゲット層や盛り付け、内装や食器……。自分のお店の参考になることばかりだからね!
(さて、今日はどこのお店にしよう。あんまり行ったことのない通りにも足をのばしてみようかな)
特に行くお店を決めているわけでもないので、ふらふらと気ままに歩く。私は品評会の優勝者であると顔は広まっているので、一人歩きは危険ではあるけれど、何かあったときのための護身用の魔道具は持っている。もう、ラフリーヌに騙されてウラキスに囚われそうになるような、あんなことには二度となるものか。
(あ、このお店、初めて見た。入ってみようかな)
大通りから横道に入った先で、可愛らしいカフェを見つけた。
扉を開け中に入ると、店員さんによって席に案内される。ちょうどアフタヌーンティーの時間なので、この辺りに住むある程度裕福な層であればお茶をしていてもおかしくはないはずだが、店内には私の他に誰もお客さんはいなかった。
(お客さんがいないってことは、もしかしてあまりおいしくないお店なのかな……?)
少し不安になるけれど、食べてみなければ判断はできない。チーズのタルトと、この国ではコーヒーは一般的ではないため、紅茶を注文する。しばらくすると、女性の給仕さんがテーブルにタルトを運んできてくれた。鮮やかな赤いベリーのソースもかかっており、見た目はおいしそうだ。
(どれ、お味は……)
抹茶を使った洋菓子もおいしいですよね。
そんなわけで今日から新エピソードです!
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