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10・悪は悲惨な末路を、私は幸せな未来を

 そうして、品評会が始まり――

 他の参加者達は、それぞれ抹茶とは程遠いものばかり出品していた。

 緑の飲み物、という点から、薬草や海藻を使ったもの。それから、「泡立ったもの」という点から、炭酸や発泡酒のようなものも。中にはメロンソーダに似ていておいしそうなものもあったけれど、抹茶を求めて飲むには別物すぎる。


「うむ、まずい、次! これもまずい、次!」


 陛下は、青空の下に用意されたテーブルにずらっと並べられた飲み物を、片っ端から飲んでゆく。まずいまずいと言いながら、全部飲み干していくのがすごい。やっぱり豪快な方だ。


「次は……お!?」


 陛下は私が出品したもの――茶碗に粉末の抹茶を入れたおいたものを見て、不思議そうな顔をする。


「陛下。ここから先は、私が目の前で仕上げをいたします」

「! お前は、さっきの……」


 私がすっと茶筅を出すと、陛下は期待に目を輝かせた。

 用意しておいた小鍋で茶碗にお湯を入れ、茶筅で抹茶を点てる。

 シャカシャカと気持ちのいい音がひろがり、抹茶の香りがふわりと漂った。


「さ、どうぞ」

「うむ」


 陛下に茶碗を渡す。彼は抹茶をよく味わいながら、最後まで飲み干した。


「これだ! 俺がずっと求めていたのは、この飲み物だ!」


 陛下が茶碗を高く掲げ、観客達から、わっと歓声が上がる。


「満足いただけて光栄です! さ、陛下、こちらのどら焼きもどうぞ」

「これはドラヤキという名なのか! どれ、さっそく……」


 ばくっと、陛下はやはり豪快にどら焼きにかぶりつく。普段は凛々しいそのお顔が、ぱあっと明るく輝いた。


「うむ! この菓子もとてもうまいぞ! 菓子を食べて抹茶を飲むと最高だ!」


 周囲の観客達は、やんややんやと拍手喝采を送ってくれる。


「すごい! あの子、陛下に認められるなんて……!」

「おい、あれはルシャルダン侯爵家の令嬢ではないのか?」

「なんでも、家からは勘当状態だという噂だ。しかし、陛下に認められるほど有能な令嬢を勘当するなど、ルシャルダン侯爵家も堕ちたものだな……」

「ともかく、素晴らしい! おめでとう、レティー嬢!」

「あの飲み物とお菓子、私も味わってみたい~!」


(わあ……すごく、嬉しいな。こんなふうに、たくさんの人から認めてもらえるなんて……)


 一緒にいたデリックさんも、感動している様子だった。


「やりましたね、レティーさん!」

「ありがとうございます! デリックさんが協力してくれたおかげです!」


 私は優勝し、莫大な賞金を手に入れることになった。

 デリックさんと山分けしても、十数年は遊んで暮らせる金額だ。


(とはいえ、ずっと何もしない生活っていうのも退屈だな。何せこの世界は、前世と違って娯楽が少ないし。どうせなら、このお金を元手にして、もっといろんな日本文化をこの世界に取り入れたい……!)


 純粋に、自分が日本の物が懐かしいというのもある。畳とかお布団とか、日本食とか和菓子とか。無性に懐かしくなってたまに欲しくなるんだよね~!


「大儀であった、レティー。それで、お前はこれからどうやって暮らすつもりだ?」


 陛下に尋ねられ、答える。

 

「そうですね。いただいた賞金でお店を開いて、抹茶や、抹茶を使ったお菓子をたくさんの人に食べてもらいたいと思います」

「ほう、それは素晴らしいな! 城で、俺専属の茶師として働いてほしい気持ちもあるが……。これだけうまいもの、より多くの国民にも味わってほしくもある」

「あ、陛下がお望みなのでしたら、いつでもお城にも参ります!」


 私が「国王の茶師」ということになれば、お店としても、ものすごく箔がつくし。

 隣でデリックさんも「ぜひそうしてください」とばかりに笑顔で頷いてくれる。抹茶のお店を開店させて、もしも私の手が足りなくなったとしても、きっとデリックさんが店員さんを手配してくれるだろう。


(これからどんどん、この国にお茶や日本文化を伝えていけるんだ……すごく、楽しそう!)


 貴族の令嬢として、いろいろなしがらみに囚われていた頃よりも、今の方がずっと自由だし自分らしくいられている。誰かに従わなくたって、媚びなくたって、私は自分の力で生きてゆけるんだ。


 ――その後、私の家族達は「国王陛下に気に入られた娘を勘当した」と貴族達の間で噂になり、評判は地の底に落ちた。私が品評会で優勝したことを知った家族達は掌を返して私に取り入ろうとしてきたが、私の気持ちを汲み取ってくださった陛下が、家族達への私の接触禁止令を出してくれた。


 いくら私の両親といえども、王命に逆らうわけにはいかない。この先一生、私に酷い言葉を浴びせたことを後悔しながら先細ってゆくのだろう。


 ウラキスは、「罪のない女性に暴行を働こうとした者が公爵になるなど言語道断」と、やはり陛下によって、公爵位を継ぐことを禁じられた。ギルモノ公爵家は、ウラキスの弟が継ぐことになったそうだ。


 貴族として領地からの税に頼って生きていく気まんまんだったウラキスは、他の道で稼いで生きてゆく勉強などしていない。私に乱暴しようとしたという噂も広まっているし、この先まともな仕事に就くことはできないだろう。


 風の噂によると、ウラキスはラフリーヌに浮気して私をないがしろにしたことを今では激しく後悔し、「もう一度やり直したい……」とか言っているようだが、想像しただけでぞっとする。私は絶対、一生、ウラキスと復縁することなどない。


 ラフリーヌもまた、婚約者のいる男性に手を出したあげく、ウラキスの卑劣な行為に手を貸したと噂になった。そんな女性と結婚しようなどという貴族の男性はいない。この先結婚は諦めるしかないだろう。いやウラキスとならできるかもしれないが、2人ともまともな職につけることはないので、2人してどん詰まりになるだけだ。


 私を追い詰めた人々は、皆悲惨な末路を辿ることになった。


 一方、私は――これから、宮廷の茶会で国王にお茶を点てる者として。そして、茶店でお店を繁盛させる者として。


 まだまだ日本文化を広めることでガンガン稼ぎ、これからもっと、幸せになります!

短編部分はここまでです。

明日から新エピソードを投稿してゆく予定ですので、もし楽しみだと思っていただけたら、広告の下の★★★★★で評価して応援してくださると頑張れます~!

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