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パーティで何もしてなかったら勇者に「お前は何もしてない!」って言われたけど特に追放もされないし復讐もざまぁも何もしません!

作者: 耳垢の一

「クーラン・ヌルム・ゼロスレイン! お前に話がある!!」


 勇者ライトの声が宿屋の僕の部屋に響き渡る。隣の部屋の人はうるさがってるだろうな。


 どうやら他のパーティメンバーもライトと一緒に僕の部屋に来たようだ。


「静かにしてよ。今忙しいんだ」


 と、僕は振り向きもせずに返す。


「忙しい? どこがだよ。今何をしてるんだ?」


「別に【何もしてない】けど」


「じゃあ暇じゃないですか!」


 回復師(ヒーラー)のジェネスがツッコミを入れる。


「いいか、俺たちは勇者パーティ【聖者の導き(セイントヴィヘイブ)】だぞ? 神に選ばれた勇者である俺を支えるため集ったんだ!」


 やれやれ、またその話か。


「魔法使いコスモは【隕石魔召結(メテオスパーティ)】を始めとする最上級魔法が使えるし」


「すごいでしょー」


 魔法使いコスモは目の高さでVサインをする。


「魔剣士エイクスは究極の剣技【閃極万雷斬(アルティメッツソード)】を使いこなす男だ」


「ふん。あの程度容易いことだ」


 エイクスは一瞬で剣を抜いたかと思うと目の前のりんごを切断する。これ全員なんかやるやつ?


「そして格闘家ファルシオンは地元の武闘大会連戦連勝の最強の格闘家だ」


「俺はファルシオンじゃなくてファルコンなんだが」


「どっちでもいい。あと回復師ジェネスは回復ができる」


「私だけ雑になってません!?」


 メンバー紹介が終わったらしい。


「それに引き換えクーラン。お前は今までに何をした?」


 勇者ライトは再び僕に問いただす。


「だから僕は【何もしてない】って」


「お前そればっかりだな」


 そう。【何もしない】……。それが僕のスキルだ。


「そんな何もしない奴はこのパーティから……!」


「待って!」


 僕は勇者ライトの声を遮る。


「僕に()()()()の?」


「ああ、お前を……お前を……」


 ライトは言葉に詰まる。


「どうしたんですか? 勇者様」


「……いや、別に【何もしない】」


「うん、【何もしない】のが1番だよね」


「ああ、そうだな。今日はもう寝るか」


「………? え、ええ。そうですね」


「まあ明日は早いしな」


 勇者ライトの発言で、パーティメンバーたちは各々の部屋に帰っていった。



 勇者ライトは自室でうなだれる。


「ったく、なんで俺はあんな何もしない奴を雇ってしまったんだ?」



〜2年前〜


 その日勇者ライトは冒険者の酒場で愚痴をこぼしていた。連携が上手く取れず思うようにモンスターと戦えなかったのだ。


「あーもう、お前ら全然役に立たねえなあ!!」


「ちょっとライト。周りの人に迷惑だよ」


 怒鳴るライトを魔法使いコスモが諫める。しかしライトはますますヒートアップする。


「もういい! こんなことなら何もしない奴をパーティに入れた方がマシだ!!」


「そ、そんな! 勇者様!」


 そこでライトは近くにいたクーランに目をつけた。


「おいそこのやつ! 確かスキルが【何もしない】の無能らしいな! 俺たちのパーティに入れ!!」


「いいよ」


 クーランは平然とした顔で承諾する。


「ライトお前正気か!? そんな無能をパーティに入れるなんて……!」


「うるさい! 足を引っ張られるよりはマシだっ!!」


〜〜〜〜〜



「よく思い出せねえけど、あの日酔った勢いで入れちまったのかなあ。あ〜もう!」



 一方、回復師ジェネスは魔法使いコスモの部屋で悩みを打ち明けていた。


「私ってあんまり役に立ってないんですかね。さっきも紹介が雑でしたし……」


「そんなことないって! 【何もしない】クーランよりは立派だよ!!」


 励ますためとはいえ【何もしない】クーランと比べられたことでジェネスは苦い笑みを浮かべる。


「う、うーん。そういえば、クーランさんが来てから勇者様あまり怒らなくなりましたよね」


「あー。確かにそうかも」



  *


 そして次の日の朝。


「よし! 今日は予定通りレッドドラゴンの討伐に行くぞ!!」


「はい!」


「行くよーっ!」


「ふん……行ってやる」


「行きましょう!」


 メンバーが口々に返事をする。


「僕は【何もしない】」


「ああ! ……っておいクーラン!」


「またサボりか?」


「うん。僕は()()()()()()()()よね?」


「あ、ああ。いいぞ。5人だけで行こう」


 ライトたちは結局僕以外のメンバーで発つことになった。




〜魔王城〜


「遅い! ぬううううう!!」


 魔王城の玉座には苛立ちが募り力を抑え切れない魔王の姿があった。魔王の秘書ログは急いで魔王の元へ駆けつける。


「大魔王ヴェルドーマ様! いかがなされました!」


「いつになったら人間界が制圧できるのだ!」


 秘書ログは侵略状況報告資料を見つつ答える。


「こ、この進捗状況から鑑みますと最低でもあと4年、いや、5年……」


 言うまでもなく4年で世界征服できるのは速い。しかし短期な魔王ヴェルドーマはその年数を聞き更に怒りを増す。


「ええい、最早うぬらには任せておけぬ!! こうなればワシが直々に赴いてくれよう!」


「そんな! ヴェルドーマ様がお力を使っては人間界どころか世界そのものが一瞬のうちに滅びてしまいます!」


 魔王の力は人間を従わせるための最終手段である。人間界も魔界も等しく滅びるだけの力を有し、それ故にヴェルドーマは有り余る力を行使できない。


「使えぬ力になんの意味がある! 滅びるというのなら滅びればよいわ! ワシは世界を……!」


 その時魔王ヴェルドーマに異変が起こる。


「世界を……世界を……」


 ヴェルドーマは言葉を詰まらせる。


「魔王様! どうなさいました!?」


「いや……【何もしない】」


「な、何も……?」


「うむ。ワシは世界をどうともせぬ」


「そ、そうでございますか。はは……」


〜〜〜〜〜




 宿屋に勇者パーティの5人が戻ってきた。


「今日はなんか上手くいったね!」


「ああ。あと少しでやられるってところで突然レッドドラゴンの動きが一瞬止まって俺の光魔法が炸裂よ」


「勇者様凄かったです!」


 勇者ライトは僕に近寄ってくる。


「お前は何もしてないから分け前は無しだ」


「いいよ。お金をもらってもどうせ【何もしない】から」


「ん……そうか」










〜天界〜


 神に使える天使が一人、天使フォートレヴは神の書を開いた。


「スキル法典。【何もしない】レベル0」


『このスキルを授かった者は無気力状態となる』


「同上、レベル1」


『他者の思考や行動を任意的に抑制する。その効果は過去に遡及し得る』


「同上、レベル2」


『自らに危害が加わる行動の発生をなくす、ないしなかったことにする。肉体の成長や老化といった自然現象も例外ではない』


「同上、レベル3」


『何もない空間と己の精神・肉体を同一化し転移や操作を可能とする』


「……人族に与えるにはいささか強過ぎたと言わざるを得まい」


 天使フォートレヴは神の下へ赴き、跪いて直訴した。


「我らが神よ。例の【何もしない】などというスキル、やはり危険です。即刻剥奪すべきだと考えます」


 神の従者ビリオヌもそれに同意する。


「私も気になっておりました。何らかの処置を施した方がよろしいかと」


 神は配下の天使たちに詰め寄られ重い腰を上げる。


「うむ。そうだな。早速取り上げ……いや……」


 神の様子がおかしい。


「神よ。どうなされたのです?」


「いや……【何もしない】でよい」


「は、はあ。そうですか」


「神がそうおっしゃるならば」


〜〜〜〜







「やっぱり【何もしない】のが1番平和だよね♪」



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