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第二章 試験開始

前回同様、転載作品になります。

興味のほどあれば次回以降もお読みいただければ幸いです。

1

 試験に備えてから時間を迎えるまでの間はそんなに長くはなかった。

 ここは学会の正門前。事前に告知のあった剣宿しの試験当日であることから数々の生徒が学会の学舎へ向けて足を向けている。


 雷剣浪と別れて以降、一度、家に戻りこそしたものの、再度、剣宿しを試せる機会はさほどなかった。しかし、3回ほど確認した際には、常時、剣に魔力が宿り、以前のような不発に終わることはなかった。


「この調子なら本番もいけるか?」


 そう思い至ったさ中、突如、後ろから声が掛けられる。


「なーにやってんの、アラン?」


 急な呼びかけに身を震わせて背後を振り返る。下部に赤線の入った白基調のワンピースの上から水色のケープを纏り、栗毛のショートヘアーの少女。立っていたのは、幼馴染のサリアだった。


 彼女はテスト告知の時点で既に剣宿しを覚えていた数少ない生徒の内の一人で、入学地点で水属性魔法の1章から5章までを全て扱えた。

 当然、その実力は自分を含む同学年はおろか、学内の誰もが認めるほどのもの。魔法適性がない自分とは雲泥の差だが、親繋がりで幼少期から顔なじみであり、学会では彼女の方から、時折、声が掛けられる。


「何って、剣宿しの練習だよ」


「アランって、六元素の適性ないよね? 試験だけど大丈夫なの?」


 ー確かに、六元素は使えねーけど、何故か雷魔法は使えたんだよなぁ。


 うっかり口に出そうになった言葉をアランは話す直前で言い止める。


「大丈夫だって。俺も練習して、発動程度は出来るようになったし」


「え、よかったじゃん、剣宿し出来るようになって。前は『剣宿しどころか、魔法すら使えない俺が剣宿し出来たら世界滅ぶぞ』とか言ってたのに」


 確かに言っていた気がする。そもそも、つい先日まで試験を受けると言っただけで、学会の生徒から罵声を浴びるほど、合格は絶望的だったのだ。記憶になくとも確実に言っていたのだろう。


「あの時はあの時だ。練習してもうまくは出来なかったけど、今はなんとか剣宿しだけは出来るようにしたんだよ!」


 思えば、建物に呼び出されて、ほぼ1日が経過していた。本来ならば今まで練習をしているはずだったが、雷剣狼と出会い、奇跡的に雷魔法を手に入れることができた。


 ーこれは自分の力ではない。


 それは重々理解していたが、やはり、努力をせずに得た力なだけあり、素直に習得を喜ぶことはできなかった。だが、それを理解しているからこそ、この先は雷剣狼とは違う独自の扱い方を探さなくてはならない。


「まあ、剣宿しが出来ているんなら後は教官に見せればいいだけだしね。そういえば、アランは何元素の剣宿しにしたの?」


 やっぱ、それを聞くよな。

 今のアランは混合魔法の剣宿しを覚えたいわばイレギュラーな存在。それを自ら明かすのは、その所存を聞かれかねないだろう。そうなれば雷剣狼の存在と譲渡された事実は恐らく秘匿できない。

 即座に理解したアランは一呼吸開けて言葉に応じる。


「試験の時になったら見せるよ」


「へぇー、何元素だろう? 試験が楽しみだなー」


「とは言っても、お前はどうせ水なんだろ。お前のお家芸だしな」


「うん、そのつもりだけど、一応、放出エレメントの調節とかは練習したんだよ」


 だが、話し込んでいる中、試験開始5分前の鐘がなった。これを聞いた学会の生徒はこれに続くようにして次々に学舎前の大広間へと向かって行く。

 しかし、彼ら含め、学会生徒たちはこれから起きることを誰も予想してはいなかった。


2


「じゃあね。試験会場でまた会えたらいいね」


「じゃあな」


 そう言い残し、アランは広間へ赴く群衆に紛れてこの場を後にした。

 5分前なので急ぎ足で闘技場に向かっていると、途中でふと、雷魔法の剣宿しは出来ても雷魔法が使えないことに意識が及ぶ。


「そういえば、確かに、雷魔法の剣宿しは出来ても雷魔法が使えないんじゃなぁ・・ 一回だけ試してみるか」


 その思考に至った直後、アランは慌てて群衆から抜け出し、未だ数人が壁にもたれかかっている広間の端へと移動した。



 とは言え、渡されたばかりの魔法にどのような章の魔法が存在するのかは分からない。しかし、防御系魔法の多くは3章であることから魔力を雷剣に流しつつ、記憶を頼りに関連する式句を用いて即興の詠唱を行う。


「雷の眷属よ、わが身を守る盾となれ、雷魔法第3章エレクトラ・ファルト(雷壁)」


 詠唱の後、剣を横に流しつつ軌跡で半円を描くと、そこから薄い黄色い光を迸らせて瞬くうちに壁が構成されていく。しかしそれは、厚いとはお世辞にも言えない2センチほどの薄く湾曲した壁。これではたとえ魔法が放たれたとして、防ぐことはおろか、貫通して直撃を食らうことも避けられないだろう。


「やっぱ微妙だぁー!」


 しかし、考えてみれば当然の事だ。アランはまだ、雷魔法を使える器を得ただけ。過去に存在した熟練の混合魔法使いと自分の間に歴然の差があるのは、むしろ当然だろう。

 雷剣浪に貰った雷剣を用いて、雷魔法を使えるだけの自分に、雷元素魔法の全てを扱うことなど出来るはずがない。


「そりゃそうだよな。でも、まあ、どうせ今回の試験は魔法の試合は無いんだ。魔法を覚えるのは後でいい」


 そう瞬時に魔法発動を諦めたのち、アランは時間が近づいていることもあり、急いで大衆の集まる広間の中央へ向かった。

 広間は鐘がなったこともあり、かなりの人が集まっていた。おそらくは試験を受ける者か、その関係者だけなのだろうが・・ そんなことを考えていると、試験開始の時間になったことから、試験官と思われる人物が奥の檀上に立った。


「注ー目ー! 見る限り、全員集まったようだな」


 現れたのはガタイのいい男性であり、学会内でも何度か見たことのある教授クラスの上級魔導士だった。男は全員分の顔を事前に確認済みなようで、周囲を見渡した後に、即座に話を続ける。


「それでは試験内容の説明を始める。この試験の主目的は、君たちの魔法技術の計測であるが、それだけではない。この試験で上位成績、もしくは主席の座を獲得したものにはたった1つだけ、学会が提供可能な範囲でその者の望みを叶えるものとする」


 一部の生徒の間ではざわめきが起こるが、アランはそれを脳内で静かに受け流した。一部では話題になっていたが、成績もつかない学会内で皆が、試験に全力で挑む理由はこれに尽きる。学会に所属する生徒の中には金銭面に困窮した家族も存在することから、家での労働力として農作業を行う傍ら、金銭目的から魔導士として学会に送り緒まれるケースは少なくない。


 しかし、それを事前に知りえていても今年度、アランがその地位に至ることはないため、必然的に気分が乗ることはなかった。

 同期には記録保持者のサリアがおり、それだけでなく、50名余りの生徒の中には歴代で魔導士を継いでいるの名家の生徒が数人存在することは同じくサリアの情報で事前に知りえていた。今ならともかく、以前の魔法が使用できない状態であった当時はそれを知りえる以前から考える間もなく即座に諦めていた。


「試験を受ける者はこれを心して挑むといい。ただし、今年度の試験は昨年から大幅に試験内容を変更した。今回は通年より参加者が多かったのに加え、初期から剣宿しを扱える生徒が数人、在籍していた。そのため、試験は剣宿しに用いた剣を“所持した状態“での、対人戦トーナメントとする」


 ―ちょっと待て! つい何分か前まで剣宿しだけだと思って、不完全な魔法発動を確認したばかりなんだが!


 そう思いつつも、話を聞き逃すわけにはいかない。アランは引き続き、試験官の話に耳を傾ける。


「対人戦では、両者魔法を発動しあい、どちらが先に戦闘不可にさせるかを競う。剣の使用は各々に任せるが持たずに戦闘を行った場合、もしくは、相手の命を奪うような行為と試験管が見なした場合は該当魔導士を失格とみなす。上位成績者は10位までとし、引き分けはなし。両者決着がつくまで戦いを続けるものとする。以上を守ってトーナメントを行うこと」


 突然のルール変更、呆然とする意識の中で未だ整理できていない内容が脳内を駆け巡る。しかし、そんな中でも密かにアランの決意は徐々に確固たるものへとなっていった。

 剣宿しだけでは勝ち目がなかった相手ばかりだった今回の試験だったが、剣の所持が前提であれば剣使用が前提の自分には多少の利がある。そうであれば、上位成績を収め、旅に出る許可を貰い、雷剣狼に再度、会うことも決して夢物語ではないだろう。

 そんな希望を抱きつつ、アランは競技会場へと足を向けた。


3

 トーナメントは2グループに分かれて行うため、アランはA・BグループあるうちのAグループになった。全員の組み分けは提示されており、振り分けと対戦相手は競技場上空の水魔法で文字が投影された水晶版で目視できることから、アランは生徒の名前を順々に確認していく。


「サリアはどっちだ? あいつとは出来れば当たりたくないんだけど・・」


 恐る恐るトーナメント表を確認すると、どうやらサリアはBグループに振り分けられたようだった。自分はAであったことから、当たるとすれば、必然的に決勝になるだろう。


「あぶねー。とはいえ勝ち上がれば必然的にあいつには当たることになるんだよな」


 トーナメントが始まる以前に彼女の決勝進出を確信するのは端から見れば、過大評価かもしれなかったが、ここまでに絶対的な強さを見出すのには理由があった。


 アランは幼少期に、遊び半分で魔法を発動してみようと、サリアを誘ったことがあった。当時はまだ無属性魔法すら使えなかったが、サリアは無属性魔法を難なく発動したうえに、エレメントの変換による水魔法の発現にも成功した。それ以降、彼女の親の薦めで6歳の地点で学会へ入り、水魔法の習得に努めた。自分が彼女の薦めで学会へ入ったのが4年後の10歳の時というだけでも、彼女と間に異常な差があることは明白だった。


 しかし、恐ろしいことに彼女は、11歳時点で「水魔法第4章マリン・スフィア」を取得し、最年少にして4章魔法を習得したという記録保持者レコードホルダーとなった。その後も独自で水魔法を極め今では1~5章までの水魔法が形成する型のコンプリート。これを超えられる魔導士はそういないと、アランは自身はそう確信している。


「そもそも、今までの俺ならそんなことすら考えなかったからな。でも、この状況下なら勝てる可能性はゼロじゃない」


 従来、杖で戦闘を行う魔導士において、剣の着用というハンデがあるのは無視できないディスアドバンテージとなることは間違いない。そのハンデを無視できる今の戦闘スタイルは現状のアランが持つ限りない利点だろう。


「まあ、頑張りますか」


 観客席にギャラリーが集まりつつある闘技場一帯を見渡してアランは呟きをこぼし、再度、水晶板を確認して自分の一回戦の相手を確認する。


 水晶板に表示された自分の名前を確認するとアランの対戦相手はモクジとなっていた。学会でも名前すら聞いたことがない生徒。アランにとって初見の相手であることは間違いなく、どんな魔法を用いるのかは未知だが、ここで負けるわけにはいかない。読み取れる最小限の情報のみで相手の確認をしたのち、アランは自分の対戦になるまで待機所にて待つことにした。



 アランが待合室に着いたのとほぼ同時にトーナメント1回戦の第一試合が始まった。

 対戦相手の名前は分からなかったが、対峙する魔導士は片側が火元素、もう片側が風元素を用い、お互いが序盤から難なく魔法を発動していることから、お互いの適性元素は明白だった。火元素の魔導士は火球を操り、風元素の魔導士は背丈ほどの竜巻を発生させ、開始数秒でお互いの魔法は直線上で衝突する。


「マジかよ・・」


 剣も両者共に短剣でこそあれ、腰に装備しており、最大限の身動きができるわけではなかった。しかし、それを加味しても初戦にしては想像以上に戦闘のレベルが高く、これが並の魔導士同士の戦闘となれば、サリアと戦うというのが本当に幻想になりかねない。


 そもそも、先ほど予告されたばかりの対人戦に、これほど柔軟に対応できている事態そのものが異常であり、参加者がこのような生徒ばかりでは上位へ勝ち上がるのは限りなく困難だろう。そんな一抹の不安を抱えつつ、アランは引き続き、試合の行く末を見届けることにした。



 A、Bリーグを交互に始まってから半分ほどが経過した。アランが戦うのはAリーグの最終戦である為、ここまで相当数の試合を見てきたが、今まで見たことのないような魔法や剣技が多く、全体的に参加生徒が蓄積してきた練度の高さがやはり目立っていた。そんな生徒たちと今後、戦うと思うと少し気が引けるが、今は弱気になっている暇はない。


 そう感じつつ、引き続き試合を観戦しているとアランの試合の直前でサリアの勝負が始まった。次の試合に向けて、既に試合場の前に設けられた待機席へ移動して、そこで剣宿しの確認を行っていたが、さすがにサリアの試合となっては見逃すわけにはいかない。剣を鞘に納めたのち、試合前の待機席から身を乗り出して、その試合の行く末を静かに見守ることにした。


 サリアの相手はコウガというアランと同様、剣を介して魔法を発動させるタイプの相手だった。元々杖を主として扱っていないのか、何故か剣で戦う彼には恐らく何か策があるかと思われたが、それを確認する手前で、試合は開始直後、一瞬で決着を迎えた。


 サリアは開始早々、予め手に込めていた様子の魔力を一気に開放し、瞬時に生成した水魔法第2章のウォーター・リガーレ(水拘束)による水の鎖で行動を封じたのち、続けて瞬時に式句を唱えて連続詠唱を行う。放った魔法は第5章のアクア・スナイプ(水撃)。一直線に放たれたそれは、もはや水の銃弾であり、防御不能の状態に陥るコウガへ向けて無慈悲にもそれは直撃した。脳天を打ち抜いた水撃により、コウガは大きく体をのけ反らせたのち、意識を失ったのか即座にその場へと崩れ落ちた。


 当然、審判の判定はサリアの勝利。その瞬間、会場中が凍り付き、参加生徒一同は誰もが「こんな奴と戦うのか」と幻滅したことだろう。しかし、それを見届けたアランは、再び試合前の最終調整へ戻っていった。


「やっぱりあいつヤベーよ。今の俺が戦ったら1秒もつか分かんねーな」


 誰よりも身近に彼女の成長を認知していたからこそ、この決着は当然の結果であり、あの方法で勝利したとしても特段、不思議ではない。その上、もしAリーグの自分が彼女と戦うとすれば間違いなく決勝。必然的に決勝まで勝ち上がらなければ彼女とは戦えず、その対策を考えるのはそれからでもいいだろう。


「まあ、今は自分の試合に集中だ。サリアにたどり着く前に負けたら話にならねーからな」


 そう考える脳裏の片隅でアランは次の試合へと意識を切り替えたのち、試合の準備を済ませ、試合場に足を踏み入れた。


4

 アランが競技場に出ると、想像に反して盛大な歓声に迎えられた。


「って、見に来る観客ってかなり多いんだな。まあ、学会の一大祭典みたいなもんだし、上級生たちも来てるのか?」


 講義や実習があるだろうに何故か観客として闘技場を訪れる人々は同学年か年代が近い人々が多く、恐らく上下学年の所属生徒たちだろう。彼らが来ている理由は名のある魔導士を目で見ておきたいからなのだろうか? 少なくとも剣宿しが試験項目であればこれほどのギャラリーは集まらなかっただろう。


「こんな中で魔法の不発とかしたくねーな。周囲からの視線を考えるだけで胃が痛くなる」


 そんな余計な思惑を脳裏に巡らせる傍ら、試合開始前で正面に対峙する対戦相手をアランは見やる。相手のモクジという生徒は雑に伸ばした茶髪に褐色の杖を左手に持った少年。ほつれた麻色のズボンを革のベルトで固定し、両腕には木でできた腕輪をはめている。装飾品が魔力に影響を受けやすいのは魔導士の共通認識だが、その原則で行くならば、彼は土元素使いだろうか?


 しかし、そんな装備品考察のさ中、突如として試合開始準備の合図が掛けられる。そうなっては余計な思考をしている暇はなくアランは位置につき、神経を集中させて試合開始の宣言を待った。

 一呼吸置いたのち、剣を構えて、相手を正面から見据える。すると、それに呼応するように対戦の監督を務める試験管から試合開始の合図が告げられた。


「それでは、試合開始!」


 対峙する中で限りない緊張が迸る中、試合開始が告げられる。


「土魔法 第4章 グランド・デフォルメーション(地形操作)」


 しかし、モクジは直前で魔力を貯めていた様子で宣言と同時に魔法名をコールして競技場自体を変形させた。


「やっぱりな」


 考察が奇跡的に当たったアランは土魔法特有の地形操作に対し、徐々に下がりつつ、変形の範囲外まで魔法をいなし続ける。直前まで立っていた位置は足場が上下に激しく変形し、立っていた地面の面影は跡形もなくなっている。あのままでは身動き一つとれなかっただろう。

 しかし、4章以上の中級と呼ばれる魔法は連発が不可能であり、その後は発動の反動で数秒間、動けない時間が生じる。その隙を突いて雷魔法を放とうとしたが、観客の評価が士気に影響する先ほどの思惑から不発の恐怖が脳裏に過る。


「くそッ!」


 発動が不安定であれ、雷魔法を使えば恐らくモクジがそれを防ぐ手段はなかった。しかし、それでも安定を取ったアランは即座に雷剣によるの応戦へと切り替え、モクジとの距離を詰めていった。

 モクジが地形操作を中心に向けて放ったため競技場の外周を回ることとなったが、それでも徐々に、距離は詰まっていく。初期位置にとどまり続け、再度詠唱の式句を構築しているモクジだったがその距離は数秒で、一歩直前まで迫っていた。


 これでモクジに攻撃できる。しかし、それが叶うほど対人戦は甘くはない。剣を振り上げて魔法発動を阻害しようとした次の瞬間。


「土魔法 第3章 ガイア・シールド(大地壁)」


 発動に間に合ったのか剣が届く直前でアランの斬撃はモクジの発動した土壁によって阻まれた。

 土壁はモクジの周りを半球状に囲む形で生成されており、3章魔法は発動面積を小さくすればするほど、壁の硬度は上昇していく。半球状に展開されたこの土壁の密度はその中でも恐らく最高度。並の魔法でこれを破ることは不可能であり、弱点属性である風魔法、もしくはそれ同等の力を持つ魔法でもなければ恐らく傷一つ付けられないだろう。


 しかし、このまま終わるわけにはいかない。電気が通らない土に対してどうやってどうやって攻撃を与えるかをまずは考える必要がある。


「恐らくあいつは、内部で土の生成を保つために魔力を常に放ち続けている。なら、どこかに魔力放出の薄い場所があるんじゃ?」


 しかし、それに気が付いたと同時、まあ新たな疑問がアランの脳内に浮かび上がる。


 ―もし、壁が破れたとして、中にいるモクジまで攻撃が届かないのではないか?


「くそッ、あの壁、俺は勿論、あいつだって攻撃できねーんだろ?! どうやって破ればいいんだよ」


 しかし、解決方法を探す中、アランの脳裏ではなぜか、さっきのサリアの試合の情景が浮かんでくる。


「そういえば、あいつ、敵が攻撃を意識する手前で攻撃を与えて倒したよな? 1度に多くの事象が重なれば相手は対応が出来ずに・・!!」


 その瞬間、彼女の試合から着想を得て新たな活路が見出される。これが成功すれば、モクジの展開する土壁を突破できる可能性がある。そう確信した直後、アランは土壁から2メートルほど、距離を取ったのちに、雷剣に意識を集中させて魔法名をコールした。


5


「雷魔法 第2章 エレクトロン・スピア(電子槍)」


 不慣れな剣を媒体にしたエレメント抽出をする中、アランは手元に電子を帯びた槍を構築する。見た目は白くか細い心もとない槍だが、この槍に殺傷能力は関係ない。手元にあった雷剣には電子槍の生成時に分離した陽子を集積させ、槍との間に僅かな放電を確認したのち、宣言通りにアランは即座に、作戦を実行した。


「雷魔法 第5章 ライトニングスロー(投擲)」


 詠唱と共に持ち手を放すと、雷剣は雷剣狼が放った剣同様に、対象へ向けて一直線に向かって行く。が、雷剣はそのままガイア・シールドの深くまで刺さったものの貫通までは至らなかった。しかし、それを既に察知していたアランは続けて詠唱を口にする。


「魔力付随エンチャント・破壊デストラクション」


 先ほどのモクジのように、4章以上の魔法は発動後に魔法が放てない状態に陥ることから、基本的には他の魔法への派生は不可能とされている。その常識を覆すことは決して出来ないが、自分の知る中でその例外が一つだけあった。


 それは雷剣狼が告げたエンチャント。壁を破る際に発動した魔法は5章の魔法であるにもかかわらず、雷剣狼はその後僅かな時間差すら開けることなく詠唱を重ねて魔法に付与効果を与えていた。雷魔法の練度は皆無だが、発動だけはできるだろうと思い詠唱をしたが、それは想像以上の効果を生んだ。


 アランの放った雷剣からは直撃と同時に火薬による爆発と同等の衝撃が放たれ、瞬時に発生した閃光が収まると同時、モクジのガイアシールドには僅かな穴が開いていた。その直後、突如として全身におもりが付けられたような虚脱感が襲ってきたが、今はそんなことを気にしている暇はない。体の不自由に抗いつつ、アランは続けて、先ほど生成した電子槍をその穴に向けて一直線に放った。


 電子槍は直進を続け、数秒足らずで穴を通過し、モクジの横顔を正面に捉える。しかし、その直後に、アランは動かない体を起こしつつもう1度詠唱を重ねた。


魔力付随エンチャント放電ディスチャージ


 その直後に、穴をあけた際に土壁内部へ侵入した雷剣の陽子と先ほど放った電子槍の間で激しいプラズマが生まれる。それが密閉された土壁の内部を覆いつくし、ガイア・シールドの内部では激しい放電が発生した。


「がぁぁーーーー!!」


 考えるのも身の毛もよだつが、プラズマによる放電により感電するモクジの叫びが、離れた数メートル先で硬直するアランの耳元にも聞こえてくる。しかし、詠唱が未完成であったこともあり、数秒でプラズマは沈静化したようで、叫び声もそれと同時に聞こえなくなった。術者が魔力付与を中断したためか、半球状のガイア・シールドは徐々に崩壊していく。その後、そこから放電をもろに受けたモクジが姿を現し、崩れるようにその場に倒れ込んだ。

 しばし、静寂が訪れたのち、戦闘不能を確認した審判から決着が告げられる。


「1回戦、Aリーグ第4試合 勝者、アラン!」


 勝利宣言と同時に、会場からは盛大な歓声が上がった。


「雷魔法を使うなんてマジかよ」


「あいつ2連続で、付随魔法使ってたぞ」


 観客席から僅かに自分に対する評価の声が聞き取れたが、満身創痍の今のアランにはそんなことは耳に入ってこない。魔力枯渇か発動の反動が来たのかは定かではないが、エンチャントの2連続発動によって全身には力が入らず、やっとの思いで地面に着いた片膝を上げてゆっくりと立ち上がる。

 こんな状態で最終戦まで勝ち上がれるのかはかなり疑問だったが、モクジとの対戦を経てはっきりと分かった。


 ―今後も勝つためには手段は選べない。


 トーナメントに参加している生徒たちは誰もが並以上の実力を持っており、今の自分では全力でかからなければ誰一人勝つことは出来ないだろう。実力に対する不安を抱えつつも次の試合に向けてアランは待機所へと向かった。



 待機所へ戻ると、勝ち上がり戦であることから人は半分ほどに減っており、何故か周囲から異様な視線が向けられる。先ほどの試合を見ていたためか、中には見知った顔も見受けられ、それがよりこの場にいることの危機感を増強させていく。

 その空気感に堪えられずに数秒で部屋を後にしたのち、行き場のないアランは通りの廊下でひとまず呼吸を整えた。すると、先ほど出ていったのを見ていたのか、出ていったアランに続いて静かに足跡が近づいてくるのを知覚する。


「試合見てたよ。すごかったね」


 突然の呼びかけに一瞬、身を震わせて振り返ると、そこには前試合で完封勝利を収めたサリアが立っていた。


「何だよ。サリアか」


「アランの選んだ魔法って雷魔法だったんだ。雷魔法って確か、水と風のエレメントを常に5:5の割合で合成する特殊な魔法だったよね。発動だけでも難しいのに、よく発動できたね」


 水魔法の習得に長年尽力してきた彼女からすれば水魔法を構築に含む雷魔法はある意味、到達点の一つなのかもしれない。それをこれまで元素適性ないアランが突如、使用したのだ。これで疑わないと言った方がおかしいだろう。


「雷魔法自体はある人から教えて貰ったんだ。六元素と同等に雷魔法を扱う方法を教えてくれたから、別に常時、元素の合成をしているわけじゃねーよ」


 雷剣狼から貰った雷剣の詳細を告げることも考えたが、そもそも、あの空間のことも未だ理解が追い付いていないのが現状だ。今、彼女にその存在を明かしたところでより、混乱を招くことは間違いない。であれば、雷剣狼の存在を今彼女に伝える必要はないだろう。


「そうなんだ。でも、さっきの試合、本当に凄かったよ。エンチャントの2連続発動なんて、私、絶対出来ないもん」


「まあ、そうしなきゃあの壁は破れなかったしな」


「エンチャントって効果の割に発動後の硬直がないけど、それと引き換えに魔力消費が通常の倍近くになるものもあるんだよ。それを2連続発動するって、魔力よくもったね」


 ―え? エンチャントってそんなにヤバい詠唱だったの?


 試合後に明らかになるエンチャントの真実。雷剣狼は使用していたため、便利な魔法とばかり考えていたが、試合後の疲労を考えればこれで合点がいく。あの全身を襲った虚脱感は魔力切れを起こしたために起こったもので間違いなさそうだ。

 しかし、そうなれば、なぜアランは2連続で魔力が空に近い状態でもあの場から動けたのだろう。


「まあ、次同じことは出来ないから、気を付けるよ」


「それがいいと思う。魔力切れは魔法が使えないだけじゃなくて体も動かなくなっちゃうからね」


「そうだな」


 これを聞いてしまった以上、これからはあのような無茶な戦い方は出来ないだろう。気が付けば、試合の進行と共に待機所の生徒が少なくなったようだった。エンチャントの詳細を教えてくれた彼女に感謝を告げたのち、アランは待機所に戻り、1回戦同様、先の試合の観戦をすることにした。


6

 試合を観戦し始めてから次の試合までは数分とかからなかった。


 トーナメントは総勢16人で開始されており、2回戦に進むのは半分の8人。講義に参加していた生徒はそれ以上であったこともあり、勝ち上がった際の人数を確認した時には正直、驚いた。1回戦を終えて3試合後にはすぐに2回戦が始まり、その3試合もそれほど長引いてはいないことから、ここまで休憩のようなものは殆ど取れていない。


「3試合で、2回戦目は勘弁してくれ……」


 先ほどの試合で生じた虚脱感は依然として残留しており、試合を控えた今でも体の節々に若干の痛みを感じるが、泣き言を垂れている暇はない。持試合に向けてフィールド前に設けられた待機席に向けてゆっくりと足を進めていくことに。


「2回戦目も勝てれば御の字。でも、強い相手なのは間違いないんだよな」


 1回戦目での満身創痍の戦いを思い返し、一抹の不安がよぎったが、今は試合に向けて準備するしかない。待機所から試合場へと続く廊下を一直線に歩き続ける。


 待機席で最後の試合を見送った後、試合場へ足を踏み入れたアランは周囲を見渡し、改めて試合場の様子を確認した。試合場は先ほどと同様に、タイル状の岩盤が幾重にもわたって敷き詰められた円形のフィールド。しかし、1回戦目でモクジが地形操作魔法で作り出した地面の歪みは跡形もなく消えていた。


「上級魔導士の誰かが、土魔法で直したんだろうな。にしても、地面が歪んでいたとは思えないほど綺麗だな」


 アランが立つフィールドは、塵1つ無く平らに整っており、この上で魔法の打ち合いが行われたとは到底考えられない程の修復。一般の魔導士では、ここまでの修復をするのに数時間は要するだろう。

 しかし、これを直す腕を持つほどの上級魔導士は修復係である以上、この試験をどこかで見ているということ。今後の講義に顔を合わせることを考えると下手な失敗は出来ない。

 全試合のギリギリの勝負を思い返しつつ、今回はヘマをしないと心に誓い、アランは試合開始の合図を待つ。


 だが、前試合同様、相手の確認はしなければならない。剣を取り出して魔力放出の確認を行う傍ら、アランは目前で腕の曲げ伸ばしをしている生徒に向けて視線を送る。

 淡い赤色の頭髪に紺色の長袖という、色調に統一性の取れた容姿の大人びた少年。水晶板を確認すると相手はシエンという生徒であり、1回戦では確か、炎元素の遠距離系魔法を多用していた生徒だったと記憶している。


「遠距離魔法なら、近接に持ち込めれば勝機はあるか? だとすれば、まずは近づくために遠距離魔法をどうにかしないと……」


 しかし、行動分析の途中で、試合開始前の合図が掛かったため、お互いが向かい合うようにして中央の定位置へとついたのち、一呼吸。すると、お互い揃ったのを確認した試験管は改めて口を開く。


「それでは、試合開始!」


 変わらない開始のコールが試験管から告げられると同時、お互いが一歩後ずさった後に2回戦目の試合が始まった。

 しかし、距離を取ったにもかかわらず、直後、アランは後退の足を前進するためのバネとして、相手との距離を一気に詰めた。彼が行った1回戦の勝利方法は距離を取りつつ火球や火矢を間髪空けずに畳みかけること。先手で遠距離魔法を連発され、魔法の打ち合いに持ち込まれれば確実に勝機はない。


 試合開始と同時に走り出したこともあり、シエンの詠唱前に攻撃が届くという想定で、数秒で間合いに詰め寄ったアランは下方から上方に向けて雷剣を振り上げる。しかし、次の瞬間、シエンは一回戦に発動した遠距離魔法とは全く異なる魔法の発動を宣言した。


「炎魔法 第2章 ブレイズ・アーマー(炎粉の鎧)」



7

 予期していない防御魔法の展開による衝撃で、剣先が腹部に接触した直後、アランの体は数メートル背後に吹き飛ばされる。剣を振り下ろそうとした右手は不可視の斥力によって痺れが生じているが、予想外の事態に対する状況把握はその痛みを上回っている。1回戦の動きから考えても確実に遠距離魔法を放つとばかり思っていたが、初手に使われた魔法は紛れもない防御魔法。遠距離で来るという思考を読まれたのだろうか?


「初めに守護魔法使っておいて正解だったわ。何もせんかったら完全に斬撃食らってお釈迦やったしの」


 のうのうとした言葉づかいで独り言をこぼすシエンは、吹き飛ばされて数メートル前で対峙するアランへと向き直る。


「1回戦の勝敗見てたんならやっぱり、そう来るわな。1回戦の試合は陽動として使わせてもろうた」


「陽動だと?」


「わいとて早々に負たくはないんや。開始直後に熨されたら、たまったもんじゃない」


 要するに、誘い込んだと言いたのだろう。遠距離魔法を用いた前回試合を見ている想定で彼は先んじて防御魔法を発動していた。それが開始直後に遠距離魔法を放たなかった理由なのだろう。


 この発言によって、アランがこれまで考えてきた作戦は全て白紙。だが、そうなれば再度、異なる攻略策を立てるしかない。言葉を聞き終えた直後、アランは雷剣に変換したエレメントを流し、剣宿しの状態へと変化させた。


「ああ、そうかよ!」


 未知の戦いを控えるの中でも、揺るぎない闘志を胸に、アランは正面に佇むシエンへ雷剣を向ける。すると、それを戦闘の開始と受け取ったシエンは即座に、短い詠唱を口にする。


「炎魔法 第4章 ピラー・イグニス(炎柱)」


 魔法名をコールした直後、杖の先から火の玉が3発同時に放たれる。戦法を変えたと言えど、習得魔法には限りがあることから、これは遠距離魔法の一つと見て間違いないだろう。

 しかし、向かいくる火の玉に対し、アランは向かい合う形で剣宿しの雷剣を構える。


「確かに何発も打たれれば対処できねーけど、俺だってこんなところで負けてられないんだよ」


 雷魔法を扱い始めて日が浅い今のアランには、当然、使用できる章が限られており、遠距離魔法は5章の「投擲」しか存在しない。そのため、アランは試合前まで必死で遠隔魔法の対策を考えてきた。

 まだ安定とは程遠いが、遠隔魔法をシエンが使用した以上、試すしかない。


「雷魔法 第6章 ライトニング・バニッシュ(雷消滅)」


 コールと同時にアランは雷剣を横一文字に薙ぎ払う。それと同時に、火の玉はその軌跡の上下空間に侵入した直後に突如消滅。代わりに軌跡を描いた雷剣に雷元素の黄色い光が宿った。


「なんやと!」


 放った魔法の消滅という予期していない状況に、シエンは思わず驚きの声を上げる。しかし、それとほぼ同時に魔法の反動がきたアランは、体内から急激な魔力減少を知覚しつつ、その答えを告げた。


「雷消滅は雷剣が持つ元素変換を描いた軌跡の上下に展開する魔法。お前の火の玉ならこの雷剣の中だ」


「元素変換? まさか、お前のその剣・・」


 何かシエンの中で心当たりがあるようだが、それでもアランは続ける。


「さあ、こっからだ。簡単に遠距離魔法は放たせねーぞ!」


 火の玉を全てエレメントへと変換した雷剣は、刀身が光に覆われた剣宿し状態。数発程度であれば、火の玉も雷魔法で防ぐことは出来るだろう。


 未だ言葉に詰まるシエンを正面に見据え、アランは正面から切り込んでいく。


8


「とはいえ、どうやって攻撃を与える?」


 敵元へ向かう中でも、なお、アランは雷消滅なしでの接近方法を考え続ける。

 数発程度の火球であれば、雷剣で触れた瞬間にエレメントへと還せるが、当然、無効化したところで相手は無傷。かつ、攻撃がなくては、こちらが一方的に魔力を削られ、ジリ貧になることは間違いない。


「持久戦は実質敗北。早期決着には距離を詰める必要があるが、攻撃を食らえば一発アウト。接近の難易度は雷剣狼と同じかよ」


 言葉にして、再度、その難しさに震えるが、選択肢が限られており、やむ負えない。無傷で勝利は確実に不可能であり、どのみち、多少のリスクは腹をくくるしかない。


「いくぞ!」


 黙り込むシエンにも聞こえるほどの声でアランはその戦いの火ぶたを切る。しかし、それを察したシエンは、高速で詠唱の式句を呟き、手元の杖を真上に振り上げた。


「炎魔法 第5章 ツイン・フラグレーション(双炎)」


 魔力を貯めていたのか、コールと同時に、シエンの掲げた杖先からは火で形作られた2本の波が出現する。うねるように空中へ放出された波は、しばらくその場に残留し、時間差で左右へと分かれたのちに、上空から地面へと降り立つ。波が通った軌跡には地面であろうとたちまち業火が立ち上り、地面の上に立つ自分を焼かんとばかりに迫ってくる。


 ―同時消滅は無理だな。


 雷剣の都合上、二方を同時に相手取ることは不可能であり、必然的に片側から処理しに行くしか防ぐ手段はない。左右を見極めて、左の速度が遅いと理解した直後、アランは先に右側に迫りくる波を処理すべく、波の先端へと向かって行った。


 火の波は先端へ向かう中でも前進を続け、アランがいた足場は位置は先端を捉えた時にはすでに左側から迫る火の手が覆いつくしていた。しかし、ついに火の先端を捉えたアランはそれを雷消滅で消すべく、高速で地面を薙ぎ払った、が……


「なに?!」


 波の根源であった先端を地面もろとも切り裂いたが、先端の火が消えたのみで、後の軌跡を形成していた業火は残ったまま。迫りくる左側の波は今もアラン目がけて前進を続けている。

 そこで、初めてアランは敵の意図を理解し、急遽、波の通った軌跡である半円の外へ出ようとしたが、時すでに遅し。


 右側の波の先端は消滅したにもかかわらず、再度、立ち上るほどの業火を発し、その回避のためにアランは半円の内側へと誘い込まれた。左側の波はアランの先ほどいた右側の先端の位置へと到達し、アランの周囲は火の波の軌跡によって形成された業火によって包まれる。立ち上る炎は、数メートル離れた位置でも熱を感じられ、完全にアランは炎で作られた円によって包囲されてしまった。


「お前の魔法が”贈与”だと分かった以上、半端な魔法で対抗しても、勝てるわけないわな」


 魔法の奥から話すシエンの声のみが聞こえる。囲んだうえで魔法が来ることは必然であり、次発の魔法に対し身構えた。 


「煙魔法 第3章 スターティング・シグナル(狼煙)」


 すると、コールが唱えられた瞬間、獣の形をした黒煙が燃え盛る火をすり抜けてその内部へと飛び込んできた。


「何だと!」


 炎を潜り抜けたのも勿論、信じられないが問題はそこではない。聞き間違いでなければ彼がコールしたのは煙魔法。混合魔法の一種であり、雷魔法と対をなす魔法。火と土の混合魔法であり、それに該当した狼は神話にも登場した。


 有り得ない。そうとしか言いようがないが、そもそもなぜ、シエンは煙魔法を使えるのだろう? しかし、その疑問を告げる手前に先んじてシエンの口が開かれる。


「なぜ、煙魔法を使えるか? それは多分、君と同じやと思うで。この魔法は怪我をした灰色の狼から教えて貰ったんや」


「狼・・」


 煙魔法を用いる灰色の狼。そんなものは、ノーガリアどころか、アストラル王国中を探しても一匹しか存在しないだろう。雷剣狼と共に神話上に出てきた狼の片割れである灰煙狼。そして、雷剣狼とともに部屋のクリスタルに封印されていた同志とみて間違いない。


 しかし、雷剣浪と共に屋敷を破壊したのはつい先日の出来事であり、あの前日までは灰煙狼は檻に捉えられたままだった。なら、なぜシエンは煙魔法を使えるのだろうか?


「倒れていた狼はなぜか、言語が理解できた。だから、倒れた理由を聞いたら、狼は知らない追手から逃げた際に重傷を負ったそうや」


 炎の奥で表情が見えず意思疎通を行えないが、アランの疑問だった魔法の習得理由はシエンの言葉と共に徐々に明らかになっていく。その言葉を一言たりとも聞き逃すまいと必死に耳をそばだてる。


「そして、自分の他に3体の仲間がいたことも聞いた。なら、何処かに、わいみたいな4匹の狼の魔法を使うやつがいてもおかしくない。まさかこんな身近の魔導士がそうだとは考えもせんかったわ」


 言葉が切れたと同時、炎の円に入り込んでから不動だった黒煙の狼が突如、アランに向けて走り出した。しかし、狼が迫りくる中でもアランは必至に脳内の整理を行い続ける。


「シエンが出会った灰煙狼は追っ手から逃げていた……」


 雷剣狼も去り際に同じようなことも言っていた。であれば、やはり、雷剣浪たちをあの屋敷に捉えた犯人は共通だったということなのだろうか? どんなに考えたところで、当然、結果は本人しか知るはずがない。


 しかし、そうと決まればやることは一つ。アランは迫りくる黒煙狼を持ち前の反射神経で直前で交わして胴体を一裂き。すれ違いざまに裂傷痕を付けて狼を消滅させると、再度、炎の奥に佇んでいるであろうシエンに向けて再度、向き直った。


「あいつに聞くしかないよな」


 この試合に敗北すれば口を割らない可能性は十分にあり得る。彼から情報を得るためにもこの戦いは勝利する必要がありそうだ。そう決心し、まずは炎で囲まれたこの状況を打破すべく、シエンの声が聞こえた方向の炎へ向けて走り出した。


9

 炎の前に到達した地点で、地面から湧き出る火の波は高さが3メートルほどまで上昇していた。これほどの業火では無理やり突破することはおろか、近づくことすら不可能だろう。

 しかし、先ほどの波が停止した経緯を思い返し、アランは高々と燃え盛る炎にひるむことなく接近して、冷静に雷剣で地面を一凪。すると、刀身が触れた箇所の炎だけは跡形もなく消えていた。


 だが、あまりの熱量にこれ以上ここに留まるわけにはいかず、慌てて炎の波から脱出したのち、目の前に待機するシエンへ向けて数歩、歩み寄った。


「お前も狼に会っていたんだな。でも、従来魔法に加えて混合魔法の取得は、幾分、反則じゃねーか?」


「それはお互いさまや。君の魔法消滅と反応速度がなければこちらも、もう少し手早く勝負決められたんからな」


「そりゃどーも」


 使用魔法を二種持ちえるシエンが自分の何を引き合いに出したころで、それは世辞にもならない。攻撃を受けた限り、炎魔法は煙魔法よりも魔法技術は上であり、雷魔法のみの自分とはだいぶ分が悪いだろう。


「ここまで、かなりの接戦やったけど、それももう終いや。わいとて、魔力はさほど残ってへんからな」


 焦っているのか、言葉を告げる中でシエンは既に杖を持つ手にエレメントを集積させ始めている。何かを発動しようとしているのは歴然だが、言葉通りではどうやら彼の魔力はさほど多くないとのこと・・


「…………」


 しかし、その発言によってアランの中に一つの活路が見出される。


 ー今ならいける。


 魔力減少が偽りであれば、その活路もすぐに水の泡。しかし、それを試す価値は十分にあるだろう。雷剣から伝達される魔力に意識を集中させ、アランは雷剣の刀身に手元に残る精一杯のエレメントを流し込んでいく。


 すると、剣宿しを始めた直後、シエンの身体を覆っていたエレメント装甲であるブレイズ・アーマーの腹部が一瞬輝きを帯び、それと同時に杖先のエレメントは消滅。両膝は地面につき、その衝撃でシエンの体は前のめりに倒れた。


「え?」


 起こった事態を把握出来ず、その場に倒れ込むシエンは驚きの表情で目の前に佇むアランへと視線を向ける。


「初めに、お前に向けて切りかかった時に、雷剣のエレメントの一部を装甲の内部に紛れさせておいた。雷剣の魔力変換でお前の魔力は少しづつ、雷剣の雷エレメントに変換されていたんだよ」


 初撃でブレイズアーマーを展開された際、アランの手元には無意識に流れ出ていた無属性エレメントが雷エレメントへと変換されていた。


 気が付いたのは、シエンの胴体に剣身が触れた瞬間。弾かれる寸前で表面に僅かな黄色い火花が散った時だった。


 それに加えて、雷剣のエレメントは他元素のエレメントを侵食する性質を持っている。アランの無属性エレメントが雷エレメントに変換されたように、内在するエレメントの影響は離れていてもその効力を発揮し続ける。


「初撃の防御は予想外だったけど、お前の内在魔力が少ないと言った瞬間、攻撃が無駄じゃないことが分かった。魔力変換は少しづつ、お前の体内で起こっていたんだよ」


「はは、あの時に元素入っていたなら気づく訳ないわな。変換量次第でさらに魔力奪われるみたいやし、こりゃ動けんわ」


地面を手につき、魔力切れが近いシエンは半ば倒れそうな状態で言葉を続ける。まともに立つことができない以上、今、話しているのも相当、身体に負担をかけているのだろう。


「降参や降参。魔力ない状態で、直に剣で切られるなんて御免や」


 現状を踏まえた上で、形勢を覆す術が彼にはなかったのだろう。シエンが降参を宣言した直後、フィールド外で試合の行く末を見守っていた試験管から判定が下される。


「2回戦、Aリーグ第2試合 勝者、アラン!」


 勝利宣言が告げられたのち、観客席からは盛大な歓声が響き渡る。しかし、気持ちはそれどころではなく、目の前で動けない様子のシエンへ向けて歩みを進める。


「試験後に話したいことが山ほどある。話したくなくても話してもらうからな」


「そんなん、分かっとるわ。けど、君の情報も提供してもらうからな」


 その言葉に静かに頷き、アランは闘技場から踵を返す。最終戦までいくには、この先で2勝する必要があり、トーナメントの参加人数も減る中で待機時間がないなど、弱音も言ってられない。即座に、数試合後に控えた準決勝へと気持ちを切り替え、待機所へと足を進めた。


10

 次の試合は準決勝。残された試合は1試合と少なかったが、泣き言は言ってられない。2回戦までの待機時と同様、控室で試合を見ているとふと、どこからか声が掛けられる。


「相変わらずだな、アラン」


「ッ……って!! おい!」


 突如として掛けられた声に、アランは驚くと同時、その出所を探して周囲を見渡す。


「どこから聞こえるんだ?」


「お前の手元だよ」


「え?」


 言われるがまま、手元へと視線を落とすと、手元の雷剣には既に黄色い光が宿っていた。声が聞こえていたのは恐らくここだろう。ということは……


「雷剣……ってことは、雷剣狼か?」


「いかにも。剣に接続したマーキングを介して話している」


「そ、そうなのか。便利なんだな」


 思い返せば、確かに、雷剣狼は顕現できる剣をすべて操れていた。そう考えれば剣を介した意思相通は容易なのだろう。しかし、そんな想像を差し置いて、雷剣狼は先んじて口を開いた。


「本題に入るが、先ほど、混合魔法の衝突がこの雷剣から感じ取れてな。直近まで、混合魔法使いと戦闘をしていなかったか?」


 混合魔法ということは、先ほど対峙したシエンの煙魔法で間違いないだろう。魔力衝突まで知覚できるのは驚きだったが、既知のごとき口ぶりで雷剣狼はアランに尋ねる。


「あぁ、試験のテストが対人戦に変更されて、煙魔法を操る生徒と戦ってた」


「ほう」


 思わぬ事態に興味深げな声で返答をしたのち、雷剣狼は一瞬黙り込む。しかし、その直後に、再度、言葉が続けられる。


「やはりそうか。魔力衝突を感知して気になっていたが、対人戦とはな。雷魔法を使い始めたばかりでは善戦も難しいだろう」


「多分、お前の想像通りだよ。けど、詠唱は少しずつ馴染んできてる」


 未だ、使用が未開拓な雷魔法だったが、少なからず使用できる魔法が増えているのは間違いない。すると、その言葉に雷剣狼は小さく笑い声をこぼしたのち、


「そうか、それならよかった。ただ、混合魔法である雷魔法とて、六元素同様に得意としない魔法がある。不利な相手との対面はこの先、必ず来るだろうが、それをお前は理解しているか?」


「不利な魔法? 雷なら元素変換の『レジン(樹脂)』とかか?」


 一切雷魔法に関する知識を持ちえないが、講義で学んだ自然現象の雷を基に直感で答える。すると、その言葉に雷剣狼は「そうだ」と肯定を示した。


「だが、雷魔法どころか他の混合魔法や六元素全ての魔法に共通する相性不利な魔法がもう一つ存在する」


「六元素全てだと?」


 思わぬ発言にアランは一瞬耳を疑う。しかし、その言葉を聞いてもなお、雷剣狼は言葉を続けた。


「その魔法の名前は『虚無魔法ナヒラティー』。魔法が接触した瞬間に魔法そのものを消滅させることが出来る魔法だ。その消滅した魔法は、術者が二度と使えなくなるそうだが、かつては対魔法であれば無類の強さを誇る『対の魔法』として存在していたらしい」


「使えなくなる?!」


 魔法の消滅だけなら雷消滅と同じだが、使えなくなるとなれば話は別だ。魔法を生業とする魔導士にとって魔法は自らの財産に他ならない。それを封じられるとなれば魔法の対抗策として相当な強さを誇っていたことも納得できる。


「唯一、対抗できるのは『創造魔法クリエイション』のみ。それ以外の魔法では一切太刀打ちできなかった魔法史史上、唯一無二の魔法だ」


 虚無魔法に対する対抗策なのだろうが、それを加味しても虚無魔法の存在を聞いた今でもアランは無性に鳥肌が立っていた。その魔法はつまり術者の魔法を消すと同時に封印することができるということだ。対峙したら最後、誰も虚無魔法には太刀打ちできないということに他ならない。


「ただ、この魔法はある魔導士を最後に、その後、一切発見されていない。恐らく戦うことは無いだろうが、いざ戦うとなった時にはこれだけは覚えていていろ」


 言葉に詰まりながらも雷剣狼は虚無魔法が現在は確認されていないという事実を告げたのち、数秒の間を空けて再度、言葉を続ける。


「創造魔法は属性魔法ではなく、引用魔法。つまり、エンチャント最終形態であり、誰もが覚えることが可能だ。だが、発動に際し、引用元の魔法維持を放棄すれば、創造魔法の強力な魔力に飲まれ、廃人化する。まあ、存在しない魔法の対処法を教えたところで役立つ時が来るかは分からんがな」


「いや、まあ、そうだが…」


 唐突に告げられた虚無魔法に対する抵抗策の意味の消化不良具合に困惑する。しかし、そんな悩んでいる時間も待たぬうちに雷剣狼は先んじて言葉を発する。


「もう少しで私は場所を移動する。また話せる時がくればいいがな」


「あ、あぁ、そうだな。でも見てろ! 次、話す時には今より雷魔法は使いこなしているからな!」


「ふん。上達してればいいがな」


 先ほどの言葉を今だ根に持っていたアランは会話の限界を示す雷剣の発する光が消滅する傍らで啖呵を切って雷剣浪へ大口を叩いた。これくらい告げたとして、雷剣狼に見れば目にもくれないだろうが、現実はさておき、心意気だけは本物だ。次に会う時には何が何でも上達することをアランは心に誓う。


「というか、見つかっていない魔法を伝えるために会話をしに来るっていったい何なんだろうな? ただ単に混合魔法の衝突を確認するだけだったのか?」


 しかし、そんな疑問を考える暇もなく、歓声が鳴り響くと同時、どうやら先ほどの準決勝の一試合目の終了が告げられる。勝者は当然、サリアであり、上部に掲げられた水晶板にはトーナメント票を勝ち進んだサリアの文字が浮かび上がっている。それを確認した直後、試合開始5分前の合図が鳴り響き、それを合図にアランは闘技場へと向かうことにした。

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