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世界一運が良くて運が悪い優しい人。

作者: ヒロモト




少しだけ強い雨が降っている日の事だった。


「あなたの為に祈らせてください」


あー。怪しい宗教のお誘いがいるな?めんどいから無視しようかな。


「シェアーシェアーシェアー。ありがとうございます」


川に向かうバスに並ぶ釣り人達は顔の濃いボロボロの黒フードの男の話を聞いて大人しく祈られている。

アラブっつーかインドっつーかその辺の国の人かな?まぁ小汚ないが悪人には見えない。なんかどっかで見たことあるな。


「あなたの為に祈らせてください」


「まぁいいけど。質問していい?」


「どうぞ」


こんな経験も滅多に無いだろうから話でも聞こう。


「なんでこんな事してるの?」


「分け与える為です」


「何を?」


「運です」


男は自分を『神に選ばれた世界一運のいい男』と名乗った。

そして『その運を人に分ける能力を神から授かった』だからその運を分ける旅をしてるんだと。

立派なもんだねー。俺なら誰にも分けないね。


「のわりには汚い格好だね」


「たくさんの運を分けたからです。とても誇らしいです」


はー。大したもんだねー。全然信じてないけどさ。

もう興味ねぇや。バスが出ちゃうから速く祈ってくれや。


「……シェアーシェアー」


俺に祈りながら何度も深く頭を下げる。

つーかシェアーって何だよ。分けるって意味だろ?

適当な呪文だねぇ。こりゃ効果は期待できねーな。


「ありがとうございます。あなたはとてもついてないので運を凄く使いました」


「おー。サンキューサンキュー」


男の祈りの効果はやはり無かった。何が世界一運のいい男だよ。バスはマシントラブルを起こしてバス会社が代車のバスを用意するまで乗客は暖房の切れた車内で待たされ、おまけに俺はコンビニでトイレを借りようとしてバスから出たら凍った地面に足を滑らせて肩甲骨を折った。

バスでなく救急車で運ばれる事になっちまったよ。



俺たちが釣りをする予定だった川で洪水。付近の崖で雪崩が起きた。

幸いにも死亡者はいない。バスが時間通りに発車していたら俺たちは死んでいたかもしれない。

俺は病院のテレビでそのニュースを見てゾッとした。


『行方不明になっていたシェアー国の王子。ブレッド氏が日本で死亡』


おまけみたいな感じで伝えられるそのニュース。

ブレッド氏は『公園のベンチで寝ていたら雷に撃たれて』死んだらしい。漫画みてぇだ。なんつー運の無さだよ。

『シェアー国』。石油。天然ガス。プラチナダイヤその他。

突如現れた小さな小さな国で『世界で一番国民が幸せな国』と呼ばれていた。


『ブレッド氏は各国を旅していたそうです』


ブレッドは危ない所ばかり旅していたらしい。


『これらは偶然でしょうか?』


ブレッド氏が訪れた国には大きな幸せも訪れていた。

『殺人ウイルスが消滅した国』『食料不足が解決した国』『戦争が終わった国』。


「……あ」


ブレッドの写真が映った。写真では豪華な服を着ているが、あの怪しい黒フードの男だ。


「……世界一運のいい男か」


世界一運のいい男は世界一優しかったのかもな。

俺は今でも『運を分ける』なんて信じちゃいないが、月に一度。ブレッドが死んだ場所に祈りを捧げるって習慣は3年間かかしてはいない。

俺と同じことを考えている奴は多いみたいでただの公園が最近世界遺産になったんだ。











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― 新着の感想 ―
[良い点] 国に蔓延っていた不幸を丸ごと取り除けるなんて、王子の運は凄まじかったんですね。優しさで人を救おうとするその姿勢、ヒーローと呼ばれるに相応しいと思いました。
[一言] 話の語り方がとても好き。
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