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遠野 亜理子 1

 「久しぶりだねぇ~アリスちゃん。」


 無精髭と、顔半分を覆うサングラス、擦れたカウボーイハットに、アイロンをかけてないだろうくたびれたYシャツ・・・。


 彼を簡潔に言い表すとしたら「胡散臭いオジサン」だ。


 彼は大きなソファーにもたれ掛かり、古臭いポケットゲームプレイしている。


 「あぁ、ちょっと待って、今セーブするからさぁ~・・・・いやぁ~コレさぁ~モンスター251種類コンプするの無理なんだよねぇ~。カセットがもう一つ必要だしさぁ~本体も。あと、通信ケーブルも必要なんだよねぇ~アリスちゃぁ~~~ん。」


 ポケットゲームを片手に、彼はサングラスの下から私を覗き込んでくる。


 「何?欲しいの?」


 「いや、コンプするつもりは無いし、中学の時に一度クリアしてんだよねぇ~。」


 そう言いながら、彼はゲームのスイッチをカチリと消すと、改めて私に向き直る。


 「10日ぶりだね。」


 「アナタにとってはね・・・・私にとっては2日ぶりよ。」


 「またおっぱい大きくなったんじゃない?」


 「そのセクハラ、毎回言わないと気が済まないわけ?」


 「ルーティーンだよ・・・・キミと会った時のね。」


 「あら、私の胸に並々ならぬ興味があるのね。女子高生のおっぱいを嘗め回したいの?オジサン」


 自分の胸を両手で押し上げながらそう返すと、彼は困った表情で両手をあげる。


 「悪かったよアリスちゃん、もう言わないからイジメるのはやめてくれないか?」


 「昨日来れなかった分、今日はたっぷり経験値稼ぎたいのよ。無駄話はまた今度にして。」


 そう伝えてスーパーの袋を投げ渡す。


 「昭和チョコレートに甘露飴、ソフトキャンディーと・・・・醤油と油とチューブにんにく!!頼んでたものより多く入ってるねぇ~。」


 彼は袋の中身を確認すると、嬉しそうに言う。


 「昨日来れなかったでしょ。私にとっては1日でも、アタナにとっては予定より5日間も空いたわけだし、必要なものも増えてるんじゃないかと思って・・・・余計なお世話だった?」


 「いや・・・最近、探索者が減ったからねぇ~こうやってアッチの物を買ってきてくれるだけでありがたいのに、ここまでオジサンの事考えてくれて・・・・・・泣きそう。」


 彼はそう言いながらサングラスを外すと、大げさに涙を拭うフリをする。


 「そういうのいいから、預けてる私の装備と報酬。」


 「はい、アリスちゃんのBOXは4番だったよねぇ~あと、報酬は色付けて金貨3枚と、お守りもあげるよ。」


 彼はそう言い、鍵と金貨と何かの結晶体を渡してくれた。


 「・・・・・コレは?」


 その水色に淡く輝く正八面結晶体は、とても美しい。


 「それは使い捨てのスキルキューブだよ。持ち主が攻撃を受けた時、一回だけダメージを軽減してくれるのさ。」


 「ゴブリンからの攻撃でも?」


 「然り、ゴブリンからだろうがドラゴンからだろうが関係なく発動するし、一回で砕け散る。」


 「・・・・・・使い辛い。」


 「そうだねぇ。しかもコレは7階層以降でしかドロップしないレアものだ。ザコの攻撃で消費するにはあまりにも惜しい。」


 「下手に攻撃喰らえないじゃない。」


 「そう、だからこそお守りだ。アリスちゃんはもうすぐレベル30だろう?焦って雑な立ち回りして死なれたら、俺の買い出し依頼は誰が受けてくれるんだい?」


 「余計なお世話よ。私は慎重だし、安全マージンも十分に確保してる。」


 「それは重畳チョウジョウ、ただの杞憂オジサンだったようだ。」


 彼はそう笑うと、ゲームのスイッチをカチリと入れる。


 「・・・・・・・・・・・・・ありがとう、大切に使うわ。」


 装備に着替え帽子屋を出ると、そこはダンジョン1階層のエントランスで、綺麗な噴水と、そこから繋がる水路がダンジョンの奥へと続いている・・・。


 美しく壮大なバロック建築を思わせるここは、見た目とは裏腹に、怪物どもが跳梁跋扈チョウリョウバッコする地獄の迷宮である。


 『へぇ~アリスねぇ~可愛い名前だねぇ~。それじゃぁ俺はイカれた帽子屋(マッドハッター)ってところかな?』


 2年前、このダンジョンに迷い込んだ私に彼はそう言った。


 このダンジョンでアイテムの売買や預かり所の役割を果たしている帽子屋は、ダンジョンから出ずにその中で暮らしている変人だが、何かと気にかけてくれる。


 カシャンと昇降機の扉を開けると、『B3』と刻まれたレバーをガチャリと押す。


 カチチチチという音とともに、昇降機はゆっくりと地下深くへ下りてゆく・・・。


 その先に待ち受けるのは、人を喰う怪物どもだ・・・・。





 ギュっと、剣のグリップを握りしめる。


 

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