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ダンジョンバグ


 百合とデュオを組んでから数日が経つ。

 その頃になると狐龍との戦いで負った傷も癒えていた。

 医療魔法様々だ。


「さて、と」


 VR空間にログインして広場に降り立つ。

 今日は百合とダンジョンの下見に向かう予定だ。


「百合はまだか」


 ウインドウを開いて検索を掛けると、まだログインしていないことがわかる。


「はやく来すぎたな」


 ウインドウを閉じて顔を持ち上げると、何人かと視線が合う。

 それはすぐに逸らされたものの、周囲を見るといくつかの視線を受けていた。


「んん? ……あぁ」


 そう言えば入院している間に、見舞いにきた百合が言っていたっけ。

 狐龍を討伐したことが冒険者の間でちょっとした話題になっている、と。

 まぁ、ランキング最下位とそこそこの二人組が狐龍を討伐したとなれば話題性は十分だ。

 周囲の視線も引くだろう。


「ランキング最下位がねぇ」

「どんな手を使ったんだ?」

「相方が強かったんだろ? あいつ瀕死だったみたいだし」

「なんだ、寄生じゃん」


 良い意味でも悪い意味でも。


「早めに移動しとくか」


 閉じたウィンドウを開いてダンジョンへと転移する。

 出入り口の前に立ってリスポーン位置を更新しつつ百合を待った。


「――あ、もう来てたんですね」


 それからすこしして百合が側に転移してくる。


「怪我の具合はどうですか? いくつか骨が折れてたみたいですけど」

「それならもう完治したよ」


 現実世界にはないベンチから立ち上がり、うんと伸びをする。


「医療魔法は偉大だ」

「想真さんが気を失った時はどうしようかと思いましたよ、本当に」

「世話かけたな」

「いいんですけどね。私のほうが助けられっぱなしですから」

「持ちつ持たれつって奴だな」


 歩き出してダンジョンへと足を踏み入れる。

 白亜の石材が敷き詰められた通路を歩き、構造を把握していく。


「舞えよ、太刀風。剣舞の如く!」


 時折、現れる魔物を風の分身が斬り伏せる。

 すり抜けてこちらに迫る魔物は、百合自身が斬り裂いてみせた。

 俺はただその様を後方から眺めつつ、あくびを一つする。


「ちょっとは手伝ってくださいよー!」

「いいけど。たぶん、すぐ死んで入り口からやり直しになるぞ」


 こっちだと弱体化して史上最弱になるし。


「現実だとあんなに強いのに……」

「まぁな」

「褒めてないです!」


 そう言っている間にも最後の一体が討ち取られた。

 風の分身は役目を終えたように霧散して掻き消える。


「ふぅ……」

「お見事」


 百合を労いつつ、通路の奥へと向かった。


§


 百合の活躍によってダンジョンの最奥付近にまで足を進めることができた。

 実は俺自身どのダンジョンでも最奥付近まで進んだことはなかったりする。

 仮想世界でも、現実世界でも、だ。

 一応、最奥には巨大な魔石が生成されているのだけれど、それに辿り着くには強力な魔物が陣取る縄張りを抜けなければならない。

 かなり面倒なので大半の冒険者は各地に散らばる細々とした魔石だけを集めるようにしている。

 小遣い稼ぎにはそれで十分だからだ。


「そう言えば……特別報酬でなにを買うつもりなんだ? 百合は」


 狐龍討伐の特別報酬を冒険者管理協会からもらっているはず。


「えーっと、ですね」


 歯切れが悪い。


「まさか、もう使い切ったとか?」

「あははー……はい」


 数日で使い切ったのか、あの額を。


「なるほど。それでダンジョンに」


 ダンジョンの下見がしたいと言い出したのは百合だった。


「こ、こういう時に限って出費がかさむんですよぉ!」


 また百合は泣きそうな声になっていた。

 まぁ、たしかにそう言うこともある。

 冒険者をしていると消耗品に費やす金も馬鹿にならないからな。

 油断してると見間違いかと思うような金額を請求されることもある。


「大変そうだな、色々と」


 身に憶えがあるだけに同情した。


「――ん?」


 ふと白亜の通路が歪んだように見えた。

 その歪みはまたすぐに現れ、今度は数が増える。


「なんだ? これ」


 その歪みは瞬く間に増殖し、周囲のすべてを侵食していく。


「な、なんだか変じゃないですか? これ」

「バクか何かだろうな。とりあえず、下見も出来たしダンジョンを出よう」

「そ、そうですね。なんだか怖いし」


 ウィンドウを開き、ダンジョン外への転移を試みる。


「あ、あれ?」


 しかし、反応がなく転移が始まらない。


「ログアウトは……」


 ログアウトも出来ず、現実にすら帰れなくなる。


「絶対おかしい。これ、絶対おかしいですよ! 想真さん!」

「あぁ、これは不味いかも知れないな」


 周囲の世界が崩壊し、真っ白に塗り潰された。

 バグで次元の狭間にでも落っこちたのか?

 だとすると開発局がこの状況に気づくのを待つしかなくなるけど。


「ど、どどど、どうしましょう……」


 震える百合が俺の腕を掴む。


「大丈夫だって、しばらくすれば――」


 勇気づけようと声を掛けてすぐ、状況に変化が起こる。

 前方上空に、黒い穴のような物が開く。

 出口かと思ったが、次の瞬間にはそれは否定された。

 それは入り口だったのだ。


「ガアァァアァァァァァアァアアアッ!」


 穴から魔物が落ち、立ち上がって咆哮を叫ぶ。

 あらゆる獣の要素を組み合わせたような奇獣の魔物が、この空間に入ってくる。


「なにがどうなってるんだ?」


 それは誰にもわからなかった。

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