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風が吹く


「でも、組むなら百合の戦力を把握しておかないとだな」


 俺は昨日の時点で見せているし、VR空間だと弱体化するし。


「あ、じゃあ、依頼を受けるまえに移動しましょうか。平原でいいですか?」

「あぁ、じゃあ飛ぶか」


 俺達はウィンドウを操作し、ギルドから転移する。

 転移先はフラットな地形が地平線の彼方まで続く平原。

 気持ちの良い風が吹き抜ける地に降り立った。


「さて、実力を見せてもらおうかな」


 ウィンドウを操作して魔物を一体その場に召喚する。

 四足獣型の最もよく見かけるタイプの魔物だ。

 初期は待機モードになっていて、犬のように眠っている。


「まぁ、一体じゃ物足りないか。何体くらいまで捌ける?」

「そうですね、二十くらいならいけますよ。よわっちいし」

「二十ね」


 手早く設定し、残りの十九体を一気に召喚する。


「じゃ、遠くから見させてもらうよ」


 その場から離れて、戦闘の邪魔にならない位置につく。


「行くぞ」

「はい! どんと来いです!」


 召喚した魔物たちの待機モードを解く。

 すべてが目を覚まして立ち上がり、遠吠えを叫んで得物を見据える。

 そうして一斉に動き出し、百合に牙を突き立てようと駆けた。


「舞えよ、太刀風。剣舞の如く!」


 唱えたのは風の魔法。

 百合の周囲に風が集い、旋風が一つの形を造る。

 それは剣を構えた朧気な風の分身。

 複数体同時に現れ、迫りくる魔物たちと激突した。


「あの魔法……」


 俺の記憶が正しければ、あれはただ風の刃を飛ばすだけの魔法のはず。

 だが、目の前では複数体の風の分身が剣を振るっている。

 分身の精度も高く、ただ剣を振るうだけの人形じゃない。

 より高度な魔法へと昇華されている?


「……スキルが魔法に影響を与えているのか」


 考えられる要因はそれくらいだ。

 それくらいのことがなければ魔法がここまで変質することはない。

 なかなか良いスキルを持っているな。


「あっ、すみません。そっちに行っちゃいました!」


 思考の最中に呼び戻され、はっとなって我に返る。

 目の前には大口を開いた魔物が牙を剥いていた。


「あ」


 現実ならばここからでも反撃できていた。

 返り討ちにできていた。

 けれど、VR空間の弱体化した俺ではそれも敵わない。

 大口は閉じられ、牙が喉に食い込み、HPがゼロになる。


「想真さん!?」


 そのまま世界が崩壊し、真っ黒に塗り潰されたのだった。

 考えごとに夢中になっていた俺が悪いな、これは。


「リスポーンまであと三十秒です」


 逆境デバフって恐ろしい。


§


「グローウィング・ストームって言うんです。私のスキル」


 リスポーンして平原に転移で戻ってきた。


「風の魔法のみなんですけど、自動で強化してくれるんです」


 概ね、スキル予想は的中していた。


「ど、どうですか? 私。その……戦力として」

「ん? あぁ、申し分ない。頼りにしてるよ」

「ふー……そうですか、よかった」


 ほっとした様子で百合は胸を撫で下ろした。


「お礼するって行った手前、これで使えないって言われたら立つ瀬がないですからね」

「良いスキルなんだから自信を持っていい。さっきチラっと見たけど、ランキングも結構な順位だっただろ?」


 正確な順位までは見えなかったが、少なくとも半分よりは上だった。


「そうですけど……現実であんなのを見ちゃうとなぁ」


 顔を背けて呟き、けれど百合はすぐに気を取り直した。


「でも認めてもらえたなら、それでいいです。じゃあ、ちゃっちゃとどの依頼を受けるか決めちゃいましょう!」

「そうしよう。またギルドに戻るのもあれだし、ここで決めるか」


 そう言いつつウインドウを開く。


「風情はどうしたんですか? 風情は」

「一回味わえれば、しばらくはいいんだ」


 たまに逆転するけれど、基本的には風情より利便性だ。


「これとかどうですか?」

「あぁ、それもいいな。あとこれも――」


 そうして百合と話し合いながらデュオで挑戦できる依頼を受ける。

 その後、落ち合う場所を決めてログアウトし、現実世界で待ち合わせ場所へと向かった。

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