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仮想世界の弊害


 ダンジョンで少女を救った、その翌日のこと。

 魔導式VRにログインして、仮想世界の噴水広場に足を下ろす。

 すると直ぐ側に誰かが転移してきた。


「あっ、いました! 四条想真しじょうそうまさん!」

「あぁ、昨日の」


 そう言えばダンジョンの帰りに聞かれて名乗っていたっけ。

 それを頼りに検索して俺の座標に転移してきたのか。


「たしか……」

七咲百合ななさきゆりです。もぅ、忘れちゃったんですか?」

「あぁ、そうだったっけ。べつに忘れてた訳じゃないけど」

「本当ですかー?」


 もう会うことはないと思っていたから覚える気がなかっただけだ。

 そう正直には言えなかった。


「歩きながらでいいか?」

「あ、はい。いいですよ」


 広場を移動しつつ、百合と話を続けた


「それで? 今日はどうしたんだ?」

「実は助けてもらったお礼がしたくって。あと色々と聞きたいことがあります!」

「お礼はともかく、その聞きたいことって?」


 そう聞き返すと百合は小走りになって俺の正面に立つ。


「どうしてあんなに強いのにランキングは最下位なんですか?」

「……随分とストレートに聞いてくるな」


 割と触れてほしくないデリケートな部分だぞ、そこは。


「ほら、私よりずっと低い」

「わかったから閉じてくれ」


 ウィンドウに表示されたランキングを見ないように躱して先を歩く。

 百合はそれを閉じて、後をついてきた。


「その順位は固有スキルのせいなんだ」

「固有スキルですか? どんなスキルなんです? それ」

「つまりだな――」


 歩く足を止めることなく、百合にスキルの説明をした。


「なるほど。でも、それでどうして最下位なんかに?」

「VRで逆境もなにもないだろ? 死んでも生き返れるし、痛覚も消そうと思えば設定で消せる。デスペナルティもない。こういう安全が保証された場所だと、スキルがマイナスに働いて弱くなるんだよ」


 逆境に強くなるが安全に弱くなる。

 私生活ではなんの問題もないように思えるこの特性が、VRという環境下では酷くマイナスに働いてしまう。


「お陰でこの仮想世界じゃ誰にも勝てないんだ」


 難儀な話だ。


「ランキング最下位はもう逆境みたいなものですけどね」

「張り倒してやろうか? 現実のほうで」


 そんなやり取りをしつつ歩いていると目的地に辿り着く。

 ほかの連中がギルドと呼ぶそこは本当は酒場の設定だ。

 名前の由来は壁の一部にクエストボードがあるから。

 ここに来れば冒険者管理協会からの依頼一覧が確認できる。

 たぶん、開発者も往年のファンタジーを意識してこの場所を造ったのだろう。


「あ、依頼を探しに来たんですか? ウィンドウを開けば見えるのに」

「それじゃ風情がないだろ? まぁ、俺も普段はそうしてるけど」


 たまにはクエストボートから依頼を探すのも悪くない。


「んー……どれもデュオ以上が必須条件か」


 冒険者管理協会からの依頼を達成すると報酬がもらえる。

 これが冒険者の主な資金源で、魔石の換金は小遣い稼ぎに過ぎない。

 だが、人数制限があるのが大半でソロで受けさせてくれる依頼は少なかった。

 ランキング最下位と組んでくれる物好きなんていないし、こればかりは困ったものだ。


「あっ! 私、閃いちゃいました!」


 不意に百合が大きな声を出す。


「想真さん! 私とデュオを組みましょう! そうすれば受けられる依頼も大幅に増えますよ!」


 それは願ってもない提案だ。


「そいつはありがたいけど。でも、いいのか?」

「はい! それが昨日のお礼ってことで」

「なるほど。それならこっちとしても異存はないな」


 こうして俺達はデュオを組むことになった。

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