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魔導式VR


 白亜の石材が敷き詰められた地面を蹴り、四足獣型の魔物が牙を剥く。

 迫る魔物に対して刀を振るい、それを引き裂いて命を断つ。

 亡骸が転がり、流血で赤い水溜まりができていく。

 すかさず振り返って振り向きざまに刀身を薙ぎ払い、武器を振り上げていた人型の魔物を引き裂いた。


「あ、まず」


 だが、威力が足りずに殺し切れず、得物は振り下ろされてしまう。

 肉体の表面を薄く覆う魔殻まかくによって衝撃は和らげられたが、それが砕け散った上に怯んでしまった。

 その隙を見逃すことなく、また別の四足獣型の魔物が駆けて牙を剥く。

 それは見事に喉元に深々と突き刺さり――


「あぁ、くそ」


 俺のHPをゼロにした。


「あーあ」


 溜息交じりに吐き出した声と共に、世界が崩壊して真っ黒になる。

 なにもない闇だけの世界が広がり、死後の世界へとやってきた。


「リスポーンまであと三十秒です」


 アナウンスが聞こえて、三十秒間の待機時間ができる。

 俺はその間、大人しく待たなければならない。


「やっぱ、VRは肌に合わないな」


 一言ぼやいて溜息を吐く。


「やっぱり実戦でないと」


 調子が出ない。


「リスポーンします」


 そのアナウンスと共に世界が再構築される。

 そして仮想ダンジョン前の入り口にリスポーンした。


「おい、見ろよ。あいつまた死んでるぜ」

「ははっ、ホントだ。流石は最下位常連だな」


 二人組は俺を指差して笑いながらダンジョンへと入っていく。

 このダンジョンバグって消滅したりしないかな。


「まぁ、いいや。帰ろ」


 気を取り直してログアウトし、この仮想世界を後にした。


§


 現実世界にある自室にはテーブルの上に携帯端末がある。

 そのディスプレイが輝いて光球が飛び出し、それがソファーの上で人の形となって自身を再構築した。

 光球から元通りの自分へと回帰し、大きく伸びをする。


「さて、と下見も済んだしダンジョンにいくか」


 ソファーから立ち上がり携帯端末を手にとって外へと出た。

 そうして街中を歩いていると、ふと掲げられた看板が目に入る。

 魔導式VRの広告だ。


「この五十年でもっとも偉大な発明、か」


 たしかに広告の言う通りだ。

 地球が異世界と融合して五十年。

 魔法と機械が融合した魔導機械は、今やあらゆる分野に応用されている。

 魔導式VRもその一つ。

 これまで実現不可能とされてきたフルダイブVRを魔法の力で実現させたものだ。

 しかもVRでの経験や鍛錬は現実の肉体にほぼ百パーセント反映される。

 この性質を利用すればどんな危険な訓練だって行えるし、魔法やスキルの使用に場所を選ばない。

 異世界の脅威に立ち向かう職に就く者なら、誰だって仮想空間で経験を積む時代になった。

 これが偉大でなくて何が偉大なのかという話だ。


「まぁ、俺には合わないけど」


 吐き捨てるように言って看板から目を離す。

 止めていた足を動かして、街の外へと向かった。


「さて、と」


 街を出てしばらく歩くと、現実世界のダンジョンが見えてくる。

 森の侵食により緑がかった白亜の迷宮。

 その内部構造は魔導式VRで経験したものと同じで予め地図で把握済み。

 道に迷う憂いもなく、ダンジョンへと足を踏み入れた。


「――グルルルルルルッ」


 白亜の石材が敷き詰められた地面を蹴り、四足獣型の魔物が牙を剥く。

 迫る魔物に対して刀を振るい、それを引き裂いて命を断つ。

 亡骸が転がり、流血で赤い水溜まりができていく。

 すかさず振り返って振り向きざまに刀身を薙ぎ払い、武器を振り上げていた人型の魔物を引き裂いた。

 今度は深く斬り込んで確実に命を断ち切る。


「そんでもって」


 再度振り返って一撃を見舞う。

 背後から跳びかかって来ていた魔物を撃墜し、亡骸が白亜に横たわった。


「やっぱり現実のほうが調子でるな」


 刀に付着した血液を払って納刀する。

 亡骸はVRのように消えてはなくならない。

 それを踏み越えて白亜の通路を歩いた。


「おっ、あったあった」


 遺跡の内部にはいくつか魔石が結晶のように生えている。

 換金すれば結構な金額になるこれが今日の目的だ。

 それをすべて回収し、空間魔法で異次元に収納する。


「――こんなもんかな」


 いくつか魔石を回収して十分な量を確保できた。

 あとはダンジョンを出て冒険者管理協会で換金するだけだ。

 さっさと帰路につこうと踵を返して、通路の先の角を曲がる。

 すると、視界に一瞬人影が映った。


「ん?」


 そのあと、どんと胸に衝撃が走って誰かとぶつかってしまう。


「おっと、悪い」


 尻餅をついたその誰か、ショートカットの髪の少女に手を伸ばす。

 それを見た少女ははっとなって後ろを確認し、すぐに振り返って俺の手を取った。


「こっちです!」


 そのまま勢いよく立ち上がって、彼女は俺の手を引っ張りながら駆け出した。


「おいおい、どうした?」

「追われてるんです! 一人二人じゃとても相手できないくらいの魔物の群れに!」


 その証明とばかりに背後から魔物の雄叫びが連鎖して聞こえてくる。


「ほら、来たぁ!」


 彼女は泣きそうな声になりながらも俺の手を引っ張っている。

 俺を囮にでも使えば逃げ切れられそうなものなのに、そういう考えはないらしい。


「あ、おい。その先は」


 声を掛けるも、もう遅い。

 彼女が舵を切った先は魔石があった場所で行き止まりだ。


「そ、そんな……」


 目の前に聳え断つ白亜の壁を見て、彼女はへたり込む。


「……すみません、巻き込んでしまいました」

「まぁ、運が悪かったな」


 そう言いつつ背後に振り向くと、大量の魔物が押し寄せて来ている。


「でも、俺を見つけたのは幸運だ」

「え?」


 鞘から抜刀して得物を握り締め、群れに向かって駆け出した。


「こういうスリルは大好物なんだ」


 スキル、アドバーシティ。

 それは逆境に陥れば陥るほど戦闘能力が引き上げられる俺独自の固有能力。

 VRゲーム風に言うなら全ステータスが上昇する逆境バフ。

 火事場の馬鹿力、背水、窮鼠猫を噛む。

 危険なほど性能が高まり、普通なら覆せない状況も打破できるようになる。

 こういう危機的場面での効果は絶大だ。


「片っ端から相手してやる!」


 群れに突っ込み、牙を剥いた魔物を斬り捨てる。

 そのまま流れるように二体、三体と剣撃を浴びせて命を断ち切った。


「プロミネンス」


 畳み掛けるように炎の上級魔法を唱え、周囲に複数の爆発を起こして魔物を吹き飛ばす。

 数がごっそりと減ったが、まだまだ魔物は数多くいる。


「まだまだ、こんなもんじゃないだろ」


 血の付着した刀身を払い、再び魔物の群れに攻めて掛かった。

 刀を振るうたびに鮮血が舞い、魔法を唱えるたびに魔物が吹き飛ぶ。

 あっという間に圧倒的な数の差が覆り、俺は最後の一体を斬り伏せた。


「ふー……」


 血払いをして得物を納刀する。

 振り返って彼女のほうに向き直ると、目を見開いて驚愕していた。


「あ、あの数をたった一人で……」

「まぁな」


 また彼女に手を伸ばし、立ち上がらせる。


「さぁ、行こう。ここを出るぞ」

「は、はい! すぐに行きましょう!」


 こうしてダンジョンの出入り口へと急ぎ、俺達は無事に脱出できたのだった。

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