4ページ目、魔術師と魔術
魔術師の家は、とても簡素な作りであったが、何やら興味というか子供心がくすぐられるような不思議なものが多くおいてありました。
その部屋の中で、ぽつんと置かれたフカフカの一人用のソファに乗せられました。
ああ、私が中身人じゃなかったらバリバリに破かれてたろうに。
そして魔術師さんは、私を放って何やら本をパラパラと捲っていた。
「本当に、そっくりだ…。何故今になって絶滅されたとされる生き物が現れたのか謎だが、なんにせよ手元に置いておくべきだろう」
魔術師は、再度こちらに目を向ける。私は特になにもせず、黙って見返した。
「…猫、さん?そのままの姿では、きっと今後もまた今回のように魔物と勘違いされるだろう。力を持たない君では、その誤解は命を落とすことになる。実は私には、人に変化させる術があるのだが、受けてみないか?」
私は、非常に迷いました。元は人間で、人としての生に愛着が無いわけではありません。
しかし、今人となった所で、生前の私では無い。それなら今の親から貰ったこの姿のままで合ったほうがいいと思ったのです。
だが、今の姿ではまた魔物と間違われ、下手すればそのまま殺される事もあり得るのは事実。
結果として、私は姿形を変えても生きながらえる事を選んだ。
大きな魔法陣の中心に乗り、目を瞑った。魔術師が紡の魔法を解き、何か呟くと魔法陣が光りだし“なにか”が私に降りかかりました。
体の感覚がなくなり、ふと自分が本当に生きていたのか不安になりました。
いえ、寧ろ今までが夢だったのかもしれないと思いました。
暫くして、光が無くなり体の感覚が段々と戻ってきました。
矢張り、数年の間の猫の姿より、ニ十数年とやっていた人としてのほうが初めは違和感もあるがしっくり来ました。
人になって、暫く放心していたが我に返り、魔術師に向き直しました。
「ありがとう…ございます」
紡の魔法が使えない私では、言葉が通じないと解っていても、何も言わないのは駄目と思い、猫の体に慣れ切ってた故の拙い発音でそれだけ口にした。
「日本語…?」
然とその言葉を耳に入れた私はパチリと瞬いた。
「分かるのですか?」
「ええ。母親が日本人だったから」
この魔術師はハーフだったようだ。
「にしても、今種族を変えたというのに、随分と発音にも慣れているな。益々興味深いよ。それは魔物たちの影響なのかな」
しまった、と思った。
人になったばかりの猫が、人の言葉を正確に、流暢に話せるはずはないのに人となったことで少なからず気分が向上した私はそこまで頭が回らなかった。
皮肉にもこの時代では世間一般で知られる猫は私となってしまった事が、私の失態を帳消ししたのだった。