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リセマラ部  作者: ツチイ・シンシュン
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第1章-3 必要なのは対応力

「え?」

 呼ばれ気がして振り向くと、そこには一人の少女が立っていた。

 誰か違う人が呼ばれたのかな? そう思っていたが、どうやら俺が呼ばれていたようで、彼女の右人差し指は俺の方に向いていた。

「えっと……どなた様?」

 それと、かわいい。

 ふわっとした薄茶色の長髪をした少女が俺を指さしている。ここは高校だから高校生なのだろうけど、中学生、下手をすれば小学生に見間違えられかねない容姿は、かわいい以外に形容するのは難しい。

 けども見た目は田舎の女子たちとは比べ物にならないくらい綺麗だ。

 でも、いったい誰だ? 同じクラスの人なのだろうか? 初日な上に人数が中学の頃から比べたら倍以上に増えているから覚えられていないというのもあるけど、この人はしっかり俺のことを覚えてくれていたのだろうか?

「ちょっと玲音! いきなりどこへ行くのですか!」

 その後ろから誰かを呼ぶ声。また知らない女子だ。

 目の前にいる少女よりもかわいさが薄れた女子。

 その代わりに、大人びたが段違いに増えた大人な女子。

 艶のある黒髪を後ろで結ったポニーテールと呼ばれる髪型で、先程のかわいい子みたいにくりくりした目とは違い、きりッとした目をしている。けど、きついという感じではない。どちらかというとしっかりしている感じがするお姉さんタイプの人だ。

「綾野ー! いいアイデアが思いついたよ! やり直せばいいんだよ! 無理ならもっかい別のをすればいいんだよ!」

「はぁ?」

「詳しいことはこの人に聞いてみて!」

「えぇぇっ⁉」

 俺⁉ 俺が何で彼女に関わってることになってるの⁉

「……えっと。一体何があったのでしょうか?」

「俺も聞きたいんだけど、俺何か言ったっけ?」

「はぁぁ……駄目ですよ玲音さん! 知らない人を巻き込むようなことしては!」

 綾野と呼ばれた女子は、れおん? 外国人の人かな? 髪の色が黒じゃなかったのは外国人だからか? てか、レオンって名前男だったと思うけど? 違うの?

「この子が失礼しました。私は亀城綾野と申します」

「あ、どうも。俺は亮一。河西亮一って言います」

 亀城さんは子供を叱るように、レオンさんを叱り、俺の方に向き直り、一礼する。

「で、こちらは一ノ瀬玲音さん。間違われやすいですが、れっきとした日本人です」

「そだよー」

 で一方、俺に呼び掛けてきた女の子は一ノ瀬さんと言うそうだ。俺の心が読まれていたのか、日本人であることも付け足された。

「それよりもだよ! 亮一が悩んでいたから私は声をかけてあげたんだよ!」

「えっ? 俺何か言った?」

「大丈夫です。いつもの病気なので」

「失礼な! 今回はしっかり考えたんだから!」

 一ノ瀬さんが亀城さんに抗議する。

 が、両手をぶんぶん回して言い返す姿はどこからどう見ても子供の駄々である。かわいい。

「いい綾野。今までは前提を考えたから駄目だったの。そもそもやっていない時点で何が起こるのか分からないことをあぁだこうだ言うのがおかしいの」

「事前の準備無しでやると痛い目に遭いますよ?」

「なんとも言えねえ……」

「えっ?」

「何でもありません」

 俺はその準備無しでここに来たせいで、今迷っています。

「だから! それは全部やろうと思うからなの! 全部やらなくていいの」

「「全部やらなくていい?」」

 俺と亀城さんが同じ質問を返した。一ノ瀬さんと知り合いらしい亀城さんですら、その意図は読めないようだ。

「そうです。やってみて駄目なら、やり直せばいいんです。そうです、亮一が言っていたようにするんです!」

 一ノ瀬さんが拳を強く握り、語る。

 俺が言ったように? やり直せばいい?

 ……。

「もしかして、さっきのリセマラのことか?」

「それです! ちょうど部員も三人いますから、登録の手続きをしましょう!」

「え? 三人?」

「ちょっと待ってください玲音さん! まだ一切同意はしてませんよ! それと三人ってあなた、河西さんも巻き込むつもりですか!」

 亀城さんの悲鳴も空しく、すばしっこいネズミのように一ノ瀬さんは走り去っていく。

 颯爽と巻き起こった風が消え失せるまで、僕と亀城さんは何一つ言葉を発することができなかった。

「あ、あのー……ごめんなさい。玲音さんはこうなるともう手の打ちようがなくて。動かないと死んでしまうマグロの生まれ変わりなのかもしれません」

「はぁ……」

 いきなり現れたかと思ったらいなくなる。その様をマグロで例えたが、陸育ちの俺よりも源太が気に入りそうなネタだ。俺の場合は何だろう。ハクビシンか?

「ところで。あの人、一ノ瀬さんは一体何をしようとしてるんですか?」

「はい、実は」

「申請通ったよ!」

「えぇぇっ⁉」

 亀城さんが訳ありげな声量で話し始めたのと同時に、一ノ瀬さんがとんぼ返りしてきた。その手には、一枚の用紙があった。

「どうせあれですよね。一ノ瀬の力を使ったのでしょう……」

「へっ? 力?」

「それよりも活動内容を書いてって言われたから今すぐミーティングだよ! どこか……そうだ! 米俵コーヒー行くよ! 綾野予約よろしくー!」

「はぁ……。米俵コーヒーは予約なんてしなくても大概空いてますから、予約は必要ありません」

「そうなの! じゃあ行くよ綾野! 亮一!」

「えぇ! 俺も⁉」

「そりゃそうだよ! 亮一は――リセマラ部の部員で、初めての相談相手になるんだから!」

 こうやって、俺はリセマラ部の部員となった。よくわからないうちに。

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