第4章-8 少数だからこその需要
結局そこそこ迷った結果、とある公園に辿り着いた。あまり広くなく、近くにはジャンクションへと入っていく高速道路もある為かこじんまりとしていて人もあまりいない。
「ここですか一ノ瀬さんが行きたかった場所って」
俺の問いかけに一ノ瀬さんは笑顔で答える。
「違うよー!」
「完全に迷ってた訳じゃないですか⁉」
笑顔で言わないでくださいよ!
「じゃあ目的の場所って一体どこ何ですか? ここからなら何か目印になる物が見えるかもしれませんし」
至る所に道路が通っているだけで、高い建物が少ないこの場所なら探している物次第ではあるが、だいたい見つけられると思う。
「じゃここでいいか。別にどこでもよかったんだ」
「……はい?」
俺が疑問の声をあげている間に一ノ瀬さんは走り疲れたのか近くのベンチに腰を下ろした。
「亮一も座りなって」
「いや、そもそもどこでもよかったって?」
「うん。話がしたかったんだよ。亮一はやりたいことって見つかった?」
「え?」
「亮一ってどこか私と似てるからさ。私のこと綾野から聞いたんでしょ?」
「あの時聞いてたんですか⁉」
今まで悟られないように内緒にしていたのが、完全に無駄骨だったのか⁉
「と言うことはあの時一緒に来た宇梶さんと山田さんもそのことを」
「御代と十和子は後から来たから何にも聞いてないはずだよ」
「ならよかった。――いや、よくないか、俺が聞いちゃったし」
これはやばいという空気が流れていた時に断っておけばよかったと後悔する。が、時すでに遅し。俺は知るべきじゃなかったことを全て知ってしまった。
「いいんだよ別に気にしてないから」
「でも、俺は一ノ瀬さんが気にしていることを」
「それは綾野が気にしているだけ。私はそんなに気にしてないから。私はお父さんのこと悪く思ってないし、寧ろいいなって思ってるの」
「えっ⁉」
一ノ瀬さんから衝撃的な一言が出てきて俺は慄く。
「でも、一ノ瀬さんのお父さんって事業に失敗して――」
「うん駄目だったんだよ。でもね、その時私は小さかったけど覚えてるんだ。お父さん、すごく楽しそうだったの」
「楽しい、ですか?」
「そう! 自分が新しい時代を作るんだって! 皆が喜ぶものを作るって意気込んでたんだ。何か皆に文句を言われてた止めさせられて、すごく悲しそうだった……」
「いや、まぁ発がん性は……ね」
止めなきゃ大騒動だよ。賠償請求、スキャンダル待ったなしだ。一ノ瀬さんが突拍子も無いことをし出すのは遺伝なのかもしれない。
「私も新しいことをしたいんだってお母さんに言ったら「危ないから止めなさい」って言われたの! そのことをお爺ちゃんに言ったら高校までは我慢しなさいって言われたから高校でやりたいこと思いっきりやってやるんだって決めたの。その時一人だと色々めんどくさいこと言われたらやだったから綾野にも一緒な高校来てって頼んだの」
心の中で亀城さんを憐れむ。苦労人だなあの人は。今も俺たちを探しで奔走しているんだよな。
「だから私は来週からも色んなものに挑戦するの! ラーメン屋を体験してうまく麺を食べれるようにもするんだ!」
「それはラーメン屋あまり関係ないっすよ……それならまだ食レポとかの方が訓練できそうですけど」
「いいと思わない? うまく麺が啜れるようになるラーメン!」
「どんなのですか?」
「麺が自動的に口の中に入っていくとか」
「タクスキアの力が見え隠れする麺だ……!」
そんなもん作ったら話題になるだろうけどある意味スキャンダルになるぞ!
「でもやろうと思えば作れるかもしれないよ? できないと思ったらダメなの」
「いや、それは――」
言いかけて口を噤む。
そんなことを言っても、この人は絶対に折れはしない。
それに、折れる前に投げ捨てると思う。
失礼かもしれないが、この人は恐らく自分のやりたいことを見つけられないんじゃないかと思っている。
けど、悪い意味で言っている訳では無い。
一ノ瀬さんは何にも満足できないのではないかと思っている。
そして現実に囚われない独自性。
その二つに満足がいく結果をもたらすとすれば、それは俺たちが実現できる物ではない、いや想像すらできないものになるだろう。
「だからさ、亮一もやってみようよ」
「え?」
「だって亮一嫌な顔一切してなかったし、すごい興味深そうにしてたでしょ? 知識もあったし、すごく楽しそうだったよ?」
まるで自分のようにウキウキする一ノ瀬さんに、俺は戸惑う。
「俺が農業に?」
楽しいわけがない。俺は農業を嫌っていた。なのに他者からはそう見えていたのか?
「一ノ瀬さんに話して無かったんだけど、俺が田舎から都会に来た理由は、実家の農業を継ぎたくなかったからなんだ。だから、俺は農業以外の将来を探しにリセマラ部の活動に参加することを決めたんだ。できれば農業以外を――」
「それって農業が嫌なんじゃないと思うな」
俺が言い訳を言いきる前に一ノ瀬さんが遮る。
「コンビニの時初めはすごい乗り気だったけど、次の日になったら無理だ、もうやりたくないって言ってたよね? なら、農業やるって私が言い始めたときにやりたくないって言ってもおかしくないでしょ?」
「それについては俺だけやりたいことやらせてもらったのに一ノ瀬さんのはダメって言いたくなかったからさ」
「黒魔術始めるときはやらなかったのに?」
「あれは危ないって始めっからわかってたからだ!」
そもそも黒魔術を仕事にできるとも思ってなかったしな!
「なら農業も危険と判断は出来なかったの?」
「それは――食事は人間にとって重要なものだし、無くちゃいけないし、誰かがいないと駄目なのは分かってるし」
「そうだよ分かってるんだよ。亮一が何をやりたいのか、分かってる。私は羨ましいんだよ。嫌々やっていたとしても、何かさせて貰えていたんだから。私は、何をしたくてもずっと束縛されていたから」
「一ノ瀬さん……」
哀愁漂いそうな話なのに気にすることなく俺に全て話してくれる一ノ瀬さんを見ると、心が痛む。見た目や考え方が子供じみていたせいで甘く見ていたが、実際はそうではなかった。
無限の想像力で、俺たちよりも将来のことを考えている、夢のあふれた、少女だ。
「だから、やりたいことが出来たなら私にかまずに目指してほしいんだ。そして、それが面白かったら私にも教えてよね! そして体験入社に行かせてね!」
「何年留年する気何ですか……」
まさか俺が一、二年で起業するとでも思っているのか? と笑みがこぼれる。この俺とは違うズレ方をした世間知らずなところが微笑ましい。
「ちょっと~。私真面目な話してるんだよ?」
「そうでしたねっ」
赤子の成長を見ているような錯覚に含み笑いになる。亀城さんの子供を見ているような気持ちも納得がいく。
「俺何となく分かった気がします。自分の単なる意固地のせいで他の物が鮮やかに見え過ぎていたのかもしれない」
隣の芝生は青く見えるということわざはこのことを示すんだろうな。
「けど、それは薄汚い部分ばっかり見過ぎただけで、実際はもっと青々とした、ホウレンソウ畑のような場所があるんだって」
それに逆もあった。こんなにうまくていい仕事があるんだと思っていても、実際見てみると想像していたものとは全く違う世界が広がっていて、想像を打ち砕くことだってあるんだと。
どこでも表裏はある。
俺は今回の体験で、本来皆が見ているだろう表の部分をようやく見ることが出来た。
「やっと見つけました! どこへ行っていたんですか二人とも‼」
答えが生まれた時だった。亀城さんが息を切らせながら俺たちの元へと駆け付ける。
「綾野どうしたの? そんなに顔赤くして」
「玲音さんが突然いなくなるからですよ! また変なことに巻き込まれたんじゃないかと不安で……」
「大丈夫だって! 私そんなドジなことは」
「この前したばかりじゃないですか! ……河西さんがいてくれたことが不幸中の幸いでしたよ」
例の一件で俺はどうやらそこそこの信頼を得れていたようだ。
だとすると、これは亀城さんにとってはそこそこ辛いかもしれない。
「なら、一層のこと今後は気を付けないといけませんね。首輪でも送りましょうか?」
「私は子犬じゃないもん!」
「それはありがたい申し出ですけど、今後といいますと?」
一ノ瀬さんが吠えている中で、亀城さんは気になる点を繰り返す。
俺はそのことに改めて自身の決意がどういうことなのかを知らされる。
それでも俺は、心を変えない。
「俺、やること決めました。何で――俺、リセマラ部を退部します」
俺はこうしてリセマラ部を退部することになった。




