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リセマラ部  作者: ツチイ・シンシュン
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第4章-6 少数だからこその需要

 制服から私服の流れは逆も含めてほぼ毎日ではあるが、体操着から私服という流れは新鮮だ。田舎では遠足とか田植え体験とかで家を出るときから体操着だった時もあったけど。

 この後はいつも通りの土曜を過ごす。

 いつも通り漫画の立ち読みに行くか、新しい発見をしに行くか、もしくは真面目に勉学に励むか。

 けど、そのどれにも足が向かない。ましてや自身の行き先を悩んでリセマラ部に入ったのに勉学になんか励める訳がない。

 俺は中途半端だ。

 あれもしてこれもして、何か調子の良かったものに飛びつこうと考えていた。

 でも、それは僅かな先端にしか過ぎない。上出来な葉に育ったと満足し、いざ抜いてみたらひょろひょろな大根が抜けることだってある。

 表面だけを見て内面を知らなければ失敗する可能性は大きい。

 そしてまた、表面だけの探索が始まる。

 それを防ぐために俺はリセマラ部に入った。

 そこで知ることになったのは、内面の底深さだ。

 コンビニの闇、印刷業界の苦悩、占い師の真実。

 どれも予想外の出来事であり、俺を含むリセマラ部の誰もが混乱した。

 そんな中で次に上がった業種はまさかの俺が逃げ出した原因菌だった。

 俺は農業を嫌っていた。

 その嫌っていた部分は、ほんの一端だった。

 最新の農業は魅力的だ。俺が朝早くから叩き起こされ、家に戻れば陽が完全に沈むまで労働源とされる古風なやり方とは雲泥の差がある。

 これなら、と思う一方で俺の嫌っていた部分が露見する。

 農業だけは嫌。

 ただの意固地でしかないこの気持ちが鎮まることはない。

 こんな状況で果たして俺は自分の望む未来を掴むことができるのだろうか。

「どうすりゃいいかわかんねぇ」

 ジャンクション下の自販機エリアで一人愚痴る。

 女性陣はまだ着替えか、もしくは水島さんに止められたか。

 もう解散していて、後は月曜日の放課後にいつも通りの報告会が開かれるのだが、どこかへ行く気力が出ない。決定する意志も無い。

「悩んでいるんですか?」

 そんな俺に声をかける人が現れる。

 ジャンクション近くは車の通りは多いが人通りは少ない。ましてや田舎と違いいろんな人が行き来するここでは近所づきあいというものも少ないから他人ではない。

「亀城さん?」

 そこには質素な紺の私服に身を包んだ亀城さんがいた。派手さは無く落ち着いた感じが同級生であると感じさせない。

「正直私も驚きました。最近の農業の実態は昔学んでいたものとは全く違うんですね」

「それに直接触れていた俺はもっと驚いたさ」

 今までの苦渋が打ち砕かれそうになったからな。

「それでも、駄目だったんですか?」

 そんな俺の気持ちを先読みしたのか、亀城さんは真相を問う。

「わかんないんだよな。やりたいのかやりたくないのか」

 どれだけ外部を磨き上げて、豪華にしても中身は何も変わらない。俺はそれにかかわるべきなのだろうか?

「これが本当にやりたいのか、これで本当に残された人生笑顔で生きられるのか、なんて誰にもわかりませんからね。占い師でも無い限り」

「いや、それは預言者で占い師じゃないですよね?」

「ふふっ。そうでしたね」

 この人絶対に冗談で言ったな。俺の気持ちを和らげようと。そういった点も俺より大人だな。

「まだリセマラ部の活動は続くと思います。ですので、後三年。三年生になると進学就職などで忙しくなると思いますから部活動は二年まででしょうかね?」

「今度はどこに行くんでしょうかね……」

 それと誰が行き先を決めるか。順番的に亀城さんかな?

「亀城さん。一ついいですか?」

「はい?」

「一ノ瀬さんは、何でリセマラ部の設立に尽力してたんだ?」

 俺がリセマラのことをぼやく前から一ノ瀬さんは何らかの部活を作る予定で動いていた。それも自身のコネをフル活用していた。そのことは冨忠さん含む一ノ瀬グループにも伝わっているらしく、この活動を支援してくれているようだ。こう考えると俺たちがモルモットで何らかの実験の為に動かされているようにも錯覚してしまう。

「……それは、玲音さんの家系にあります」

「……俺やばいこと聞いちゃった?」

 あれ? 新しい試みとか実験かと思ったら重々しい空気が生まれたぞ?

「ちょっと話が長くなりますのでよろしいでしょうか?」

 そう言いながら亀城さんは自販機からペットボトルのお茶を購入する。長居する気満々な動きに、俺はやばい部分に触れてしまったのではないかと後悔する。

「玲音さんは一ノ瀬グループに属していた母親と、とある企業の重役との子でした」

「婿取りですか」

 一ノ瀬グループという大きな組織に入れるのだから喜んで婿入りしたのだろう。田舎では長男が家を継ぐのが当たり前の風潮があるから、嫁ぐのは当たり前で次男坊であっても分家として近くに住むのが大半だから、起こりえない事象だ。

「それで、過去の話と」

 過去形が意味すること。

 それだけで、この話が重い理由がわかる。

「離婚しました」

「そういうことね……」

 予測はしていたがそうなってしまったんですね。そして、一ノ瀬さんが今こうやってリセマラ部に勤しんでいる理由はそこにあるのだろう。

「玲音さんの父親は製薬会社に勤めていました。でも、実際に作っていたのは薬品というよりも化粧品がメインでした」

「男子が化粧品作るのか」

「最近は男性用の乳液や紫外線防止のファンデーションも売ってますよ?」

「マジで? 俺乳液やファンデーション自体知らないんだけど」

 恐ろしい世の中だ。泥つけるのが勲章とかほざく田舎からしたら討論物だ。

「一ノ瀬グループの後助けもあり、玲音さんの父親は新しい会社を設立しました。そして今まで見向きもされなかった鉱物に従来の物以上の美白効果があることを発見しました。すぐさまその鉱物が取れる鉱山を買い占め、流通ルート、工場の設立などの投資を行いました。ですが」

「うまくいかなかったんですか?」

 亀城さんは首を縦に振った。

「その鉱石から有害物質が見つかったんです。外面的には何の問題も無かったので見落とされてしまったのですが、内部の方に大きな異変が見つかってしまったんです。発がん性物質がその化粧品を使用した部位にだけ、従来の数倍近く見つかってしまったのです」

 よりによって癌かよ。小さい失敗とかそんなレベルじゃ済まされなくなっちまったのか。

「高値で買い取った鉱山が扱いづらいただの山と化し、船は買い取った金額の三分の二で売られ、工場は売りやすいために一度更地にするという徒労を強いられました。親族からの視線に耐えられなくなった父親の方から離婚を申し出てきたのは、それからすぐのことです」

「そりゃ居心地悪いよな……畑潰したレベルの損失とは大違いだ」

 ゼロが何個並ぶんだ。七か? 八か? 考えたくもないが、九?

「一方の玲音さんの母親はその件に関しては被害者のような扱いを一ノ瀬グループから受けました。結婚相手が悪かったんだと言われ、今では同じ一ノ瀬の人間と再婚しています」

「てことは今の一ノ瀬さんの父親は血が繋がっていない――まさか、それで一ノ瀬さんは村八分状態になっていて⁉」

「ということはありません」

 俺の杞憂を亀城さんはお茶を飲みながら一蹴したので、思わずこけそうになる。

「玲音さんはまぁ、見ての通り幼稚な部分が多く残っていて、そのおかげで玲音さんの実の祖父、並びに一ノ瀬グループのご老人勢にかわいがられてるんです」

「孫は宝ってことか」

 田舎じゃひ孫を求める家系もいるくらいだからな。

「玲音さんの祖父は玲音さんに同じ過ちを繰り返さないようにあまり色んな物事に首を突っ込ませないようにしてきました。俗にいう箱入り娘に近い存在ですね。幼い頃は私に色んなことを聞いてきました。質問攻めだけで夜が更ける位に」

「そんな頃から苦労してたんですか亀城さん」

「今思えばそんな祖父の行い、そして私の行いが、今の玲音さんを作ってるんですよね」

 あの好奇心旺盛の生き物ですね。

「てことは、初めは色んなことをする部活を作ろうと奔走していたんですか?」

「そうです。それがまさか一日で仕事を使い捨てにするような部活を作るとは思ってもいませんでした……」

「本当にすみません」

 もうこのまま土下座したい勢いだったが、誠心誠意込めた120度謝罪で済ませる。

「河西さん⁉ 顔をあげてください! あなたのせいではありませんから」

「いえ、亀城さんの苦労を考えたらこんな物じゃ済まないということはわかっています。望むのなら土下座して踏まれる位は」

「そこまでしなくてもいいですからね⁉ 私そういうのではありませんから! ……寧ろ、私の方が……」

 言おうにも言えない事情は痛いほどわかる。田舎とは違っていつどこで見られているかわからない都内では暴力やらで疑われる可能性もありますからね。

「ちょっと! あんたたち何してるのよ!」

 ほら、こんな感じに。

「皆さん⁉ いえ今はこの部の発端――いえ、何でもありませんから」

「綾野顔真っ赤だけど、熱?」

「綾野が顔真っ赤で亮一が頭下げてる時点で何でも無いわけないでしょ!」

「へっ?」

 怒っている宇梶さんの理由を聞いて、俺は顔をあげる。

 そこにはリセマラ部の面子が揃っていて、そのうち亀城さんだけが熱がっていた山田さんを抜きん出て異常に顔が赤かった。

「まさかあんた綾野に取り返しもつかないことしたんじゃないんでしょうね⁉ もし綾野に異変があったらあんた責任取りなさいよ⁉」

「いやいやちょっと待て! 俺はこの部活ができる前に起きていたことを」

「御代。取り返しのつかないことって、ここで何かあったの?」

「子供には早いわ!」

「同い年だよ!」

 くっ! 事の張本人がいるから話すにも話せねえ! 何でこうタイミングが悪いんだ!

「責任。即ち血の代償。そなたの砂時計から、生命という砂が零れおつ」

「止めろ! 縁起でもねえ!」

「ならあたしが綾野を壊される前にあんたを壊してやる!」

「語弊だぁぁー!」

 俺の友達の名は三平だぁー! 何てボケても絶対通用するわけもないし治まるわけも無い! こんな展開数日前にも体験した気がするが、なぜこうなった!

「あれ? 皆さんまだ残っていたんですか?」

「おぅおぅ若いな。マジで俺と変わってほしいわ。俺が抱いてるのはこいつだってのにお前は何人も抱けるんだな」

 そんな俺たちに声をかける人がいた。

 先ほどの都会式ご近所論から行くとリセマラ部以外だとあの人たちしかいない。

「あ、どうも……」

 やる気満々のファイティングポーズを解いた宇梶さんがしおらしく返事をする。その相手は木本さんと水島さんだ。

 未だに作業着の二人は午後からも仕事があるみたいで、その手には大きな段ボールを抱えている。

「出荷ですか?」

「そうだね。さっき取ったネギを新鮮なうちに届けないと」

「自給自足並みの新鮮度ですね……」

 家の横で畑作ってる人と対して変わんねえぞこれ。

「そうだ。お昼まだでしょ? 今から行く所に食事に来ない? 何なら驕ってあげるよ?」

「お昼! 何屋さん? お寿司? フレンチ?」

「それネギほとんど関係ないような……」

 お寿司だとネギトロの横にパラパラ程度だと思うし、フレンチに至っては――わからん。

「ラーメン屋だよ」

「そんなに変わらんかった」

「いやいや、変わるわよ。フレンチとラーメンじゃ大違いでしょ」

「そういう意味じゃねえよ。ネギの使い道だ」

 ラーメンの上に乗っているネギなんて添えている程度だからな。

「んや、そういうわけじゃねえぞ。あそこはネギラーメンがメニューにあるほどのネギ多めのラーメンだからな。それに餃子も結構うまくて、そこにもネギが使われてんだよ」

「もろ看板メニュー何ですね」

 大々的に宣伝していました。

「皆さんがこの後どこかに行く予定があるのであれば、無理強いはできませんが」

「いや、俺は特に」

「私はいくー! ラーメン屋ほとんど行ったことないもん!」

「一人でラーメン屋行く勇気無かったから、大勢いる今がいい機会かも」

 木本さんの誘いに一ノ瀬さんと宇梶さんが乗っかる。

「玲音さんが行くのであれば、無礼が無いように私もついていきます」

 そして亀城さんも付き添うことになった。

「もうこの時点で過半数か。なら行かないとな」

「マンドラゴラの池地獄なら」

「使ってないからな」

 丹精込めて俺たちが掘った物を化け物に変えないでください。

「誘いを受け入れてくれて本当にありがとう。それじゃ少し時間がかかりますが、行きましょうか?」

 木本さんが歩き出す。

 そして、車の横を通り過ぎる。

「? 配達するんですよね?」

「そうだよ。ここから徒歩十分の所まで」

「ちっか⁉」

 そのラーメン店は少し遠い所に畑作ってる人の家並みに近かった。

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