第3章-3 無いと思う仕事でも、探せば片鱗は見つかる
「ふふっ。予想通りです。何か忌々しい物が渦巻いてます。この部室には今先ほどまで人間の本性が渦巻いていたのを我は感じる。闇を感じます。秩序の影が今ここで顕現しています。ここでなら、我の力を必要とする場所が見つかりましょう」
…………。
誰も言葉を発せなかった。
あの一ノ瀬さんですらポカーンと口を開けている。
俺たちの前に現れた訪問者は黒い長髪をした普通の少女。おっとりとした感じと言えば聞こえがいいが、どこか暗めで影がある感じで、一ノ瀬さんにも宇梶さんにも亀城さんにも無かったタイプの子だ。
そう感じたのは部室に入ってきた際に放った謎の呪文が原因ではない。
春の温もりがより一層際立ち、夏に向けてまっしぐらなはずなのに、黒いコートを羽織っている。それもトレンチコートやウインドブレーカーコートなどではない、フードの付いた無地のコート。例えるのであればあれだ。魔女が来ているような身を隠すあれだ。
その姿見、言動、この動じなさ。
俺には分かる。
いや、皆分かる。
ぎりぎり、一ノ瀬さんにも分か――ってもらっていてほしい。
やばい奴が来たと。
「宇梶さん。出番だ」
「はぁっ⁉」
「専門分野でしょ!」
「ジャンル違いよ!」
何だそれ⁉ この人あれでしょ。漫画とかアニメを見過ぎてあっちの世界に入ってしまった分類の人だよね? 宇梶さんなら話を合わせることが出来ないの?
「え、えっと入部希望の方でしょうか?」
ここで動いたのは亀城さんだった。さすがやり手。こんな時も怖気ることなく果敢に攻めていく。
「我はこの場に新しい秩序をもたらそうとする影。我が新たな道を指し示そう。代償は我の世界再建だ」
「え、ええっとぉぉ……」
うわっ。だめそう。亀城さんでも対抗できてない!
「うかじさ~ん」
うわっ! あの亀城さんが泣き言を言い出した!
「無理! あたしもきつい!」
そして宇梶さんが見放したー!
どうすりゃいいんだこれ!
「ねえねえ、名前何て言うの? 自己紹介まだだったよね? 私一ノ瀬玲音って言うの」
そんな中、一ノ瀬さんが意を決した――訳ではないと思うけど、自己紹介をして名前を教えてもらおうとする。
「我の名はタクスキア。秩序の影であり、世界を常に裏から見守るもの」
まともじゃない! 絶対通じるもんじゃないよこれ!
「たくすきあ? 卓さん?」
「否、タクスキア。即ち秩序の影なり」
「外国の人? でも秩序さんってことは日本人?」
「いえ、ですから。私はそういう名を冠している者で」
「冠してる? 称号みたいなの? なら本名は違うの」
「え、えっとまぁ。そう、だけど」
「なら本名は?」
「山田十和子……」
通じた!
訳ではないこれ!
やばい奴を更にやばい奴が塗り潰したぁ!
「十和子って言うんだ! よろしくね!」
「よ、よろしくお願いします」
うわー……。完全に押し通した。
山田さん、真の名をタクスキアと呼ぶ女子は一ノ瀬さんに押されながら部室に押し込まれる。
「それで、十和子はどうしてこの部に入ろうとしたの?」
「ふっふ。我はこの場に新たな気配を感じ、ここに参じた」
「よく分かんない! 要約」
「この部なら何か将来役に立つものが見つかると思ったので」
やばい。一ノ瀬さんが山田さんのキャラを片っ端から壊していく。まさかの天然殺し屋がこんなところにいたとは。
「じゃあリセマラ部は最適だね! 十和子が求める物が絶対に見つかるよ!」
一ノ瀬さんは新たな入部希望者に意気揚々と答える。
「よろしいでしょうか玲音さん」
が、待ってほしい。と手を出したのは亀城さんだった。
「えっと……取りあえず確認しましょう。山田さんはどんな職業をお望みなのでしょうか?」
「そうだ! どんな仕事を求めてるの? ちなみに亮一は社長で御代は漫画関係だったよ」
「それは言うな‼」
俺はもう太く短いにこだわらないことを決めたんだ! 細く長いも嫌だけど!
「一応あたしはそれ以外にも探す気よ。それよりも問題は――」
宇梶さんが憂鬱な視線を送る。
その先にいるのはもちろん、件の異分子。
「我が望むは闇の中に眠る秩序を喚び起こす力。我は見る。黒き魔術を用いて、全ての者の世界を!」
あかーん! 何もわからん! それは仕事なのか⁉
「え、え、え、えっとととと」
亀城さんも全く理解してなくて目をぐるぐる回してる! 寧ろ出来たら凄いけど、いや、ひくけど!
「なんとなくわかるのは黒い魔法ってことだから黒魔法? 魔女みたいなことがしたいの?」
「魔女? あれは人智を超えた仕業と見せかけるただのペテン師。我はその上を行く。神に近い領域」
「亮一パス」
「こんな所で俺に渡すな!」
宇梶さんが自身なりに解釈をするが、その解釈の120度上を行った答えが出てきた瞬間俺に危険球を投げてきやがった! 源太! 源太来てくれ! このカジキばりの剛速球を何とかしてくれ!
「ふーん」
そんな剛速球に立ち向かう人がいる。それも素手で。
無論、我が部長だ。
「見るって何を見るの? 漫画? 映画?」
「全ての者の世界だ」
「全ての者の世界……? あ! ニュース? 記者?」
「知れ渡るが必然の事象に惑わされては影失格。もっと知らぬ物。起こりえる事象を」
「要約!」
「できればそのような未来を」
どのような⁉
「自分の好きな形でいたいけど、そんな職業が早々見つからないから困ってるってことじゃないの?」
「よく分かったな」
「人生の半分近くを仕事に費やすことになるのよ。それなら自分のやりやすい物を願うのは当たり前じゃない」
「……そっか。俺もそうだったな」
俺の場合は親父の仕事を受け継がないって願いだったから、やりたいものが無かったんだけどな。だから宇梶さんのやりたいことにも惹かれたんだな。
とは言うが。
「山田さんの願いが叶う職業って。ある?」
「私もそれが気になっていたんです」
俺が気になっていたことを、亀城さんも気にしていたようで、一ノ瀬さんとの会話を気にしている。
「一ノ瀬グループに黒魔術を嗜んでいるとこなんてあるの?」
「あったら私が聞いてみたいくらいです」
だよね……そんなものあるわけがね。
「起こる事象。魔法――それだぁー‼」
「あるの⁉」
一体どんな仕事だよ! あの人のマシュマロみたいなふわふわ脳内辞書に一体どんな職業があったんだ⁉
「起こる事象、つまりは未来を、全ての世界を見る職業!」
何だそれ! 神か⁉
「占い師だよ‼」
…………。
一ノ瀬さんの発言にポカーンとする面々。何か凄くダークな職を求めていた山田さんですらきょとんとしてる。
「未来を見るって言ったら占いその物だよ! それに占いって結構な種類あるでしょ? タロット、手相、姓名。それなら黒魔術占いもあるよ絶対!」
「いや、それって祈祷師じゃない?」
もしくは霊媒師か? どちらにしても何か胡散臭さ満載な職だけど。
「占い。相手の未来を見る仕事」
「十和子にぴったりだよ! だって占い師って難しい言葉とか意味深な言葉使うでしょ?」
一ノ瀬さんが山田さんに向けて親指を立てた拳を突き出す。それ占い師以外にも絶対何か混ざってる気がするんだけど、気のせいかな?
「てか、占い師って本当にいるの?」
ふとした疑問が浮かび俺は問う。占い師とか漫画やテレビの世界の人じゃないの? テレビの場合は裏で打ち合わせしてまるで的中したかのように見せてるんじゃないの?
「亮一が知らないだけで、袋とか渋谷行ったら普通にいるわよ? あたしも友達に誘われて一回行ったわ」
「へぇ……」
「亮一とか星座占い以外やったことないんでしょ?」
「どうして分かった⁉」
「テレビのニュースは見る派なのね……」
テレビくらいしか娯楽が無いからだよ。それも農家の朝は早いから、学校に行く前や仕事の無い朝食時にニュースの合間にやってるんだよ。
「確かに占いは今女性の中で流行っていますね。今までは裏路地で店舗を構えている占い師が大勢でしたが、最近では表通りに建ち並んでいたり、108やヒルザみたいな大型デパートの中に出店している占い師の方もいらっしゃいますし、存じ上げています」
「亀城さんもそういうの詳しいんですね」
まぁ、あんな極秘情報を知ってるくらいだから、最近の女子の話題くらいは知っていても当たり前か。
「……あの。存じ上げている、と言いますと?」
そして、俺は聞き逃さなかった。知っているの上位互換的な意味合いを持つ言い回しを。
「一ノ瀬グループの方に占い師をされている方がいます……。結構当たると評判のお方です」
「一ノ瀬グループ本当に色んな事してますね⁉」
俺ちょっと調べるの手伝いますから黒魔術見つけませんか⁉ いると思いますよ⁉
「占い。我が人の未来を支配する世界」
「支配しないでくださいね! 導いてくださいね!」
あなたの店に入っていったお客が帰ってこなくなったとか都市伝説作らないでくださいよ!
「で、何占いにするの? 花? タロット?」
「我は影。物には頼らぬ。頼れるは闇」
「闇? 暗い中で占うの? 何が取れるかお楽しみみたいな?」
闇鍋占いか? それは罰ゲームなんじゃ。
「そんな占いしてる人なんているの? 闇占いなんて聞いたことないわよ」
「宇梶さんと一緒で私も聞いたことがありません。それより、闇占いを教えてほしいと親戚を訪ねるのは最早お門違いではないかと不安になってきているのですが……」
「絶対宇梶さんの時よりも荒れるよ……」
印刷業の時は希望者の勘違いであったとすぐに訂正できた。
しかし、今回は既に色んな勘違いが起きている。そして、希望者がその勘違いを訂正する気が無い。
「これは……困ったことになるな」
俺の呟きに、未だに通じ合えているのかいないのかわからない会話を続ける二人を見て、亀城さんと宇梶さんは頷くのであった。




