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永き夜の大陸 〜光の姫 闇の王〜  作者: ゆずはらしの
第三章 夜の客人(まろうど)
8/22

3.夜の客人 3

  3



 闇の中、レサンの村から少し離れた丘に、三つの人影があった。一人は渡りの傭兵の姿をした男。闇魔族の血を引きながら、人族としての特徴を持つ紫忌しきである。



「兄上は、あの娘の側か」



 レサンの村の方角を眺めながら、紫忌がいらだたしげに言った。彼の側には黒髪にぬめるような白い肌の妖艶ようえんな女性と、赤い髪に褐色の肌の猛々《たけだけ》しい女戦士がいた。どちらも人族の姿だが、半獣族である。ただしガイリスとは違い、彼女たちは自身の持つ魔力で人族に擬態ぎたいしていた。本来の姿はいずれも、人とはかなり違っている。



銀月ぎんげつきみは心を奪われておいでのよう。わたくしもどうかすると、崇拝すうはいする事を許していただきたいと願い出たくなりますわ」



 黒髪の女性が言い、赤髪の女戦士が続ける。



「わが君。われらのつとめはあなたを護る事です。なのにあの姫を見ていると、それが頭から飛びそうになる」



 二人の名は、黒髪の方がイリリア、赤い髪の方がアルシナ。紫忌の護衛である。人の血を引く紫忌に忠誠を誓った為、半獣族の中でも変わり種扱いされている。



「あの娘はそれほどの魔力を持つのか」



 紫忌の言葉にアルシナが答えた。



「魔力ではありません。それはわかる。ただ逆らえない」


「魔力でないのなら、何だ」


「わかりません。逆らえない力。そうとしか言えないのです」


「ではなぜおれは平気なんだ。兄上ですら影響されているのに……」



 イリリアが、紫忌に目を向けた。



推測すいそくですけれど、あの姫は向き合う者の魔力に何か、影響を与えるのでは」


「魔力?」


「わたくしもアルシナも、そこそこの魔力は持っております。無論、魔族の方々とは比べ物にはなりませぬが、それでも魔力と呼べるものです。銀月の君はもちろん、魔族の中でも最強の御方……。


 それで思ったのですが、強い魔力を持つ者ほど、あの方の前では無力になるのではないでしょうか。


 閣下が影響を受けないのは……お許し下さいませ。母君さまより受け継がれた血のせいではないかと。この近隣の卑しき人族は、あの方に敬意らしき敬意も払っておりません」


「人の血が?」



 紫忌は顔をしかめた。イリリアは頭を垂れて「お許し下さいませ」ともう一度言った。アルシナも居心地悪そうな顔になっている。



「かまわん、イリリア。アルシナもそんな顔をするな。おれの中に人の血が混じっているのは事実だからな。魔力もない」


「ないのではありません。閣下の内には魔力があります。ただ……、」



 紫忌は皮肉な笑みを浮かべた。



「使えないだけ、か? 人の血の混じった体では、闇魔族の魔力に耐えられん。使おうとすれば体が弾け飛ぶ。持っていても使えないなら、持たないのと同じだろう」


「違いますわ。わたくしたちは、閣下の力を感じて忠誠を誓ったのですもの」



 イリリアは言った。アルシナが続ける。



「そうです。あなたこそが、わがあるじ。われらの才、われらの力、血肉の一片まであなたのものとしてお使い下さい」



 紫忌は二人を見つめ、微笑した。



「つくづく貧乏びんぼうくじを引くのが好きだな、おまえたち。おれについて来たって、良い事はないぞ。だが……感謝する」



 二人は頬を染めた。あるじにこうして声をかけてもらえる、これほどの幸運があるだろうか。闇魔族に忠誠を誓った半獣族は普通、駒扱いされて省みられる事もない。だが紫忌は、二人をきちんと見て声をかけてくれる。



「後悔はありません」



 アルシナが言った。イリリアもうなずく。



「当然の事を言ったまでですわ……あら。銀月の君と姫君が、抱き合ってますわ」



 村の方に目を向けたイリリアが言った。紫忌の眉が上がる。彼は腕を伸ばしてイリリアをつかむと、自分の方へ引き寄せた。



「兄上は何をしている」


「今、お見せします」



 イリリアが、白い指で紫忌の額に触れる。彼の脳裏に、レサン村の風景が浮かんだ。その一角にある小さな家。薬草の束が吊るされ、暖炉には火が燃えている。


 兄の姿がある。薬師の少女の姿も。


 二人は恋人同志のように抱き合っていた。



(兄上……)



 紫忌は驚いた。少女を見下ろす兄の顔に、優しい微笑があったからだ。まるで……、


 ごく普通の男のような。


 そこで映像は途切れ、イリリアの指が離れた。



「銀月の君があんなお顔をされるなんて。あの姫をしょうに迎えられるのでしょうか」



 紫忌はいらだたしげに眉をしかめた。



「妾妃なら良い。他の貴族も抑えられる。だが兄上はあの娘に、名を呼ぶ権利を与えた」



 二人は顔を見合わせた。紫忌は続けた。



「人族の娘にだぞ。月牙げつが当主が膝を折るような相手か。この話を聞けば、どの貴族もそう思うだろう」


綺羅月きらづきの君か氷魅ひょうみの御方あたりが、何か仕かけてくると?」


青闇あおやみ氷刃ひょうじんも、乱を起こす理由をずっと探していた。兄上は既に、おれという異分子をふところに抱え込んでいる。ここでまた、人の娘に名を呼ぶ権利を与えたと知れてみろ。どうでも戦を起こす方向へ持って行かれる。


 それは止めねばならん。いざとなればあの娘を殺してでも」


「わが君!」


「閣下、なんという事を!」



 二人は衝撃を受けた顔になった。



「あの姫に危害を加える事は許されません。それだけは、なりません」


「秩序が崩れます!」


「何の秩序だ。人族ごときが死んだ所で、何が崩れる。おまえたちは、おれの配下ではなかったのか。おれの言葉になぜ逆らう?」


「そうです。われらはあなたのもの。ですがそれだけはなりません!」



 アルシナが必死の形相で言った。イリリアが続ける。



「あの姫は人族です。ですが……人族ではありません。おそらくは何か、違うものです。それはわれらも、魔族の方々すら手を出してはならぬもの」



 紫忌は「ほう」とつぶやいた。



「人であり、人でない。何なのだ?」


「わかりません。ですが、あの姫に手出しをする事はなりません……!」



 二人の配下がこれほど強硬に反対するのは、初めての事だった。紫忌は二人を見つめていたが、やがて肩をすくめた。



「とりあえずは様子を見よう。今夜は戻る。おまえたちは他の貴族の動向を探れ」



 二人はほっとした顔になり、頭を垂れた。紫忌に従って歩き出す。


 紫忌は歩きながら心の中で思った。いざとなればおれ一人でも、あの娘は殺せる、と。




*  *  *




 日差しの気配を感じて、少女は目を開けた。久しぶりに良く眠った気がする。身を起こすと、黒い布がすべり落ちた。紅玉ルビー金剛石ダイアモンドが縫い止めてあるそれは、月牙伯爵のマントだった。


 頭が重い、と少女は思った。目の奥が痛い。泣いたせいだ。マントに触れ、なぜここにこんな物がと思う。そうして自分はいつ寝床に入ったのだろうかと不思議に思った。昨夜は確か、伯爵と話していて……。


 少女の顔が赤くなった。伯爵の前で泣いた事を思い出したのだ。それだけでも恥ずかしいのに、その後の記憶がない。という事は。



「いやだ。わたし、眠ってしまったの?」



 赤くなった顔を手で覆う。



「人前で泣いただけでも恥ずかしいのに。八つ当たりしたあげくに。何をしているのよ、わたしったら。ああもう、恥ずかしい」



 真っ赤になってぶつぶつ言っていると、ガイリスの声がした。



「ご主人さま。お目覚めですか」



 少女は声のした方を見た。仕切りの布ごしに、誰かのいる気配が伝わってくる。



「よろしければ、スープをお持ちします」



 常と変わらない彼の声に、少女はなぜか、ほっとした。



「いえ、起きるわ。随分寝てしまったの?」


「そうですねえ、太陽は真上に来てます」


「そんなに?」



 少女は慌てて服のしわを伸ばし、髪を一つにくくり、靴をはいて布を引いた。暖炉の火の熱が伝わってきた。鍋の中のスープをかきまわしていたガイリスが、こちらを向いた。



「ゆっくりお休みになられましたか」


「こんなに眠るつもりじゃなかったのに」



 半獣族の少年は、うろたえた様子の少女に微笑みかけた。



「お疲れだったのでしょう。ご主人さまのお体は、人族と同じで強くはありません。おれも気をつけてはいるのですが、わからない所もあります。休まれたい時には、気にせず休んで下さい」



 少女は落ちてきた髪をかきあげた。そこでまぶたや頬のはれぼったさに、改めて気づく。



「顔を洗ってくるわ」



 そう言うと、少女は家の外に出た。





 太陽は、真上にあった。鶏がこっこっと鳴く声が聞こえ、山羊やロバが草を食んでいるのが見えた。畑の側には桶とひしゃくが置いてあり、抜かれた雑草が集められていた。日差しが暖かい。こんな風に明るい日差しの中にいると、全てが夢のような気がしてくる。


 夜の静寂も、暗さも。ここにいる自分自身すら。



(でもわたしは存在しているし、夜も在る)



 夜を体現したかのような美しい闇魔族の容貌を思い出し、少女は居心地悪げな顔になった。昨夜何があったのか、ガイリスに尋ねてみなければならない。





 家に戻ると、ガイリスは暖炉の火を小さくし、スープを碗についでいた。



「仕事を全部やらせてしまったのね」



 少女が言うと、彼は笑みを見せた。



「平気ですよ。鶏や山羊の世話も覚えたし。こういう仕事はおれに任せて下さい。ご主人さまはもう少し、楽をしないとダメです」


「十分、楽をさせてもらっているわ。あなた良く働いてくれるし……ありがとう」



 差し出された碗を受け取った少女に、彼は言った。



「そんな指をしているのに? おれ、これでも半獣の民なんです。だから人族よりは頑丈で。気がつかなかった。ご主人さまの指が痛んでいたなんて」


 少女は指を隠そうとしたが、碗を持っていたのでできなかった。それで「大した事はないわ」と言った。


「村の女たちは、みんなこんな指よ」


「あなたはおれのご主人さまです。他の人族とは比べ物になりません。体を休めて下さい。でないと、おれが銀月の君にしかられます。主人に苦労をさせるとは何事だって」



 突然出てきた伯爵の呼び名に、不意をつかれて少女は赤くなった。



「ガイリス。あの。わたし昨夜……」


「はい?」


「ひ、氷玉の前で、寝ちゃった……の?」



 否定してほしいと思いつつ恐る恐る言うと、少年はにっこりしてうなずいた。



「ああ、はい。良くお休みでしたので、閣下が寝所まで運ばれました」


「あなたが運んだんじゃないの!?」


「ご主人さまを運んだのは伯爵閣下です」



 少女は真っ赤になった。なんて醜態しゅうたいさらしたのだろう。



「お客さまの前で泣きわめいて眠り込んだあげく、寝台まで運ばせるなんて……」


「スープがこぼれますよ。閣下は嫌がってはいませんでした。むしろうれしそうで」


「うれしいって、何で!」


「ご主人さまが、……ご自分を頼られたように思えたのでしょう」



 ガイリスは答え、少女の手からスープの碗を取り上げると、テーブルまで運んだ。



「それがどうしてうれしいの?」



 ぽかんとした顔になった少女に、半獣族の少年は苦笑した。



「そういうものです。ご主人さまは、銀月の君の姫君でもあられます。それも、閣下おん自らが名を明かしている。信頼されているように思えて、うれしいのですよ」



 少女は首をかしげた。良くわからない。



「おれだって、ご主人さまから命令されるとうれしいですよ。頼って下さってるんだなあと思って。さ、どうぞ。さめちゃいます」



 ガイリスはそう言うと、少女をテーブルの方にうながした。



「あ、ありがとう……いただくわ」



 席につくと少女は、手を組んで頭を垂れた。治療を行う者の神と聖なる手の持ち主たちに祈りを捧げると、木のさじを取り上げ、スープを口に運ぶ。



「おいしいわ」



 そう言うと、ガイリスはにっこりした。



「ご主人さまにそう言って、ほめてもらえるのもうれしいです」


「わたし、命令って……苦手なのよ」



 少女が言うと、ガイリスは「知ってます」と答えた。



「でもおれは半獣の民で、あなたはおれのご主人さまです。おれたちは、序列じょれつをつけないと生きてゆけない種族です。あなたはおれより上の立場でいなければ。


 そうでないとおれは多分、どこかがおかしくなります」



 この言葉に少女は顔を上げ、彼を見た。



「初めて聞いたわ」


「話す必要があるとは思っていなかったので。でもご主人さまにはおれたちや魔族の方々の事について、ご存じない事が多いのではと……出すぎた真似でしたらお許し下さい」


「いいえ。話してくれてうれしいわ。序列……がいるの?」


「はい。でなければ混乱します。おれたちは群れで暮らす種族ですから、命令系統がはっきりしないと不安になるんです。魔族の方々にも、似たような所があります」


「魔族にも?」


「はい。魔族の方々は一族の当主に忠誠を誓い、当主は群れを率いるように一族を統率します。おれたちの感覚とは少し違いますが。


 おれたちには序列が、とても大切です。名誉や命がかかっていると言ってもおかしくありません。


 人族にはそれがわかりません。おれは、そっちの方が不思議です」


「そう」


「閣下が名を明かされたのは、本気で敬意を表したかったからです。魔族の方々は当主に名を捧げ、忠誠の証とする。閣下はご主人さまに最大限の敬意を払われました」



 少女は碗の中身を匙でかきまわした。



「名を明かす事は命を預ける事、だから? わたし、ただの薬師なのよ。敬意だなんて」


「閣下がお嫌いですか?」



 少女の手が止まった。匙をにぎりしめる。ガイリスは続けた。



「それなら、来るなとおっしゃえばそれですみます。閣下はそのお言葉に従って……」


「嫌いじゃないわよ」



 ユーラはそう答えてから、うなるようにつけ加えた。



「だから困るんじゃない……」


「なぜお困りに?」


「人族は、好意を持つ相手を召使にしようとは思わないからよ。わたしがどうしてあなたに、名前で呼ぶよう頼んでいたと思うの」



 ガイリスの顔に、血が登った。



「閣下を差し置いてそんな事は」


「友だち同志は名前で呼び合うのでしょう?」



 妙な顔になった少女に、ガイリスは耳まで赤くなった。



「ご主人さまには、わかっておいででない。あなたがおれを名で呼ぶのは正常です。でもおれが呼ぶのは……お許し下さい」


「どうして?」



 本気でわかっていない様子の少女に少年はうろたえ、「この説明はおれじゃ役不足です」とぼやいた後、咳払いをした。



「少し質問をさせて下さい。人族の女の方は、あの。誰か男なり女なりをとこに、えー、共寝ともねに誘う時には、どんな風に誘うんですか」



 少女は横面よこつらはたかれたような顔になった。



「何て事言うの!」


「ご、ごめんなさい。でもそれに近い事言われたんですよ、ご主人さまは」



 少女は言葉をなくした。



「言った? わたしが? 近い事?」



 沈黙した後、彼女はそう言った。ガイリスは小さくなっている。



「名前で呼ぶよう頼んだら、そういう意味になるの? だとすると……待って。だったら氷玉は、わたしにそういう誘いをしてたって事?」



 少年は首をぶんぶんと振った。



「違います違います! 閣下の場合は違います! こういう説明慣れてないんですよ、おれ。でも閣下の場合は全然違いますから!」


「わからないわよ、わたしも全然。風習が違うっていうのはわかったけれど。わたしがあなたに名前で呼べって言ったら、……その、そういう意味になるの?」



 赤くなった少女の前で、少年も赤くなった。



「光栄だとは思いますが……」


「そういう意味で言ったわけじゃないわよ!」


「は、はい。わかっています」



 断言され、少年はちょっぴり傷ついたような顔をした。それに気づかず少女は言った。



「半獣族の人に名前で呼んでって頼んだら、そういう事になるのね? ともかく」


「ご主人さまの場合はそうです。でも相手に伽をお命じになりたいのなら……」



 少女は匙を投げ出すと、手で顔を覆った。



「お命じにならないわよ。ああやだ、もう、恥ずかしい……ちょっと待って」



 顔を上げると少女は、真面目な顔で尋ねた。



「わたし氷玉に名前で呼んでって言った?」


「はあ。その」


「言ったわよね。最初の夜に。じゃ、それは……魔族の場合は何か違う? 違っていたりする? それともわたし、氷玉に一緒に寝ましょうって誘ってたの?」



 頼むから違うと言ってくれ。そんな思いのこもった視線を浴びせられ、ガイリスは居心地悪げに身じろぎをした。



「魔族の方々の場合は、意味合いが違ってくると……あの、おれ、そんなに詳しくないんですが。ただあの方々は普通、名前を呼び合う事はしません。圧倒的に地位の高い方が、下の身分の方を呼び捨てる事は許されますが」


「風習がないのね? そう言えば、名前は魔術の一つって……ロークが」


「ああ、はい。そうです。自分から相手に名を明かすのは、殺されても文句は言わないという信頼の意味があるんだそうで。確か」



 少女は息をついた。



「命を預けるって、そういう意味なの……今度氷玉が来たら、尋ねてみるわ。お礼も言わないといけないし」



 彼女は藁布団の方を見やった。マントは一応、たたんでおいた。あれも返さなければ。



「マントなしで、寒くなかったかしら」


「閣下は闇魔族ですから……」


「こういう些細な事を心配したくなるのよ、人族は。さめてしまったわね……」



 スープを口にし、少女はそう言った。



「温め直しましょうか?」


「さめてもおいしいわよ、これ。薪も無限ではないのだし」


「いくらでも採ってきますよ」


「どこから?」



 少女は顔を上げて少年を見た。



「使うのは、必要な分だけで良いの。他は残さなくては。それは大地の取り分よ」


「ご主人さまを温める薪が、必要でない事などありません」


「ガイリス」



 強い調子で名を呼ばれ、少年は不満そうな顔をしつつ黙った。少女は言った。



「駄目よ。わたしはここで暮らそうと思っているの」


「はい……」


「食べるものを作って、木や草を育てて。長い間、ここにいようと思っている。必要以上に切ったり燃やしたりしていたら、ここには何もなくなってしまう。


 わたしは土地を育ててもいるのよ。奪い尽くすのではなく」


「土地を……ですか」


「助けてもらっているのですもの。住まわせてもらって、食べ物を与えてもらっているわ。土地にもお礼をしなくてはね」


「良くわかりません。必要な物は奪うのが、おれたちのやり方です」



 ガイリスは言い、少女は首をかしげた。



「奪ってばかりでは、なくなってしまうのではない?」


「ある所にはあります。奪われるのは弱いからで、それはその者が悪い」


「わたしは非力だわ。誰かに何かを奪われたなら、わたしが悪い事になるの?」


「とんでもない!」



 きっぱりとガイリスは言った。



「ご主人さまのものは、ご主人さまのものです。誰にも奪わせたりはしません。そんな悪辣な事をする奴がいたら、絶対許しません」


「言っている事が矛盾していない?」


「どこがですか?」


「さっきは奪われた者が悪いと言ったわ」


「そうです」


「なのにわたしに関しては違うの?」


「当然です」


「どうして?」


「あなたはおれのご主人さまだからです!」



 少女は困った顔になった。彼の言葉がなぜこうつながるのか、わからなかったのだ。



「おれ、何かまずい事言いましたか?」



 その表情にガイリスが尋ねる。少女は迷ったような顔をしてから答えた。



「異種族間で意思の疎通そつうをはかるのは、難しいものだと思っていたの」


「ああ、魔族の方々は理解するのが難しいですからね」



 わかったと言いたげに少年が言った。少女は「そうね」とだけ答えた。



「でも銀月の君は、たわむれで名を明かしたわけじゃないですよ。心配なさらなくても大丈夫です。心変わりはなさりません」


「別に心配しているわけじゃ……心変わりする魔族もいるの? 名前を明かしておいて」


「普通はしない。そんな事をする魔族は狩られる。一応、建前たてまえではね。でもそれなりの大義名分が成り立てば、別」



 声がして、二人は振り向いた。戸口に剣を背負った男が立っていた。少女は笑みを浮かべ、半獣族の少年は頬を強張らせた。



「ローク。いらっしゃい」


「久しぶり。歓迎してもらえてうれしいよ」



 男は精悍せいかんな顔に人懐こい笑みを浮かべた。そこにいたのは人族を装った紫忌だった。



「で、歓迎ついでに。腕のたつ傭兵を雇うご予定はありませんかー? 力仕事全般、何でも引き受けます。


 ちょーっとドジ踏んじゃって、雇い主から逃げてる所なんです。食事さえもらえれば働きますんで、しばらくここに住まわせてもらえませんかね」



ねねね眠い…。今日、睡眠、二時間半しか取ってないですよ…。もうちょっと進めたかったけど、妙なミス連発しそうな今の私。寝る事にします。

行かねばなるまい。まくらと布団が私を呼んでいる。(笑

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