【短編】ある人形の一日
朝。甲高い目覚ましの音で目が覚めた。ご主人様のものだ。私は専用に作られた小さなベッドを出て、ぐーすかと大きないびきをかいているご主人様のもとへ向かった。
「目覚ましなってますよ!ごーしゅーじーんさーま!」
ご主人様の鼻をつまむと、ふごっと間抜けな声を出して起き上がった。こんなことを、私は毎日繰り返している。こんなにうるさいのに、よく起きないなぁと、いつも思う。
お昼。ご主人様はお仕事に出かけているので、広い屋敷に一人ということになる。人形...とはいえ、何もせずぐーたらしてるのも何だかなぁと思うので、曜日ごとに場所を決めて、少しずつ掃除をしている。ご主人様お手製のメイド服を着て準備はばっちり。背丈が30㎝程しかないので人間なら15分程度で終わる廊下の掃き掃除も25分もかかってしまった。
「今度ご主人様に掃除機でも買ってもらおうかな...」
いやまて、人間サイズのを使いこなせるかな。そんなことを考えつつ廊下掃除をした昼だった。
夜。ご主人様と一緒に夕食。食べるといっても人形だからおなかのほうにたまるだけだ。ご主人様はそのたまったものを食後に食べる。だから私はいつも甘いものしか食べていない。感覚はないけど、開かれたわたしのおなかの、中のものをご主人様が食べる様子を見ると、なんだか頭がとろけてくるような不思議な感覚になる。
今夜もご主人様は無意味な目覚ましをセットしている。ときどき、私だけにしか聞こえてないんじゃないかと思うほどご主人様があれで起きたことはほぼない。
ご主人様がおやすみなさい、と頭をなでる。瞼がおもくなってきた。
「...おやすみ...なさい...」