雨と雫
これはきっと僕からある人へのエールです。
こんな鬱々しい書き方になってしまっていますし、勝手にあの人の一人称にしてしまっています。
ですが、妄想も自分だと全部ひっくるめて、あの日の事を思って書きました。多分。
ぽつ、ぽつ、と天井に打ち付けられる雨の音。
私は開いていた本を閉じて、窓の外を眺める。
都心にあるそのカフェから見える景色は、大小様々な光であるはずだったが、今日はあいにくの雨でそれらの光はボヤけ、窓に付着した水滴がキラキラと輝きを放っている。
私は雫。
あの夏の雨に流されないように必死にしがみついている雫。
私はカップを唇につけ傾ける。
コーヒーの苦味と香りが私の意識を覚ます。
「あの人とあったのも、こんな日だったっけ…」
私は誰に向けるわけでもなく、影った笑みを浮かべた。
ふぅ、と一息ついて、もう一度窓の外を眺める。
あの頃に戻れたなら。
胸の内に自然と湧いたその思いをかき消す。
きっと、そう思うだけ無駄で、あの人を苦しめてしまう事だから。
でも、せめて、思い返すくらいは許して欲しい。
窓の外に光る一つの街頭を見つめて、私は昔のことを思い返した。
皆で集まって、わいわい騒いでいたあの夏。
昼頃から夜までそこに集まって、どうでもいいことを話し合って、笑い合う。
そんな幸せな日々。
この幸せがいつまでも続きますように。
そう願っていた頃だった。
私達に、雨が降り注いだ。
黒い黒い、雨だった。
その雨は、きっと皆から溢れた苦しみの雨だった。
私達はいつでも、互いの本心でぶつかり合い、認めあって成長してきた。
でも、それが裏目に出てしまったらしい。
本心でぶつかり合うわけだから、一度論争になってしまえばその二人は止まるわけ無かった。
私には見てる事しか出来なくて、しっかりと止めてあげることが出来なかった。
結果、一人が私達の中から消えた。
その人は、消える前に私に傘をくれた。
こんな雨に濡れないように、負けないように。
傘を私に渡した後は、もう私達の前に現れなかった。
私が尊敬していた彼は、もう戻ってこない。
そう感じた私は、きっと酷く後悔したと思う。
私があの時止めていれば、彼は消えなかったのかなって。
でも、そんなものは甘えだと、きっと彼は言う。
だから、彼を見つけるんじゃなくて、彼の前に立つ。
目を逸らそうとしても、逸らしきれないように。
だから私は雫でいるのだ。
あの夏をずっと忘れずに、しがみついて、そして曲を作る。
あの人に見てもらえる、そんな曲を。
私は雫。
彼が消える少し前に、彼にもらった名前。
私はいつか……