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この作品には 〔ボーイズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

悲恋(44日間の恋)

作者: Jin

悲恋(44日間の恋)


どんなに想いを寄せても叶わない恋がある。最初からあきらめなければならない恋がある。

人はそれを<悲恋>と呼ぶ…。


その出会いは唐突にやってきた。

職場の「花見」に不参加の予定だった彼女が、直前になって「参加します」と言ってきたのだった…。


2017年1月5日、僕の職場に一人の女の子が採用されてきた。

履歴書を見て、「若いな~」というのが第一印象だった。21歳。僕より34歳も年下で、当然といえば当然だがそのときはさすがに恋愛対象として見ることはなかった。

ただ僕にとって彼女は、どちらかと言えば好みのタイプだったので、「ちょっといいな~」ぐらいの感覚で見ていた。

新入職員のオリエンテ-ションを行ったとき、同時期に入ってきた人が二人いたので一緒に実施した。しかし…僕は彼女の顔をまともに見ることが出来ず、ほとんどもう一人の人だけを見て話をしていた…らしい。後日、彼女と親しく話せるようになってから、そのことを突っ込まれた(笑)。

それからしばらくして、僕の部署(事務室)に来たときや、廊下ですれ違うときに軽く挨拶する程度だったのだが、なぜか僕の心の中に棘が刺さったような印象が残り、気がつけばいつも彼女を目で追い、好意を抱き始めている自分がいた。

とは言っても、同じ職場で年の離れた女の子に、役職者でありなんと言っても既婚者の僕が気持ちを明かすことなど出来るはずもなかった。

そして時間だけが淡々と流れていき、三ヶ月が経った頃だった。

毎年、僕の職場では桜の時期に「花見」があり、併設の老健にある桜の木の下で飲み会を行っていた。今年は4月に新しい先生が来られることもあり、歓迎会を兼ねて街中のホテルで「お花見の会」が実施されることになった。

僕のいる病院の方の参加者を募って欲しいと言われたので、各部署に参加者確認の名簿を回した。

彼女のいる看護部から戻ってきた名簿に彼女の名はなかった…。「なんだ、来ないのか…」。

ちょっとがっかりして主催者である老健の担当者へ参加者名簿をメールで送信した。

そして、たしか開催日の2、3日前だったと思う。

彼女の所属する看護部の師長から、「一人追加しても大丈夫?」と内線電話がかかってきた。担当者の話では当日昼までは受け付けるとのことだったので、軽く「大丈夫ですよ~、誰ですか?」と聞いた。「Hさん(彼女の名)なんだけど…」。「OKです!」と即答(笑)。

その師長曰く「若い子だから返事速いのね…」。若い子だからではなく彼女だったから…。

電話を終えたあと「来るんだ…」と一人つぶやいて、思わず顔がほころんでしまった。

その日、彼女が他の部署で用事を済ませたあと、事務室を通るとき、「急に参加してすみません、ありがとうございます!」と挨拶してきた。僕は「いや、参加してくれて嬉しいです。こちらこそありがとう」と応えたのを覚えている。それが彼女とまともにかわした最初の会話だった。可愛かった…。マスクをしているから目だけしか見えていないのに、その可愛さが僕にはわかった。そのとき僕は自分の気持ちをはっきりと意識した。

4月8日、「お花見の会」当日。

彼女は開会時刻間際に現れた。その姿を目で追う僕…。席は少し離れていたけれど、彼女の顔はちゃんと見えていた。

宴が進み、ふと彼女の席を見ると、そこには薬局長の姿があった。そういえば同じ薬剤部の職員が「薬局長はHさんがお気に入りだから…」みたいなことを言ってたのを思い出した。

しばらくは傍観していたが、いてもたってもいられなくなり、僕は彼女のテーブルへ移動して他の職員と彼女の間に座り、初めて彼女とゆっくりと話をすることが出来た。

いつも、おとなしい子だなと思っていたけれど、僕の想像をはるかに超えるいい子だった。

終宴間際に「このあとどうするの?」と聞くと、「どうしましょう、どうするんですかね?」という返事が返ってきた。

同じ看護部の職員と二次会に行くのなら引止めないでおこうと思ったが、そうでもなさそうなので「二次会行く?」と聞いてみた。迷惑そうな感じはなかったが、さすがに二人でタクシーに乗り込むのはみんなの手前マズいと思ったので、とりあえず(仕方なく)薬局長も誘って、僕の同級生がやってる店<Anraku>へ行った。

そこは年配の客が多く心配したが、彼女は楽しんでくれているようだった。僕らは翌日が休みでゆっくり出来たが、彼女は朝から仕事だったので午前0時を回る前に帰そうと決めた。店を出る直前に薬局長がトイレに行くと、彼女は僕の隣に来て「うた、上手でした!」と言ってくれた。それは…天使の微笑みだった…。今夜はこれで満足しようと心で笑った。

飲んでる最中に携帯番号を交換したので、帰りのタクシーの中から「今日は付き合ってくれてありがとう。明日は仕事頑張ってください!」とLINEすると「こちらこそありがとうございました。楽しかったです!」と返信がきた。もうそれだけで幸せ…。

それからの日々はもう彼女のことしか考えられなくなってしまった…。

4月19日。

翌日が彼女の休みだったので飲みに行った。初めての二人飲み!

ちょっと高級?な焼肉店に行きいろんな話をした。彼女が僕の近くにいて、話したり笑ったりしていることが信じられなかった。二次会はまた<Anraku>に行った。マスターも交えて楽しい時間を過ごし、時計は知らぬ間に午前1時を回っていた。「明日、きついだろうなぁ…」と思いながらもこの状況を終わらせるのがもったいなく、なかなか帰ることが出来なかった。

結局家に帰ったのは午前2時少し前だったが、帰りのタクシーの中できちんとしたお礼のLINEが来て、寝不足も幸せな気分にすり替わった。

人を好きになることも久しぶりだったが、やっぱり同じ職場というのはつらいものがあるなぁって思う。一緒に勤務していると顔が見たくなるし、気になって仕方がない。と言ってどちらかが休みだったりしたら、「今、何してるんだろう…」ってまた気になる。まるで高校生に戻ってしまったような感覚で、彼女にもmailの中でそう言われてしまった。

5月10日。

二度目の二人飲み。ただ彼女が22時くらいまでしか一緒に居れないってことで、複雑な気分。でも彼女は自分の過去についての話をほんの少しだけ聞かせてくれた。この若さで、今までなんて大変な人生を送って来たんだろうと唖然としたのを覚えている。

そして…僕はどうしても自分の気持ちを隠しきれず、自分の胸の内を打ち明けた。思い返してみると、この告白が間違い(早過ぎた)だった気がする…。

まぁ、僕の日頃の態度から少しは察していたみたいで、それでも僕の気持ちを拒絶したりするような言葉はなく、「なんで?」「私のどこが?」みたいなことを聞かれたりもしたが、明確な返事が出来なくて、「強いて言えば全部かな(汗)」としか言えなかった。

彼女は自分でも男みたいな性格だし、友達も男の方が多いと言っていた。その方が気楽ならそれでいいんじゃないかなって思った。思ったけど、やっぱり気になる…。

22:30くらいまで一緒にいてくれて、居酒屋を出たところで別れようとしたら「このあとどうするんですか?」と聞かれ、「この前の<Anraku>に行くつもりだよ」って言ったら、「じゃあ、店まで送ってマスターの顔見てから行きます」って言うもんだから、「顔見せたら引き止められるからこのまま行った方がいいよ」と言う僕の言葉を聞かない振りして店までついてきた。

案の定、マスター夫妻にしつこく引き止められたが、僕が「用事があるから行かせてあげて」と言ってしぶしぶ了解してもらい、彼女を送り出した。

店では何人か同級生がいて楽しく飲んだ。ただ、マスターだけは彼女に対する僕の気持ちに気付いているから、話しを聞いてくれたり、アドバイスをしてくれた。そんなこんなで結局閉店までいたので、帰ったのは2時を回っており、「あーまた明日も寝不足だな…」と思い、寝た。

また次に会う約束もしているんだけど、とにかく毎日彼女のことばかり考えている。彼女のことが気になりだすと、最悪仕事が手につかなくなる。

5月13日。

今日も、男友達のバイクに乗りに行くという彼女のLINEに激しく動揺し、冷たい反応をしたら「妬いてます?」って聞かれたので、「妬いてる」と返事してしまった。

彼女は「なにも心配いりません!」って返してきた。心配いらないって…なわけないでしょ!って思いながらも、「信じてるから…」って伝えた。恋人同士でもない僕の妬きもちに対して、「なにもないから心配いらない」って応えてくれる彼女がいじらしくて、愛しくて…。正直「妬いてます?」って聞かれたこと自体が嬉しかった。変だとは思うけど…。

ここしばらく好きな人もいなく(当たり前だけど…)、人を好きになることさえめんどくさいと感じていたのだが、突然僕の前に現れた彼女が可愛くて仕方がない。もちろん女性として好きなのは間違いないが、それと同じくらい守りたい大切な存在であることを自覚している。

自分が彼女を幸せには出来ないだろうことも十分わかっている。

ならばせめて彼女を悲しませるすべてのことから全力で守るしかない。過ちを繰り返さないように…。

多分僕にとって、まぎれもなく最後の恋だと思う。どんなに彼女のことが好きでも決して形を結ぶことのない恋だから、僕は彼女を大切にしたい…心からそう思う。

<第二部へ続く>


いつか終わる恋…、いつかは訪れる悲しい瞬間。そのことを考えると泣き出してしまいたくなる。いい年の大人が…って誰もが言うだろうけど、好きになってしまったこの想いは今さらどうしようもない。だったら自分の気持ちに正直に生きよう!たとえ最初から報われないことだとわかっていても忘れられる想いではないし、その時が来るまで彼女のことを見ていよう!そんな男が一人くらいいてもいいかな…。

彼女が友達のバイクに乗りに行った夜、彼女からのLINEは来なかった。「帰ったら何時でもいいからLINEしてね」って言ってはおいたんだけど…。

5月14日。

翌朝7:35。「すいません、あまりに遅かったので」というmailが来た。僕は冷たく「いいですけど…」と返した。「なんもなかったですよ!二人ではなかったので」という文章を見て、<そんな問題じゃないんだけどなぁ>と思ってしまった。

ここ何日かmailで話すと、結構言葉の行き違いというかお互いの言いたいことがうまく伝わらないことがある。彼女も「mailはあんまり好きじゃないんです」って言ってたことを思い出し、文章だけで気持ちを察するのは難しいなぁと改めて思った。

要するに僕の妬きもちや情けない言葉に、引かれているんだろうなとは感じるけど、自分に自信がないからついそんなmailを送ってしまう…。もっと広い心で受け止めなきゃってわかっているんだけどな~(泣)。

5月15日。

今朝も、夕べ送ったmailに来た返信に落ち込んでいる…。月末には会えると思っていたのに「なにもなかったら…」と。今週末は会えないかダメ元で聞いて、案の定「予定がある」と言われ、それは仕方ないとしても、この前会ったときに「月末は大丈夫」みたいな感触だったのに。まぁ、僕の我儘を通しても良いことはないし、ここは我慢するしかないんだろうな…。

午前中、職場内で二度会った。二度とも僕は彼女の顔を見ることが出来なった。今、僕はおそらくひどい顔をしていると思う。自分の気持ちが満たされないのを彼女のせいにしようとしている。そんな、まるで子供のような感情を貼り付けた最低で情けない顔を彼女に向けられなかった。

こんなに苦しいなら、いっそのこと忘れて楽になった方がいいのかな~なんて思ったりもする。でも、簡単に忘れることなんか出来ないこともわかっている。

どうしたらいいんだろう…。こんなはずじゃなかったのに。時々一緒に飲みに行ったり、そばで顔を見て話したり、そういうことで僕は満足するはずだった。なのに…どうして…。

昼休みに入っても彼女からのmailは来なかった。いつもは何気ないmailをくれるのだけど、今日は…。

やっぱり僕の態度に嫌気が差したのだろうな~。そりゃそうだよな、恋人同士でもないのに妬きもち妬かれて、行動にぐだぐだ小言言われて、僕でも嫌になるし、下手すりゃ愛想つかしたくもなる。何度反省を繰り返しても最後には嫌なmailを送ってしまう。満足のいかない返事がくると拗ねてしまう。ガキだな…。

疲れたなぁって思う。自分が悪いんだけど…。

今、ちょっと弱気になってる。半分はまだ頑張ろうって気持ちだけど、あとの半分はもうあきらめようかなって思う。あきらめたら自分の気持ちはいったいどこへ行くんだろう…。立ち直れなくなるくらい落ち込むんじゃないだろうか…。それでも、彼女を悩ませ、苦しめるよりはましかな~…。彼女を守るって言ったけど、守るどころかこのままでは彼女になんの責任もないところで、彼女を傷つけてしまう。それだけは避けなきゃいけない。

ついさっき、階段で彼女と会った。「お疲れ様です」の一言だけで僕を追い越して行った。

なんでこうなるんだろうな~…。会いたくて会いたくて仕方なくて、やっと顔を合わせたら余計切なくなって…。いろいろ考えてるのに、なんにも考えられなくて…。全部自分のせいなんだ。どうすればいい?

いっそのこと彼女とそういう関係になってしまおうか…。そうしたらどうなるだろう…。ダメだ。それは最悪の結末を招いてしまう。それだけはダメだ…。

たった今、彼女が事務室に来た。入り口でバッタリ出会ったけど、なにも言えなかった。

情けないな~…。

これからどうなるのか、僕にはまったくわからない。僕の気持ちがどこに行くのか…、この恋がいつ終わるのか…。今日かもしれない。明日かもしれない。ただその時が来ても取り乱すのは止めよう。彼女が僕を必要としないのなら、それを受け入れよう。彼女の心に決して傷をつけないようにしよう。

<第三部へ続く>


5月16日。

昨日の帰り道、彼女からのLINEが来た。

僕の態度を不思議に思ったのだろう。「今日なんか…」僕は「どうかした?冷たかった?」すると彼女は「私はなんも言えないんで」その一言にまた苛立ち、「どうしてそういう言い方するの?わざとやったんだよ。ひどいヤツ!って言えばいいのに…」僕がなぜ彼女に対して素っ気無い態度を見せたのか、少しでもわかって欲しかったし怒って欲しかった。ただイラついていただけなんだけど…。

夜、電話で声が聴きたいと思ったけど結局は「今イライラしてて酷いこと言いそうだから」って断られた。イライラしてるのはこっちの方なんだけど…。

それで決心した。今まで彼女の都合を優先しながら会ったけど、今回だけは僕の我儘を通そう。一度だけ僕の頼みを聞いてもらおう。そう思った。

今朝、早出の彼女を階段でつかまえた。腕を取った僕の腕を彼女は掴み、驚いたように僕を見つめた。「今回だけ僕の我儘を聞いて。25日か29日のどちらか、時間を空けて欲しい。」彼女は、「わかった。どっちかね」。

僕は今の自分の気持ち、彼女をどう思って、どうしたいのかをありのままに話そうと思う。このまま中途半端な形でいるとすべてが悪い方へ流れていくような気がする…。そして表面しか知らない彼女のことをもっと深く知り、完全には無理かもしれないが、彼女を理解したい。この前会ったとき彼女は言った。「人が人を理解し、その人を変えようとか自分がどうかしてあげる、なんてことは綺麗ごと。そんなことは絶対に無理」。

僕もそう思う。ただしそれは上っ面だけで言ってるヤツだろう…。そして「過去は変えられない」のもわかっているつもり…。つらい思いをしたであろうその人の過去を、一緒に嘆いたり「自分ならそんな思いはさせなかった」なんて言っても、それは言ったヤツが自分の言葉に酔ってるだけ…。大切に思う相手に対し、覚悟を持ち、誠実に向き合うのなら、今このときから未来の話をするべきだと思う。

僕と彼女に未来は…ない。あるのは今生きているこの瞬間だけ。彼女が離れていくそのときまで、その最後の瞬間まで僕は彼女のそばにいたい。彼女を見ていたい。彼女が笑顔でいられるよう寄り添っていたい。彼女を幸せに出来る人が現れるまで…。

つい今し方、彼女が薬局に来た。事務室を通るとき「お疲れ様です」と一言。もう少しなんかしゃべればいいのに…と思うが、仕方ないか…。

職場では出来るだけ彼女のことを見ないようにしようと思いながら、どうしても目で追ってしまう。気づかれてしまうな~…。彼女にも「わかるよ」って言われたし、気をつけなければ…。

なんか今、薬局に行って薬局長と話してた…。気になるな~…。

今までまるで気にならなかったことが、全部引っかかる。やっぱり同じ職場って精神的に良くないな…。

早出だった彼女の昼休み。LINEが来た。まぁ、他愛無い話だったけど、とりあえずmail来て安心した。少なくともまだ嫌われてはいないみたいだな~。薬局長ともなんでもなかったみたいだし、そこは安心したけど…。ただ、そのあとが…。25日か29日会う日に、僕と会ったあとに予定を入れないでってmailしたら、「なぜ?」って返ってきた。「ダメなの?」って聞いたら「そんなに遅くまではいられないですよ」って言われた。でも「その日だけは俺のためになんとかして」って言ったら、すでに昼休みが終わったらしく返信がなかった。あー、ストレス!

彼女が病棟で使う乾電池を取りに来た。担当者が休みなので僕が相手した。

彼女が「単3が欲しいんですが」と言うので、「何個?」って聞いたら「う~ん…」と考え込むので、「すぐ使いたいのは何個?」「2個」。で、何個持ってくつもりなのかなって思いながら箱を開けたら、「じゃ、8個」と言う。とりあえず8個を渡して、消耗品ノートの書き方を教えた。二人で屈み込んで距離が近かったので、「最後のmailは見た?」って聞いたら「見てない」って…。確かに<既読>も付いてないし、見たらどう返事するんだろうなぁと思いつつ、今回は妥協しないようにしようと思った。。

別にその日、彼女をどうかしようなんて不埒な思いはなく、多分混み入った話もするだろうし、単純に僕と会ったあと他の男友達に会って欲しくないだけなんだけど…。

それくらいの我儘言っても罰は当たんないよな~。

今日何回か、白衣の袖から出てる彼女の腕を見た。採用された頃に比べて明らかに細くなっている。顔も頬がへこみ、痩せた…。その分綺麗になったんだけど、どう考えても健康的な痩せ方じゃない。この前会ったとき聞いたら、採用時に比べ5キロくらい減ってると言っていたが、心配でたまらない…。ただ、ゾクっとするくらい綺麗になった。このまま放っておいてもいいんだろうか…。どうにかなってしまうんじゃないだろうか…。

出来ることならいつもそばにいて支えてあげたい。彼女の抱えた闇のドアを開けて引っ張り出してあげたい。そうするためには僕の側にある問題を解決しなければならない。今はまだ、その覚悟が足りない…。ただ、僕ではなく、他の誰かがその役目を担ってくれるのなら、彼女を心から愛し、大切にし、幸せにしてくれるのならそれでもいい。一番大事なのは、彼女の未来だから…。

<第四部へ続く>


人を好きになるって、もっと楽しいことだと思ってた。

今日も一日が終わろうとしているけど、すごく疲れた…。仕事量は大したことないのに、頭の中を埋め尽くしている彼女の存在が大き過ぎて、思考回路がうまく働かない。

早出だった彼女が17時近くまで残ってた。委員会に出るのかな~って期待したけど、会議室には来なかった。委員会が終わって、もう帰ってるみたいだったから「上がりが遅かったね」ってLINEしたら、「先生の処置をギリギリまで待ってたんで」ということらしかった。そのあとのmailでは、久しぶりに会話が弾んだ。

5月17日。

水曜日は事務室が掃除当番なので朝から掃除用具置き場に行ったら、ちょうど彼女が出勤してきたところだった。「おはよう」と挨拶すると僕をちらっと見て「おはようございます」の一言を残しそのまま行ってしまった。朝に弱いとは知ってるけど、機嫌悪ぅ~…。

昨日の楽しかったmailの感触が吹っ飛んでしまった。あ~気分悪…。

早出勤務を含めて日勤が続いてるから疲れてるんだろうな~とは思うけど、もうちょっと愛想良くしてくれてもいいのになぁ…。不機嫌な時の彼女の顔は、綺麗な顔立ちゆえに超怖い…。

一日の仕事が始まったのに、気持ちが重い…。彼女のLINEのステータスメッセージにも<気分屋>って書いてあるけど、ほんとそうだな~って思う。ただ、彼女の周りで起こってるいろんな出来事が、彼女に重くのしかかって精神的にもつらいんだろうなってことはわかる。だけどそれをどうにも出来ない自分に腹が立つ。彼女の暗い表情を見るたびに苦しくて落ち込む。そばに居れない自分が悔しい。彼女の支えになっているのは男友達だし、余計に胸が痛む…。今の僕は自分の精神を正常に保つことに四苦八苦している…。

今、なんかの用事で彼女が1階に来た。ちょうどコピーをしていた僕の横を無言で通り過ぎていった。人がいるから話したり、目と目を合わせたり出来ないし、な~んかストレス感じるな~…。

彼女からのLINE。昼休みみたいだな…。「疲れてるだけですよ~」って、夜遊びばかりしてるから自業自得だよ!なんて言えるはずもなく、「ちゃんと体を休めないからでしょ」って送ってやった。そしたら「精神的なことなので…」「だからそれを僕に話してって言ってるのに」「そう簡単にはいかないので」…。それから先は僕の不機嫌な返事が…。「また飲みに行った時にでも話しましょ」で締めくくられた…。はいはい、わかりました…。

このやり取り、僕が悪いのかな~…、心が狭いのかな~…、ということでまたまた自己嫌悪…。

なんでmailだとこんな感じになるんだろう…。言葉の言い方、受け取り方なんだろうけど難しいな~。だから顔を見て話したいんだよな…。まぁ、職場では無理だけど…。

いつも彼女のことを一番に考えてるつもりだし、その精神的なきつさも理解しようとしているんだけど、あまりにもあからさまに不機嫌な態度を取られるとね~…。今度は僕が考え過ぎてこちらの神経が擦り減っていくような気がする。僕の神経が擦り減った分、彼女が元気になるんならそれでかまわないけど、お互いが擦り減って壊れてしまったらどうしようもないし…。彼女には出来るだけ笑顔でいて欲しいと思う。

今日は訳あって昼休みを20分で終わらせた。彼女が仕事してると思うとなんかゆっくり休憩出来なくて(変な理由…笑)。これでは僕が先に参ってしまいそうだな…。

会いたい。ものすごく会いたい。顔を見てゆっくり話したい。手や顔に触れたい。この手に彼女を感じたい。今しかないから刹那的にそう思う。

今度会ったときに、僕は普通に彼女の顔を見れるんだろうか…。彼女を大切にしたいと思う反面、滅茶苦茶にしたい衝動に駆られるのが怖い。自虐の極みだな…。

今し方用事で総師長のところへ行った。3階Station前の廊下で話して、戻ろうとしたら2階Stationの廊下側に面した窓の所で仕事している彼女がいた。当然話しかけることも出来ず、横目で見ながら1階へ戻った。こんなに近くにいるのに彼女との距離が果てしなく遠く思えた。

今日はいつもより胸が苦しい。

この苦しさはいつまで続くのだろう…。僕はどうすればいい?

自分が自分の意思で制御出来なくなりそうな気がする…。

<第五部へ続く>


5月18日。

昨日、意外なことが起こった。

仕事が終わり帰ろうかな~って思ってたら彼女のLINEが入ってきた。「もう終わりました?」「今からタイムカード押すとこ~。もう帰ったの?」しばらくしてコンビニでコーヒー飲みながら煙草吸ってたら、「帰りました~」で、他愛ない話を続けていた。

黙って行動しようと思ってたんだけど、「明日、もしかしたら<Anraku>に行くかも」って入れたら、「ええ!?いいな~」って言うもんだから、あんまり期待しないで「行く?」って聞いたみた。最初は「次が仕事だしな~」って渋ってたけど「少ししか居れないですよ~」。全然大丈夫だし!って思って、とりあえず「予定あるの?」って尋ねたら「次の日仕事なのに遅いと親がですね~…」よし!男友達と会うんでなければ早く帰そうと思い、時間を聞いてきたので、最初8時って言ったら「8時だと1時間くらいしかいれないけど…」そっかぁ、だったら仕事終わって直で行けば7時から会えるな~と考え、そう言うと「じゃあ、直で行きます。街までチャリ持って行くんで」「チャリはどうかな~、今回は止めとく?無理しなくていいから」。そしたらそれでも行くって感じだったから、「じゃあ7時で!おやすみ」「はーい。おやすみなさい」。実際、思ってもみなかった展開だったからマジか?って感じだったけど…言ってみるもんだな~…。

今(朝の7:48)職場に着いたみたいで「おはよう」の返信が来た。さて、今日は一日どんな日になるのかな~…。

今日行く<Anraku>のマスターにLINEして、19時に彼女と行きたいけど大丈夫?って聞いたら、「三人で焼き鳥行こうか」ってなった。一応、今日は俺が一人で店に行き、マスターと二人で飯食って、<Anraku>で飲む予定だった…と話を合わせてくれるように頼んだ。彼女が21時くらいまでしか居られないって言ったから、30分くらい焼き鳥屋にいて、時間まで<Anraku>で飲むことにした。彼女次第だけど、18時半くらいから焼き鳥に行けたらいいな~…。

彼女の昼休み、mailが来た。

焼き鳥食べれるか聞いてたんだけど、「食べれますよ~」って一安心。マスターと僕と彼女の三人で焼き鳥屋に行くことになった。18時半は無理かなって聞いたらOKだった。「君が来てくれるんで、すっごく喜んでたよ!」って入れたら、「そんなにですか?」ってまんざらでもなさそうだった。ということで仕事終わったら街へ直行。18時半に<Anraku>の前で待ち合わせ。マスターにも伝え、準備は万端。なんか突発的に会えるのも嬉しいもんだな~と思う。

18:30ギリに<Anraku>の前に行くと、すでに彼女が来ててマスターと話してた。三人揃ったところで近くの焼き鳥屋<八師団>へ行った。初めて行った店なんだけど、これが美味かった。とりとめのない話をして20:00少し前に<Anraku>へ行った。木曜日は客が少ないらしく、貸切状態で僕、彼女、マスター、マスターの奥さんの四人で飲んだ。彼女とはなかなか込み入った話が出来ず、21:00を回ったところで帰すことにした。

階段を上がり通りに出たところで2~3分話をして見送った。会えて嬉しかったのは間違いないが、なぜか切なさと苦しさが入り混じったような気分だった。なぜかと言うと「私、どうしたらいいんでしょう…。気持ちに答えてないまま、こうして会っててもいいんでしょうか…」って言われ、「答えは求めてないから。こうして会えるだけで僕は嬉しい。まぁ、どうにかしたい気持ちがないわけじゃないけど(笑)」「え~!」みたいな会話で、本当ならもう少し突っ込んで話したかった。それは次回会えるときまで持ち越しか~…。

<Anraku>に戻りまた話をしながら飲んだ。ほとんど僕の、彼女に対する気持ちや悩み、不安などの話だったんだけど、二人が親身になって聞いてくれるのがありがたかった。話に夢中で彼女からのLINEに気づかず、携帯を見てあわてて返信した。「すみませんごちそうさまでした!もう着きます(^^)あまり遅くならないように…お疲れ様です。」という内容だった。返信したあと、<やっぱりいい子なんだよな~>って思った。見送るときも「あ!お金払ってない!」って急いで財布出そうとしたりする態度が好感持てて…。ただ、明日も明後日も飲み会らしく、心配そうな僕に「大丈夫ですよ」って…。大丈夫じゃないんだよな…。

彼女の生活を乱すつもりも、僕の気持ちを押しつけて縛り付けるつもりもない。そんな権利もないし、そんなことをすれば嫌われるのは目に見えているから…。「答えはいらない。嫌いと言われさえしなければ…」そう言った僕の気持ちは本心だけど、本心じゃない。今の僕を苦しめているのはそんな複雑な心境…。

会いたい、そばにいたい…。いつかそんな想いから解放される時が来るのだろうか…。

<第六部へ続く>


5月19日。

朝がつらいという彼女を気遣って「おはよう」mailはしなかった。彼女からもmailは来なかった。

現在13:25。今日はまったくmailが来ない…。イライラが最高潮…。

とうとう僕の昼休みも終わり。なんか滅茶苦茶イライラする。もしかしたら昨日ちょっと遅くなったから親に怒られたりしたのかな~…。日勤が続いて疲れが最高潮なのかな~…なんてことを考えてるから仕事も手につかない。眠いし、頭痛はするし、肉体的にも精神的にも今日は最悪だ…。

仕事にとりかかっても、何をやっているのかまともに考えられない…。まずい、これじゃ本当にまずい。気持ちを切り替えなきゃ、失敗してしまうな…。

な~んか…もう楽になりたいな~って思う。好きな女性がいなかったこの数年(?)は、本当に気が楽だった気がする。確かにそういう対象の女性がいれば毎日に張り合いも出て楽しいけど、それはお互いが同じ気持ちのときだし、今の僕ははっきり言って思いっきり片想いなんだよな~…。

結局mailが来たのは18時過ぎ…。「もうすぐしたら帰ります」って今日最初のmailがこれだから…。付き合ってるわけじゃないからこんなもんなんだろうな~って自分に言い聞かせるけど、やっぱり虚しい…。そろそろ僕も帰ろうかなと思い駐車場へ行くと自転車置き場に彼女がいた。別に僕を待ってた感じでもなかったので、二言三言交わして車に乗り込んだ。後から来た別の男性職員となんか楽しそうにしばらく話してたので、ダメだと思いながら嫌な感じのmailを送ってしまった。ガキです…。

今夜はまた飲み会って言ってたし、明日は彼女は休みで研修。そして夜はまた飲み会…。彼女のプライベートに口をはさむ権利はないけど、どんな私生活を送ってるんだろうって気になるし、不安になるし、でますます僕の精神は病んでいく…。最終的にはLINEで気持ちの行き違いが大きくなるばかりで、どう修正したらいいのかわからなくなる。

会いたくて、会えば切なくて、顔が見たくて、見たら苦しくて…。今は彼女に対する自分の気持ちに押しつぶされそうになっている。

彼女の気持ちなんか望んでもいなかったはずなのに、気が付けば同じ想いを欲しがり、縛り付けようとしている。このままではお互いのために良くないんじゃないか…、そう思い始めている自分がいる。

5月21日、日曜日。

今日もmailは来ない…。考えれば考えるほど胃が痛くなる。

君は今どこにいて何をしているの?…。好きになんかならなければよかった…。

<第七部へ続く>


唐突に始まった僕の恋は、唐突に終わりを迎えた…。

昨日(5月21日、日曜)の昼下がり、彼女からmailが来た。「お疲れ様です」…?…休日の話し出しにしては変だし、なんだろな~って思った。

2日連続の飲み会で、結局起きたのが15時前…。「休みの日は遅くまで寝てるんです」って言っても限度がありそうなもんだけど…。

それから少しやりとりして、僕が「29日にまたいろいろ話したい」って言ったら、急に彼女は「二人きりで会うのは止めたいんですが…」と言ってきた。「どうして?」って聞いたら、「会うたびに(僕の)気持ちが大きくなって、知らない間に話だけが進んでて、正直どうしたらいいのかわからない。それに責任ある立場で結婚してる人が年下の職員とって知られたら…。そんないろいろ考えると会いたくない」だそうだ…。

まぁ、考えたら当たり前のことを彼女は言ってるわけで、たとえ二人の間に何もなくても周りはそう見ないだろうしな~。ここまで年下の若い女の子に言わせた僕が一番悪い。軽く考え過ぎてたかな~…。結構真剣だったんだけどな…。これ以上複雑にするのも彼女を困らせるだけだと思ったので、「わかりました。もう二度と誘ったり、話しかけたりしませんから安心してください。ご迷惑をおかけして申し訳ありませんでした。今までありがとうございました。(原文のまま)」と返信した。彼女は「全く話しかけないでという話ではないのですが…」と返してきたが、もう中途半端は耐えられないので、自分の気持ちをありのままぶつけた。「僕が君を好きだという気持ちが迷惑だと言うから、僕はその気持ちを表に出さないから普通に会って欲しいと言ったのに、君はそれさえ拒否したんだ。そうされて僕はなにをどうすればいいというの?会いたくないって言われたらしょうがないじゃないか!たまに会えればそれで良かったのに…。悪いのは僕だから何を言っても滑稽だけどね。苦しめてごめんね…(原文のまま)」と送信し、自分の気持ちに終止符を打った。

思い返すと本当に泣きたくなるくらい好きだった…。

最初の頃のmailを読んで、あの頃は純粋に彼女のことを考えていたのに、最近の自分は身勝手だったことに気づき、初心に帰ろうって心に決めたばっかりだったのに…。

彼女のことを考えていた日々は、苦しくもあったけどとても楽しかった。早出のときに階段で待ち伏せ(笑)したり、職場の中ですれ違いざまに顔を合わせたり、彼女の昼休み時間にmailしたり、家に帰ってから夜にもmailしたり、飲みに行って一緒に過ごしたり…たった一ヶ月ちょっとだったけどものすごく楽しかった。

でも、初めは彼女のことを心配したり慰めたりしていたのに、いつしか彼女を想う気持ちが大きくなり過ぎて自分を見失いそうになっていた。段々と自分の気持ちを押し付けるだけで、彼女の気持ちを思いやれなくなってしまっていた。気づいても気持ちの修正が利かないくらい好きになっていた。そして自分の気持ちの大きさに押しつぶされそうになり、彼女に気持ちを求めているバカで情けない自分がいた。

どこで間違ったんだろう…。自分の気持ちを明かすのが早すぎたんだろうか。告げるべきではなかったんだろうか。今となってはどうしようもないけど、やっぱり大切なものを失うつらさは味わいたくなかったな~…。

たとえば、僕が気持ちを明かさずにいたら、もっと一緒に居られたのだろうか…。でも、多分耐え切れずにいつか想いを告げてしまっただろう。もっとゆっくり大事に時間を進めれば良かったんだろうな…。

この一ヶ月のことを、いつか懐かしく思い出す日が来るのだろうか。あの時は苦しかったけど楽しかったなぁ、彼女を好きになれて本当に良かったなぁって思い返せる日が来るのだろうか…。

多分、僕にとっては最後の恋だった。だから大事にしたかった。決して恋人同士になることのない彼女との関係を大切にしていきたかった。つかみどころのない人だけど(笑)大好きだった。

おとなげなくひねくれたことばかり言ってごめんね…。頼りにならないヤツでごめんね…。大好きだったのに君を悩ませてごめんね…。

もし、やり直せるのなら、あの気持ちを告げた日に戻って、自分の気持ちを押し隠し笑って話せる関係に戻りたい…。彼女のそばにいたい。僕のそばにいて欲しい。一緒にいて二人で笑いながら話したい。君がいないと僕はただの抜け殻みたいだから…。

最初からあきらめていた恋なのに、最後にあきらめきれない僕がいる。悲しくて、苦しくて、それでも前を見て生きて行けと、もう一人の自分が言っている。

彼女といた44日間が僕の中で永遠に消えないように、記憶の中に刻み込んでおこう。心から愛した彼女のことを心の中で愛し続けよう。いつか彼女が幸せを掴めるように…。

今まで苦しめてごめんね…。そして…本当にありがとう。

*この物語は実話にもとづいています。

平成29年5月22日




悲恋(After that story)


2017年5月21日。

彼女にありがとうと伝え、自分の気持ちに終止符を打った…つもりだった…。

5月22日。

彼女は早出だった。何をするでもなくただ自席でボーっとしていたら、彼女からmailが来た。「すみません返信してなくて…こんな私を好きになってくださってありがとうございました。」返信しようか悩んだけど、「今でも君が大好きです。短い間、楽しい時間をくれて本当にありがとう。」と返した。彼女の昼休みにまた返信が来たので、しばらくやり取りして、僕も昼休憩に入った。休憩中にまた最初の頃のmailを読んでたら本当に泣けてきた。すごく純粋にmailでの会話が出来ていて、すごく純粋に彼女と僕の気持ちの行き来が出来ていた。あの頃に戻れたら…。

我慢出来ずに「あの頃に戻るのは無理でしょうか?」とmailしてしまった…。その後はお互いに仕事なのでmailすることもなく終業時刻になった。

彼女は早出だったから僕より早く帰ったので、のんびりと帰り支度をし、帰路についた。

19:34彼女からLINEが入った。あんな風に聞いてしまったけど、今さら何を言ってんだと思われてるだろうな~と覚悟して携帯の画面を開くと、そこには一言「考えても?」という文字があった。一瞬目を疑ったが、徐々に「問答無用で拒否られてはいないんだ」と思い、「考えてもらえたら嬉しいです」と送った。彼女は短く「はい」…。僕と彼女の細い細い糸はまだ完全に途切れてはいなかった、と思った…。そのときは…。

とは言っても僕の気持ちを知った彼女が、最初の頃のように素直な気持ちで話したり、会ったりしてくれるもんだろうか…。変にギクシャクしたりしないだろうか…。そんなことばかりが頭の中に重しのようにのしかかり僕を苦しめてくる。「考えます」という彼女の言葉をありがたく思い、待つしか僕には出来ないし、また余計なことをmailしたら今度こそ愛想つかされるから…。

5月23日。

仕事しながら何度も携帯に手が伸びるが、またそのまま元に戻す…。そんな意味のない動作を繰り返し、考えまいと思いながら、ず-っと考えている自分に気づく…。

彼女は日勤で、さっき4階に上がった帰りに階段を下りながら彼女のいるNs.stationをチラっと見たら…いた。遠くて、尚且つマスクをしているから顔はよく見えなかったけど、確かにいた。その姿を見ただけで僕の心は震える。そばに行きたい…。声が聞きたい…。そんな衝動を抑えながら僕は事務室に戻り、仕事をするが…集中出来ない…。

さっき総師長に「どこにいますか?」と電話で聞いたら「2階にいる」という返事だったので、仕事の話をしに行った。そこは彼女が仕事しているstationで、僕は出来るだけ周りを見ないようにしながら話をし、自分の席に戻った。彼女がそこにいたかどうかわからない。顔を上げれば彼女を目で追ってしまい、感のいい人間にはわかってしまうだろうから、一切顔を上げなかった。本当は彼女の姿を探したくてしょうがなかったけど…。

昼休みが終わった。携帯は沈黙したまま…。「待つ」ということは別に嫌いではない。しかし、先の見えない状態でいつまで待てばいいのか、そして期待はしていないけど悲しい結果を突きつけられたら…そう思うと針のムシロに座らされている気持ちになる…。

彼女の今回の勤務も、先週土・日が休みだったとはいえ、金曜「飲み会」、土曜「研修」、そしてその夜がまた「飲み会」…。それに加えて、月曜が早出、火・水が日勤、そして木曜が遅出…。いくら若いといっても疲れが溜まるのは目に見えている…。

多分、今の彼女はものすごく不機嫌な状態だと思う。だから今はmailしたりして神経を逆なでするような真似は慎もう…。怒らせると怖いし、我慢のしどころだな…。

昨日、<Anraku>のマスターに「彼女とは終わりました」と連絡した。

マスターは「どうしたの?都合のいいとき連絡して!」って返信が来たから、近いうちに話がてら飲みに行かないと…。今一番気楽に話せるのは彼だからな~。飲んで、メチャクチャ暗いうたを歌って…泣く…。なんか自分の姿を想像しただけで笑える…。

彼女が「最初の頃みたいに会って話しましょ!」って言ってくれる可能性ってどのくらいだろう…?おそらく1%~2%程度かな~。なんて考えてるとなんもやる気がなくなってしまう。さすがに仕事しなきゃヤバい…。

わざわざ行く必要もない用事を作って4階まで行き、2階まで下りてきた。Ns.stationには彼女の姿は見えなかった。僕はいったい何をやってるんだろう…。階段を上り下りするから健康にはいいかもな~…なんてばかばかしいことを思ってみたりして…。

なんてことを考えてたら、16:05彼女が薬剤部にやってきた。薬局長と何やら話してたけど、そんなことはもう気にならなくなった。それよりもっと大事な答えを僕は待っているのだから…。来たときも戻っていくときも、お互いに一切顔を見ることもなく、今日唯一の接点の時間は終わった。これ以上ないくらい空しい…。

もうあきらめよう…、何度もそう思いながら結局はわずかな望みに期待をかけている。あきらめたら楽になるよ…、そうささやく声が聞こえてくるけど、あきらめ切れないことがわかっているからどうしようもない…。

最初からうまくいくはずのない恋をして、彼女に思いっきり迷惑かけて、子供みたいなところに呆れられて、挙句に振られて…、自業自得でした…。

もう同じ気持ちを求めたりしない。迷惑もかけない。嫉妬もしない。行動に余計なお世話的な小言も言わない。だから…、そばに来て笑顔を見せてくれたら…。笑って話してくれたら…。僕の言葉に拗ねたり喜んだりしていた最初の頃に戻って少しでもいいから僕の近くにいてくれたら…。

それだけが今の望みです。他にはなんにも要りません…。

やっぱり彼女を忘れることなんて出来そうにない…。

<第二部へ続く>


5月24日。

昨日の帰り際彼女にmailしてしまった…。駐車場へ行くと自転車置き場に彼女の自転車が駐まっていた。18:35「まだ終わらないんだ…」。すると「チャリ置いて帰ってます」…なぜ?「あ-、誰かと飲み会なんですね」「違いますね」…じゃあなぜ?謎が深まる…。またここで僕はつい憎まれ口を叩いてしまった。「まぁ、どっちでもいいですけどね」バカだな~…。自分から嫌われるような真似をして、自分の首を絞めてしまった。でも…僕にとっては彼女の行動が不可解で仕方ない。なんとなく僕が今まで知っている、普通の女性の普通の生活パタ-ンではないように思える。人にはそれぞれの生活があるから一概には言えないけど、彼女の場合は複雑な過去があり、複雑な家庭があり、複雑な性格が生み出されてしまったような気がする…。だからと言って僕がそこに立ち入る権利があるのだろうか…。それこそ余計なお世話だと言われるのが落ちかもしれない。

ただ、僕の今の心の状態を正直に言えば、彼女のために出来ることがあればしてあげたいという気持ちと、もう僕にはどうしようもないんだろうな~という気持ちが半々みたいな感じ…。ほんとにもう疲れてきたな~…。

最初の頃に戻れないかって彼女に聞いて、答えを待っているところなんだけど、もうどうでもいいかな~って投げやりな気持ちになっているのが本当のところかな…。彼女が僕と同じ想いを抱くことはないし、僕が彼女とずっと一緒に居られることもない。一時期彼女を縛り付けても彼女を不幸にするだけだろうし…。彼女が僕と一緒に居ることを望まない以上、このまま僕の気持ちを封印し、何事もなかったようにしてしまうのが一番いいのかなと思う。過去を繰り返してはいけない…、8年前のことを思い出し、自分はまた同じ罪を繰り返してしまうのか、今ならまだ間に合う…今の時点で止めておけ…。心の中のわずかに残っている良心がそうささやいている。

僕はどうすればいい?誰か教えて欲しい…。

14:15昼休みが終わって自席に戻ってきた。

どうしても心の片隅に引っかかってて、納得というか理解出来ないことがある。

この前飲みに行った(彼女が21時過ぎに帰った日)とき、家に帰り着く直前の彼女からのmailはごく普通だった。「すみませんごちそうさまでした!もう着きます(^^) あまり遅くならないように…お疲れ様です。」この文章からは彼女の心境の変化は何も読み取れない。ただ、翌日からのmailの言葉がやけに刺々しい感じがする。そういう僕のmailも彼女に対する甘えのようなものばっかりで、そのあたりに嫌気がさしたのかな~なんて思う。ここから彼女のmailを原文のままいくつか書き出すと…。「正直なにも教えてくれないので…全くわからないのに話が勝手に進んでしまって…本当にどうしたらいいですか」「すみません。話はしたいのですが、今二人っきりで会うのは少し止めておきたいのですが…」「今はちょっと会って話すのきついので…すみません…」僕が長文のmailを送ったあとに「考えてる事は少しわかりました。でもこんなこと言える立場ではないですけど、そっとしといて欲しいです。」「会わない方がいいかと。会う度にどんどん思いとか強くなってましたし…」「と、いうか事○長とか上になる人が結婚してるのに年下の職員とって皆さんに知れたらいけないし。そんないろいろ考えると会いたくないです。怒らないでくださいね。」「全く話しかけないでという話ではないのですが…」「私の気持ちを尊重しようとした?なんか話が合いませんね。分かりました。こんな私のくだらない愚痴をちゃんと聞いてくださって。ご飯食べたり話したり楽しかったです。色々とありがとうございました。」「こんな私を好きになってくださってありがとうございました。」(ほぼ原文のまま)

この数個のmailを読んで、わかりそうでわからない、理解しにくい文章がある。特に「会わない方がいいかと。会う度にどんどん思いとか強くなってましたし…」という文章なんだけど、最初は間違いなく僕の気持ちのことを言っていて、それに対して彼女が戸惑い、どうしていいかわからない…という風に捉えていた。でも、ず-っと考えていたら違う意味なんじゃないかなって思うようになった。まぁ、僕が自分に都合のいいように解釈したいだけなのかもしれないけど…。

また、「私の気持ちを尊重しようとした?なんか話が合いませんね。」という部分には、お互いが言ってることをそれぞれが違うように受け止めているんじゃないか…なんて思ったりもする。まして、前日まで普通に仲良く話していたのに、こんなにも変わるものなんだろうかと不思議に思えてくる…。

考えると深みにはまりそうでキリがないので、彼女に「ず-っと考えてることがあるんですが…この前飲んだ5月18日の後からのmailでどうしても納得というか、理解できない部分があるのですが…」とmailをした。今は仕事中だから当然返事は来ない。今日、仕事が終わって彼女がmailを読んだときにどんな反応を示すのか…。知りたくもあり、知るのが怖い気持ちもある。

ついさっき、彼女が先輩について薬剤部にやってきた。戻っていくときに僕はかすかに顔を上げて彼女の顔を見たけれど、彼女は僕をちらっとも見なかった。まぁ、それは職場内で、すぐ近くに人もたくさんいたから仕方ないけど…。でも…寂しかった…会いたい、声が聞きたい。切実にそう思う…。

今まで歩んできた人生の中で、真剣な恋もしたし、つらい失恋も経験した。しかし、今回ほど強く想い、苦しみ、そして相手を愛しく大切に思ったことはなかった…。34歳という年の差や、一歩間違えば不倫と後ろ指を指されかねない状況で(決してそんな関係ではない!)なんでここまで彼女のことを想ってしまうのか、よくはわからない…。ただ言えることは、彼女でなければこういうことにはならなかっただろうということ…。

一旦「さよなら」を告げた立場であるけれど、どうしても納得がいかない。もうどうでもいいと思ったりもしたけど、やっぱり彼女のことが大好きで、忘れられず、そしてあきらめきれない…。

もう少し待っていてもいいのだろうか…?。

<第三部へ続く>


昨日の帰り、駐車場へ向かう僕の目に飛び込んできたのは、自転車置き場で談笑する彼女と男性職員。1対1ではないものの、僕の心はざわつきそしてイラついた。信号待ちで止まったとき、嫌がらせのように彼女の携帯に電話したけど、出なかった…。

コンビニに立ち寄り、いつものようにコーヒーを飲み、煙草に火をつけ、携帯を見たら「すいません、電話気づかなかったです。理解できないってなんですか?」って返ってきた。<あ-、もうこういう言い方しかしないんだ…>と思って、「別にいいです」って送り、この話は終わりにした。実のない話になりそうだったから…。

僕はまたガキのように「今からみんなで遊ぶんでしょうから…」とmailしてしまい、「いや、遊びませんよ」と彼女。もう自分でもどうしようもないくらい最低なことをしてるな~と思う…。で、「最初に戻れるかなって話、無理ならそう言ってもらえますか?」と僕。そしたら「逆に聞きたいのですが、最初に戻れるんですか?」って聞かれた。そこから先はまるで尋問のような言葉の連続で、正直<あ-、もうめんどくさいなぁ…いっそのこと「サヨナラ」って入れようかな…>って思ったけど、ギリギリのところで踏みとどまった。夜にまたmailして「最初のころ僕と話して楽しかった?」って聞いたら「楽しかったですよ。話聞いてくれたし。」だから僕は自分の気持ちを押し隠してでもあの頃に戻って、楽しい時間を取り戻したいと思っただけなんだけど…。「あのころのようになれるかな?」彼女は「どうでしょうか。話してみないと…。」そんなことはわかっているんだけど…。

そこまでLINEのやり取りをして、そこからは僕は携帯を無視して考えた。多分彼女からのmailが来たみたいだったけど、開かずにず-っと考えていた。彼女とのつながりを絶つのは簡単だし、一言「サヨナラ」って言えば済む。そしてその方が自分が楽になることもわかっている。でも…忘れることは出来ないだろう…。ただそこから彼女が、職場の中でも負けないように精神的に強くなってくれれば、僕はもうなにも心配することはないし、黙って彼女を見守っていくことが出来る。そうすれば胸を締め付ける苦しみからも解放されて以前のように気楽な気持ちで仕事が出来る。そうした方がいいよね?って自分に問いかけ、納得させようとした。そんなことを考えながらやっと寝たのが4時近くだった。

5月25日。

6:35、職場に着きLINEを見た。彼女から1:02と1:05に続けて2通のmailが来ていた。

<結局職場は何も変わっていない、病棟主任の態度も、新人に対するものと自分に対するもので全く違う…>という内容のmailのあとに「さっきのLINE気にしないでください。消しといてください。」との2通目があった。それを読んだあと、僕は自分の無力さを痛感し彼女にとって自分が何の支えにもなっていないことにショックを受けた。要するに今の僕は、彼女のことを想う気持ちだけをさらして、彼女のつらさを全く考えないエゴのかたまりになっていたんだと思う。こんな僕に頼ろうなんて彼女でなくても思わないだろう…。

今さらながら、<僕は彼女の心の声を聞くために居なければならない、彼女のつらさを受け止めて癒せる存在でなければならない…ちょっと偉そうだけど…>と思った。果たして彼女が僕をそう見てくれるかは疑問だが…。

彼女のためにもうちょっと何かしなくてはと思い「もう少し頑張ってみます。」とmailを送っていたんだけど、彼女からは「いいです。やっぱり何もしなくて。」って返信が来たので、もうほんとマジで「…なんか疲れました」って返した。もう彼女のことを考えるのにも、彼女のmailの言葉にも疲れてしまった…。彼女は「すみませんね。もう連絡もやめときますね。」と言ってきたので「それだけの存在だったことが悲しいけど仕方ないですね…良かったらLINEをブロックして電話を着拒にしてもらえますか…自分では君のデ-タを消す勇気がありませんので…」と、決定的なmailを送った。彼女は一言「分かりました」…。これまでの短かったけど楽しくて充実していた、そして彼女の表情や言動に一喜一憂していた日々が、たったの一言で終わってしまった…。

もう元には戻れないだろうし、これで良かったんだと自分に言い聞かせ、最後のmailを送信した…「サヨナラ」…。

8年前の過ちを繰り返しそうだった僕に、向こうからけじめをつけさせてくれた彼女に感謝している。悲しくないと言えば嘘になるけど、僕はこの結末を望んでいたような気がする。自分からはこの気持ちを消すことは出来そうもなかったし、最後の決断を彼女に委ねてしまったことは申し訳ないと思う。でも、これで良かった…。彼女を守ることは出来なかったけど、僕が彼女を傷つける最悪の事態は避けられたから…。

不思議と涙も出ないし、落ち着いている自分に少し驚いている。人は本当に悲しいとき、何も考えられず、意識が止まることを知った…。

彼女と出会って、彼女と話せて、少しだけ彼女に寄り添えて、彼女を好きになって本当に良かった…。苦しい思いもしたけど、彼女が大好きだった…。

二人で飲みに行ってちょっとだけ彼女に触れた僕…。僕の香りが好きだと言って腕を離さなかった彼女…。何もかもが楽しくて最高にしあわせな時間だった。

多分…これからも僕は彼女のことが好きで、ずっとずっと好きでいるだろうし、彼女といた短い日々が間違いなくあったことを忘れないだろう…。

いつか彼女と偶然出会ったら「久しぶり!元気だった?」って笑って言えるように、僕は誠実に生きていきたい。彼女といた短い日々をきれいな思い出として残しておきたい。

彼女を好きだった自分に正直でいられるように…。

短い間だったけど僕の心の中にいてくれて…、そばにいてくれて本当にありがとう…。

君がずっとしあわせでいられますように…。

*この物語は実話にもとづいています。

平成29年5月25日




悲恋(Another story)


2017年5月30日。

明日で5月も終わりだな~とぼんやり考えながら仕事をしていた14:25、机の端に置いていた携帯にLINEの着信があった。

またいつものようにスポンサー系の広告だろうと思いながらLINEを開いてみると、トーク画面の一番上に彼女の名前があった。一瞬なんのことか理解出来ず、2秒後に動揺して携帯を放り投げてしまった。<なんで…、なんで今頃…、なんで…、なんで今更…>そんな思いが頭の中を走り回っていた。動悸が激しくなり、息が苦しくなった。僕のLINEはブロックされているはずなのに…。

もう二度と、リアルタイムで彼女のLINEを読むことはないと思っていた。相変わらずの文章が妙に懐かしかった。もう何年も見ていなかったみたいに…。「すみません、なんて返信したらいいかわからなくて…返信できなかったです。」…。すみませんって…、返信できなかったですって…、僕は「サヨナラ」と送ったし、ブロックに対しても君は「分かりました」って言ったはずだよね?。その後、確かに僕は女々しくも「会いたい」、「君に会いたい」ってLINE送ってたけど、返事を期待してのものじゃなかったし(ちょっとだけ期待したけど)、彼女から「すみません…」なんて謝りのmailが来るとは思ってもいなかった。そんなmailをもらえる立場ではないのに…。

事態が進展するわけじゃないことはわかっている。わかっているけど、まったく予期していなかった状況なので激しく動揺している。このまま心臓が破裂するんじゃないか…。

26日の金曜日に僕は<Anraku>にいた。中学の同級生二人と居酒屋で飯食って、21:50くらいに店に入った。そのときも客がいなくて貸切だった。彼女とのことを話すと、マスターは穏やかに聞いてくれていたが、あとの二人に結構せめられて、とにかく僕をその気にさせて彼女に連絡させようとしていた。まぁ、適当に受け流して1:00頃、解散した。

翌日の土曜日から僕は、とりあえず仕事はしていたが、多分ず~っと覇気のない顔をしていたと思う。今もそんなに変わったわけじゃないけど、彼女が返信してくれた理由が知りたいと思った。そんなたいした意味があってLINEしてきてくれたとは思わないが、せめて理由を聞いてすっきりしたい…。

我慢出来ずに僕は、「深い意味はないと思いますが、どうして返信してくれたんでしょう…」とmailを送った。それから彼女からのmailはなくて、仕事も終わり、家路についた。

20:11、いきなり「なんででしょうね-」ってmailがきて、思わず「気まぐれ(笑)?」って返してしまった。彼女は「ん-職場の顔見てですね…」。やっぱり暗い顔してて、彼女にも不愉快な思いをさせてたんだろうなぁ…って思った。「笑い方を忘れちゃったよ」って言うと、「すみませんね。私のせいって言いたいんでしょう。」…。なんでそうなるかなぁ…。「違う」って言っても彼女は「いいですよ。そんな気を使わなくて。」で、ここで僕が少し切れた。「怒るよ…本音で話してるんだからちゃんと聞いて、わかってください。」って送ったら…、「怒っていいですよ。怒鳴って殴ればいいんです。私のせいって思った方が私が気が楽なんです。今までそうしてきたし。ってまぁすみません色々言って。ちょっと今家がまずくてですね、あんまり家に帰ってないんで体も疲れてですね!あたってしまいました。」…。読んで、なんて言えばいいのかすぐにはわからなかった。<なんて深い闇を抱えているんだろう…、もう話を聞くとか、相談にのるとかのレベルではないな~…。僕にいったい何が出来るんだろう…>と考えてしまった。そして、「バカなことばっかりして…どこまでも僕に心配させて…怒鳴ることも殴ることも僕には出来ない。つらいことを忘れられるならせめてそばにいさせてくれないか?」と僕。彼女は「ある意味自分の気持ちを守る行為ではあると思うのですが。」君は今、誰に心を開いて、そして頼っているのだろうか…。そんな思いが胸の中に渦巻いてくる…。

そんな風に自分を守るのが正しいのか、納得出来ない僕は「自分の気持ちを守りながら、痩せていったら守ってることにはならないと思うけどな。また痩せたでしょ?見てて悲しくなるよ…。君の行動を否定するつもりはないけど、君が壊れるのだけは耐えられない。」とmailした。彼女は「痩せてみえます?いや-本当に食べてるんですけどね…」でもね、結局は精神的に病んでるから体が栄養分を吸収出来ないと思うんだよ…とはどうしても言えなかった。「これ以上痩せたらダメです!」と送ったのが0:29…。彼女のつらさをなんにも変えられない自分が嫌になった。

もうサヨナラしたよね?君はもう連絡もしないと言ったよね?僕のLINEは君に届かないはずだったよね…?なのになぜ…?僕の何が君にmailさせたの?君自身のつらさに耐えられなかったから?僕に話せば気が楽になると思ったから?僕が可哀想だったから…?

何でもいいよ…。僕を利用して、君の気持ちが少しでも楽になるのなら遠慮せずに利用すればいい。そのために僕はいたんだよ…。

5月31日。

いつものように水曜日の<朝掃除>に駐車場へ歩いて行くと、ちょうど彼女が自転車で駐輪場にやって来たところだった。無理に笑顔を作って「おはよう」と言うと、彼女は、無表情に「おはようございます」…。その顔を見て愕然とした。痩せた…。痩せたなんていうもんじゃない…。顔色も青白く精気が感じられなかった。危険だな…、そう思った。

僕じゃなくてもいい、誰でもいいから彼女を支えて欲しい…。寄り添ってやって欲しい…。彼女の心を包んでやって欲しい…。そう思ってまた泣きたくなる。

やっぱり僕は彼女のことが好きで、どうしようもなく好きで、悲しいくらい好きで…。元には戻れないことはわかっている。それでも僕は彼女が好きだ…。でも…なんにも出来ない自分がいる…。僕はどうすればいい…?また自分に問いかけてみる…。

<第二部へ続く>


夕方送ったmailに返事が来たのが19:32。「それはどういう意味でしょうか。可哀想ってことですか?」…。こういう言い方をする彼女がすごく心配になってくる。自分の心を隠そう、強く見せようという気持ちが少しだけひねくれたり、強がったりする言葉に表れているんじゃないかな…。そのあとは僕のmailに「すみません」の連続…。なんか僕は入ってはいけない領域に徐々に足を踏み入れているんじゃないだろうか…。僕自身が抜け出せない場所へ進んでいるような感覚におそわれる。このままではいつか共倒れになりそうな気がする…。彼女が僕を頼りにしてくれるのであれば覚悟も出来るけど…、なんだかよくわからなくなってくる…。

6月1日。

彼女は早出勤務だから、僕も少し早目に出勤し階段で捕まえようと思った。しかし彼女は自転車ではなく、いつの間にか出勤していた。親に送ってもらったのだろうか…?でもそれなら感覚でわかるはずなんだが…。夕べのmailでは「今日は家にいます。」って言ってたから、てっきり自転車で来るもんだと思い込んでいたんだけど…。どこから来たんだろう?誰に送ってもらったんだろう?なんか…そんなことを考えていると、ほんともうどうでもよくなってくる。彼女に対する気持ちに変わりはないんだけど、<僕はまったく無駄なことをしているんじゃないだろうか…?>と思ってしまう。

もう、しばらくの間、僕からLINEするのはやめておこう…。そもそもブロックされているはずだったのだから…。

今日も暑く、長い一日になりそうだ…。

朝から用事で2階Ns.Stationへ行った。ちょうど入口で配膳中の彼女と出くわした。彼女が戸惑ったように「お疲れ様です」と言うのを僕は完全無視した。顔も見なかった。とりたくない態度をとってしまった自己嫌悪で胃が痛い…。だんだん自分が嫌な人間になっていっている感じがする…。

何度も彼女とニアミスしたけど、僕は一度も顔を見ないし、挨拶さえしなかった。おとなげないな-と思いながら、顔を見たら何かを口走りそうで、そして泣いてしまうんじゃないか(笑)と思って…。

彼女の退勤時刻を過ぎた。今は17:10.。今日は家に帰るんだろうか。それとも…。「サヨナラ」したあとは全然気にならなくなっていたのに、再びLINEがきたときからまたちょっとしたことが気にかかる…。困ったな~…。

試しに、「明日、飲みに行く気はないですか?」ってmailしてたんだけど、たった今返信があって、「すみません、用事がありますので」だって…。僕も強がって「言ってみただけですから。どうでもいいです」と返してしまった。さらに「誘ったりして迷惑かけてすいませんでした」ってダメ押しで送った。ちょっとムカついたこともあったんだけど、拗ねたガキみたいだな-って自分で思った…。

明日、どうしようかな~、<Anraku>に飲みに行こうかな~。でも先週の金曜日も飲みに行ったしな~…。考えよう。

6月2日。

朝からLINE画面を開いたら、昨日送ったmailが17:16と17:48に既読になっていた。

やっぱり…これは既読のつかないアプリを使ってるな~と確信した(笑)。もう絶対に僕からはmailしないって思った。マジで自分がバカバカしく、可哀想に思えてきた。とりあえず好きにしてください!って感じ…。もうここまできたらこれ以上執着する必要もないかな…。

午前中、何回か彼女を見かけた。Ns.Stationや事務室で…。僕の気持ちの中になんの感情も湧いてこなかった。それどころか…顔を見たくないと思ってしまった。自分で自分の感情が怖くなった…。あんなに好きだったのに、僕は今彼女に対して憎しみさえ感じているのだろうか…。

たとえば自分がつらいとき、そのつらさを誰かに救って欲しいと思うのか、それとも人を信用せず、手助けを拒み突っ張って生きていくのか…、それは人それぞれだからなにも言うつもりはない。しかし、たとえば僕が彼女に手を差し延べたいと思っても、それを「私のことが可哀想だからですか?」というような取り方をされたら、僕はなにも言えないし、なにも出来ない。だから僕はもう彼女に関わるのを止めようと思う。このままでは彼女が壊れる前に僕が壊れてしまうだろう…。

人を簡単には信じられないのは理解出来る。自分が傷つきたくない気持ちもわかる。だけど…自分を愛してくれる人が差し延べる手は、無条件に握り返すべきだと思う。僕には彼女の痛みがすべてわかる訳ではない。でも、わかろうと努力はするし、寄り添いたいと思い、彼女を理解しようとした。それでも彼女はそれを拒み、自分を追い込んでしまっているような気がした…。

こんな風になってしまったのはいつからだったのかな…。ずっといい感じでLINEとか出来ていて、職場でも笑顔でいられたのに。多分、<Anraku>のマスターと三人で飯食って、それから<Anraku>で飲んだ日だったと思う。あの日、あまりにも僕の気持ちを押し出してしまい、それに彼女が戸惑ったんだと思う。その前からmailで「気持ちに答えないまま会っていいのでしょうか…?」と彼女は言った。「答えなくていい。こうして会えればそれだけでいいから…」僕の言葉に彼女は彼女なりに会うのを躊躇う気持ちがあったんだと思う。単に僕の想いがめんどくさかったのかもしれない(笑→泣)。

今16:20。さっき階段で彼女とすれ違った。言葉を交わすつもりはなかったんだけど、下を向いて階段を上がっていた僕は彼女に気がつかなかった。「お疲れ様です」という小さな声に、僕は思わず「お疲れ様です」と返事していた。ふと顔を上げると僕の横を彼女が風のように下りていった。<しまった…返事しちまった…>と思ったけどもう遅い。なんか悔しい…。

でも…でもやっぱり僕は彼女が好きみたいだ。聞き取れないような小さな声だったけど、今もしっかりと僕の耳に残っている彼女の少しハスキーな声。手を伸ばせばその細い腕に触れられる距離で、僕は時間が止まったような感覚に陥っていた。

忘れようと思えば忘れられる、そう思っていた。でも忘れようとすればするほど僕の意識の中によみがえってくる。君はずるいよ…。僕の気持ちを引っかきまわして、知らんふりしている…。

会いたい。そばにいたい。大好きなその顔を見ていたい。二度と叶わぬこの想いが今も僕の胸を締め付けている。こんなに好きなのに、こんなに近くにいるのに彼女に触れることも出来ない…。誰か僕を助けて欲しい…。

たった今、彼女が事務室の中を、僕の目の前を通りすぎていった。切ない…。胸が苦しい。今夜は<Anraku>で、飲む。

<第三部へ続く>


19:30。<Anraku>へ行き、マスターと合流し<八師団>へ。この前と同じメニューで焼き鳥を堪能した。それから<Anraku>へ戻ってしばらく飲みながら話をしていた。

今日も客来るのか…と心配していたら<komori>がやって来た。この男(同級生)とは妙にうまが合う(笑)。外見は少し強面だけどメッチャ優しいヤツで、こっちの話も一生懸命聞いてくれる。今は<Anraku>に行ってマスターと奥さんはもちろん、<komori>に会うのも楽しみになった。今夜も結局1:00過ぎまで飲んで帰った。

6月3日。

眠い…。完璧な睡眠不足(泣)。まぁ、土曜日だし昼までなんとか頑張ろうっと…。

現在11:30。眠い…。限界が近づいてくる…。さすがに彼女のことを考えている余裕がなく、目の前の仕事をこなすのが精一杯って感じ。

お昼で仕事が終わり家に帰った。本日は特にすることもなく一日が終了…。

6月4日、日曜日。

予定なく、一日家にいて終わった(笑)。

6月5日。

朝から携帯の着信ランプが緑色に点滅していた。LINEかぁ…、多分夜中のうちに入ってたんだろうけど…。トップ画面で確認したら彼女だった。LINEしてきた理由もわかるし、画面で内容もわかったので開いていない。めんどくさい…。

今日は彼女も日勤だから、顔合わせるの嫌だなぁ。出来るだけ事務室から動かないようにしよ…。

午前中に一度、彼女が薬剤部にやって来た。事務室を通ったけど僕は彼女を見なかった。以前は見るとつらくなるからという理由だったけど、今日は…見たくもないって感じで、これでふっ切れるかもしれないと思った。

たった今、また彼女が目の前を通った。完全無視…。おとなげないとは思いつつ、無視することがなんか気持ち良くなってきた(笑)。僕は壊れかかってるのかな~…。

もうすぐ一日の仕事が終わる…。帰りに顔を合わせることがありませんように…!

いつものようにコンビニでコーヒーを飲みながら煙草を吸っていた。携帯にLINEの着信があり、トップ画面の彼女の名前のとこが1件から2件に増えていた。内容は「お疲れ様です。大丈夫ですか?…」だったので、<僕の顔見たら大丈夫じゃないことくらいわかる だろ…>と思ってまた開きもしなかった。

夜、ずっと考えててあんまり無視しとくのもな~って、やや弱気になり「まぁ…」って意味の無い返信をした。無視してた方が良かったかな-…。

6月6日。

今日は遅出勤務だったな~。

午前中いないと思うと気が楽で、仕事に集中出来ている。ただ、あと1時間でやって来る…。顔見たくないな~…。

16:20、遅出の彼女の休憩時間。LINEが来たので仕方なく開いたら「そうですか、」の一言…。悲しいというより情けなくなってきた。自分で「大丈夫ですか?…」って聞いといて、僕の返事も良くないかもしれないけど、「そうですか」はないだろう…。またまた切れかかった僕は「何が大丈夫かよくわかりません。もう全部がどうでもいい感じです…」って送った。またそれに返信が来てるみたいだけど、見ていない…。見たくもない…。

もうすぐ僕の勤務時間は終わる。

帰りにコンビニに寄った。コーヒー飲んで煙草を吸いながらLINEを開くと…、「私のせいですよね-…どうにかできますか?私に…」と彼女からのmail…。どういうつもりで言ってるのか、しばらく考える時間が欲しかったからすぐには返信しなかった。

20:30近くになって、「君とたまに会えるだけで良かった…もうこのまま見殺しにしてくれてかまいません…」「本当は会いたい…」「ごめん…ちょっと寂しかったから余計なことを言った…もうなにもいらない…なにもしたくない…どうでもいい…」と究極に情けない文章のmailを送信してしまった…。もうなにも考えたくないので、寝た…。

6月7日。

朝から携帯のLINE着信ランプが点滅していた。僕が寝たあとにmailしたんだろうな~。職場に着いてLINEを開いてみた。「すみません返信遅くなって。寂しくなりますよね…前みたいに目を合わせられます?」と彼女は聞いていた。<寂しくなりますよね…って、君は僕の寂しさが本当にわかるの?><前みたいに目を合わせられます?って、どういうつもりで聞いてるの?>…。いつもこれであきらめよう!とすると意味深なmailがきて、バカな僕はまた期待をしてしまう…。バカだから「目を合わせて…笑い合って…君に会いたい……」なんて返信して、また裏切られる結末に怯える時間が続く…。

<どうにかできますか?私に…>。君だから出来ること、君にしか出来ないこと…僕はそれをずっと言い続けてきたつもりだよ…。

会いたい。そばにいて欲しい。笑顔を見せて欲しい…。それ以上のことはなにも望まなかったよ。君を好きな気持ちはなんにも変わっていない。大切に想う気持ちもずっとそのまま…。僕を好きになって欲しいなんてこれっぽっちも思ってないし、時々僕のそばにいてくれるだけでしあわせだし…、君のことを考えると本当に息が詰まるくらい苦しい毎日なんだよ…。

また期待してる自分がいる。ダメだよ…期待なんかしちゃ…。今以上につらくて苦しい瞬間が待っているかも知れないんだから…。

今日は彼女は休み。僕は昼まで仕事。携帯のランプが光るのが怖い…。

<第四部へ続く>


朝から結構忙しく、彼女のことを考えてる暇がない。今ふと仕事の隙間が出来て、またいろいろ考えてしまう…。

<気分屋>…。まさにその通りの人だなと思う。夕べのmailなんて、最近の彼女からは想像出来ないくらい優しいものだった。だから僕は振り回されて右往左往する…。そして急に不機嫌な、冷たい文章に変わり打ちのめされる…。それでも僕は彼女を想っている。理屈ではうまく説明がつかないけど…。

あと40分くらいで今日の仕事は終わる。今のところ彼女からのLINEは来ない…。多分まだ寝ているんだろう…。

しかし…50年以上生きてきて、こんなに複雑で落ち着かない心境を経験するとは夢にも思わなかった。驚いて、喜んで、悩んで、落ち込んで、あきらめて、また悩んで、苦しんで…。この二ヶ月近くは彼女のことだけで過ぎていった気がする。今までしてきた恋愛とは全然違う感覚にものすごく戸惑いもしたし、まだこれだけ純粋に人を好きになれる気持ちが自分の中にあったことが驚きだった。おそらく今回で燃え尽きるだろうけど(笑)…。

彼女がどんな生活をしていて、どんな考えで生きているのか…僕は全然知らない。それを知りたいと思った時期もあった。彼女の全部を知りたいと思った。でも…それは、してはいけないことだと気づいた。

優しいmailのあとに来る氷のようなmail…。「会いたいっていうのは2人でって事ですか?」会いたいって言ったら普通そうじゃないのかな?…。「変に勘ぐるんだね…」って言ったら彼女は、「別に勘ぐって言ったわけではないのですが…」そのあとの言葉も結構な上から目線(僕の捻くれた受取り方?)で、こうまでして彼女に執着しなければならないのか?って、自分が可哀想になってきた。

6月8日。

朝から職場の自席で考えてたら段々バカらしくなってきて、「もういいです…君には何を言っても伝わらないみたいだし…」ってmailを送信した。

なんで僕がここまで悩まなきゃならないんだろう…。もうそろそろ僕は自分のことを心配した方が良さそうだし、ここで手を引いた方がいいだろうなと思う…。

今日も長い一日が始まる…。

午前中に何度か彼女が薬剤部にやってきた。例によって一度も顔を見なかった。見れば腹立つから…。

LINEが入った。彼女からだった。<そっかぁ、早出だからもう昼休みか…>って思いながら僕はLINEを無視した。トップ画面で確認した内容は、「すみません。今度休みが空いてたらご飯行きます」ってな感じ…。捻くれものの僕は、<空いてたら>という部分に敏感に反応した。<空いてなきゃ行かない>ってことだよな…と思い、僕が<お願いします>とか返信すると思ってんのかな~なんて考えてた…。

たとえば今の状態で、一緒にご飯行って話して、二人で素直な会話が出来るか微妙だと思う。下手すりゃ文句の言い合いになるんじゃないだろうか…。なんか…何を言っても僕の気持ちや考えてることは彼女には届かない感じがする…。

て言うか「サヨナラ」で終わったはずなのに、なんでまだLINEしてるんだろう…。あきらめきれない僕が、つい「会いたい」なんてmailしてしまい、まさかLINEをブロックされてるはずの彼女から返信が来るなんて思ってもみなかったからな~。どうすりゃいいんだろう…。

何度も何度も同じことの繰り返し…。優しいmailのあとに崖下に突き落とされるような冷たいmail…、精神的にこんなきついことはない。それでもその優しさにすがってけじめをつけられない僕…。突き放されても冷たいmailを送りつけられても、心のどこかで信じている自分がいる。彼女はいい子だからと…。

12年前、僕が44歳の頃、僕は19歳の女の子に恋をした。25歳も年下の子に恋と呼べる感情だったのか、今でもよくわからない。付き合って3年と9ヶ月、その子が19歳から22歳までのもっとも輝く日々を僕は灰色に塗りつぶしてしまった。そして8年前の5月に別れたあと、二度と人を傷つけるような恋愛はしないと心に誓った…のに、今僕はその子より年の離れた彼女に恋をしている。これが恋なのか、好きな気持ちが本物なのか、考えれば考えるほどわからなくなってくる…。きっと違うんだ、この気持ちは錯覚なんだ!って自分に思い込ませようとしてみた。でも、彼女のそばにいたい、少しでも触れていたい、一緒の時間を過ごしたい…そう思う気持ちは消えてはくれない…。

ただ…、そういう想いが強くなったことがいけなかったんだと思う。彼女の話を聞いてあげて、愚痴を受け止めて、少しでも彼女の気持ちを楽にしてあげることだけを考えていれば良かったのに…。最初の頃のように笑って話していられた日々に戻れるのだろうか…。

<第五部へ続く>


夜にLINEでまた余計なことを言った。「ご飯行きます」ってmailを開いてよ-く見てみたら、「行きますか」ってなってた…。バカにしてんの?<そっちが行きたいなら行ってもいいよ>みたいな感じに受け取れるんだけど…。で、「仕方なくだったら無理しなくていいです…」って送ってしまった。それからまた長ったらしいmailを送りつけて、寝た。

夜中に返信がきたみたいだったけど、無視した。

6月9日。

朝からLINE開いたら、また文句の言葉が…。「どうでもいいです…」って僕のmailに対して、「どうでもいいと言うならそんな返信の仕方しないで普通に話してください」「普通に話そうとしてるし…そっちが普通に出来てないと思うけど」「いや普通にしてますよ」…この一連のmailのやり取りで僕のストレス度が一気に上がった。「僕だけがわからず屋みたいな感じだよね?朝からイライラしてきた(-_-メ)」って送信した…。そしたら「そんな風には言ってないので…」って言うし、もう止まらなくて「言ってるように聞こえる(`´)」と返した。怒りMAXな僕…。まさに<おとなげないバカ>…。あ-朝から憂鬱…。今日の運勢、何位だったっけな~…。

繰り返し「すみません、でもそんな思ってはないので」と言うので、「わかったから仕事に専念しましょう」と送信して、一旦mailを終わらせた。

今、彼女が目の前を通った。少し顔を上げてチラ見してみたけど、彼女はこっちを見なかった…。僕が怒ったことに怒ってるな~…。

4階のトイレに行ったら、途中の階段の踊り場に彼女がいた。他のスタッフとはなしていたので、知らんふりして通り過ぎた。1階へ戻るとき、もういないだろうと油断してたら、2階から階段を上がろうとしていた彼女と出くわしてしまった。その場に2人…正面からお互いの顔を見る格好になり、逃げ場がなかった…。彼女が「お疲れ様です」と言うのに僕はただ頷いただけ…。なんて卑屈で情けない男なんだろう…。思わず自席についてすぐLINEで「ごめん…」って送った。でも返信がない…。あ-もう、うまくいかないな~…。せっかく言葉を交わす絶好のチャンスだったのに…なんてバカ…。

今日も終業時刻を過ぎた。今夜はmailは来るのだろうか…。

タイムカードを押して職場を出て職員駐車場へ向かった僕の目に飛び込んできたのは、駐輪場にとめてある見慣れた赤い自転車だった。彼女のタイムカードは確かに退勤の打刻がしてあったのに…。なんで…。思わず「なんでチャリがあるの?」ってmailしてしまった。しばらく返信はなかったけど、19:14に「今日置いて帰ってます。」と入ってきた…。「飲み?」そして「ごめん、また余計なこと聞いたm(__)m」と僕。彼女は「いや違いますよ~謝らないでください」って言ってくれた。けど…、<じゃ、なんで?>って余計気になってきた。<男友達が迎えにきたんだろうか、でもそれならまだ安心出来るけど…まさか職場のヤツ(男)と一緒なんじゃないのか…>なんて考えて、また情緒不安定になった夜だった…。

6月10日。

朝7:32。職場の自席で鬱々としている。以前ほどではないが、気になるこの性格…どうにかしたいな~…。今日は彼女は日勤、僕は昼までの勤務。昨日みたいに階段とかで偶然出くわさないかな-って期待してる。ただ期待は往々にして裏切られることが多い(笑)。

一度「サヨナラ」を言ってから、僕は彼女のことを自分(僕)本位で考えるのを止めた。て言うか、彼女のことを考えないようにしてきた。するとつらいのはつらいけど、なんとか<耐える>ことは出来た。でも…、彼女からまたLINEが来たり、職場でついつい顔を見かけたりすると、やっぱり僕の気持ちは揺らいでしまう。今また彼女と喜怒哀楽に満ちた(笑)mailをやり取りしていると、胸が締め付けられる思いがする。

昨日の夜、「今度都合のつく休みの前日があったらご飯に付き合ってもらえますか?」ってmailを入れておいた。たった今返信があって「分かりました」の一言…。思わず「冷た…」って返してしまった。やっぱ朝の彼女の機嫌の悪さは凄いな…。正直、自分の気持ちのままに振舞える彼女がうらやましくもある。普通は少しくらい取り繕った対応をすると思うんだけどな~…。朝はしばらく放っとこう…。

用事があって2階のNs.Stationへ行った。申し送りの最中で、外から彼女の後姿が見えた。そ-っとドアを開けて入り、用事を済ませて戻ってきた。彼女が僕を見たかどうかわからない。僕は彼女の方を一切見なかったから…。見たらヤバいし(笑)。

僕の仕事時間はあと1時間ちょっとで終わる。午前中に一度彼女が外来に来ていた。なんとなくこっちをみている気がしたので、僕も彼女を見つめてみた。マスクをしてる彼女の表情はわからない…。事務室を通っていくときには僕の方を見なかった。久しぶりに僕はみたのに…と自分勝手に思ってみた。

6月12日。

土曜、日曜と彼女からのmailはなく、まったく様子がわからなかった。今度こそ、もうどうでもよくなった…。僕からは連絡しない。これで終わったとしても(すでに一度終わってるし…)かまわないかなって思う。付き合ってるわけじゃないし…って言われればそれまでだけど、ちょっとしたリアクションでもあれば癒されるんだけど…。それを期待している自分が惨めだし、精神的に疲れてしまう。もういいかな…。

僕も結構頑張った方だと思う。報われないとわかっていながら彼女を想い続けて、気のない反応に対して文句を言いながらも、それでも好きな気持ちは変わらなかった。でも、嫌われてはないだろうけど、少しウザいなって思われてるだろうし、これ以上何かを求めても無駄な日々を送るような気がする…。

今にして思えば、彼女の性格や考え方をよく容認してきたな-って感じがする。

最初にサヨナラをした時点で、きれいに終わらせておけば良かった…。彼女を思いやることが出来たあの時にすべてを忘れてしまえば良かった…。

今僕の心の中には愛情や思いやりの感情は、ない。早く忘れたい、なかったことにしてしまいたい…そんな気持ちが生まれてしまっている。

自分勝手でひどいヤツだ!と言われるかもしれない。でもしょうがない…。

好きになった気持ちに嘘はない。大切に思う気持ちも本物だったと思う。一緒にいれば楽しかったし、話をする時間は充実していた。それでも心のどこかに<好きになってはいけない>、<そばにいてはいけない>という自分に対する戒めのような感情にいつも苦しめられていた。

もう、いいかな…。疲れた…。このまま静かに彼女との繋がりを終わらせよう…。二度目の「サヨナラ」を言う勇気はないけど、彼女の幸せを祈っていよう。

一つだけ願うとするならば、僕といた時間を心の片隅にでもいいから覚えていて欲しい…。

そして彼女がこれから生きていく日々の中で、僕の存在が少しでも役立ってくれればそれだけでいい…。間違っても悲しい道に迷い込まないで欲しい。いつか幸せな結婚をして、幸せな人生を歩いている彼女を知ることが出来たらいいな…。

彼女といた時間は短かったけど、本当に楽しかった。この年齢になってこんな想いを経験させてもらって感謝している。

僕はこれからも彼女を好きでいると思う…。

いつかまた、笑って会えたら…とも思う…。

本当にありがとう…。そして「サヨナラ」…。元気でね…。

*この物語は実話にもとづいています。

平成29年6月12日




悲恋(第二章)


2017年6月16日。

6月10日のLINEを最後に、12日には自分の気持ちに最終的なけじめをつけた。

それからの日々は実に穏やかで、淡々と流れていった。彼女がどんな勤務だろうと、どんな生活を送っていようとほとんど気にすることもなくなった。

ところが今日…、たった今僕の目の前を通っていった彼女は別人だった…。

今日は遅出だから12時(正午)からの勤務で、出勤早々薬剤部にやってきたようだった。病棟へ戻るその時、かすかな声で「お疲れ様です」と言った彼女の顔は、今まで僕がずっと見てきて瞼に焼き付いている僕の大好きだった彼女の顔ではなかった…。

僕の心と体は激しく震え、寒気がくるほど動揺してしまった。一体なんなんだ…。なにがあったんだ…。どうすればそこまで覇気のない表情になってしまうんだ…。僕は彼女の顔をまともに見れなかった。

薬剤部では薬局長と楽しそうに話していたようだった。まるで僕に対するあてつけのように…。彼女が元気で笑顔ならそれでいいし、もう僕がいろいろ気に病むこともない。そう思いながら見た彼女の姿は…痩せたと心配していたあのときよりもさらに細くなっている気がした。でも、僕にはもうどうしようもない…。

6月17日。

土曜日だけど僕は1日休みを取っていた。

朝からマックに行って、そのあと久々に髪を切りに行ってきた。帰ってから本を読んだり、ただボ-っとしたりしてたんだけど、気づいた時には彼女にLINEしてしまっていた。超グダグダのmailで最低の男を演じてしまい、途中からは彼女に嫌われるように仕向けたみたいな内容を送り続けていた。馬鹿だな…。

6月18日。

日曜だけど彼女は日勤だったはず…。昼前くらいからまたグダグダのmailのやり取りで、最終的になぜか彼女が「私の事嫌いになったでしょう。」と言ってきた。彼女が僕を嫌いになることはあっても、僕が彼女を嫌いになるなんて有り得ないことなのに…。そんなこともわからないのだろうか…。

6月19日。

月曜日は朝から朝礼なんだけど、いつも遠い場所にいる彼女が今日は3メートルほど左にいた。近い…。相変わらずマスクをしているので表情はわからないけど、白衣の袖から覗く腕はまた細くなったような気がした。朝礼が終わり、後ろ姿を見たとき、その線の細さにびっくりした。ちゃんとした生活をしているのだろうか?痩せたのが僕といろいろあった後からだから、やっぱり僕のせいなのだろうか?なんてことが頭の中で渦巻いて、今日は頭痛がひどい…。

いろんなことを考えながら時間は静かに流れていくけど、滅茶苦茶な頭痛と、吐き気をもよおすような肩こりでなんともやる気が出ない…。

何がいけないんだろう…。職場で会っても無視、LINEでは言葉の喧嘩…。「私の事嫌いになったでしょう。」…嫌いになれたらどんなに楽かなと思う。嫌いになって恨んで二度と連絡取るもんかって思えたら肩の荷が下りるんだろうな~。忘れることは出来ない、だからせめて嫌いになれたら…。でも、僕は彼女が好きだ…。これだけきつい思いをしているのに、僕は彼女が好きだ。たとえ想いが届かなくても僕は彼女が好きだ…。いつになったらこの気持ちに本当のけじめをつけることが出来るんだろう…。

と思っていたら、夕方思いもしないことが起こった。

薬剤部に来た彼女が、戻り際僕の真横で足を止めた。無視する雰囲気でもなかったので彼女の方を向くと…、僕を見てしきりに何か言いたげな表情で…なんというか地団駄を踏むような動きをした。その彼女を見た僕は、思わず表情を緩め「なに?」みたいな感じで彼女を見つめた。人の目を気にした彼女は数秒で事務室を出て行った。残された僕は…。

やっと彼女のことを考えないように決めたのに、やっと忘れようと決心したのに…、どうしてまた僕の心を乱すような態度をとるの?バカな僕はまた期待してしまうよ…。ずっと無視しててくれたらよかったのに…君のその涼しげな眼を僕は見てしまった。やっと消えかけた君への想いが、また燃え出してしまうのだろうか…?また苦しまなければいけないのだろうか…?

17:40から会議室であった勉強会に参加した。ほんの数メートル前に彼女の後姿があった。後ろからでもわかるその痩せた体を見ていたら、本当に泣きそうな気持ちになった。

心に波風が立ったまま家路に着いたけど、いつものようにコンビニでコーヒーを飲んでいたら、もうどうしようもなくなり「ごめん、やっぱ無理…忘れきらん…」とmailしてしまった。夜に彼女から「無理そうですか?…」って返信があり、僕は「無理…」さらに「今日、君を見て思った…」と送った。そのあとに彼女から来てたmailを朝開いたら…「どうしましょ…」僕は「どうしよう…」。本当にどうしよう…。

6月20日。

彼女の勤務予定は早出になっていたので、朝から顔を見れるかもと思って早めに出勤したら、いつまでたっても来ない…。火曜日朝のスタッフ会議が終わって彼女のタイムカードを確認したら、7:40くらいに打刻してあった。日勤に変わったんだな~って思いながら事務室へ戻った。

ついさっき、階段でまともに彼女と出くわした。後ろから別の職員が来てたので「お疲れ様です」と言葉を交わし、その場を離れた。また顔を見てしまった…。もうダメ…。

そしてたった今、彼女は僕の心を決定的に揺さぶっていった。また薬剤部へ来た彼女は、僕の目の前で立ち止まり僕を見た。僕が「痩せすぎだよ…」と言うと「そう見えます?ちゃんと食べてるんですけどね~」と彼女。「どうしたらいいんだろう…」と僕。「どうしたらいいんですかね…」と彼女。そんな会話だったけど、「久しぶりに顔を見た気がする」と僕が言ったら、彼女も「ほんと、私も久しぶりに顔見たような気がします」と言った。そして「7月1日(の送別会)は保留でしたよね?」と聞くので、「うん、その日は多分<Anraku>にいると思う」と答えた。彼女は何か考えているみたいだったので、「その日、気が向いたら(僕に)連絡したらいいよ」と言うと、微かに微笑んでうなずいた。どれくらい振りだろう、こんなに話したのは…。こんなに彼女の顔を見つめたのは…。「ごめんね…」という僕の言葉に、首を振って彼女は事務室を出て行った。

昨日僕の心の中に立った波は、今津波のように大きくなり僕を飲み込もうとしている。もう無理だ…彼女を忘れるのは…絶対に無理…のような気がする…。

送別会への参加も考えたけど、ずっと彼女のそばにいたり、話したり出来るはずもないし、また他の(あまり好きじゃない)男性職員と話してるのを見るのも気分悪いから止めとこう…。と思っていたら、今彼女がmailで「1日は予定があって来れない感じ?それとも…ですか?」って聞いてきた。「行った方がいい?」「予定は…ないです」と返信した。そしたら「どっちでもいいですよ。来たくはないでしょ?」って皮肉っぽい言い方するから僕も「またそんな言い方する…」って返してやった。いろいろLINEで話してて、「ていうか、なんで1日のこと聞いたの?」って聞くと「行くのかなと思いまして。」だって…。少しだけ期待したんだけどなぁ…。で、「まさか来て欲しいって言ってくれるのかなと期待したじゃないか~(笑)」て送ったら、「わいわい楽しく飲めるなら来て欲しいですけど」だって…。「考えてみます」としか僕は言えなかった。気分が上がったり下がったり、精神的に良くないなぁ…。

天気が雨模様で、僕の気持ちも晴れなのか曇ってるのかよくわからない。顔を見て話せばそれなりに自分の思ってることも伝えられるし、彼女の表情からどう思って話してるのかも大体読み取ることが出来る。でも、mailになるとどういう感覚でその言葉を言っているのかがわからず、余計な一言で険悪な雰囲気になったりする。だからあの頃も少しでも会って話したいと思っていた。あの爽やかな笑顔を見て話すのが好きだった。

今また僕は彼女を見てしまった…。二度と言葉を交わすこともないと思っていたのに、耳に心地よい声をまた聞いてしまった…。僕はどうしたいのだろう。彼女とのことをどういうふうにしたいのだろう…。もうどうでもいいと思っていたのに、彼女はまた僕の気持ちを乱し、波紋を広げてしまった。どうする…?

送別会だけど、「行こうかな~…」ってmailしてたんだけど、返ってきたmailは「どちらでも。でも嫌なメンツがいるなら無理しない方がいいですよ」だって…。彼女にとっては僕が行っても行かなくてもいいんだな~って思った。やっぱり彼女のmailの言い方は冷たいような気がするのは僕の気のせいだろうか…。

結局、今日少し話せたけどそれ以上の進展はなかった。夜に少しだけLINEしたけど楽しくもなんともなかった。どうせならほったらかしにしといて欲しかったなぁと思う。もう余計な期待はさせないで欲しい…。期待する分、うまくいかなかったときがつらくて…立ち直れなくなる前に自分の気持ちに区切りをつけよう、と何度も思うのに…。今度こそ彼女のことを忘れるよう頑張ってみよう…。

<第二部へ続く>


僕には心の中に忘れられない人が二人いる。

一人は小学6年生のときの同級生。名前は<sachi>。お互いに想いを寄せていることが分かったのだけれども、付き合い方もわからずほとんど言葉を交わすこともなかった。中学に上がり、僕は野球部に入った。そして1年生の同じクラスに別の小学校から来た女の子がいた。その子は頭が良く、部活はブラスバンドに入っていた。名前は<kayo>。

ある日、僕はkayoから突然告白された。sachiとは会うことも、話すこともなくなっていたのでkayoの告白に適当にOKしてしまった。今思えばなんて考え足らずなことをしたんだろうと思う。

sachiはそのことを知り、僕に別れを告げてきた。と言ってもほとんど会ってもいなかったのだから、単に精神的に嫌われ愛想を尽かされた格好だった。kayoとは中2の中頃まで付き合ったが、あまりの頭の良さについて行けず、自然と距離を置くようになった。今でも申し訳なく思っている。

それからの僕は部活に打ち込み、中学、そして高校を卒業するまでほとんど女っ気はなく周りにいるのは男友達ばかりだった。

高校を卒業し、大学受験に失敗した僕は高校の同級生で、S大に受かった友達の家でいつもゴロゴロしていた。そんなある日、その友達の家で昼寝をしていた僕に小学校の同じクラスだったchikaから電話があった。僕の家に電話してここにいることと、ここの電話番号を教えられ連絡してきたのだった。寝起きで機嫌の悪い僕にchikaは「小6の同じクラスの何人かで会うよ」と言うので「あ-いいよ…」とぶっきらぼうに答えたのを覚えている。あとでそれを厳しく非難された。よっぽど感じ悪かったらしい…。

で、小学校卒業以来7年振りくらいで、みんなで<グリ-ンランド>(当時はまだ<三井グリ-ンランド>といっていた)へ遊びに行った。当然chikaと仲が良かったsachiも来ていた。正直言って久しぶりに見たsachiに対し、そのときは特別な感情もなく、<あ-、大人になったなぁ>くらいにしか思わなかった。

それからしばらくしてまたchikaから連絡があり、今度は泊りがけで阿蘇のペンションに行くと言う。どうせ暇だし「了解」と返事した。

当日、車3台に分乗しペンションへ向かった。僕は父親の知り合いに車を借り(返すのはいつでもいいからと言われた)、3人を乗せた。行きは誰を乗せて行ったのか全然覚えていない。面白かったのは、ペンションの近くまで来ているのになかなかたどり着けなくて、なんだか同じ所をぐるぐる回っているような気がしたことだった。一緒に乗っていた連中もそう言っていた。まるで狐か狸にだまされているように…。

なんとか無事に着き、みんなでワイワイ言いながら夕食を取った。その後各自風呂に入ったり遊んだりして時間は過ぎ、それぞれの部屋に戻っていった。僕とhiroshiは寝るのももったいないなと話していた。するとyoshimi(通称ドルゲ)とsachiが僕らの部屋のドアを開け「朝まで話さん?」と言ってきた。もちろん僕らはOK!ツインの部屋だったのでひとつずつのベッドに男女で別れて座り、朝までずっと話し込んだ。当時としては斬新で(自分でも面白いと思った)ふざけた僕の話で盛り上がった。そのときも僕はsachiを特別な目で見てはいなかったと思う…。

翌日、ペンションを出るとき、行きとは違うメンバーで乗り合わせようということになり、僕の車にはhiroshiと女性二人を乗せることになった。偶然か、hiroshiと家が近いhiromiが乗ると言い、一緒にいたsachiも乗ってきた。なんとなくそれから先の予感が…。もちろん変なことは想像していなかったけど(笑)。

途中、大津のレストランに寄りみんなで夕食を食べた。その後時間も遅くなりかけたので一人ずつ送っていくことになった。まずhiromiを降ろし、順番的には次がhiroshiだったので、sachiに「最後でいい?」と聞くと「うん」という返事だったので先にhiroshiを送り、降ろした。hiroshiは「狼にならんように!」と笑いながら帰って行った。最後になったsachiを送ろうと家の近くまで行くと、sachiは「このまま帰りたくないね…」と僕の想像にはないことを言った。「え?時間大丈夫なの?」と聞くと、「うん、大丈夫!」と言うので、<さて、どうしたもんかなぁ…>と考えようとしたとき、sachiが「金峰山に夜景見に行きたい!」とのこと…。金峰山は僕ら地元の人間にとっては言わずと知れた夜景が綺麗なデ-トスポット。やや焦り気味な僕にsachiは「ダメ?」と聞く…。ダメなわけがない!行きましょう!その前にsachiは後部座席にいたので「前に来る?」と言うと「うん!」と言って助手席に乗り込んできた。緊張のあまり、それから金峰山までの道のりの記憶が飛んでいる。気づいたときには頂上の展望所近くに車を止めていて、二人で夜景の見える展望台まで歩いていった。時刻は真夜中、辺りは真っ暗(かろうじて外灯が一基)、そして二人っきり…。出来過ぎのこの空間でヘタレな僕は気の利いたことも言えず、ましてや手をつなぐなどもっての外で、ただこれまでの二人のことを話して時間は過ぎていった。このままでは本当に夜景を見に来ただけで終わるなぁと思い、僕は最大限の勇気を振り絞って、「あのさ、僕ら最初からやり直すってこと出来ないかな?それが無理なら友達から始めて、たまに食事とか行けたら嬉しいんだけど…」と言った。多分心臓はバクバクだったと思う。

しばらくの沈黙のあとsachiは、「○○(僕の苗字)くんは今彼女いないの?」と聞いてきた。「いないよ、中2の後半からずっと…」と僕(嘘ではない!)。すると「うそ~?どうして?もてたでしょう?」とsachi。「もてた、もてないというより面倒くさかったから…、○○(sachiの苗字)さんは?付き合ってる人いるの?」と聞くと、「う~ん、今はいないかな…」と微妙な答え。で、「とりあえず今度ご飯食べに行こうか?」と言うと、「うん!じゃあ仕事終わりに(僕は浪人中、sachiは仕事をしていた)私を迎えに来て!」。こうして千載一遇のチャンスを逃した僕と、sachiの微妙な関係は再スタ-トを切った。

その後、僕は大学をあきらめ就職した。とにかく収入を得て自分の車が欲しかったから…。一年くらい、時々会って食事に行く付き合いが続いた。そんなある日、ご飯を食べたあと少しドライブしてある神社の駐車場で僕は聞いた。「ちゃんと付き合いたいと思ってるんだけど…」。Sachiは「正直に言うとね、今私の気持ちの中に二人の人がいるの…。一人はもちろん○○くんよ。あと一人は付き合ってるのかどうかよくわからない人なの…」と正直に話してくれた。「今、どっちが心の中で大きい?」って聞くと、「それは○○くんなの。でも…私、どうしていいかわからない…」。ここでもヘタレな僕はそれ以上押すことが出来なかった…。

そうしているうちに会う回数も減り、まったく会わなくなった。忘れることはなかったが…。

何年か後のちょっとしたクラスの集まりでsachiと再会した僕は、結婚し、子供もいるのに前と変わらず優しげで綺麗なsachiを見て胸が苦しくなった。その後の進展はなかったけど、僕らはお互いの誕生日にだけmailをやり取りする関係になった。それは今も続いている。


もう一人は僕の中学時代からの親友で、一緒に野球部で<活躍>したtadashiの紹介で知り合った人だった。紹介と言っても、僕がtadashiの高校の卒業アルバムを見て、tadashiと同じクラスだった人に一目惚れし、無理やり紹介させたのだった(笑)。

彼女の名前はmami。当時はちゃん付けで呼んでいたし、mamiちゃんも僕を下の名前にちゃん付けで呼んでくれていた。

最初の出会いは、男2×女2の飲み会をセッティングさせた。男は僕とtadashi、女は僕の小学校時代のクラスメイトのsumikoとmamiちゃん。女性二人は高校3年時にtadashiと同じクラスだった。

で、どうだったかと言うと…、かなりの緊張度で、僕は何を話したかまったく覚えていない。唯一、カラオケで唄ったのが甲斐バンドの「安奈」だったことは記憶にあるが…。

tadashiたちに「送っていけ」と言われ、mamiちゃんの家の近くまでタクシ-で送った。話も弾まなかったし、もう会ってはもらえないだろうな~と落ち込んでいた。でも、振られるならそれでもかまわないから、もう一度だけ会ってきちんと話したいと伝えてもらい

会ったと思う…。そのあたりの記憶も曖昧なんで申し訳ない…。

ただ、mamiちゃんは某テレビ局(ロ-カルだけど)のアナウンサーで、土曜日のお昼に枠を持っている人だった。それでなかなか会うこともままならず(一緒にいるところをスポンサ-とかに見られるのもまずかったらしい…)、ほとんど会えない悲しい日々が続いていた。そんなある日の夕方、僕が残業していると(20歳から僕は某自動車のディ-ラ-に勤務していた)mamiちゃんから職場に電話がかかってきた。交換台の女の子が「○○さん、女性から電話ですよ~」って冷やかされ、誰だろうと思って出たらmamiちゃんだった。「どうしたの?」と僕が聞くと、「今から梅の花見に行きたい!」って…。「はぁ?どこに?」って聞き返した僕に、「大宰府!ダメ?」って聞いてきた声があまりにも可愛かった。やっと会えるチャンスを与えられた僕は、速攻、車両課の係長に「明日また残業しますから、帰っていいすか?」と聞いた。係長は電話の内容に気づいていたらしく、「デ-トのお誘いだろ?早く行け!」って僕の背中を後押ししてくれた。感謝です…。急いで家に帰り、急いで着替えてテレビ局の近くまで迎えに行った。すぐにmamiちゃんはやってきて、「ごめんね、無理言っちゃって…」「いいけど、どうしたの?急に…」「ちょうど梅の時期だし、ずっと会えてなかったから久しぶりにdaiちゃんに会いたかったの!」僕は世界一幸せな男ではないだろうか…。こんな可愛い人にこんな風に言われて…。それから大宰府ICまで高速を飛ばしたんだけど、途中、どんな会話をしたか、mamiちゃんがどんな表情だったかまるで思い出せない…。大宰府天満宮に着いて、車を駐車場に駐め、境内に入った。心字池にかかる三つの赤い橋を渡り門までたどり着いたが、案の定閉まっていた。「こんな時間だからしょうがないよね…」と言い、せめて外堀の梅だけでも見て帰ろうと思った。渡ってきた橋を元へ戻っていると、向こうから人影が…。<人には言えないけど、こんな時間に?>って思って目を凝らして見ると、カップルが手を繋いで橋を渡って来るところだった。<いいなぁ…>とうらやましく思っていたら、mamiちゃんが「離れているの悔しいから!」と突然腕を組んできた。僕はあまりの出来事にただ固まったままだった。そこで何か気の利いた言葉を言ったり、「だよね~!」とか言って肩を抱いて歩いたりとか出来れば良かったのに…と今でも後悔している。結局このときも、夜中、外灯の明かりだけ、大好きな人と二人きりという状況にもかかわらず、僕は何も出来なかった。多分このときmamiちゃんは僕の気持ちを誤解したんだろうと思う。

それからの僕たちは時々電話では話していたが、ほとんど会うことはなかった。そして僕が自動車会社を辞めるか悩んでいた時期だったと思う。<このままこんな状態の付き合いをしていても、お互いにためにならないし、何よりmamiちゃんが可哀想だよな…。そんなに好きでもない男に付き合わせてること申し訳ないし…>と考えた僕はmamiちゃんに会いたいと連絡した。どこで会ったのかもう思い出せないけど、お酒を飲みながらだったと思う。僕が「このまま一緒にいても先が見えないよね」と言うと、mamiちゃんはそっと顔を上げ、僕の目を見て「そうなのかな…?しょうがないよね」と微かに微笑んだような気がした。本当にそのときはmamiちゃんが笑ったような気がしたんだ…。

そして僕らは別れた。

一年ほど経って仕事を変わった僕は、そこで今の嫁さんと出会った。一緒に住み始め、あと数ヶ月で結婚するっていうとき、空港近くのレストランに食事をしに行った。席に着いて何気なく顔を上げた僕の目の先にいたのは…mamiちゃんだった。彼女も僕に気づいて驚いた顔をしていたが、ふいにあの可愛らしい顔を笑顔に変えて僕を見つめてきた。女の子と二人連れだったmamiちゃんは、女性連れの僕に配慮してか、そっと会釈をしただけで友達との会話に戻った。まさに青天の霹靂だった。

その数日後、僕が結婚式の準備で実家に戻っていたとき、それを知っているかのようにmamiちゃんから電話がきた。「お久しぶりです!この前はどうも」と言う彼女に、僕は「久しぶりですね!この前はビックリしました」と答えた。なにか用事があって電話してきたのかなと思って、「どうしたの?」って聞くと、電話の向こうでしばらく言いにくそうにしていたmamiちゃんは「あの…一度会えないかな…?」…僕は、まだ結婚前だしいいか!って思い、「いいけど…、いつにする?」って聞いていた。「daiちゃんの都合いいときでいいよ!」で、夜はまずいかなと思って、僕が昼から休みの日の夕方に会うことにした。mamiちゃんはまだテレビ局に勤務していたので、僕が車で迎えに行った。どこに行こうか迷ったんだけど、風を感じてゆっくり話したいという彼女の希望で、Hバイパス沿いのガーデン席があるカフェに行った。初めはお互いの近況報告をしたり、当時の楽しかった思い出話をしたりしていたが、そのうちにmamiちゃんが「daiちゃんに振られたのはやっぱりつらかったな…」と言ったので、僕は「は?なんて言ったの?もう一度言って」と言うと「だから、好きだったのに振られて~」っていう彼女の言葉を遮り、「ちょ、ちょっと待ってよ、振られたのは僕でしょ?」「なんで~?daiちゃんが別れようって言ったよ?」そりゃ確かに口火を切ったのは僕だったけど、否定しなかったじゃん!って思って「でもmamiちゃんもそう思ってたんじゃなかったの?」って聞くと「ううん…、私といるとdaiちゃんは迷惑なんだな~って感じたから、笑うしかなかったんだよ…」。あのときの微笑みはそういうことだったのか…。今やっとわかった。もう何もかも遅いけど…。この時二人は24歳。

僕はmamiちゃんにそれほど想われていない、mamiちゃんは僕にとって自分が迷惑な存在だ…ってお互いに振られたと勘違いして僕たちは終わってしまっていたんだ…。こんな…これほどつらい別れはないよな…。お互い想い合っていたのに、それを知ることなく別れて、どうしようも出来ない今知ってしまった…。泣きたくなるのを必死で堪えてmamiちゃんを見ると、そこにはあのときと同じように微笑んでいる彼女がいた。まるで時間を戻して欲しいとでもいうように…。

その日を最後に会うこともなく、今どうしているのかも知らない。共通の友人によると、県外でフリ-のアナウンサ-として頑張ってると何年か前に聞いた。会いたいと思う。会ってあの日のことをあやまりたいと思う。でも彼女はこう言うだろうな…「daiちゃんといた時間はとても楽しかった!ほんの数えるくらいしか会えなかったけど本当に楽しかった!ありがとう!大好きだったよ!」…mamiちゃんは僕が初めて結婚を意識した人だったんだよ。いつかどこかで会えたらまたゆっくり話そうね!

<第三部へ続く>


僕は真剣に好きになった相手とは絶対に結ばれない。信じられないくらい臆病なんだと思う。そうでもない人とはそうでもないから…。

結局、その二人とは手をつなぐことも、触れることもしなかった。

そうすることで僕は自分を守っていたんだろうと思う。ただ単に度胸がなかっただけかもしれないけど、二人に対してはそういうことをしてはいけない気がしていた。それと…多分僕は怖かったんだと思う。そばにいる大切な人を失うことが…。結果的に何もしなかったことで失うことになってしまったんだけど…。

そんな純愛を二度経験した僕は、いつしか女性を真剣に好きになることを恐れるようになっていた。好きになればなっただけ失くしたときの悲しみが大きい。だから僕は女性に対し、一定の距離を置くようになった。結婚してるのになんかおかしい言い方だけど、正直言って結婚してからの方がモテるようになった。気のせいかもしれないけど、そんな感じだった。

彼女を一目見たときから僕はずっと彼女を想ってきた。でも所詮片想い…。いつかは自分の気持ちに区切りをつけないと…と思う。LINEで喧嘩したり、職場で無視しているときは<あ-もういいや>って思うんだけど、この前みたいに話しかけて来られたりすると、また期待して忘れられなくなってしまう…。相変わらず優柔不断な性格だなと嫌になる。

今もまたあんまり連絡したくなくて、昨夜きた彼女からのLINEを開いていない。送別会も<行こうかな…>って思うけど、メンツが嫌で、多分不愉快な思いをするだけかなって思う。どっかで飯食って<Anraku>に行こうかな…。

その方が気楽だし、そうしようっと。

今日は彼女は休みだった。何をしてるか知らない。さて、僕も帰ろうかな…。

6月23日。

今日彼女は日勤だと思ってたけど、タイムカ-ドに打刻がない…。休みに変更になったのかなぁ。って、気にするの止めたはずなのに…。

今夜は職場の<男会>。一次会終わったら<Anraku>に行く予定。久しぶりだな~。

夜、職場の<男会>は結構盛り上がって終わった。二次会に誘われたけど、約束していたので<Anraku>へ行った。

金曜日(しかも給料日)にしては客が少なく、僕はカウンターに座りマスタ-夫婦と話し込んだ。相変わらずマスタ-が「どうね?その後は?」と聞くので、「もう、なんか疲れてどうでもいい感じかな…」って答えた。そしたら「まぁ、焦らんでいいんじゃ?」なんて言うから、「そうだね…」っていうしかなかった。あまりにもLINEが沈黙してて、それに耐え切れず僕は「どうしたの?」って彼女に送ってしまった。堪え性がないなぁと自分で自分を嘲笑ってしまう…。返ってきたmailには「ちょっと怪我しまして…」<はぁ?>と思って「なにしたの?」って送ったけど返信は来なかった…。

結局また夜中の1時過ぎまで飲んで帰った。

6月24日。

今日も彼女は休んだ…。

たまらず、総師長を捕まえて彼女が休んでいる理由を聞いた。「交通事故に遭ったみたい」という言葉に「はぁ?いつ?どこで?怪我の様子は?」と矢継ぎ早に聞く僕に「タクシ-との接触事故で転倒し、救急車で大学病院に運ばれたみたい。右半身を怪我して腕が上がらない状態だけど命に別状はなく、入院せず自宅療養となってる。そしてタクシ-は逃げたらしいよ。」…<嘘だろ!マジか?なんで言わないんだよ…>と思って、「バカ野郎!交通事故らしいじゃないか!どうしてそんな大切な事、一言言ってくれないんだよ!僕には関係ないって思ってるかもしれないけど、せめて君から聞きたかったよ…。生きてて良かった…」とLINEを送った。まだ何も返信はない…。

家に帰った14:35、彼女からLINEがきた。「すいません、バイクだったしなんか言いづらくて。」…それからしばらくのmailのやり取りは、もうなんて言うか…けなし合いの殴り合いみたいな感じで…。最終的に和解したのが16:20。そのあとは最近まれに見る<仲睦まじい(笑)>会話で、送別会も行けないって残念がってたので、「残念だったね…その日は××くん(職員)と焼肉です!」って送ったら、「あら!そちらにこっそり行こうかしら…」と返信してきた。真意が読み取れないので、冗談っぽく「黙っとくからおいで…バレないように(笑)」って言うと、「ほんとにいいなら行きたいですけどね(笑)」…。本気?って思い、「いいならって…僕たちがってこと?」と聞くと、「そうですね。まぁ後は仕事してないのに(全治一ヶ月らしい)ご飯に行くのはどうかなっていう…」と彼女。確かにあまり褒められた行動ではないし、他の職員なら<ふざけるな!>って怒鳴りつけるところだけど、「僕たちは全然大丈夫だけど、体が大丈夫なのかってことと、仕事場には絶対バレないってことだね!」と返答した。彼女は「ですね。体がどうかってことですね。××さんは信用出来る方ですか?」って聞いてきた。<ちょっと待って…。体が大丈夫で、××くんが信用出来るヤツなら本気で来るつもり?>って思いながら、「彼は大丈夫!職場で一番まともな男だから保証するよ。ただし、体が無理ならダメだよ!」と釘を刺した。「それなら安心です。あとは体と相談します!」と彼女は言った。とにかく…会いたいのはやまやまだけど、今回ばかりは絶対に無理させないようにしないと…。で気づいたら時刻は23:50を回っていた。途中、少し抜けた時間はあったけど、結局10時間近くLINEしてたことになる…。もう彼女を休ませないといけないと思い、「ゆっくりやすんでね、おやすみ」と送り、最終的には心温まる本日のやり取りは終了。

6月25日、日曜日。

いくつかのLINEのやり取りをして一日が終わった。

6月26日。

彼女が診断書を持ってきた。総師長に渡したあと二人で事務室へ来て、事務長を交え今後のことについて話がされた。僕はもっぱら彼女の治療に関する保険の適用とか、書類に関することとか、ついでに土曜日の焼肉についてヒソヒソと話していた。久しぶりに元気に右腕を吊った彼女と対面して(笑)、30cmくらいの距離でまともに彼女の顔を見た。綺麗だった…。顎のラインがこれ以上ないくらいシャープになり、<痩せたな~…>って思った。話が終わり彼女は帰って行ったけど、無事に帰り着くんだろうか…なんてことを考えながら、「気をつけて帰るようにね」ってmailしたら、「気をつけて帰ります~」だって…。可愛い…。2~3日前まで、<もう彼女のことには関わりたくない>って思ってたのに、単純というか、男ってバカだよな~って我ながらあきれてしまう…。そして、また微かな期待をしてしまう…。必ず裏切られるとわかっているのに…。

まぁ、先のことは考えないとして、彼女はほんとに焼肉行くんだろうか?「体調が無理ならダメだよ!」って念を押しといたから無理はしないと思うけど…と言いながらまた期待をしている僕がいる。彼女は僕にとって<天使>なのだろうか?それとも<悪魔>なのだろうか?…。<小悪魔>なのは間違いない…!

夜に「今日はきついのに大変だったね…。でもおかげで僕は癒されました」「おやすみ、またね~」とmailすると、「いえいえありがとうございます。ではまた-」と返信があった。そして「金曜までおとなしくしといてね(笑)」と送って、寝た。

6月27日。

朝からLINEがきてたので開くと、彼女からで「おとなしく…しときます(笑)」だって!すぐに「絶対…うそ!2日から先は遊んでもいいから(笑)」って送ってやった。多分まだ寝てるだろう…。

僕の決心なんて全然あてにならないものだなと思う。あれだけ嫌な思いをして、mailでも喧嘩して、わかってたことだけど自分だけの一方通行で、気持ちだけが空回りして、もう絶対忘れると決心したのに、ほんのちょっとした彼女の優しさで簡単にひっくり返ってしまった…。ほんと-に久しぶりに彼女の顔を正面からまともに見て、僕は感動すら覚えていた。何度も言うけど、痩せた分とんでもなく綺麗になった。事務室で話していることを忘れて、思わずその頬に触れそうになった。

人の気持ちって、どうやったら完全に振り切ることが出来るんだろう…。どうやったら好きになったひとのことを考えなくて済むんだろう…。好きになってはもらえないけど、嫌われてもいないって…中途半端というかじれったいというか、すぐ目の前にあるのに触れることも出来ないもどかしさがつらいな~…。

今彼女は交通事故の怪我で休んでいる。職場で顔を見れない分、LINEでの会話が増え、現在の彼女は結構優しい(笑)。ていうか僕が自分の気持ちを押し付けなくなったから、彼女の方も気が楽になったんだろうって思う。

今日はまだmailはこない。送ったのに返信がない…。なにをしているんだろう…?

仕事が終わり家に帰ってきたけど、やっぱりmailは来ない…。やや心配になり自分が落ち着かなくなってきた。夜寝る前に、もう一度「大丈夫なのか?」って送った。

6月28日。

朝、携帯の着信ランプがLINEの着信を知らせる緑色に点滅していた。

職場で確認すると彼女からで、「大丈夫です」の一言…。<これだけ心配したのに…>と思って、「ならいい」って返信した。8:45頃「すみません、昨日はキツくてなかなか返信できませんでした…」と彼女。途端に後悔の念がこみ上げてきて、「君がきついことわかっていながら…ごめんね」と謝った。心配して、返信がなくて、やや腹が立っていた僕は今回ばかりはめっちゃ反省した。彼女のことを信じるとして、<やっぱりきついよな~>って思った。けど、そう思う反面<本当におとなしくしてたんだろうか?><あの体で遊び回っててmail出来なかったんじゃないだろうか?>と疑う僕がいる…。自分でも嫌な性格だなと思う。<お前は彼女を信じられないのか!?>…完全には信じ切れない…。

<第四部へ続く>


その日の夜。

少しだけLINEで話したけど、最初は良い雰囲気で会話出来てたのに、最後の方でまた彼女が「もしかしたら(焼肉は)色んな意味で行けないかもです…」って言い出したので、「送別会に行くの?」って聞いたら、「いや、行かないですよ」とのこと…。で、<あ-、またおんなじことの繰り返しだな~>って思った。そして「一応3名で予約してるから、ダメなら金曜の夕方までに教えて」ってmailしたけど、いい加減、<だったら来るな!>って言いたい自分の気持ちを抑えて、寝た。

6月29日。

朝から「おはよ」って、また余計なmailをした。起こされて迷惑だったみたいなので、「もうしない」という、なんとも捻くれたmailを送った。僕も悪いとは思う。でも、前にもmailで喧嘩したように、彼女の言い方はストレ-ト過ぎるから僕の神経を逆撫でする。そして嫌な気分になる。いつものように最悪のパタ-ン…。

やっぱりこの前思ったように、ちょっといい雰囲気でも結局は長続きしない。だから自分に<期待はするな!>って言い聞かせたはずなのに、心の中では知らず知らずのうちに期待を膨らませていたようだ…。その気持ちを見事に裏切られ、<もういいんじゃない?>と自分に聞いてみる。それでもまだ僕は答えを出せずにいる…。

悲しい恋を二度も経験して、もう人を真剣に想うのは止めたはずだった。あんなにつらい思いをして、自分から手放した人の大切さにあとから気づいて、想い合っていても人は離れてしまうことを経験して、もう二度と真剣な恋はしないはずだった。だから彼女に対する気持ちに戸惑い、僕はどうしていいかわからなかった。好きになった気持ちは嘘ではないし、今も心の中にある。でも…、僕はもう疲れた…。これ以上悲しい恋はしたくないし、これ以上自分の心を傷つけたくない。それが僕の答えかもしれない…。


どんなに想いを寄せても叶わない恋がある。最初からあきらめなければならない恋がある。

人はそれを<悲恋>と呼ぶらしい…。

この恋も、最初からこうなることがわかっていたのに、僕は真剣に彼女に恋をしてしまった。いつか訪れる瞬間なら、忘れなければならない想いなら今すぐ受け入れようと思う。

僕の心の中に残された痛みは永遠に消えないかもしれない。でも…、彼女を好きになったことに後悔はない。

何度も彼女を忘れようとして、その度に忘れられずに苦しんで、それでも彼女の言葉に期待していた僕は、今でも彼女のことを想っている。

いつか…彼女を忘れることが出来たとき、僕の<悲恋>は終わる…。もう「サヨナラ」は言わない。今なら心から君に言える…「ありがとう」…。

*この物語は実話にもとづいています。

平成29年6月30日


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