生きる力を試す実験
気が付くとオレは、個室のベットで寝ていた。
「暑い…」それに、何故か頭がズキズキする。ここに至るまでのいきさつを全く覚えていない。
辺りを見回してみた。部屋には窓がなく、あるのは真っ白な壁に貼り付いた等身大の鏡だけだった。すっかりやつれたオレの姿が映っている。
体を起こすと同時に、突然後ろのスピーカーから声が聞こえた。
「目覚めたようだね」
初老の男性の声だ。 「ここはどこだ」
オレは見えない姿に大声を張り上げた。 「ふふふ……出口を探しても無駄だよ。ここは完全な密室だからね」
なんて不気味な声だ! 「姿を見せろ!何故こんな事をする!!」 オレは必死だった… 「こんな卑劣なやり方が許されると思っているのか?」
「ここは実験室だよ。キミは自ら志願してここに来たのではなかったのかね?自殺する位なら人の役に立ちたい、と…言ったのはキミの方だよ」
「何だって?」 顔がひきつった。 「悪いが契約書を書いてもらった以上、この実験は続行させてもらう」
「どんな実験だ?」 「生きる力を試す実験。人は飲まず食わずでどこまで耐えられるか…」
「ま、まさか…」 顔が青ざめた。
「一週間後には、必ず謝礼は払う。だが、この実験で生き延びた者は誰もいない。まずは喉が激しく渇き、耐え切れなくなる。次第に気分が悪くなり、頭痛やめまい、目がかすみ、歩く事も話す事も困難になり、生きている自分が嫌になる。今まで自分がどれだけ幸せだったかを思いはじめ、脈拍が早くなり涙が流れる…」 「もう止めてくれ!!!」 両手で耳を塞いだ。 「ふふふ…、真実に目を背けてはいけない。私は今まで、人の死を幾度も目の当たりにしてきた。舌が腫れ、けいれんを起こし、死んでいく様を…ここは墓場だ。僅かな謝礼の為に自分を犠牲にする。だが、必ず何かを学ぶ」