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うちの執事は魔王さま!  作者: ちぇしゃ猫
3/6

1,【七不思議編 人体模型のお侍さん】

時は過ぎて現在。


月緋(つきあか)ルナには生まれつき少し不思議な力を持っていた。不思議な力といっても超能力だとか魔法が使えるとかそんな大したものではない。少し先の未来が見える。夢の中で。世にいう予知夢というやつだ。しかしそれはたまにしか起こらない。


今。彼女はぐっすり夢の中であるが、彼女を起こしに来た執事がなかなか起きない彼女にキスして起こそうとする。という予知をみている。

これは最悪だな...。私にキスするなど...

「何万年もはやいわぁぁあ!!!!」

右ストレートをきっと、私の顔の目の前にあるであろう者の頬に決め込む。

ドゴォォォという爆発でもしたか、というほど音がした。

吹っ飛んだなこれは。

そう思っているとパラパラと壁が崩れる音が聞こえ、ルナは眠い目を擦りながら立ち上がる。

「ふぁ...あ。朝から何をしようとしたのかなぁ?峰岸くぅん」

あくびをしながら瓦礫(がれき)の下敷きになっている彼女の執事、峰岸龍吾の前に仁王立ちして訊ねた。

「起きてらっしゃるのならもっと早く起きてほしいものですね、姫。とんだ怪力娘だ。壁の修理費が毎度高くていい迷惑しているんですが」

「質問に答えてくれません?」

瓦礫から抜け出すと服に付いた埃を払う。

「『朝から何しようとした』というご質問ですね。なかなか起きない我がままなクソ娘だなと思ったものですからキスでもしたら起きてくださるのかと思いまして」

銀縁の眼鏡を押上げにっこり笑う彼女の執事。

あぁ...ほんとにこいつは。

眉間に指を当て呆れる。

この男、峰岸龍吾。月緋(つきあか)家に仕える執事だ。仕事は何でもこなすし、直ぐに終わらせる。そしてなかなかのイケメンだ。

しかし、顔がいくら良くても問題は中身だ。中身!大事だから語尾に『!』をつけておいたぞ。

いつも人の事は『姫』呼ばわりするくせにムカつくとすぐに『小娘』だのなんだの言う!なめてる...こいつ、絶対私のこと嫌いだ!!

「何をそんなにお怒りになっておられるんです?私は好いてますよ、姫のこと」

「...読心術でも使えるのか、お前は」

また執事はにっこり(わら)った。

「さぁ、早くご準備なさってください。学校に遅れます」

私の首に十字架の付いたチョーカーを巻いた。

これは亡くなったお母さんの形見だ。お母さんは私が産まれるのと同時に亡くなったと峰岸から聞いた。

私に父親はいないのかって?いるよ。

でも、仕事が忙しいのか、なかなかに家には帰ってこない。私自身、父親と会ったのなんて数回程度。十数年生きててたったの数回。どうかと思う。でも会ったときは会ったときで色々とめんどくさい。

ルナは制服に着替え食事を済ませたあと車に乗り込んだ。

「姫、本日はご誕生日ですね。おめでとうございます」

車を運転しながら峰岸は言った。

そういえばそうだ。今日は私の17歳の誕生日だ。

「忘れてた...。ありがとう、みね」

私は峰岸のことは『みね』と呼ぶことが多い。『峰岸』なんて長ったらしくて嫌だ。

「御自分のお産まれになられた日ぐらい覚えていらっしゃってください。」

「......そう、だね。お母さんの命日でもあるもんね」

私がそういうと彼はしまったと言わんばかりに顔を歪ませた。

「ごめん!気にしないで!」

笑顔で言う。

「...姫、本日のご帰宅時間は何時頃になられますか」

「たぶん5時とかだと思うんだけど...どうして?」

「いえ、お迎えに行こうかと思いましただけです」

みねにしたら珍しい...

......はっはーん、これはもしやサプライズパーティーだな??

心の奥底でニヤリと笑う。

その笑みが顔に出ないようにわざとらしく訊ねてみた。

「何か企んでるの?」

「えぇ。姫の誕生会を開こうかと」

「え、サプライズパーティーとかじゃないんだ!?普通にそれ言っちゃうんだ!?」

「さぁ、着きましたよ姫。本日も頑張ってその悪い学力を伸ばしてきてください」

にっこりとこれまた(いや)な笑みを浮べドアを開ける執事に向けてひと睨みする。

「無視ですか!?いってきますっ!!!」

嫌味たっぷりに言ってやった。

「あっはは。今でもブスなのにお怒りになられるとますますブスですね姫」

「なんですってー!!?!?」

ルナの怒りは頂点に来た。

「いいんですか?ここで大声を出してしまわれて」

またまた(いや)な笑みを浮かべる。

峰岸が言っていることは確かに一理ある。ルナはこの国じゃ名が通る財閥の令嬢。それを黙ってこの高校に通っている。もちろん、ここの校長さえも知らない。もし、バレたりでもしたら、ちやほやされて媚びを売られるのが目に見えているからである。

下唇を噛んで怒りを鎮める。

「ばーか!!!」

それだけ言うと教室へと向かった。


「いよいよ、ですか......」

春風が桜を舞い上がらせながら燕尾服の裾を揺らした。












ガララッ

勢いよく教室の扉を開けるとざわついていた教室内は一斉に静まり、扉の方に視線が注がれていた。もちろん、ルナに。

「...あ、...おはよう...」

気まずそうに挨拶をするルナ。

クラスメイト達は特に何事もなかったかのようにまたワイワイとしゃべり出した。

変な目で見られることなくてよかったぁ...

心の中で安堵(あんど)の息を着き、自分の席へと座る。

「ねぇねぇ、ルナ」

ルナの目の前に2人の女の子が立つ。もちろん、その2人の女の子のことは彼女は知っている。

女の子2人は顔を見合わせると彼女に可愛く包装された包みを渡す。

「え!?あ、え!?なにこれ!」

受け取って驚いてみる。だが、すぐに何か分かった。私への誕生日プレゼントだろう。

「何って、ルナへの誕プレよ、誕プレ!」

手を腰に当てて言うこの女の子、ルナの親友の朝比奈ちえみ。気が強くて、かっこいい。そして、その隣にいる子もまたルナの親友、杜野(もりの)琴音だ。琴音はちえみと違っておしとやかで、すごく優しい。言わば、お母さん的存在だ。

「ちえみちゃんと私で選んで買ったんだよ。開けてみて、ルナちゃん」

琴音に言われ、2人からのプレゼントを開けていく。

中にはウエストポーチが入っていた。収納はバッチリたくさん入りそうだ。

「わぁー!ありがとう!2人とも!!」

嬉しさのあまりルナは2人に抱きつく。

「も、もう~ルナちゃん、苦しいよ~」

「ったく、ルナは仕方ないなぁ」

2人はそう言いながらも抱き返してくれた。

「あ、そうだ」

ちえみが何か思い出したようで彼女達の束の間のハグは終わる。

「ルナ、お前、怪談とか好きだろう?」

「え!?別に好きじゃないですけど!?」

「なーに。遠慮してんだよ、いい話があるんだよ。聞きてぇ??」

にやりと笑うちえみ。

「いいよ、聞きたくない」

「そーいうなよー、ルナ。琴音、お前も聞きたいよな?」

ちえみは琴音の肩に腕を回して訊ねた。

「うん!聞きたいなぁ。階段の話!」

「......うん、琴音、その『かいだん』じゃないな...上る『階段』じゃなくて怖い方の『怪談』な?」

ちえみが冷静につっこむ。

「え?あ、そーだったの?どちらにせよ聞いてみたいな!」

琴音は目をキラキラさせて言う。

その様子をみてちえみは勝ち誇った様な顔でルナを見た。

てか、琴音、階段の話って何!?そんな話聞きたいの!?ま、まぁ?怪談とか?べ、別に怖いとかそんなんじゃないからね!そんな非現実的なものは私は信じないだけなんだから!!

え?不思議な力を持ってるくせに??それとこれは別なのー!!

「で、どうすんだよ、ルナ」

ルナに詰め寄ってくるちえみ。そして未だにキラキラさせてる琴音。

「...あー!!分かった!分かったわよ!聞く!聞きますぅう!!」

「よくぞ、言った!!」

ここでチャイムが鳴った。

グッドタイミング!!

これでちえみの変な噂話を聞かなくてすむ!

「ちぇ...鳴っちゃったかぁ。よし、この続きは昼休みにな!逃げんなよ、ルナ☆」

語尾が気になる...!!!

時間というものはあっという間に過ぎてしまうもので。

「いやっほぉい!!!!昼だぁ!昼休みだぁあ!!ルナお待ちかねの〜怪談だぁい!!」

朝よりハイテンションなちえみについていけず若干どころかとてもひいている自分がいる。

彼女達は今、学校の屋上にて弁当を持参しながら話している。弁当?勿論、ルナの執事、峰岸の手作りだ。

弁当の蓋を開けながらちえみの話に耳を傾ける、が、

弁当の中身見てゾッとした。

ご飯の上にはふりかけで『姫 Love♡』

とこれまた器用に書かれており、その他、おかずはキャラ弁に匹敵する眩しいものだった。

即座に蓋を閉める。

「どうかしたの?」

琴音が横から訊ねてきた。

「ほぇ!?う、ううん!!全然!ぜぇんぜん!なんにもないよ?うん!」

あからさまに怪しいなんて誰も言わないでくれ。

「で、で、ちえみっ!怪談聞きたいなぁ!!?」

話を逸らせるべくちえみにふる。

「おう!じゃあ、聞けー!」

威勢のいい掛け声と共に語り出されたこの学校の七不思議。






これが私の運命の歯車が回り出したときだったーーーーーー






ーーーーー全ての運命は決められていたのだろうかーーーーー






《第1の七不思議 階段の踊り場の異空間》

夜中の12時00分、3階の階段の踊り場に立つと異空間に連れ込まれ行方不明になる。


《第2の七不思議 ピアノの幽霊》

音楽室のピアノを弾く幽霊がいて、その音色を聞くと死ぬ。


《第3の七不思議 美術室の銅像》

美術室の銅像が喋りだして人を馬鹿にする。


《第4の七不思議 プールの人魚》

プールの中に人魚が住んでいるというもの。ただし、顔がとても醜い。その顔を見れば喰い殺される。


《第5の七不思議 走る人体模型》

理科室の人体模型が夜中に走りだす。人を見つければずっと追いかけてくる。


《第6の七不思議 双子の幽霊》

体育館に現れる双子の幽霊が見た人を呪い殺す。


《第7の七不思議 鬼》

鬼がどこからともなくでてくるという。しかも人を食べてしまう。


学校の七不思議というどこにでもありそうな怪談だが、鬼やら人魚やら本当にいるのだろうか…

「な!?な!?怖いだろ!?ルナ好きだろ!?」

そんな詰め寄って言わないでください、興奮するのは分かるけども。

「す、好きとかじゃなくて、ただ、興味あったりするだけだからね?」

「やっぱなぁ!ルナはこういう話は大好きだな!」

「ごめん、お耳が遠かったのかな?もう1回言うよ、好きじゃないんだ。興味があるだけなんだよ、ちえみさん」

「ルナ、それでだ!」

びしっと私に指を向けて言い放ったちえみ。私の言葉は無視ですか。

「今夜、肝試し行ってみないか?!」

「はぁぁぁあ!!?なんで!!?」

「好きだろ☆」

「☆じゃないよ!てか、なんで私だけ!?琴音は!?」

私が琴音を指させば

「ごめんね、私、習い事あるから」

両手を合わせて申し訳なさそうに言う琴音。

「ちょ、ちょっとルナ?顎がすごいことになってんぞ?」

ちえみに言われ我に返る。

どうやら驚きすぎて顎がしゃくれていたらしい。新たな顔面ができるところだった。

「で、行くだろ?行くな!よし!決定だ!」

ちえみに強制的に決められ、断れなかった私は授業が終わったあと生徒全員が帰ったのを確認してから隠れていたトイレから出てきた。もちろんちえみも一緒に。

え?なんでトイレ?そりゃ、先生に見つからないように。先生に見つかったら「早く帰れー」って言いながら校門前に押し出されるんだもん。

外は少し暗くなってきていた。

「ね、ねぇちえみ。ほんとにするの?」

「もちろん!」

ずんずんと胸を張って歩けるこの子はすごい。

恐怖というものをしらないのだろうか。

学校にはいつも友達がいて賑やかなのが、今はとても静かでかえって何かが来そうで怖い。

ちょうど科学実験室の前を通った時、中で何かの音がした。

「今、何か聞こえなかった...?」

「え?何も聞こえなかったけど...」

2人とも血の気が引いていくのを感じた。

「み、見に行こう」

ちえみが声を震わせながら言う。

「え、ちょっと...!」

小声で静止を呼びかけるがちえみは既に科学実験室の扉のドアノブに手をかけていた。

木が軋む音が響くと扉は開かれた。

中は薄暗く、薬品の匂いが鼻腔をくすぐる。

一歩、また一歩と歩みを勧めていく。

「ねぇ」

ちえみに声をかけて見ると大きく彼女の肩が揺れた。

「な、なによ!?驚かさないでよ」

小声で言うちえみ。

「ごめんごめん。何も無さそうだし、戻ろ?なんかほんとに出てきそうで怖い」

「ルナったらそういう割には冷静ね...」

何を言い出すのかと思えば冷静ですか?

全然冷静じゃない。むしろ怖い。発狂しまくりたい。

「いいから、戻ろう」

ちえみの手を引いて来た道を戻り始めるが違和感を覚える。

「あれ...ル、ルナ...どこ?」

ちえみの声が少し後ろでした。

「え...?ど、どこって...今ちえみの腕を掴んでるじゃない......」

「......私、捕まれてないよ...?」

「じゃ、じゃあこの手は......」

ゆっくり顔を上げてみれば半分骸骨。半分筋肉。そう、人体模型であった。

「...うっそ...」

人体模型はカタカタと動き出す。しかも、何処から取ってきたのか片手には刀が。

ルナは咄嗟に人体模型の手を離してちえみの側へ。

「ほ、ほほほんとにあるのね...!?七不思議...!」

「ちえみ!感動してるのか、泣いてるのか分かんないよ!!!」

人体模型はゆっくり近づいていく。

「に、逃げよう!」

ルナは今度こそちえみの腕を掴んで出口へ向かう。

「嘘っ!?ドアが開かない!」

ドアノブを回して押しても引いてもビクともしない。

恐怖が2人を支配する。

「ルナっ...!」

ちえみがルナの背中を激しく叩く。

振り向けば、すぐそこまで人体模型が迫っていた。

「っ!ちえみ!こっち!」

迫り来る手を避けて、窓際まで逃げてきた。

だが。

「いたっ...」

ちえみの足が絡まって転ぶ。

「立って!」

「む、むり...」

ちえみは床に手を付いたまま立ち上がれないでいた。腰の力が抜けてるようだった。

人体模型は刀を上に振りかざしながらちえみに近づいていく。

ルナは1つの覚悟を決めるとちえみを庇うように覆い被さった。

それと同時に人体模型が大きく刀を振りかぶった。

ルナはぎゅっと目を瞑り、痛みが来るのを待っていた。

しかし、いくら待てど、痛みはこない。

ゆっくり目を開けてみる。

そこにはほんの数cm頭上で止まっている刀。

「......え...?......どう...なって...」

「お時間を守るのは基礎マナーですよ、姫」

あれ...この声何処かで......

風が吹いてカーテンが巻き上がる。外の光で人体模型の背後にいる黒服に身を包む者。

「...みね...!」

いつものあの、貼り付けたような厭な笑みを零すと人体模型を後ろに吹っ飛ばした。

「ご無事ですか、姫」

「なんで、あんたが...ここに......扉は閉まってたのにどうやって...」

「閉まってた?いえ、開いてましたよ。お焦りのせいで上手く開かなかったのでしょう。お約束のお時間になっても帰って来られないので仕方なしに迎えに来て差し上げました」

「...嫌な言い方...」

「冗談ですよ。よく頑張りましたね」

本当はとても心配してたんだろうな。みねのこんな淋しそうな顔、みたことない...

ぽんとルナの頭に手を乗せる峰岸。

「...御友人、気絶されてますね。姫、彼女の傍にいて下さい」

いつもの表情に戻すとすぐに彼はそう言った。

「え、でもっ...!みね、あんたはどうするつもりなの?」

「そうですねぇ...。本当は姫がお帰りになられてから色々お話しするつもりでしたが、こうなった以上、致し方がございません。これは私の仕事。姫、ちゃんと見ててくださいね」

「へ...?あ、ちょ!」

呼び止める前に峰岸はあの人体模型と対峙していた。

空気が痛い。

「...姫」

「ほぇ!?」

急に呼ばれたので変な返事をしてしまった。

「なに、マヌケな顔してマヌケな返事されてるんですか!逃げますよ!」

えぇえええええ!!!?

さっき、『これは私の仕事。姫、ちゃんと見ててくださいね』なんて言ってたじゃない!!!

「おかしい!!」

「うるせぇ小娘。黙れ、死にてぇのか。その口を二度ときけなくしてやろうか」

低声で言われると威圧にしか聞こえない。

「......スミマセン」

理不尽!!!おかしい!絶対におかしい!!本当になんなの、この男は...。

気づかぬうちにルナは峰岸の片腕に抱き抱えられていた。もう片方にはちえみが抱き抱えられている。

「しっかりと掴んでいて下さいね」

「え!?」

心の準備が出来ぬままルナは峰岸に抱き抱えられて廊下に出た。

峰岸はそのまま全力疾走。ルナは絶叫。

廊下、走っちゃいけないんだよ…?

叫んでいる中、心の中で呟いた。

「......追いかけて来てますね」

静かにそう言った峰岸に反応してルナは後ろを振り向いた。

そこには確かに峰岸の言う通り、同じように走ってくる人体模型。



七不思議その5ーーーーーー走る人体模型



「...これでは埒があきませんね」

そう呟くとさっと次の角を曲がった。

「み」

「しっ」

ルナが彼の名前を呼ぼうとしたが彼は制した。

ルナは黙る。

徐々に近づいてくる人体模型の足音。プラスチック製の足と廊下のタイルが弾きあい、高い音が誰もいない廊下に響く。

すぐ目の前に来た時、峰岸は脚を出した。

しかし、人体模型はそれを避けた。いや、ジャンプして跨いで行った。しかし、こちらに気付かれてしまった。

「おや、知能がお有りのようですね」

「冷静に分析してる場合か!!逃げて!」

「全く、うるさいガキですね。このまま人体模型になればいいのに」

「心の声がダダ漏れですけれど峰岸さぁん?」

「これはこれは失礼致しました。以後は面等向かって言いますね」

にっこりと厭な笑みを向けて駆け出す。

いや、既に面等向かって言われてるんですが…!?

これ以上言われるんですか、私は!!?

「ねぇ、ちょっと!!あいつどうにかしてよ、みね」

「おや、姫が私などにそんなことをおっしゃるなんて珍しい」

驚く動作一つもなく言葉を紡いだ峰岸。

ルナは言う。

「いいから!何事にも理由がある!だから、あいつにも何か理由(わけ)があるんじゃないかなって思うんだ」

それを聞いて峰岸の様子がほんの少しだけ変わった気がした。

「左様ですか。なら、聞いてみましょう」

峰岸は近くの空き教室に駆け込むとドアを閉めた。

両脇に抱えていたちえみとルナを下ろして何かをし始めた。

「な、何する気...?」

「私がいないと何も出来ない我が主の為に少し、ね」

深みのある笑みを零した。

何かいい策があるのだと悟ったルナは執事のいつもの愚弄を無視して黙って様子を伺う。

数分後、ルナは後悔した。

「.........あんたを信用したのが間違いだったわ......」

そう、ルナの目の前の人間、峰岸龍悟は丁髷姿に着物。それに腰には刀が差してあった。

「何をおっしゃいますか。これぞ、『侍』!人体模型(あれ)相手には充分な格好ですよ」

「...せめて、その髪型やめない?怖い。夢に出てきそう」

「姫の夢に出られるなんて幸せですね。これからこの髪型にしましょうか」

「嫌がらせなの!?ねぇ!?私、嫌だって言ってるんだけど!?」

「全く、冗談じゃないですか。冗談も通じないなんてお友達が出来ませんよ。あ、一応おられるんでしたね!」

ムカつくぅううう!!!このイケメン執事野郎、超ムカつくぅうううう!!!

黙ってりゃあ、めっちゃくちゃイケメンなくせに!!!着物も似合いすぎて眩しく見えるけど中身が真っ黒すぎて霞んでるよ!!

「では、少し行ってまいりますね」

「は?」

峰岸は教室のドアを開ける。

そこには待ち構えていたかの様に人体模型が立っていた。

「何者か」

カタカタと言わせながら人体模型は話した。

え!?てか、話せたのこいつ!!

(それがし)は月緋家の使用人、もとい用心棒なり!いざ、覚悟!!」

え......ナニコレ......なんかデジャヴ。

あの峰岸があんな喋り方するなんて...!!

【ルナは15のダメージをくらった。

ルナは新しい技を覚えた。『シツジ、ミネギシハ、サムライ』を覚えた。】

気がつけば、彼と人体模型はお互いの刀を交じらわせていた。

金属の乾いた音が鳴り響く。

「お主、中々の太刀筋だな」

「それはありがたい言葉でござる」

人体模型、峰岸が話す。

......なんだろう...私、この人たちと一緒にいたくない。

ルナは心底そう思うのであった。

「では、そろそろ決着といきましょう。我が主も暇を持て余しているようなので」

「なぬ!?」

峰岸が話終えるのと同時に彼の刀は人体模型を貫いていた。

ルナから小さな悲鳴が漏れた。

「...すば、らしかった..でごる...我......無念...」

パタリと動かなくなる人体模型。それに遠慮も無しに峰岸は踏みつける。

「なに、勝手に逝ってやがる。まだだぞ。用は済んでねぇ。起き上がれ」

何度も踏みつける。

その姿はまるで悪魔かのように見える。こればかりはルナは震えざる得なかった。

「み、みみみみ峰岸...さん?」

震える声で呼ぶ。

すると峰岸は踏みつけるのを止めて煌びやかな笑顔でこちらを向く。

「なんでしょう、姫」

怖いっ!!いつもと違う笑顔が怖い!!!

「あの、やめてあげて、その踏むの...」

遠慮がちに言えば、峰岸は数秒考え込み、縄を用意し、人体模型を縛りだした。

「これならオーケーですね!」

「オーケーじゃなぁぁあい!!!!おかしい!!!」

峰岸が縛り終えた人体模型を引っ張りだした。亀甲縛りであったのだ。

そして、どこかしら人体模型は頬を赤らめているように見える。ただ、見えているだけだ。実際赤らめているのかなんて分からない。

ルナは人体模型に巻かれている縄を普通に巻き直すと正面に立ち呼びかける。

しかし、彼に反応はない。

「え...死んじゃってるんじゃないの...?」

ルナがそう言えば峰岸は数秒顎に手を添えて考えると思いっきり人体模型を蹴飛ばした。

「何しちゃってんのぉぉぉ!!?」

「近くでいきなり叫ばないでください。耳障りです」

「ごめんてば!てか、なんで蹴っちゃったの!?」

その時、ガタリと動いた。

「こういうことです」

何食わぬ顔で峰岸は言った。

峰岸は黙ったままの人体模型を喋らせるために強行突破とは名ばかりの蹴りを見舞ったのだ。

「な、なかなかの蹴り...でござる......いつしかの王を思い出す」

「あ、話した」

「姫、本題に」

「そうね」

てか、王って誰よ。

そんな事を思いながら、ルナは本題へと踏み込む。

「なんで、あなたは人を殺そうとしたの?」

ルナは真っ直ぐプラスチックの筋肉と骨を見つめる。

「別に殺そうとしたわけじゃないのでござる。実を言うと我の話を聞いて欲しかっただけなのでござる」

自分は本当は『魔界』と言う場所にいたがある日、人間界と結びつく扉が暴走し何人かがこの世界に引き込まれてしまい、気がつけば人体模型の体に入っていて抜けようとしても抜けられなくなり、誰かに助けを求めようと話しかければ恐れられ、逃げられとまともに相手にしてくれなかった。そして、自分はいつしかこの学校の七不思議の一つとして生きていた。そんな中、自分の元へやってきたのがルナ達だった。

「...なるほどねぇ。で、人体模型...って長いね、これから人ちゃんって呼ぶことにする」

「...人ちゃん......?」

ルナ以外は頭の上に疑問符を浮かばせるがルナは無視し、続ける。

「人ちゃんの居た、その...『マカイ』?ってところ人ちゃんは帰りたいの?」

「も、もちろんでござる!我には家族がいるでござる!いつまでも人間界に留まっていられないでござる。それにもう、我の魔力もここまでしか持ちそうにないでござる...」

「峰岸、人ちゃんをその『マカイ』とやらに戻してあげて」

ルナは何でも出来る万能執事に冗談6割ぐらいで言ってみた。

すると彼は二言返事で了承した。

ルナは唖然とする。それもそうだ。普通の人間ならば祓い屋か何かではないと霊界だか魔界だか知らないが戻せるはずもない。

「何アホ面晒してるんですか。アホ面の主を雇った覚えなんてないんですが」

「 さらりと真顔で言った...」

「えぇ。『面等向かって言う』お約束ですからね」

そう言うと峰岸は厭な笑みを浮かべた。

ルナはその笑みを少し懐かしく思えた。

「さあ、姫。少し目を瞑っていて下さい。目、途中で開けてみてください。ぶっ殺しますよ?」

「私...一応...あんたの主よね...?....なんか悲しくなってきた...」

ルナは言われた通り目を瞑っていた。

今日は私の誕生日。17歳になった。世間で言う『華のセブンティーン』。なのに、こんな怪事件に何故、私は襲われているのだろうか。何故、執事に暴言を吐かれなくてはならないのだろうか。どうやら、私の誕生日の今日は厄日だったらしい。

「姫、もう目を開けて大丈夫ですよ」

ふと、執事の声が耳に入った。ルナはゆっくりと閉じていた瞼を重力に逆らうように上へとあげる。

目の前には先程と変わらない人体模型。

「何も変わってないじゃない」

「姫はまだまだですね。彼はもう帰りましたよ。さあ、私達も屋敷へと帰りましょう」

ルナに手を差し伸べる執事。

「お話(説教)しなくてはならないこともありますしね」

「げ...」

そういえば、5時に帰るとか言ってちえみに誘われて結局このままになったんだっけ...

「あ、ちえみ」

「私が後ほど、ご自宅の方へ送り届けます」

「あ、ありがとうございます...」

峰岸から発せられた黒いオーラに呑まれ、ルナは自分の血の気が引くのを感じていた。





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