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おかえり

窓の外は相変わらずの晴天。

町の窓からは、緩やかな風に洗濯物が揺れている。タカミネはそれを横目に見ながら、渡り廊下を歩いていた。


「どうしたタカミネ。外が恋しくなったのか?

仕方がないか、お前だけは外に出ることを禁止されているからな」


団員の一人が皮肉っぽく笑う。

タカミネはそれに無言で返した。

今、彼は騎士団に入隊し、特別管理下に置かれている。


「ここからじゃ、丘は見えないか…」


呟く。だが誰もその言葉に気付かない。

彼の心中を知っている者は、ここに誰もいなかった。


あの時タカミネに言い放った予言は、的中したのだ。


――それはその日から三日後。

あまりにも雨の日が無いということで、遠国から連れられてきていた雨を呼ぶ生物、『ウルラ』という蛙が、タカミネの前を通った時に突然バタバタと死んでしまった。

これはおかしいということで、残りの蛙を急いで運んだところ、やはりタカミネの家の前を通った時に死んでしまう。


そして町に伝わる小さな噂話に火が付いてしまった。


『この街には、太陽に愛でられし一族がいる。

その一族は一人の子供を残して滅びてしまったが、

その子供は魔と手を組んだことでこの世に生き残ることができた。』


それは、昔町に流れたタカミネの噂に直結し、すべての住人に彼の特異性の情報が知れ渡ってしまったのだ。

タカミネ本人は全く覚えのないことだったが、彼に怯えと畏れ、そして憎しみの目が向けられた。

外に出ることもできない彼を救ったのは、あの時予言をした騎士団の男だった。


「…だから言ったでしょう。

僕の所に来なさい。城内はここと違って、

強くなれば生きて行ける世界だから」


差しのべられた手を、拒むことはできなかった、今のタカミネには。


こうして彼は騎士団に入隊し、もともと運動神経も悪くなく、その特異な潜在能力を『魔術』に生かして、一定の地位と場所を与えられるまでになった。

通称、『太陽の子供』。

タカミネの名前を知らない団員は誰もいなくなっていた。

タカミネがその姿を現すと集会の会場は、ひそひそとどよめきの声が漏れ始める。


「あれだよ、あの無表情の男がいるだろ。

あれが街の伝説になった『太陽の子供』。」


「…あんな若造がか?」


「ナリは子供でも、クラスは上位三席と同等かそれ以上。

前に能力値を測るために測定器を使ったらしいが、メーターが振り切ったらしいぜ。

あいつに『力』を使わせたら、こんな城なんかすぐに壊滅させられるってよ」


「俺はあいつが城の外に魔を飼ってるから外に出さないんだって聞いてたぜ」


最初は足がすくんで歩くこともできなかった。

だが、タカミネはもう完全に心を閉ざしている。

彼の望みは唯一つ、騎士団の上位三席を倒し、場外へ出ること。


「…リリルラ…」


彼は集会が終わるとすぐに攻撃を仕掛けた。

腰から伸びる布に、手をかざし、

自分の力で大気をコントロールする。

そうして浮かんだ布は、シキテの家に代々伝わる、戦闘用の特殊な布地でできている。


「また『太陽の子供』が戦いを申し込んだぞ!」


「あれが噂の羅空らくうじゅつか…」


たとえどんなに剣の才があろうと、銃の才があろうと、魔術の才があろうと。

タカミネは大気と大地を経由して、鋭利にもなり鈍器にもなる、強靭な布を操る。


それが、羅空術。


そして彼は、いつも勝利に飢えていた。

負けるわけにはいかない、こんなところで立ち止まっていては間に合わない。


「負けるわけにはいかないんだよ…絶対に」


彼の布が龍のように、ゆらゆらと空中でとぐろを巻いている。まるで竜神のよう。

相手がたじろぐほどの覇気。


「早く止めに行かなきゃいけないんだ…

今すぐに…!!」


風を切り、悲鳴のようにく風音。

土煙が上がり、石の床は砕かれる。


「だから早くどけ!!」


――――リリルラは


寝返りを打つ。懐かしい主の声を思い出しながら。その唇はかすかに声を漏らす。


「…戦乱と動乱と混乱の二人の世界へ…

我慢はさせない。

とびきり愉快な地獄を舐めさせてあげるよ…リリルラ…」


何度も何度も心の中で囁かれた言葉だった。

殺戮を好むわけじゃない、悲鳴が好きなわけじゃない。

主の笑顔が見たいから…。

リリルラはまた目を閉じる。





『――――おいで、』


見開かれる目。鼓動が一気に高鳴る。


『…迎えに来たよ。


私の、翠のリリルラ』




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